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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 私達はそれぞれ席に着いて、鏑木夫人を迎えた。

「今日はみなさん、参加してくださってありがとう!今回のプランは私達のホテルが今一番自信を持ってお薦めしているプランですのよ」

 そう言って鏑木夫人が華やかな笑顔で参加者に挨拶をした。舞浜さんはしっかり鏑木夫人の目につく席に座っている。あんたこそ目的バレバレじゃん。
 デトックスプランについて、スタッフの人が一通りの説明をしてくれた。なにも食べられなかった断食と違って今回はマクロビ食を食べるという以外は、前回と似た過ごしかただった。要するにエステを受けたりジムなどで体を動かして優雅に過ごすということだ。
 こんなことのために夏期講習を休みたくはなかったけど、お母様の命令には逆らえない。空き時間は宿題でもやっていよう。
 プランの説明が終わり、各自いったん自由時間になると、さっそく鏑木夫人のそばに舞浜さんが寄って行った。アピールタイムか。
 私はお母様がお友達らしきマダム達と談笑していたので、耀美さんとおしゃべりをした。

「また麗華様と一緒で嬉しいわ。年の近い子がいると安心だもの」
「私もですわ。今回はお食事が出るから去年よりは楽そうですわね」
「ふふっ」

 私達が和やかに話していると、鏑木夫人が舞浜さんを伴ってやってきた。

「麗華さん!それに耀美さんも、よくいらしてくれたわね!今日は会えるのを楽しみにしていたのよ。特に麗華さんはパーティーにもなかなか顔を出してくれないから寂しくて」
「ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたします」
「お久しぶりです、鏑木様」

 私と輝美さんは立ち上がり、揃って挨拶をした。

「麗華さん、学院生活はどう?うちの雅哉はなんにも話してくれないのよ。だからぜひ麗華さんに瑞鸞の話を聞かせてもらいたいわ」
「まぁ…。私ではたいした話もできないと思いますが…。雅哉様は試験でも常にトップの成績で、毎日お友達と充実した生活を送っているようですわ」
「そう?あの子愛想のない子でしょう?麗華さんに迷惑をかけているんじゃないかしら?粗暴な振る舞いでもしたら、すぐに私におっしゃってね」
「粗暴な振る舞いだなんて、とんでもありませんわ。雅哉様は雨の日にはサロンでショパンを奏でられるようなかたですから…」
「まぁ!あの子ったらそんなことをしているの?!」

 鏑木夫人は楽しげに笑った。その隣では自分の知らない瑞鸞での鏑木の話を知っている私に、舞浜さんが敵意のこもった目を向けていた。はいはい。
 そこへスタッフの人が鏑木夫人を呼びに来た。

「今日は私も食事には参加するのよ。その時にまたお話をしたいわ」
「はい。楽しみにしています」

 鏑木夫人が去ると、舞浜さんも「雅哉様のお母様にちょっと気に入られたからって、調子に乗らないでよね!」という捨て台詞を吐いて去って行った。
 耀美さんは舞浜さんの様子に少し怯えていた。

「…あの、麗華さん大丈夫?ずいぶん睨まれていたけれど…」
「私は全然平気ですわ。なんだか一方的にライバル視されていますの」

 耀美さんは「そうなの…、大変ね…」と同情した目をしてくれたけど、たまに会ってぎゃあぎゃあ言われるくらい、どうってことない。これが同じ学校だったら話は別だけどね。
 お母様が部屋に戻るというので、耀美さんとまたあとで話す約束をしていったん別れた。
 夕食までは各自自由に体を動かしたり散歩をしたりするように言われていたので、私はジムに行ってみた。マシンでストイックに鍛えるというのは私の性に合わないのであまりやらないんだけど、今日はエアロバイクに挑戦してみようかな。
 私がエアロバイクに近づくと、そこへちょうど舞浜さんもやってきた。えっ、舞浜さんもやるの?向こうも私に気づき眉をひそめた。
 まぁ関係ないやと思い、インストラクターの指示に従って負荷をかけバイクを漕ぎ出した。おっ、なんか楽しい。
 すると隣の舞浜さんが私よりも早く漕ぎ出した。ちらっとこちらを向いて勝ち誇ったような顔をする。ムカッ。
 私は舞浜さんよりさらにスピードを上げた。楽勝楽勝!しかし舞浜さんもさらにスピードを上げる。ムムムッ!負けるか!私達は競輪選手の如く漕ぎまくった。
 頭の中で三原監督の声が聞こえる。「自分に負けるな!」はいっ監督!「君なら出来る!」はいっ監督!
 私達はグングン漕いだ。インストラクターの制止の声を無視し、一心不乱に漕ぎまくった。うりゃああああっっっ!
 なのに突然舞浜さんが漕ぐのをやめてバイクを降りてしまった。えっ。

「麗華さんたらなにムキになってるの?髪振り乱しちゃって見苦し~い。勝手に競争心燃やしてきて、相手にしてらんないわ」

 はあっ?!先に挑発してきたのはそっちじゃないか!汗だくになって漕いでいたくせに!監督!こいつ、自分が負けそうだからって逃げましたよ!

「息あがっちゃってんじゃない。ほーんと必死」

 強気で私を嘲笑っているけど、あんたこそその早い呼吸はなんだ。ここまでブーメランという言葉が似合う女も珍しい。
 インストラクターがおろおろしているので、ここらでお引き取り願おうか。

「舞浜さんこそご無理なさっているんじゃない?目の下にクマが出来ていましてよ。あら?ごめんなさい、私の見間違いでしたわ。クマではなかったみたい。舞浜さん、差し出がましいようですけどマスカラはウォータープルーフになさったほうがよろしいんじゃないかしらぁ?」
「えっ!」

 舞浜さんは私の指摘に慌てて柱の鏡で顔を確認し、そのままジムから逃げて行った。ほーーっほっほっほっほっ。高校生のくせにマスカラなんぞに頼るからだ、愚か者めが。さぁ、インストラクターさん、次のマシンに案内してくださいな!
 夕食時、舞浜さんはマスカラを落とし、つけまつげで現れた。なるほど、舞浜さんの弱点は目だな。
 あまりしつこく絡んできたら、あのつけまつげをひっぺがしてやろう。私は舞浜さんに向けて、自分の天然の長いまつげをバッサバッサと見せつけてやった。どうだ、羨ましかろう。


 夕食の前にマクロビオティックについての講義。食べてはいけないものが多くて、厳密に実践するには白米LOVEの私には難しすぎる。私は白いごはんが大好きだ。自分の部屋に炊飯器を買っちゃおうか悩むくらい好きだ。あぁ、アツアツごはんに山形名物のだしをたっぷり乗せて食べたい…。お漬物最高。
 マダム達は感心したように話を聞いているけど、上流階級には美食家が多い。とてもじゃないけどマクロビに転向はムリだろう。しかし意外なことに、あのおとなしい耀美さんが質問をしたりして熱心に聞き入っていた。
 そのあとは場所を移動してマクロビ食による晩餐会。中等科の修学旅行で出たベジタリアンのランチみたいなのが出てくるのかなと思いきや、とってもおいしかった。さすが鏑木系列のホテル。ヘタなものは出さないよね。マダム達も舌鼓を打っていた。
 断食プランの時のようにドリンクだけのメニューではないので、みんなの会話も弾む。私もおいしいですわねなどと適当に話を合わせていた。
 耀美さんはひとつひとつの料理を味わって食べながら、時々先生に料理についての質問をしているようだった。耀美さん、マクロビに興味あるんだー。
 食事が終わってもノートとペンを片手に、あれこれと先生に質問する耀美さんの姿に、プランを企画した鏑木夫人が満足そうに話に加わっていた。

「耀美さん」

 話が終わったようなので、私は耀美さんに声を掛けてみた。

「あっ、麗華さん。どうしたの?」
「ずいぶん熱心に聞いていらっしゃいましたわね。マクロビに興味がおありなんですか?」
「ええ。とても興味深いお話を聞かせていただけたわ。私、今日来て良かった」

 へー。去年は隠れてお菓子を食べていたくらいやる気がなかったのに。えらい違いだな。

「耀美さん、よかったらお茶でもいかがですか?私にもそのお話、聞かせてくださいな」
「私でよければ喜んで」

 私達はホテルのティールームに移動した。

「実は私、お料理をするのが好きなの」
「そうなんですか?」
「ええ。大学の専攻もそちらだし、将来は料理に携わる仕事に就けたらなと思って…」
「まぁ」

 おっとりとした耀美さんが、将来の職についてしっかり考えていることにちょっと驚いてしまった。お嬢様の中には当然のように花嫁修業と称して就職しない人が大勢いるから。

「それは自分でお店を開きたいということですか?」
「ううん。私にそこまでの才覚はないから…。でもいつかお料理教室の先生になれたらなって…」

 耀美さんは恥ずかしそうに笑った。そうなんだー。

「だからいろいろなお料理を学びたいの。マクロビもそのひとつ。今もいくつかのお料理教室に通っているのよ?」
「そうなんですか!」

 耀美さんは世界の調味料やおいしい出汁の取りかたなどの話を楽しそうにしてくれた。ポン酢と醤油のコレクターなんだって。

「これだから私、太っちゃうのね…」
「そんなことありませんわ。私も耀美さんの作ったお料理、ぜひ食べてみたいですわ」
「本当?でもまだまだなのよ?」

 今回は耀美さんという会話が弾む話し相手がいるから楽しく過ごせそうだ。耀美さんともっと早く打ち解けていたら、去年ももっと楽しかったのになー。でも断食中に料理の話なんで拷問か。



 部屋に帰ると梅若君からのメールが届いていた。“今日は夏期講習を休んでたので皆が寂しがってたよ。ベアトリーチェもだいぶ理想体型に戻ってきたので、来週会う予定を決めようね”という文と、梅若君の頬にキスをするベアトリーチェの画像が添付されていた。
 ベアトリーチェに負けないよう、私も頑張らねば。


 翌朝の散歩とヨガでは私はマダム達に囲まれ、鏑木のことを聞かれた。確か去年もあったな~。おば様達は若い子の話が大好物だ。

「麗華さん、雅哉さんとはお親しいの?」
「いえ、それほどでは」
「あら、噂は聞いていましてよ?麗華さんは雅哉さんと仲がいいって」
「素敵よね~、雅哉さん。私がもう少し若かったら」
「やだわ、奥様ったら。でも私も」
「ね~ぇ!うふふ、私達、雅哉様のファンなの」
「麗華さんもそう思うでしょう?」

 おば様達は朝から元気だ。
「麗華さんと雅哉さんだったらお似合いね」などという戯言に嫉妬したのか、舞浜さんが私の足を引っ掛けようとしたので、無言で踏んでおいた。悪役小物の発想は瑞鸞も百合宮も同じだな。
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