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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 鏑木と若葉ちゃんが朝から仲良く登校した件で、これは一体どういうことかと、始業式早々瑞鸞は上を下への大騒ぎとなった。
 さっそく事の真相を確かめるべく大勢の生徒達がふたりに詰めかけたが、鏑木も若葉ちゃんも「校門で偶然会ったから」と言うだけだった。いやいや、偶然会ったからってあの鏑木が女子生徒と話しながら登校するなんてまず無いでしょうが。
 それでも若葉ちゃんから聞き出した鏑木との話の内容が、夏休み前に受けた模試の話であったり数学や物理の話だったりしたことで、常に成績上位争いをしているふたりだからこその会話だったのかと、一応みんなそれで納得した。確かに1学期の期末テストの順位発表の時も鏑木が若葉ちゃんに声を掛けていたし。
 でもな~…。みんなは皇帝が勉強以外で若葉ちゃんなど相手にするわけがないと思っているようだけど、私はここが君ドルの世界だと知っているのでかなり怪しいと思っている。しかもその前のサマーパーティーで、鏑木が優理絵様への初恋を吹っ切ったということもあったしね。
 サマーパーティーの時にもいろいろと話を聞いたけど、鏑木は本当に優理絵様を諦めたらしい。あのダンスは鏑木にとって初恋への決別のワルツだったようだ。それはさすがに私も、鏑木切ないな~とちょっと思ったけれど。私はひとりの人を10年以上想い続けた経験なんてないので、それを諦めるのは相当苦しかっただろうな。14年間の心の整理をつけるのに8か月以上かかるのも仕方ないと思う。その間ずっと罪悪感に苛まれていた優理絵様もお可哀想だけど。
 しかし初恋歴14年って長いな。鏑木が2、3歳の頃からってことでしょ。2歳児が初恋なんてわかるんだ。そんな私の疑問に円城が言うには、初めて優理絵様に会ったのがその頃だからそう言っているだけで、実際自覚したのは幼稚園の頃からだったはず、らしい。幼稚園児の鏑木は「ゆりえ~ゆりえ~」といつも優理絵様の後を追いかけていたそうだ。優理絵様も小さな子供が自分を慕ってくっついてくるのが可愛くてしょうがなかったらしく、いつも遊び相手になってあげていたんだって。生意気だけど自分を慕う可愛い弟と思っている小学生の優理絵様と、大好きな女の子と思ってべったりしている幼稚園児の鏑木との間には、相手に対する気持ちにかなりの隔たりがあるけれど、それでも鏑木にとっては一番幸せな蜜月期間だったのかもしれないなぁ…。
 まぁ、サマーパーティーで会ったふたりは晴れやかな顔をしていたし、終わり良ければ全て良しかな。




 2学期に入るとすぐに生徒会長、副会長選挙が始まる。今年の会長候補は当然、現生徒会役員でもある同志当て馬だ。成績優秀で中等科での生徒会長実績などもある同志当て馬は、選挙前から最有力候補に挙げられていた。女子生徒達からの人気もかなりあるしね。
 結局、強力な対抗馬もいなかったことから、すんなりと次期生徒会長は同志当て馬に決まった。そして選挙ではなく会長の指名で決まる生徒会役員に、同志当て馬が指名したのはなんと若葉ちゃんだった!
 えっ?!若葉ちゃん生徒会に入るんだ!確かに若葉ちゃんは優秀だから、生徒会の役員になるのは当然といえば当然なんだけど…。そっかぁ。
 原作ではそんな話はなかった。マンガの若葉ちゃんはすでに学院の大勢の生徒達から敵視されていたから、生徒会に入るなんてありえなかったのだ。一部の生徒達からは嫌われているとはいえ、皇帝とほとんど接点がない現世だからこその今回の生徒会入りだろうな。
 でも見た目からは想像も出来ないほど優秀な若葉ちゃんなら、生徒会でもきっとその力を発揮するに違いない。若葉ちゃん、頑張って!
 あ…でも、ピヴォワーヌは年末まで代替わりしないから会長は瑤子様のままなんだけど、若葉ちゃん大丈夫……?



 3年生が引退することによってあちこちで代替わりが行われているが、私にはな~んにも関係がないとお気楽でいたら、とんでもない爆弾が落とされた。

「麗華様、ぜひ次の手芸部の部長を引き受けてもらえないかしら」
「ええっ!!私が手芸部の部長?!」

 部長さんから突然もたらされた、まさかの時期手芸部部長への打診。いや~、それはないでしょう。だって、私だよ?今年やっと正式部員に昇格した私だよ?手芸部員の中でも腕前がいまひとつの私だよ?

「それはちょっと…。私は手芸は好きですが詳しくありませんし、つい最近正式に入部したばかりの私が部長になるのは、あまりにムリがありすぎるのではないかと…。第一ほかの方々が納得しないと思いますけど…」

 手芸の実力もある生え抜きの手芸部員がたくさんいるなかで、異端の私が部長になったらみんな納得しないと思うぞ。

「それは大丈夫。みんなで話し合って決めたことだから。みんなも麗華様に次期部長を引き受けて欲しいって言っているわ」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。麗華様は手芸部が大好きでしょう?夏休みも部室に通ってドレス制作を一生懸命手伝っていたのをみんな知っているもの」

 確かに私は夏休みに時間が取れる限り、なるべく部室に通った。刺繍も出来ないしウエディングドレス制作ではほとんど役に立つことは出来なかったけど、飾りに使う花を作ったり端切れや糸くずを掃除したりしていた。

「手芸の知識とか実力よりも、手芸部に対する気持ちのほうが私は大事だと思います。麗華様ほど手芸部を愛している部員はなかなかいないでしょう?」
「麗華様、私達も出来るだけフォローしますから、部長になってもらえませんか?」

 同じ2年生の部員である浅井さんも部長さんの横から口添えしてきた。
 そしていつの間にかほかの部員達も私達の周りに集まってきて、口々に部長になって欲しいと言った。
 私が、手芸部の部長…。

「本当に、私でいいんでしょうか…?」
「もちろん!」

 みんなが笑顔で頷いてくれる。
 去年1年ずっと手芸部員(仮)に甘んじてきて、今年とうとう正式部員に昇格できた私。その私が手芸部の部長…!これはなんという破竹の大出世!

「私、頑張りますわ!」

 私の宣言に、みんながわあっと拍手をしてくれた。
 私は今日から手芸部部長、吉祥院麗華ですわ!


 でも麗華新部長、学園祭に出品するニードルフェルトのぬいぐるみがまるで進んでいないんだけど、どうしましょう?
 ベアたんからの“ベアたんのぬいぐるみ、早く見たいなぁ。絶対に可愛く作ってね!ベアたん楽しみにしてる!もちろんあーたんもだよ!”というメールが私に重く圧し掛かる……。試作品のベアたんの顔に縫い付けた目が、片方ボロッと取れてホラー化していることは、犬バカ君には絶対に言えない。




 夏休みの補習ですっかり仲良くなったらしい委員長と岩室君、本田さんと野々瀬さんは、最近時々一緒にいるところを見かける。
 どうやら岩室君は野々瀬さんが好きらしい。女装癖はあるけれど、恋愛対象は女の子だったんだな…。
 そして同じ生徒会役員ということで、同志当て馬と若葉ちゃんが一緒にいる姿もよく見かけるようになった。その若葉ちゃんに気軽に声を掛ける鏑木の姿も。

 ピヴォワーヌ会長瑤子様がサロンでゆったりとお茶を飲みながら、「今期の生徒会はなにかと問題がありそうね?」と呟いた。
 私はそそくさとサロンを後にし、手芸部部室に逃げた。あー、部長は忙しい、忙しい。

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