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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 行き当たりばったりの考えなしでくだらない嘘をつくと、結果的に自分で自分の首を絞める羽目になるということを、いつになったら学ぶんだ、私!お前の頭は三歩歩くと忘れる鶏か!
 耀美さんには即行SOSを出した。まさかお誕生日パーティーに煮物を作って持っていくわけにはいかないし、そもそも私はまだ煮物も作れない。
 おもてなしパーティー料理なんて私には必要なしと却下した数日後に、よもや必要になるとは思わなかったよ。
 あ~、参った。


 次の日さっそく円城に声を掛けられた。

「雪野から聞いたんだけど、吉祥院さん、あの子の誕生日会に来てくれるんだって?しかも手料理付きで」

 うっ…。雪野君、すでに家族に話してしまったか。逃げ道なし。

「ええ…。でもせっかくの雪野君の晴れやかなお誕生日に、私の作った拙い手料理などむしろ失礼だと思うので、今回はご遠慮しようかと…」
「雪野は大喜びだったよ。今から食べるのを楽しみにしているみたいだけど」
「それは…」

 雪野くーん…。プレッシャーで私の眉毛が全部抜けそうだよ。

「雪野の体調のこともあるし、そんなに大きな会ではないんだ。初等科の仲の良い友達を何人か招待して、雪野の誕生日を祝ってもらうってだけ。だからそんなに気負わなくても大丈夫。でもまぁ、ムリにとは言わないけど」

 円城は私の絆創膏の貼られた指をちらっと見た。もしかして実力を見抜かれたか。
 でも断って雪野君をがっかりさせるのも、食べさせて失望もされたくないよぉ。耀美さん、助けて。貴女だけが頼りです!毎日千切りの練習をします!レシピもしっかり覚えます!だから力を貸してください!
 それでも…。

「あまり期待しないように、雪野君に言い含めておいてくださいね…」

 円城家で食中毒!なんてニュースが瑞鸞を駆け巡らないように、頑張るよ。




 放課後、クラスで集めたレポートを先生に提出するため、私と委員長は教員室に向かっていた。
 委員長達は冬休みに4人で初詣に行ったらしい。

「みんなでおみくじを引いて、絵馬を書いたんだ」

 照れながら話す委員長。片思いしている人と初詣。なにそれ、凄く楽しそう。なんで私を誘ってくれなかったの?さ~そ~え~よ~。元はといえば私が仲を取り持ってあげたんじゃなかったの~?

「神様に、本田さんと今年も仲良く出来ますようにってお願いもして」
「へー」
「それで今年、本田さんと野々瀬さんがバレンタインにふたりで手作りチョコを作るらしくって、僕と岩室君にもくれるって話で…。あ、もちろん友チョコなんだよ!それはわかってる。うん」
「ふーん」
「でもいつかは、本命チョコがもらえたら嬉しいんだけど」
「ほー」

 バレンタインねぇ。私は今年も本命チョコをあげる相手がいないんだけど。焦る…。花の高校生活はあと1年ちょっとしかないのに。私もバレンタインに浮かれてみたい。思い切って図書館のナル君にあげてみようか。でも見ず知らずの女の子からチョコを渡されるって、男の子の本音としてはどうなんだろう。少女マンガとしては王道なんだけど。
 そして今年はなにを作ろうかなぁ。

「吉祥院さん、僕の話ちゃんと聞いてくれてる?」

 あ、適当に受け流していたのがバレた。

「だったら委員長も、想いを込めてバレンタインチョコをプレゼントしてみては?」

 半分冗談だったのに、乙女の目が輝いた。え、本気?

 レポートを提出し終わった後、私は手芸部、院長は文芸部に行くためにそれぞれ別れた。腹巻も作っちゃったし、今度はなにを作ろうかなぁ。
 そんなことを考えながら階段を下りていたら、後ろから「吉祥院さん」と声を掛けられた。振り向くと若葉ちゃんだった。

「どうなさったの、高道さん」

 若葉ちゃんは周りに人がいないことを確かめてから、私に近づいてきた。

「あのね、今度家に遊びに来ませんか?」
「えっ?!」

 若葉ちゃんからのお誘い?!急にどうしたの?!
 若葉ちゃんは誰かに聞かれないように、声を潜めて話した。

「ほらこの前、制服をもらっちゃったでしょ。だからなにかお礼をしたいと思って」
「そんな、気になさらないで。そもそも汚れて着なくなってしまった制服ですし」
「でも高い制服をタダでもらっちゃったから、なにかお返しをしたいなってずっと思ってるんだ。でも今回はケーキでお礼出来るってレベルじゃないんだけど…」
「本当に気にしなくていいのに。でも高道さんのお家に遊びに行かせてもらえるのは嬉しいわ」
「本当?それでなにかして欲しいこととか、欲しい物とかあるかな。私が吉祥院さんに出来ることって限られてるけど」
「高道さんの家でケーキを食べさせてもらえれば、それで充分よ」
「だからお礼がケーキじゃ釣り合わないって」

 隣り合って階段を下りている時、ふとマンガで吉祥院麗華が若葉ちゃんを階段から突き落とすシーンがあったなと思い出して、つつと間をとった。

「どうかした?」
「ううん、なんでもないの」

 今の私に若葉ちゃんを階段から突き落とすなんて真似、絶対にする気はないけれど、一応念のため、階段ではちょっぴり離れておこう。若葉ちゃんは不思議そうな顔をした。

「そうだわ。高道さん、私にバレンタインに作るお菓子を教えてくださらない?」
「バレンタイン?」
「ええ」

 なんていい考えだ。お菓子作りが趣味の若葉ちゃんと一緒に作れれば、きっとおいしいお菓子ができあがるに違いない。あげる人は家族しかいませんが!

「そんなの、いつでも教えるけど」
「では、よろしくお願いいたしますわね」

 私は満面の笑みを浮かべた。





 猫の手ガードを買ってきてから、手を切ることもなくなった。初日に切った治りかけの傷に絆創膏を貼り直していると、お兄様が伊万里様を伴って帰宅した。

「伊万里様、お久しぶりです!」
「遅いけど、明けましておめでとう、麗華ちゃん」
「明けましておめでとうございます、伊万里様」

 今年もキラキラしています、伊万里様。仕事帰りのスーツ姿が素敵。

「今日は麗華ちゃんに渡すものがあったんだ」
「なんでしょう?」

 伊万里様はカバンからリボンの付いた箱を出した。

「はいこれ、長崎のお土産」
「わぁっ、ありがとうございます。確かご親戚の家が長崎にあるのでしたよね?」
「そう。お正月に顔を出したんだ。アメリカに行っている弟も帰国してたから一緒にね」
「そうなんですか」

 伊万里様の弟様はアメリカに留学してそのままあちらに居ついている。窮屈な日本よりも肌に合うらしい。
 私は渡されたお土産の封を開けた。伊万里様からは昔、長崎のお土産にびいどろやカステラをお土産にいただいたことがある。可愛いびいどろは今でも私のお気に入りだ。伊万里様は女の子の好きそうな品選びを外さない。

「わ、真珠?!」

 ビロードのケースを開けると、銀のハートから真珠が涙のようにこぼれるネックレスが入っていた。

「素敵!」
「長崎は真珠が有名だからね。麗華ちゃんに似合うと思って。付けてあげようか?」
「伊万里、人の妹に気安く触るな」

 お兄様が伊万里様を冷たく睨んだ。

「麗華ちゃんのお兄さんは怖いよねぇ。真珠は人魚の涙、妖精の流した涙という話があるけど、僕は女性には哀しい涙ではなく、嬉しい涙を流して欲しいな」

 にっこり微笑むカサノヴァ村長の脳天に、お兄様の鉄拳が落ちた。

「いってーっ!」
「死ね。いっぺん死んでこい!海の藻屑となり、アコヤ貝の核となれ!補陀落渡海してこい!」

 お兄様は伊万里様の首をぐいぐいと締めた。いつも優しく穏やかなお兄様が珍しい。仲がいいんだなぁ。

「素敵なお土産をありがとうございます、伊万里様。そうだわ!バレンタインに伊万里様にも、この真珠のお礼にチョコをお渡しいたしますわ!」
「えーっ、麗華ちゃんからのチョコレート?それは嬉しいな」

 伊万里様は殴られた頭を擦りながら喜んでくれた。
 家族以外にプレゼントする相手がいれば、やる気も出るもんね!

「麗華、それは…」

 お兄様も期待しててね!
 あっと、その前に雪野君の誕生日の手料理が…。
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