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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 バレンタイン当日になにを作るかはまだ決めていないので、若葉ちゃんの家に遊びに行った時にふたりで相談し合って決めることにした。いつがいい?と聞かれたので、一番早い休日でとお願いしたら、若葉ちゃんに笑われてしまった。私が暇人だとバレたかしら。でも休日はジョギングしたり、隔週で習い事が入ったりしてこれでも忙しいんだから!真正の暇人ではないんだから!
 若葉ちゃんの家に遊びに行く時は、いつも電車を乗り継いで行く。寒いなぁ。

「吉祥院さーん!」

 改札を出ると、若葉ちゃんが大きく手を振って待っていてくれた。

「ごめんなさい、待たせちゃった?」
「ううん、全然平気だよ」

 若葉ちゃんは今日も赤いダッフルコートを着て元気いっぱいの笑顔だ。

「お昼ごはんは食べてきた?ハヤシライスなら家にあるけど、どこかで食べて行く?」
「大丈夫よ。高道さんは平気?」
「私も平気。じゃあ家に行こうか」

 私と若葉ちゃんはのんびり歩いた。

「あの、高道さん、あれからどう?嫌がらせのほうは」
「えっ、あー、うん。まぁ適度に」
「そう…」

 私が聞いた話だと、若葉ちゃんの机に足跡が付けられていたことがあったとか、相変わらずわざとぶつかられたりとか、聞こえよがしの悪口を言われたりとかがあるらしい。

「でもあれ以来、制服を汚されるようなのはないよ」
「それは当然でしょう。頻繁にされたらたまりませんわ」
「まぁねぇ」

 若葉ちゃんはけらけらと笑った。

「私で力になれることがあれば…」
「今のままで充分だよ。上靴もらって制服までもらっちゃって。吉祥院さんには、ほんっとーに感謝してるよ?」
「でも」
「それに大っぴらに私を庇えば、吉祥院さん立場悪くなるでしょ?私、ピヴォワーヌの人達から良く思われていないし」
「え…」

 図星を指された。確かに私が若葉ちゃんと仲良くなれば、私の立場がどう転ぶかはちょっとわからない。

「大丈夫ですよ。私のことを庇ってくれる人達もいるから。水崎君達とかね」
「あぁ…」

 同志当て馬や生徒会の友達が若葉ちゃんと一緒にいるから、露骨な攻撃からは守られているっていうのはある。ただ同志当て馬ファンの嫉妬を買うはめにもなっているけど。

「それとあの、極少数ですけど、ピヴォワーヌをあまり良く思っていない人達がいるって知ってます?」
「ええ、まぁ」

 ピヴォワーヌに対して家柄と親の財力を盾に好き放題しやがって、と不満を持っている層は昔からいる。今の生徒会を中心とした第三勢力もそうだ。
 ピヴォワーヌと生徒会の確執は根深い。あのバランス感覚に長けていた友柄先輩ですら、卒業まで香澄様との交際を隠していたくらいだ。
 そうなんだよな~。今の生徒会長の同志当て馬はあれで生徒達からの人望もあるし、皇帝には劣るけどカリスマ性もある。そこに私なんかがピヴォワーヌの会長になったら、ここぞとばかりに不満分子が反乱起こしそうで、次期会長の打診があった時は凄く怖かった。私の代でピヴォワーヌ崩壊とかさ、笑えないよ?そんなことばかり考えていたら、眉毛に円形脱毛症が出来ちゃったし。だから鏑木が会長になってくれて、本当によかった~!

「私、これでも一応生徒会の役員だし、吉祥院さんはピヴォワーヌの有名人でしょ。それが裏で繋がっていたなんて言われたら、お互い裏切り者扱いされそうですよね~」
「そうね…」

 しがらみが面倒くさいな~。普通にお友達づきあいが出来ればいいんだけど。

「だから吉祥院さんはなにもしなくて大丈夫ですよ。私も自分のことは自分でなんとかしますから。なんて言いながら、何度も助けてもらっちゃってるけど」

 若葉ちゃんはペロッと舌を出した。

「ほら、そんな話をしている間に家に着いちゃった。もうこの話は終わりね!家族の前では特に」
「わかりましたわ」

 今の言い方からすると、若葉ちゃんの家族には若葉ちゃんが学校でどんな仕打ちをされているのか教えていないらしい。そりゃあ家族には心配かけたくないもんね。
 私は3回目となる若葉ちゃんのお家にお邪魔させてもらった。今日の手土産はあられだ。

「毎回気を使わなくていいのに。今度からは手土産はいいから!私の家はそんな上等なものじゃないし!」
「でも大した物ではありませんから」
「いいってば。嬉しいけど、毎回頂き物しちゃうと、誘いにくくなっちゃう」
「そうですか?」

 そういうものなのか。考えてみれば前世では友達の家に遊びに行くのに、毎回手土産を持っていくようなことはしていなかったかも。

「でもこの前もらったかりんとうも、みんなであっという間に食べちゃったんだよ。ありがとう!」
「どういたしまして」

 若葉ちゃんは手土産の袋を捧げ持つと、「いただきます」と恭しく頭を下げた。

「さて!ではバレンタインになにを作るかだよね?」
「はい。よろしくお願いします、先生」
「あはは。でも私でいいのかな?そんなに豪華なのは作れないよ?」
「高道さんの作るお菓子がいいんですわ。クリスマスにいただいたブッシュドノエルも、とってもおいしかったもの。あのメレンゲ人形、私にも作れるかしら?」
「あぁ、あれ。うん、コツさえ掴めば出来ると思うよ。あとは絵心かな」
「絵心ですか…」

 絵はあまり自信がないんだよな。プレゼントする相手に似せたメレンゲ人形をケーキと一緒に渡したら、喜ばれるんじゃないかと思ったんだけど。

「今まで作ったバレンタインのお菓子は、どんなのがあったの?」
「そうですわね~。チョコレートブラウニーは何度か作りましたわね。お友達に誘われて、パティシエに習いに行きましたのよ。去年はチョコレートケーキを作ったわ。それからトリュフ、生チョコレート…」
「結構いろいろ作ってるんだ」
「ええ。でもやっぱり素人の域を出ていないというか、食べ比べると市販のケーキのほうがどうしてもおいしいんですよね」
「う~ん、そこはプロの作ったものだからねぇ」
「ですわよねぇ。普通の人が作ったお菓子に、プロと同じレベルを求められても困りますわよねぇ」
「でもある程度までは作れると思うよ。それにマフィンとかは焼きたてのほうがおいしいし」
「マフィン!バレンタインにチョコレートマフィンでもいいですわね!」
「うん、いいんじゃないかな。ただちょっと地味かもしれないけど」
「う~ん、確かに」

 1年に一度のバレンタインにチョコレートマフィンは地味かな。

「それならフォンダンショコラは?」
「フォンダンショコラ!それがいいわ!」

 フォンダンショコラは、前々から一度作ってみたいとは思っていたのだ。

「フォンダンショコラがいい?だったら今日はそれを練習してみる?それともほかのお菓子を作ってみる?」
「ほかのお菓子ですか?たとえば」
「そうだなぁ。私がバレンタインに作るのは、チョコレートチーズケーキとか、ガトーショコラとか、オペラとか」
「チョコレートチーズケーキは興味がありますわ」

 それが作れれば、普通のチーズケーキも作れるってことだよね。いいかも。

「そっか。なら今日は試しにチョコレートチーズケーキを作ってみようか」
「はい!」

 私が勢いよく立ち上がると、おなかがクウッと鳴った。ぎゃっ!食べ物の話をしてたから?!

「…先にちょっとだけなにか食べる?」
「いえ、平気ですわ…」

 この腹鳴め!何度私に恥をかかせれば気が済むんだ!

「そうだ。とっておきのがあるんだった!」

 若葉ちゃんは両手をパチンと合わせてキッチンに立つと、なにやらお鍋を温めだした。さっき言ってたハヤシライスかな?
 そして若葉ちゃんが小さいお椀で出してくれたのは、卵と緑の野菜の入ったお粥だった。とっておきって、これ?

「どうぞ」
「ありがとう。いただきます」

 本当にそこまでおなかは空いていなかったんだけど、せっかく出してくれたので、ありがたくいただく。
 熱々のお粥をふうふうと冷ましてから、れんげに掬って食べる。熱っ、熱っ!

「どうかな?」
「ええ、熱いけどおいしいですわ」

 うん。病気じゃないけど、たまにはお粥もいいよね。でもなんでお粥なんだろう?ハヤシライスがあるって言ってたのに。それと卵にからまる、この緑の草はなんの野菜かな?いや、山菜か?
 私がれんげで緑の草を掬って見ていると、若葉ちゃんがニコニコと笑った。

「それはね、春の七草だよ。1月7日はとっくに過ぎちゃったけど、遅めの七草粥ね。これで1年無病息災に過ごせるよ」
「あぁ、七草粥でしたか。卵にからまっていてわかりませんでした」

 七草粥かぁ。うん?七草粥…?もしかしてこれって、瑞鸞の森で採ってきたきた野草じゃ…。

「吉祥院さんにもおいしく食べてもらえて良かったぁ」
「……」

 若葉ちゃん、もしかしなくても、私を山菜泥棒の共犯者にしましたか…?
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