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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 麻央ちゃんお泊り会最終日の予定は、お兄様と前から約束していた水族館。場所は恋する遊び島だ。恋愛ぼっち村村長の私にケンカを売るようなキャッチコピーに、多少の引っ掛かりを覚える。
 麻央ちゃんには悠理君という素敵な男の子がいる。それは去年のサマーパーティーで初めてふたりに会った時からなんて微笑ましい小さな恋人達でしょうと見守り、時にはいいなぁ、羨ましいなぁとすら思ってきた。
 しかし、だ。璃々奈は私と同じく、恋愛には縁がない我が村の村民だろうと密かに思っていた。だって我がままで自己中な璃々奈だもんねー。なのに、昨夜話の流れで璃々奈が、今までに何人かに告白されたことがあるとサラッと爆弾発言をしてくれたので、私は天地がひっくり返るような衝撃を受けた。。璃々奈が男の子から告白?!しかも数回?!
 恋愛面において、こいつは私と同レベルの寂しいヤツよと見縊っていた璃々奈からのまさかの激白!ショックであうあうとなる私に、璃々奈は怪訝な顔で「高校生にもなれば告白された経験くらい誰にだってあるでしょう?」と更なる追い打ちをかけた。
 ねーよっ!生まれてこのかた1度もねーよっ!なんなら前世を含めて1度もねーよっ!
 勉強面でも恋愛面でも、私は璃々奈に完全に敗北を喫した──。

 璃々奈のくせにっ!璃々奈のくせにっ!ボコボコと沼気のように湧き上がる黒い感情に蓋をして、私はふたりに笑顔で朝の挨拶をし、麻央ちゃんにお願いされて髪を巻いてあげた。
 麻央ちゃんは水族館に行ったあとはそのまま家に送り届ける予定なので、荷物も車に積み込みお兄様の運転で、いざ敵島に出発!



 夏休みということで、水族館はかなり混んでいた。これははぐれないように気を付けないと。特に小さい麻央ちゃんは要注意だな。手を繋いであげよう。

「麻央ちゃ…」
「麻央、迷子にならないように手を繋ぐわよ」
「はい。璃々奈お姉様」

 麻央ちゃんと璃々奈は仲良く手を繋いでふたりでさっさと水族館に入っていった。私を置いて。
 ……いいんだ、私にはお兄様がいるから。ねっ、お兄様。お兄様、携帯をいじっていないで私をかまって。
 麻央ちゃんの一番のお目当てはシロイルカ。私は昔から大好きなホッキョクグマだ。白クマ可愛いよねー、白クマ。切手も持っています。
 麻央ちゃんは昨日のトランプや今日の水族館でずいぶんとお兄様にも打ち解けてくれたようで、「貴輝兄様」と呼ぶようになっていた。可愛がっている姪っ子の“兄様”という称号をお兄様に取られたと知ったら、“叔父様”に格下げされた市之倉さんは大ショックを受けるだろうなぁ…。
 水族館はトンネル型のイルカの水槽が良かった。外の暑さを忘れさせてくれる光景で、私達はしばらく頭の上を泳ぐイルカに見入っていた。でもやっぱり私は白クマさんだけどね。
 今度はみんなで沖縄か大阪の水族館に行きたいねなどと話しながら、一通り水族館を堪能したあと、私達は横浜の繁華街に出た。これからぶらぶらとお店を見たり食べたりするのだ。
 するとお兄様が「暇な人間をもうひとり呼んだから、少しだけ待ってくれる?」と言い出した。暇な人間?はっ!まさか彼女とか言わないよね、お兄様!

「ほら、来たみたいだ」

 車道の向こう側でこちらに向かって手を振る人物がいた。

「伊万里様?!」

 わぁっ!伊万里様に会うのって久しぶりだ。相変わらずモテオーラが凄いなー。

「突然呼び出すなよ、貴輝」
「だってお前、暇だろ」
「失礼なヤツだなー」

 伊万里様はお兄様と軽く憎まれ口を叩きあった後、私達ににっこり笑いかけた。

「久しぶり、麗華ちゃん。こちらのふたりは初めましてかな?この吉祥院貴輝と小学生からの腐れ縁を結んでいる、桃園伊万里です」
「貴兄様の従妹の古東璃々奈です」
「初めまして!早蕨麻央です!」

 よろしくーと、伊万里様は全員と握手をした。

「そうそう。女の子達に差し入れね。はいこれ。塩バターが入っているから熱中症予防にどうぞ」

 そう言って伊万里様が私達に手渡してくれたのは、フランスの有名なキャラメル専門店の1粒150円以上するという高級キャラメル。さすがだ、伊万里様。赤いキャラメルを口に入れると、フルーツの味が口の中いっぱいに広がった。おいしーい!

「この暑さにキャラメルじゃ、溶けちゃうんじゃないか?」
「だからなるべく外は歩かないようにしようぜ。俺、暑いのイヤだし」

 伊万里様は私達を先導してショッピングモールに入って行った。女の子の買い物に付き合うのなんて退屈で面倒だろうなと思うのに、伊万里様はこれが似合うよ、あれも可愛いねとにこやかに相手をしてくれる。階段を下りる時などには、はいどうぞとさりげなく手を差し出してエスコートしてくれる伊万里様に、麻央ちゃんがすっかりポーッとなってしまっていた。悠理君、大変だ!君のライバルがこんなところにも!
 とあるアクセサリーショップに入った時、ガラス製の可愛らしい髪飾りを見つけた。振るとしゃらしゃらとガラスが音を立てる。

「わぁ、その髪飾り素敵ですね」

 麻央ちゃんが私が手に持つ髪飾りを見て言った。髪飾りは色違いで何種類かあったので見ていると、「どれが気に入ったの?」と伊万里様に聞かれた。

「ふたりともそれが気に入ったの?じゃあ今日の記念に俺がプレゼントするよ」

 ええっ?!
 最初は私達も悪いと遠慮したけれど、伊万里様の話術に乗せられて気が付けば買ってもらうことになってしまった。麻央ちゃんはピンク、私は赤、璃々奈が青だ。麻央ちゃんは買ってもらった髪飾りを伊万里様に手ずから付けてもらって、完全に虜だ。うわわわわ、確かに伊万里様は素敵だけど!
 それを見ていた璃々奈が麻央ちゃんを隅に引っ張って行き、「あの方は危険だから好きになっちゃダメよ」となどと諭していた。なにやってんだ璃々奈。
 ふと後ろからお兄様と伊万里様の会話が聞こえてきた。「お前そんなことばかりやっていると、また刺されるぞ」……え?
 どうやら璃々奈は見る目もあるらしい。

 夕方になり車で麻央ちゃんと璃々奈をそれぞれ家に送り届けると、お兄様と伊万里様は一端私の家に戻ったあと、ふたりで出かけてしまった。
 1日中遊んで疲れた私が自分の部屋のドアを開けると、昨日しまったはずのおかっぱ頭の茶運び人形が、カタカタと揺れながらこちらにやってきた。





 今日は鏑木家主催の蛍狩りだ。場所は鏑木グループのホテルの日本庭園。私は張り切ったお母様に着物を着せられた。夏らしい水浅葱色の絽の着物だ。お父様は菖蒲色の着物を着たお母様にきれいだよなどとほざいていた。
 会場に入り、鏑木夫妻に挨拶をしたあとは吉祥院家とも付き合いのある方々への挨拶回り。会場を連れ回されて少し疲れたので、休ませてもらおうかなと手ごろな椅子を探していると、「どうぞ」と飲み物が差し出された。

「円城様」
「こんばんは、吉祥院さん」

 こいつも来ていたか…。

「今日は着物なんだ。とてもよく似合っているよ」
「ありがとうございます」

 私はほかに誰かいないかと目で探すと、「雅哉ならあっちだよ」と見当違いのことを言われた。

「私は別に鏑木様を探していたわけではありませんけど」
「あれ、そうなんだ。一応主催者の息子だから挨拶したいかと思ったんだけどね」

 なんだよ、礼儀知らずとでも言いたいのかよ。
 蛍狩りはもう始まっていて、庭にはたくさんの蛍が飛んでいるようだ。

「見に行かないの?」
「そうですね」

 せっかくだから見てみたい。でも前に玉鬘がどうのとか言われてたなぁ。着物着てきちゃったし、変な展開になったらイヤだな。

「雅哉も行ってるみたいだから、僕達も行こうよ」
「…ええ」

 だから鏑木目当てじゃないってば。
 庭に出ると無数の蛍が飛んでいた。招待客の周りをふわふわと飛ぶ蛍はとても幻想的だった。うわあっ!いいなぁ!
 私も蛍に近づいてみると、ふわっと蛍が逃げた。あれ?
 私が近づく。蛍、一斉に逃げる。また近づく。蜘蛛の子を散らしたように逃げる。
 ……おかしい。私の着物に薫きしめられた香は、決して除虫菊ではないはずだ。なぜだ。

「まぁっ、恵麻さん、人気者ねぇ!」

 見ると、舞浜さんが蛍に囲まれて玉鬘になっていた。
 蛍が一匹も近くにいない私に気づき、舞浜さんがふふんと笑った。
 負けた……。
 玉鬘役をまんまと舞浜さんに取られるの巻。
 笑ってるんじゃないよ、円城!蛍に嫌われているのは私の隣にいるあんたじゃないの?!

 そこへピヴォワーヌ会長の瑤子様が華やかな笑みを浮かべ、ほかのピヴォワーヌメンバーとともにやってきた。
 あ、なんかヤな予感……。
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