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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 鏑木はあれ以来、自分が会長としてピヴォワーヌをしっかりと掌握していないと、若葉ちゃんを守れないと思ったのか、前よりも会長としての自覚が見えるようになった。前よりは、だけどね。円城もフォローしているし、これから鏑木会長の時代がやってくるのだろう。たぶん。


 そして瑤子様達3年生の卒業式がやってきた。
 瑤子様が卒業して、ピヴォワーヌ関係はひとまず落着?なんて楽観はできない。瑤子様達に影響を受けたピヴォワーヌ至上主義の子達が大勢残っているのだから。
 いくら鏑木が会長としてカリスマ性を発揮してメンバーの絶大な支持を受けようとも、若葉ちゃんへの悪感情を払拭することはなかなか難しいだろうな。むしろ鏑木が崇拝されればされるほど、鏑木の恋人になる女の子が外部生で庶民で普通の子の若葉ちゃんなんて容認できないと思われそう。憧れの人の隣に自分が立てないのなら、せめて自分が敵わないと思えるような素敵な人を選んで欲しいと思ってしまう身勝手な感情とかね。
 まぁ、誰が誰を好きになろうと当人同士の問題なんだから外野が文句を言ってもしょうがないだろうと思うけど、ちょっとその気持ちもわからなくもない。もし、お兄様が彼女だと紹介してきた女性が変なかただったら、お兄様の選んだかたですからなんて広い心で受け入れるなんて絶対にできないね。確実に邪魔すると思う。そしてお兄様にも、見る目ないなぁと失望しそう。いやいや、お兄様が将来連れてくる人は、素敵な人だと信じていますよ?
 そんなことを式の最中に考えていたら、鏑木が壇上に上がった。今年の送辞は鏑木だ。現時点で首席でピヴォワーヌの会長でもある鏑木ですから、当然の人選ですね。鏑木はよく通る声で送辞を読んだ。皇帝のその凛々しいその姿に、卒業生や在校生、果ては保護者からも感嘆のため息がもれた。う~ん、見た目は抜群にいいからねぇ。中身はアレだけど。
 瑞鸞生のほとんどは内部進学なので、初等科でも中等科でも卒業式で号泣する生徒はあまりいなかったけれど、高等科の場合は制服の着納めとか大学が今までの敷地とは少し離れているといった理由からか、卒業式の最後にはすすり泣く声が聞こえてきた。



 式も終わり卒業生が外に出てきたので、私達は花束を持って駆け付けた。

「瑤子様、ご卒業おめでとうございます」

 卒業されるピヴォワーヌの先輩方に、私達はお祝いの言葉と花束を渡した。

「どうもありがとう。みなさん、私達が卒業したあとのピヴォワーヌをよろしくお願いしますわね」

「はい」と私達は神妙に頷く。卒業してもOBOGとしてパーティーなどには顔を出す機会はあるけれど、一応これで先輩方は完全な引退だ。

「麗華様も鏑木様をよく支えて、瑞鸞の女子を纏めていってくださいね」
「はい」

 鏑木を支えるのは、円城の役割だと思うけど。まぁ、頷いておこう。
 その鏑木は円城とともに、普段あまり見せない笑顔のサービス付きで先輩方を祝福し、先輩方を喜ばせていた。あれでも腐っても鏑木家の御曹司なので、最低限の社交辞令はできるのだ。
 瑤子様は、自分を慕う後輩のピヴォワーヌの子達を集め、なにやらいろいろと言い含めたあと、卒業していった。




 卒業式のあとはすぐに学年末テストだ。私は頑張った。努力をしているのがあまり見えなかったかもしれないけど、人知れず毎日必死で勉強しまくった。
 若葉ちゃんからいつ勉強しているのか聞いたら、一番はかどるのが朝夕の電車の中だと言うので、藁をも掴む気持ちで休みの日にわざわざ電車に乗って暗記の勉強をしたりもした。なにげに成績が良いらしい璃々奈も、通学の車の中で予習をしていると言っていた。乗り物での勉強は頭に入りやすいのかな?でも私はあの微妙な振動にすぐ眠くなっちゃうんだけど。
 とにかく、それくらい頑張ったのだ。すべては順位表に返り咲くために。
 2学期末テストで成績を落とした時、実は結構落ち込んだ。クリスマス間近のテストは絶対に良い成績を取りたかったのだ。クリスマスプレゼントをねだるために。もちろん成績が悪くても家族は気にせず毎年プレゼントをくれる。しかしそうじゃないのだ。お兄様の「テストを頑張った麗華にプレゼントだよ」が欲しいのだ。私は褒められるのが大好きだ。私の名前のない順位表を見た時、一番大事な時になにやってんだよ、私って思ったよ。だからこそ、今回は死に物狂いで頑張った。なぜならもうすぐホワイトデーだから!
 その努力の成果は、29位。ギリだなぁ…。これだけやっても25位の壁は厚く、向こう側は全く見えない。
 一応、瑞鸞の同学年の中では成績が良い部類に入っているけれど、この成績で国公立は厳しいかもしれないなぁ。これから1年、ほかの受験生が本腰入れて勉強してくるだろうし。それでも国公立を目指して努力をするか、瑞鸞の大学に行くか。すぐに楽をしたがる私の心は瑞鸞の大学にかなり傾いている。
 今のところ鏑木を敵に回していないし、お父様とお兄様の様子から会社の業績も悪くはなさそうだ。
 目標設定、替えちゃおうかな?




 学年末テストの成績表を教科書に挟んでお兄様の帰りを待っていると、仕事を終えたお兄様が伊万里様と一緒に帰宅した。
 わぁい、伊万里様だ!でも伊万里様がいる前では成績自慢は出来ないな。今回はリビングで教科書を読んでいたら挟んであった成績表がはらりと落ちる作戦だったんだけど。しょうがない、明日にしよう。

「こんばんは、麗華ちゃん。この前はバレンタインのフォンダンショコラをありがとー。おいしくいただいたよ!」
「ごきげんよう、伊万里様。私こそ素敵なお返しをありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして。麗華ちゃんはお菓子作りが得意なんだねぇ。毎年あんな愛情たっぷりのおいしい手作りチョコをもらっている貴輝が羨ましいな」
「そんなぁ」

 ぐふふ。ありがとう、若葉ちゃん、寛太君。半分はお世辞だとしても、賛辞の言葉はやっぱり嬉しい。お兄様は伊万里様の言葉になんだか苦い顔をしていた。

「それで、今日寄らせてもらったのは、麗華ちゃんに渡したいものがあったからなんだ」

 そう言って伊万里様は持っていた紙袋を私に差し出した。

「はい、これ。少し早いけどホワイトデーのお返し」
「まぁ!すでにバレンタインに素敵なお返しをいただいたのに、よろしいのですか?」
「もちろん」

 あ、これ蜂蜜専門店の蜂蜜キャンディだ。

「アカシアのキャンディと、こっちはユーカリの蜂蜜のキャンディですね!おいしそう」
「麗華ちゃんは蜂蜜が好きでしょ?だからこれにしてみたんだよ。気に入ってくれたかな?」
「ええ!ありがとうございます」
「それから、もうひとつ」

 伊万里様は正方形の箱を私の手に乗せた。開封してみると、中からは銀色の球体が出てきた。オブジェ…?

「これはなんですか?」
「なんだろうね?振ってごらん?」

 言われた通り振ってみたら、シャンシャンシャンと澄んだ音が聞こえた。

「わぁっ!」
「オルゴールボールっていうんだ。振ると綺麗な音がするでしょう?」
「はい。まるで水琴窟のような音色です」

 私は耳元で振ってその音色に耳を澄ました。あぁ、本当に綺麗な音。

「麗華ちゃんは今年受験でしょう?疲れた時にこれを聞いて癒されて」

 伊万里様は「ね?」と頭を傾けて微笑んだ。ま、眩しいっ!
 はぁー…っ。カサノヴァ村の村長の貫録を見せつけられました。私、これを片手に受験勉強を頑張ります!
 お兄様はそんな伊万里様に「用事が済んだら帰れば」と冷たい仕打ちをしていた。親友にお茶くら出しましょうよ、お兄様。


 次の日、教科書から偶然成績表がはらり作戦を決行したところ、お兄様からご褒美とホワイトデーのお返しに、お食事に連れて行ってもらえる約束をしてもらえた。むふ~ん。
 でもホワイトデー当日ではないのね。ねぇ、お兄様。まさか私に隠れて恋人を作っていたりしませんよね?
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