挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
151/277

151

 若葉ちゃんにはとってもお世話になったので、なにかお礼をしないといけないと考えたけれど、いいものが思い浮かばない。
 普段なら吉祥院家御用達、一見さんお断り完全予約制の洋菓子店のクッキーか、高級果物店のフルーツあたりを贈るんだけど、ケーキ屋さんのおうちに洋菓子は失礼だよな~。しかもこれみよがしな高級店。う~ん…。
 あれこれ悩んで結局、高道家にはケーキに合う紅茶とコーヒー、若葉ちゃん個人には瑞鸞の校章の入ったノートなどの消耗学用品を自宅に贈っておいた。やっぱり贈り物は負担にならない消え物が一番だよね!
 あの日のことはふたりだけの秘密なので、学院でも私達が親しく話すことはない。そうしていると段々若葉ちゃんの家に行ったことが夢だったように思えてきた。私、本当に若葉ちゃんの家に行ったよね?白昼夢を見たわけじゃないよね?




 体育祭まであと少しなので、各クラスの練習も佳境に入ってきている。私達のクラスでもみんな高得点目指して練習を頑張っているけれど、どうだろうな~。笑いながら練習しているから真剣味が足りない気がする。男子は騎馬戦の練習もしているけれど、最初から逃げの作戦に出てるのは過去の経験からか。でも今年だったら頑張ればいい線いけるんじゃないの?
 皇帝は宣言通り、今年も騎馬戦は辞退。
 皇帝と同じクラスの子に聞いたら、クラスでの出場種目決めの時に案の定、皇帝に騎馬戦にぜひとも出て欲しいという生徒達が続出したらしい。しかし皇帝はそれを無言で手で制したという。
 自分はすでに引退したのだからと。
 それでもと追い縋るクラスメート達。しかし皇帝は首を縦には振らない。そして言った。
 俺は引退したから出るつもりはない。だがその代り、騎馬戦に出る選手達は俺自らが鍛えてやろうと。ほかの種目でも完全勝利出来るように、お前達男子全員を全力で鍛えてやろうと。
 うん、同じクラスでなくて良かった。そして男子に生まれなくて本当に良かった。だって、鍛えられすぎて皇帝のクラスの男子達、スパルタ軍みたいになっちゃってるもん…。目がギラギラしてて怖いよ。



 そんな時、ピヴォワーヌ会長と同志当て馬がとうとうぶつかった。
 どうやらピヴォワーヌのメンバーが食堂で、眺めの良い席に座っていた一般生徒をどかして座ったのが原因らしい。しかもそのメンバーが1年生で、どかされた一般生徒が3年生だったので、同志当て馬が下級生として先輩を敬えと注意をしたようだ。
 しかしそれに怒ったのが会長率いるピヴォワーヌ至上主義の一派。ピヴォワーヌのメンバーに意見するとは何事かと出てきた。
 今、食堂は一触即発のピリピリとした空気に包まれていた。

「そもそも先に座っていた人達がいたのに、自分達がそこに座りたいからどけというのは横暴というものでしょう。しかも相手は上級生。礼儀に反する行為です」
「下級生だろうとあの子達はピヴォワーヌのメンバーよ。この瑞鸞ではピヴォワーヌがなによりも優先されるのは当然のこと。相手が誰であろうとそれは変わりませんわ。貴方こそ上級生である私に意見するのは、その礼儀とやらに反する行為なのではなくて?」
「俺は生徒会長ですから。生徒達を守るのが生徒会の義務です。ピヴォワーヌだからなんでも許されるなんて間違っている。自分達専用の席もある。それ以外に空いている席もあった。でも座りたい席があるからそこにいた人間をどかす。傍若無人な振る舞いだと思いませんか。生徒会はそんな身勝手な行動を見過ごすわけにはいきません」
「傍若無人ですって?!私達にそのような口をきいて、貴方いったい何様なの?」

 会長が柳眉を逆立てた。しかし同志当て馬は動じない。

「ピヴォワーヌといえど、同じ瑞鸞の生徒だ。間違った行動をしたら注意するのが生徒会の役目だと思っています」
「お黙りなさいっ、成り上がりがっ!」

 成り上がり?!

「生徒会など所詮瑞鸞の成り上がり連中じゃないの。生徒会だなんだと偉そうにしていられるのは、私達ピヴォワーヌが貴方がた生徒会とやらの自治権を寛大な心で許してあげているからなのよ?それをなにを勘違いしたのか、ピヴォワーヌに楯突くとは…。身の程知らずもたいがいになさい!瑞鸞の象徴たるピヴォワーヌと、成り上がりの生徒会ごときではその立場に天と地ほどの差があるわ!」
「…っ!」

 会長のあまりの言葉に、同志当て馬の顔に怒りが走った。
 そこへ騒ぎを聞きつけた先生方が慌ててやってきて、ふたりの間に入った。同志当て馬は先生に連れて行かれ、それを心配したほかの生徒会のメンバーが後を追った。会長達は怒りが収まらぬ様子でその後ろ姿を睨みつけていた。
 私は怖いので芹香ちゃん達の中に紛れてこっそり成り行きを見ていたのだけれど、胃がキリキリして一気に食欲がなくなった。

「なんだか、大変なことになりましたね…」
「水崎君ももう少し言い方を考えればいいのに。大丈夫かしら…」

 芹香ちゃん達が周囲を気にするように小声で話した。
 この先のことを考えると、私は同じピヴォワーヌメンバーとして、いつ火の粉が飛んでくるんだろうと手の震えが止まらない。怖い…。強い心臓が欲しい。外見はロココでも、中身は小市民な私です。
 こんな時鏑木達はどうしているのかと目で探したら、鏑木はピヴォワーヌ専用席から未だ騒ぎの中心となっている場所をつまらなそうな顔で見ていた。そしてその目が困った顔で同志当て馬を追おうか迷っている様子の若葉ちゃんを捉えると、そのままジッと若葉ちゃんを見つめ続けていた。


 同志当て馬は学院長から直々に注意を受けた。もちろんピヴォワーヌにお咎めはなし。私も理不尽だと思うけど、これが瑞鸞なのだから同志当て馬は悔しいだろうが引くしかない。
 学院側からピヴォワーヌへの態度について生徒会へ注意がなされたということで、食堂での一件は一応の決着をみたが、これ以上のトラブルがないことを祈るよ。





 そして体育祭の日がやってきた。
 初っ端から皇帝と配下のスパルタ軍は飛ばしていた。あぁ、いったいあの男子達はどんな過酷な訓練をさせられたんだろう。意気込みが違う。お祭り感ゼロだ。彼らと同じ女子達はお気楽にきゃあきゃあ言って応援しているけどね。
 そして同志当て馬もそれに負けず劣らず活躍していた。うんうん、ストレスは体を動かして発散させるのが一番だよね。頑張れ、同志当て馬。
 そうしている内に、私が出る100メートル走の順番が近づいてきた。100メートル走に出る選手達が集まる場所に行くと、私と目が合った若葉ちゃんが「全力出します!」とガッツポーズをしてきた。あはは、やる気だねー、若葉ちゃん。でも私と若葉ちゃんは走る組が違うよ。
 私が笑って若葉ちゃんに返事をしようとしたその時、同じく100メートル走に出る予定の私の取り巻き達が「馴れ馴れしいっ!このかたを誰だと思っているの?!」と間に入って若葉ちゃんを睨んだ。

「行きましょう、麗華様。なんて身の程知らずな!」

 私はその子達に引き摺られ、若葉ちゃんから離された。若葉ちゃん、せっかく話しかけてくれたのに、ごめん…。
 でもよく考えてみたら、自分で言うのもなんだけどピヴォワーヌの吉祥院麗華に気軽に話しかけるって、怖いもの知らずだよね、若葉ちゃん…。
 接待グループの100メートル走では当然私が1位。取り巻きのみなさんが「素晴らしいですわ、麗華様!」と拍手で接待の上乗せ。なんという出来レース。いたたまれない…。
 若葉ちゃんは惜しくも2位だったようだ。楽しそうに笑っていた。


 瑞鸞学院の体育祭は始まったばかり──。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ