挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
116/289

116

 市之倉さんから次のお食事のお誘いをもらった。そして今回は麻央ちゃんも一緒だ。
 前回のお食事会の時に、市之倉さんから麻央ちゃんの話を聞いた。実は麻央ちゃんには最近、弟が生まれたそうなのだ。
 早蕨家待望の男の子誕生!跡継ぎ誕生!と、祖父母や親戚は大喜びで、麻央ちゃんがその場にいるのに「やっと男児が生まれてくれた」「次も女だったらどうしようかと思った」などと、心無い発言を繰り返したらしい。本人達は無意識で、麻央ちゃんに対する悪意などは全くなかったらしいのだけど、それを聞いた麻央ちゃんは大層傷ついた。その後も周囲の関心は弟ばかりで、麻央ちゃんはすっかり拗ねてしまったのだそうだ。
 市之倉さんは、自分はないがしろにされているとショボンとしている、可愛い小さな姪を可哀想に思っていて、麻央ちゃんの両親も、そんな麻央ちゃんの傷ついた気持ちをずいぶん心配しているらしい。
 なるほどなー。だから麻央ちゃんの誕生日はほぼすべてお母さんの手料理だったのか。早蕨家の奥様があれだけの料理を手作りで用意するって、趣味といえど凄いなと思ったけど、あれは麻央ちゃんに貴女も大事な子供よというお母さんからのメッセージだったんだな。お母さんの手料理を食べる麻央ちゃんは、とっても嬉しそうだったもの。
 でも麻央ちゃんはまだ8歳なのに、そんなつらい思いをしてたんだな…。全然気づかなかった。
 私は前世では妹だけで男兄弟はいなかったし、今の兄妹はお兄様ひとりだけど、女児で残念といったことを言われたことはなかった。もし今の歳でもそんなことを言われたら相当カチンとくると思うけど、麻央ちゃんの歳で言われたら胸が潰れそうなくらいショックだっただろうな。
 市之倉さんは、ほかの親類縁者が跡継ぎの弟第一ではしゃいでいるぶん、せめて自分だけは麻央ちゃんを一番に可愛がってあげたいんだと言った。

「麻央は麗華さんをずいぶん慕っているようなんだ。サマーパーティーで初めて麗華さんと会った後、帰ってきてから楽しかったと嬉しそうにしゃべっていてね。とても素敵なお姉様に会ったんだって教えてくれた。悠理君と一緒に撮った写真をきれいな写真立てに入れてプレゼントしてくれただろう?麻央、大喜びしてたよ。それからも度々、麻央から麗華さんの話が出たよ。優しくしてもらってるって。麻央には弟より自分を可愛がってくれるお姉さんの存在が嬉しかったんだと思う。だから図々しいお願いなんだけど、麻央が憧れて懐いている麗華さんに、麻央を少しでいいからかまってやってもらいたいんだ。あの子が寂しくないように…。麗華さん、お願いします」

 そう言って市之倉さんは頭を下げた。
 私はお姉様と言って慕ってくれる麻央ちゃんが可愛くて大好きだし、市之倉さんにお願いされなくても仲良くしたいと思っていたから、二つ返事で引き受けた。むしろそんなことで頭を下げないで欲しい。そもそも私は市之倉さんに頼まれたから仲良くするんじゃなく、自分の意志で麻央ちゃんと一緒にいたいと思っているんだから。市之倉さんこそ麻央ちゃんの可愛さを見くびっているんじゃないのか?
 そんな感じのことを言ったら、市之倉さんは破顔した。
 その後、では次は麻央ちゃんも一緒に食事に誘おうという話になり、スケジュールが確認できたら連絡する約束をした。市之倉さんからその話を聞いた麻央ちゃんはまた大喜びしていたそうだ。すぐに行きたいとはしゃぐ麻央ちゃんを宥めるのが大変だったとメールがきた。
 麻央ちゃんと市之倉さんと食事かぁ。楽しみだなぁ。





 遠足は、2年生は余興はないそうだ。先生に確認を取り、ディーテにそれを伝えると、あからさまにがっかりされた。なんでディーテは音大付属に行かなかったんだろう…。
 今年の遠足の場所は日光だ。高校生にもなって今更日光?と思ったけど、いいハイキングコースがあるそうだ。瑞鸞はお坊ちゃまお嬢様の集う学校のはずなのに、遠足だけはハードだよなぁ。噂じゃ去年よりずっときついらしいから、今から不安だよ。
 それともうひとつ気になるのは、日光といえば華厳の滝ですが、鏑木的には大丈夫なんでしょうか?迎えに行った円城からお土産のサブレをもらってから、まだ半年も経っていませんが。
 治りかけの傷を抉って再発なんて展開にだけはならないといいけど。面倒くさいから。



 遠足当日は早朝集合だった。眠い…。
 去年の鎌倉より厳しいコースだと聞いて、私は家を出る前にちょっとお高めの栄養ドリンクを飲んできた。効いてくれますように。
 小さい歩幅を心掛けて歩いているけど、やっぱり苦しい。あとどれくらい歩けばいいのかわからない道を歩き続けるのって、凄く疲れる。
 芙由子様達は早々にリタイアしたらしい。うーっ、私もリタイアしたいよ。でもクラス委員としてズルは出来ない!後方組だから遠足ではクラス委員としてはまるで役立たずだけどね!しょうがないから野々瀬さんにゴールした後のクラスの纏めをお願いした。
 流寧ちゃんに「ゆっくり行きましょうね」と励まされ、後方組とダラダラ歩く。後方組はいつも同じ顔ぶれだなぁ。
 ゴールに着くと、案の定ほかの生徒達はすでにお昼を食べ始めていた。ここは団結力を深めるためにも待つものじゃないの~?と僻み根性でいつも思う。
 ぐったりした私達がやっとお弁当に手を付ける頃には、食べ終わっている生徒達もいて、その中には若葉ちゃんもいた。
 若葉ちゃんは近くに咲く花を見たりしながら、のんびり辺りを散策している。元気だなぁ。
 するとそこへ円城がやってきて、若葉ちゃんに話しかけた。えっ!
 なにを話しているのかは聞こえないけれど、若葉ちゃんは円城の言葉に笑って頷いたりしている。いつの間に仲良くなってんだ?!そして円城の近くに鏑木の姿はなかった。
 私がふたりの姿を凝視していたので、周りの子達もそれに気づいてざわめいた。

「円城様と話している子は誰?」
「確か特待生の高道さんという子よ。ほらテストでいつも上位の」
「なんであんなに円城様と親しげなの?!」

 まずい、私が見ていたせいで余計な注目を集めさせてしまった。私がみんなの気を逸らそうとする前に、若葉ちゃんと円城は離れた。…良かった。
 円城のそばには今度蔓花グループNO2が近づいて、それを合図にわらわらと女子が囲んだ。遠ざかる若葉ちゃんの背中を、NO2が睨んでいるのが見えた。


 午後はバスで観光地巡りで、華厳の滝にももちろん行った。
 ここが冬に鏑木が来た滝かぁ…。涼しい通り越して少し寒い。鏑木はこんなところに真冬に来たから風邪を引いたんだ、きっと。
 思わず鏑木の姿を探すと、ヤツは滝の一番近くでひたすら滝壺を一心に見つめていた。あ…、傷が開いたか?
 鏑木の隣にはぴたりと円城が付いていた。そして腕をしっかり掴んでいた。うん、親友思いだね…。
 集合時間の合図がされても、鏑木はなかなか滝から離れようとしなかった。なにかを考え込んでいる。怖い。最後は円城に引き摺られるようにその場を後にしていた。傷心旅行の時もああやって円城に連れ戻されていたんだろうなぁ…。
 バスに戻る時、若葉ちゃんが円城に「これ、薦めてくれてありがとうございました!」とお土産の袋を見せていた。“華厳の滝サブレ”だ。
 隣の鏑木がそのお土産をジッと見ていた。「その土産…」という鏑木の声が聞こえた。円城は「僕は食べていないんだけど、あげた人にはおいしかったと言われたよ」と笑っていた。

 次の観光地で、若葉ちゃんがNO2にわざとぶつかられていた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ