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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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「悪い。遅くなった」

 颯爽と鏑木が部屋に入ってくると、子供達、特に女の子達がきゃあっと騒いだ。今日の鏑木は黒を基調としたファッションで、まるで光に反射して輝く黒水晶のようだ。だから麻央ちゃん、悠理君が隣にいるのにうっとりしちゃダメだって!
 鏑木は真っ直ぐに雪野君の元にやってきた。

「雪野、誕生日おめでとう。これ、プレゼント。それとケーキも買ってきた」

 そう言って雪野君にプレゼントを渡した鏑木は、もうひとつの手にケーキ屋さんの袋を持っていた。そう、若葉ちゃんの家のケーキ屋さんの袋を。

「雅哉、もしかしてケーキを取りに行ってて遅れたの?」
「まぁな」

 えーっ!なにそれ!若葉ちゃんに会いたいから、パーティーに遅刻してでも自分で取りに行ったのか、それとも若葉ちゃんと過ごすひとときに、思わず時間を忘れてしまい遅刻したのか。どっちにしろ、誕生日ケーキを口実に会いに行ったとしか思えん!
 雪野君はお母さんと一緒にケーキの箱を開けた。

「あ、雪だるまだ」

 若葉ちゃんの家のケーキはシンプルな苺の乗った白いデコレーションケーキ。真ん中には“Happy Birthday Yukino”と書いたチョコプレートが乗っかっており、その隣に雪だるまのメレンゲ人形がちょこんとあった。

「お前、雪だるま好きだろう。ケーキを注文する時に、なにか要望はあるかって聞かれたんで、頼んで作ってもらった」
「へぇっ、可愛いね」

 せっかくなので、もう一度ロウソクを立てて誕生日のお祝いをすることにした。さっきの豪華な2段重ねのバースデーケーキも凄くおいしかったけど、こういったシンプルな苺のケーキがなんだかんだ言っても私は一番好きだな。
 2回目のバースデーソング。私は張り切って歌ったけれど、鏑木は手拍子のみだった。歌えよ!

「雪野君、誕生日おめでとう!」

 ケーキがそれほど大きくないので、ひとりぶんは少し小さめ。私は大人なので苺は子供達に譲った。ケーキの生クリームがついた苺はおいしいけどね。大好きだけどね。ほら私、大人だから。
 雪野君は自分のお皿に乗った雪だるまを「どうしようかなぁ。食べちゃおうかなぁ」と可愛く悩んでいた。わかるなぁ、その気持ち。私も若葉ちゃんにもらったブッシュドノエルに付いていた麗華ちゃん人形、もったいなくて食べられなかったもん。結局冷蔵庫で年を越しちゃったけど、メレンゲの賞味期限ってどれくらいなんだろう…。
 若葉ちゃんの家のケーキは、苺がなくてもとってもおいしかった!今度また買いに行っちゃおっと。

「雪ちゃん、雅哉さんからのプレゼントを開けてみましょうか」
「うん。わっ、重っ」

 鏑木から雪野君へのプレゼントはエッシャーの大きな画集だった。

「前に雪野がエッシャーの絵を見て興味を持ってたから。また寝込んだ時にでものんびり見ろよ」

 寝込んだ時って、縁起でもないことを!
 でも雪野君は気にするでもなく、「ありがとう」と言って熱心に画集を眺めていた。
 しかし鏑木は本を贈るのが実は好き?私も前にハイネの詩集やツボの本をもらったし。お父さんが稀覯本のコレクターだから、その影響もあるのかな。

「麗華お姉さん達も一緒に見よ?」
「ええ」

 雪野君に誘われたので隣に座って画集を見る。一緒に見ていた円城夫人は「なんだか、くらくらしてきたわ」と途中でリタイアした。
 そのうち子供達はきゃいきゃいはしゃぎながら、大画面でテレビゲームをしたり、私が持ってきたゲームで遊んだりし始めたので、雪野君も画集を閉じて友達と遊ぶことにした。私も参加しちゃおうかな。でもジェンガは自分で持ってきておいてなんだけど、小心なので取る時に緊張で手が震えちゃうんだよね。やるならボードゲームがいいなぁ。




 鏑木にまた双子が生まれた。

「鏑木様、子だくさんですわね…」
「雅哉兄様、大家族」
「せこい稼ぎ方だよね、雅哉」
「うるさい。さっさと全員、祝儀をよこせ」

「あらっ、庭から油田が出ましたわ」
「すごーい!麗華お姉さん!次は雅哉兄様だよ。あ、雅哉兄様、投資で大損だって」
「っんだよ、これ!このルーレット、壊れてるんじゃないのか?!」
「いいから早く銀行に支払って、雅哉」
「くっそっ!」

「プレイヤーの資産横取りだ。じゃあ雅哉かな」
「はあっ?!なんで俺なんだよ!一番儲けているヤツから取れよ!」
「消去法だよ。一番心が痛まない相手」
「ふざけんな!」
「あ、僕も横取りだ~。雅哉兄様、お願い」

 皇帝陛下はひとり負けだった。円城兄弟は遠慮なく鏑木から搾取した。鏑木の機嫌は最高潮に悪かったが、主役の雪野君が楽しそうだったので問題はない。頭から湯気が出そうな鏑木。クールで怜悧という皇帝のイメージはどこへ行った。
 この手のゲームは人柄が出るね。手持ちのお金を堂々と全額目の前に出してある鏑木。資産総額を知られないために、こそこそハンカチで隠している私。目の前にお金は出しているけど、どうやら隠し財産がありそうな円城。

「吉祥院さんがこういうゲームを知っていたとは驚きだな」
「そうですか?」

 まぁ確かに庶民的すぎるかなと、自分でも持ってくる時に思ったけど。
 私は前世で妹と年が近かったから、小さい頃から一緒にゲームをしたりして遊んでたんだよね。それにお正月などにお祖父ちゃんの家に従兄妹が集まると。みんなでボードゲームやトランプをして遊ぶのが本当に楽しかった。
 年が近い兄妹がいれば一緒に遊べるけど、年が離れているとなかなか一緒に遊ぶのも難しいから、たまには庶民的なゲームもいいでしょう。

「もう一回やろ!」
「俺はもうやらない」
「あ、逃げた」
「逃げてない!子供の遊びに疲れただけだ」
「一番子供のくせに」

 鏑木は大きく舌打ちをすると、足音も荒く向こうへ行ってしまった。私達はカモがいなくなってしまったので、新しく参加した子供達と、和やかにゲームを再開した。
 わあっ!と声援が上がったので見ると、鏑木がジェンガでヒーローになっていた。

「勝因は緻密な分析力と、怯まぬ度胸だ」

 得意げだった。



 楽しかった時間もあっという間に過ぎ、そろそろお開きの時間になった。小学生だからあまり遅くなれないからね。
 私も帰り支度をしていると、円城夫人と円城に「今日はありがとう」とお礼を言われた。

「麗華さんが来てくれたおかげで、とっても盛り上がって楽しいお誕生日会になったわ。本当にありがとう」
「雪野も大喜びだったよ」

 雪野君にも「ありがとう、麗華お姉さん」と無垢な笑顔で言われて、ほっこりした。

「こちらこそありがとうございました。とても楽しかったです。では失礼いたしますわ」
「またぜひ遊びにいらしてね」
「麗華お姉さん、また来てね」
「ふふっ」

 子供達の帰った部屋には鏑木だけがいた。鏑木はまだ残るらしい。

「ごきげんよう、鏑木様。お先に失礼いたします」

 一応挨拶をしておく。知恵の輪と格闘していた鏑木は、顔も上げずに「おう」とだけ言った。鏑木の眉間にはしわが寄っていた。
 鏑木、それ、難易度の高い上級者用の知恵の輪だから、たぶん解けないよ…。

 私が玄関先で円城達に見送られ、迎えの車に乗り込もうとした時、入れ違いに一台の車が家の前に横付けされた。中から出てきたのは、学園祭で会った唯衣子さんだった。
 唯衣子さんは私に気づくと、ゆったりと微笑み、そのまま円城達の元へ歩いて行った。
 私を乗せた車が発進した。
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