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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 今日の耀美さんのお料理教室には春休み前に約束した通り、麻央ちゃんも参加する。
 耀美さんの手料理を食べて、前世のお母さんの味を自分の手で再現したいと思ったのもあって、いつも私が耀美さんに教えてもらっているのは、和食の家庭料理が中心だ。
 でも小さい麻央ちゃんには、せっかく習うものが茶色っぽい料理ばかりじゃつまらないかもしれないと耀美さんと相談して、今回はグラタンを作ることになった。

「わぁ!私、グラタンは大好きです!」

 持参した可愛いエプロンを付けた麻央ちゃんは、献立を聞いて喜んだ。やっぱり子供には洋食だね。
 小麦粉と牛乳をダマにならないように混ぜていく。ダマをしっかり潰すのが大事なのは、若葉ちゃんのお菓子作りで教わりました。
 耀美さんはホワイトソースの作り方を知っていると、グラタン以外のお料理にも応用できて便利よと言った。ほぉ~、前世のお母さんはシチューも市販のルーを使っていたなぁ。手抜き?いやいや、おいしかったし!
 グラタン以外はミネストローネ。こちらは野菜を切る作業があったので、ちょっとドキドキした。麻央ちゃんの前であまりにもたどたどしい包丁使いをするわけにはいかない。にんじんを切るのは家でも何度も練習したので、なんとかなる。ピーラーで皮を剥いて1センチ角に切っていく。
 私の立場を考えて、耀美さんがさりげなく私の苦手な作業は引き受けてくれたので、なんとか麻央ちゃんの前でボロを出さずに済んだ。
 途中で耀美さんが「麗華さんのその真珠のネックレス、素敵ね?」と、私のしていたネックレスを褒めてくれて、それが伊万里様からのプレゼントだと知って、ふたりがきゃあとはしゃいだりする場面もあった。
 ふたりは私が話す伊万里様のエピソードにうっとりとしていたけれど、悠理君がいる麻央ちゃんはともかく、耀美さんはあまり伊万里様に憧れすぎちゃいけませんよ?お兄様も「伊万里だけは絶対にダメだ」と、いつも苦い顔で私に言っている。どうやら前に聞いた刃傷沙汰以外にも、いろいろと修羅場があったようです。伊万里様…。

 今日のお昼の献立はグラタンとミネストローネと、耀美さんが焼いてきてくれたバゲット。耀美さんの手作りパン、おいしい!私はパンも大好きで、おいしいパン屋さんをチェックしているんだけど、自分で焼くのも楽しそう。麻央ちゃんのお母さんも時々焼いてくれることがあるんだって。そっかぁ、今度はパン作りを教わるのもいいかも。
 そんなことを話したら、耀美さんがバゲットは難しいから、最初はベーグルでも作ってみましょうかと言ってくれた。ベーグル!おいしいよねぇ、ベーグル。ベーグルサンドも大好きだよ。
 麻央ちゃんは今日1日ですっかり耀美さんを気に入ってしまったようだ。おっとりとして優しいし、外見もふっくらしているから安心感があるんだよね。もし今度パンを習う時があったら、また来てもいいですか?と頼んできたので、もちろんと言った。

 帰りに、今日はお兄様が出かけていて家にいないので、耀美さんには吉祥院家の車を出すと言ったら、麻央ちゃんが自分が送ると言い出した。すっかり仲良しになったのねー。
 そして麻央ちゃんを迎えにきたのは市之倉さんだった。

「こんにちは。今日は麻央がすっかりお世話になってしまって。どうもありがとう、麗華さん」
「いいえ。こちらこそ麻央ちゃんと楽しい時間が過ごせましたわ」
「晴斗兄様、こちらは成冨耀美さんとおっしゃるのよ。今日、私達にお料理を教えてくれた先生なの!」

 麻央ちゃんが市之倉さんに耀美さんを紹介した。

「初めまして、麻央の叔父で市之倉晴斗です」
「あ、成冨耀美と申します…」

 引っ込み思案な耀美さんは、初対面の市之倉さんに少し緊張した様子で挨拶をした。

「ねぇ、晴斗兄様。耀美さんも送って行って?ね、いいでしょう?」
「あの麻央ちゃん、私はタクシーで…」
「もちろん、かまわないよ。耀美さん、ご自宅まで送らせていただきます」

 早蕨家の運転手さんが迎えにくるのだと思っていたのに、やってきたのが年若い叔父だったので耀美さんはちょっと困っているようだ。しかし麻央ちゃんの少し強引な誘いを断りきれず、結局一緒に市之倉さんの車に乗って帰って行った。
 う~ん、麻央ちゃん、なにか企んでやしませんか?まるで仲人おばさんみたいでしたよ?




 せっかくの春休み、私は若葉ちゃんと遊びたかった。
 でも気軽に“遊びましょ?”とは誘いづらかったので、“高道さんの家のケーキが食べたいから、買いに行ってもいいかしら”とメールをしてみたら、“ぜひ遊びに来て!”という返事がきた。こういう時、若葉ちゃんの家がケーキ屋さんだと訪問する口実が出来ていいよね!
 若葉ちゃんは今日も私を駅まで迎えに来てくれた。

「寛太達がね、いつも吉祥院さんは来ないの~?って言ってたんだよ」
「コロネは来ないの?でしょ?」
「あはは~。何度怒っても聞かなくて。ごめんねぇ」
「別にいいですわよ。もうコロネで」

 吉祥院さんと呼ばれるよりも、コロちゃんと呼ばれたほうが親しまれている感じがするしね。

「その後どうですの?嫌がらせのほうは」
「うん。あのロッカー以来、特にないよ。思った以上に大きな話になっちゃったから、みんなの注目もあるし、変なことはできないんじゃない?」
「そう。このまま何事もなく卒業できればいいですけど」
「そうだねぇ」

 若葉ちゃんの場合は、容姿に隙があるのも嫌がらせしやすいんだと思うんだ。学院の才女として、もっとキリッとしていればみんなも一目置くと思うんだけど。
 ほら、今も「あったかくなってきたねぇ~」とか言いながら、口が開いてるし。なんという暢気顔。

「あの、高道さん、口が開いていますわよ」
「わわっ!」

 思わず私が指摘すると、若葉ちゃんは慌てて口をキュッと閉じた。

「高道さんって、時々口が開いていますよね…」

 失礼だとはわかっているけど、思い切って言ってみた。もしかしたら本人は自分の癖に気づいていないのかもしれないし。キリッとした若葉ちゃんへの変身の第一歩だ。

「あー、うん。これはですねー、実は食いしばり予防なんです」

 しかし若葉ちゃんから返ってきた答えは、意外なものだった。

「食いしばり予防?」
「うん。私は寝ている時とか無意識の状態の時に、歯を食いしばる癖があるの。頬の裏側の粘膜に、食いしばり線ってのが出てまして。このままだと歯茎への負担も大きいし、歯も削れていっちゃうから、若いうちに直したほうがいいよと歯医者さんで注意されて、それ以来食いしばらないように、時々思い出したら口を開けるようにしているんだ」

 なんと!若葉ちゃんの間抜け顔には、そんなしっかりとした理由があったとは!

「本当はね、口を開けるというよりも、唇は閉じて上下の歯だけを開ければいいんだけど、つい唇も開いちゃうんだよねー」

 あははと若葉ちゃんは笑った。そういうことなら治せとは言えないかぁ。

「食いしばり線ですかぁ」
「鏡で見るとよくわかるよ。横に白い線が入っているから。舌で触ってもわかるかな」

 そうなんだ。ためしに私も自分の頬の粘膜を舌で確認すると、横にでっぱりがあった。えっ!私も食いしばってる?!
 ストレスが多いからなぁ…。この痕は、決してほっぺのお肉が厚いからじゃないよね?時々私、物を食べている時に、ほっぺのお肉を噛んじゃう時があるんだけど…。


 家では寛太君が出迎えてくれた。バレンタインのフォンダンショコラは、レシピ通りに作って上手に出来たと報告したら、当然だと偉そうに言われてしまった。
 今度パンを焼こうと思っているんだと言ったら、注意事項をいっぱい言われた。パンとお菓子作りは似ているみたい。とにかくレシピを守れと口を酸っぱくして言われた。わかってるよぉ。
 3人で楽しくおしゃべりをして、せっかくだから今から何か作ろうかという話になった。わいわいと何を作るか話していると、若葉ちゃんのお母さんがお店から戻ってきた。

「若葉、お店に鏑木君が来ているわよ」

 ぎゃああああああっっっ!!
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