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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 不吉なお雛様を修理に出すと同時に、学年末テストがやってきた。
 数日後に出された結果は、

 1位 円城秀介
 2位 高道若葉
 3位 水崎有馬
  ・
 5位 鏑木雅哉

 だった。
 テスト前ぎりぎりまで死人状態だったくせに、なんで復活してすぐに5位になれるんだ!私なんて万全の体調だったはずなのに、今回もまた入ってない!なんだこれは!お雛様の呪いか?!
 鏑木、円城の取り巻きの女子達は、円城の1位と鏑木復活を喜ぶのかと思いきや、「円城様と水崎君に挟まれているなんてずるい!」と、完全な言いがかりを若葉ちゃんの順位に向けていた。
 鏑木は無表情に順位表を見ていた。
 …あの詩集、引き取ってくれないかな。一応パラパラとめくってみたけど、ここを読めとばかりに、ご丁寧に自分が心に残った箇所に付箋が貼られていた。押し付けがましい…。しかもそれが辛気臭いフレーズばかりだった。鬱陶しい…。鏑木の机にこっそり返しちゃおうかな。それがダメならお焚き上げしてもらおうか。なんかあの詩集に鏑木の厄が詰まっている気がする……。



 3月14日はホワイトデー。いつものグループでランチを食べて雑談をしていたらメールが届いた。
 私はそれを見た瞬間に、大急ぎで校門まで走った。横っ腹が痛くなったのですぐに減速したけど。

「香澄様!友柄先輩!」

 門には香澄様と友柄先輩が手を振って待っていてくれた。

「2週間ぶりだね吉祥院さん」
「ごきげんよう麗華様」
「はい!ごきげんよう、香澄様、友柄先輩」

 友柄先輩の私服!制服姿じゃないと凄く大人っぽく見えます!かっこいいーー!

「ごめんなさいね、お昼休みに呼び出して」
「いいえ、とんでもない!おふたりにお会いできてとても嬉しいですわ!」
「実は今日は吉祥院さんにこれを渡したくて。はい、ホワイトデーのお返し」

 友柄先輩に渡されたのはギモーヴで有名なお店の袋!やった!私はここのギモーヴが大好きなのだ。前世ではマシュマロをおいしいと思ったことがなかったけど、お高いお店のお高いギモーヴは、口に入れると溶けてなくなるのだ。そして果物の味がとってもジューシー。
 しかも渡された袋がちょっと重い。たくさん入っている予感。…嬉しい。

「それからこれも。俺達ふたりから」

 そう言って友柄先輩が差し出したのは、ジュエリーショップの袋。

「えっ!」
「吉祥院さんに似合う物を、ふたりで選んだんだ」
「麗華様、もしよければ使ってくださいね」
「開けて見てもよろしいですか?」

 友柄先輩と香澄様が笑って頷いてくれたので、外で申し訳ないけど中身を開けさせてもらった。
 出てきたのはお花のモチーフのネックレス!その中心には小さなアクアマリンが付いている。可愛い!

「チョコのお返しに、こんなに素敵な物をいただいてしまってよいのですか?」
「もちろん!吉祥院さんは花のイメージだからね。絶対に似合うと思うよ」

 友柄先輩の中で、私のイメージは花!あっ、幻の鼻血が…。

「ありがとうございます。私、一生大切にいたしますわ!」
「一生?嬉しいなー」
「麗華様に喜んでもらえて、私達も嬉しいわ」

 ふふっと笑って口元を覆う香澄様の手に指輪が!

「香澄様、その指輪は」
「えっ、あ、これは千寿からのホワイトデーのプレゼントで…」

 頬を赤らめる香澄様。かーっ!いいねぇ、幸せカップルは!
 でも今の私だって、このネックレスをもらっただけで充分幸せだよ。
 せっかくの休みの日でしかもホワイトデーなのに、わざわざ卒業した高校に出向いてお返しのプレゼントを持ってきてくれたおふたり。本当に嬉しい。
 香澄様と友柄先輩はこれからデートだそうだ。ちぇっ、私はまだ授業が残っているのになー。羨ましい。
 もうすぐお昼休みも終わる時間なので、名残惜しいけどおふたりとはお別れした。大学に行ってもまた会いに来てくれると言ったので、その言葉を信じて待っています。



 思わぬ友柄先輩達との再会に、嬉しくて小躍りしそうになりながら校舎に入ると、なにやら妙な強い視線を感じた。
 プレゼントを両手に抱え込み、あたりをきょろきょろしてみると、少し離れたところに、鏑木が立っていた。
 じーーっと私を見てくる鏑木。え…なに?
 無言でひたすらじーーっと音がするほど見てくる鏑木がちょっと気持ち悪かったので、後ずさりしてみる。

「あの…なにか?」

 じーーーーっ……。
 なんだよ、なにか用かよ。私には心眼スキルはないから、無言で見つめられてもわかんないよ。そして怖いよ。言いたいことがあるなら言ってくれ。
 無言でじーーっと見てくる鏑木。少しずつ後ずさる私。校舎前玄関には運の悪いことに誰もいない。なにこれ……。
 …あれ?よく見ると鏑木の視線が私の持っているプレゼントにいってる?
 もしかして、同じ失恋仲間だと思っていた私が、友柄先輩からホワイトデーのプレゼントをもらったことになにか言いたいことが?裏切り者とか思ってたりして?袋にはジュエリーブランドのロゴ入りだし…。
 あ、それともホワイトデーのお返しの参考にしたいとか?

「鏑木様…、今日はホワイトデー、ですわね?」

 鏑木の目がカッと開いた。
 まずい、地雷だ!こいつ、きっと今年優理絵様からバレンタインもらっていない!もらっていなければ、返すこともできない!
 この視線は失恋仲間の私だけいい思いをしていることに対しての、無言の抗議なのだ!
 やだー!こいつ全然治ってないじゃん!病みが深すぎるよ!近くにいたら私まで病んじゃうよ!
 いやだ!逃げたい!この場を今すぐ逃げ去りたい!
 しょうがない!私は友柄先輩達からいただいたギモーヴの袋を開けた。
 あった。
 袋の中には透明なケースに入った、数種類のギモーヴ。ピンクはフランボワーズ、水色はライム、オレンジはマンゴー、白は桃…。
 私はその中から桃のギモーヴのケースを取り出して、ボーッと突っ立っている鏑木に近づき、その手にぐいっと押し付けた。
 そしてそのままダッシュ!
 古来より、桃には魔除けの効果があるという。古事記によるとイザナギが黄泉の国から逃げる時に、追いかけてくる鬼に桃を投げつけて祓ったそうだ。
 この廊下は黄泉比良坂なのだ!振り返ってはいけない!現世に無事戻るためには振り返ってはいけないのだ!
 成仏しろよ、鏑木!



 今日は中等科の卒業式だ。可愛くない従妹の卒業のお祝いに、私はロリーポップの花束と、特別大サービスでお兄様を用意した。
 お兄様は仕事で忙しかったのだけど、拝み倒して抜け出してきてもらったのだ。璃々奈よ、この慈悲深い私に感謝するがよい。
 花束はお兄様に持ってもらった。

「麗華が自分で渡せばいいのに」
「いいのですわ。璃々奈はお兄様に祝ってもらいたいのですから」

 璃々奈達が出てきた。璃々奈はお兄様を目敏く見つけると、友達を置いて一目散に走ってきた。

「貴兄様!来てくださったのね!」
「卒業おめでとう、璃々奈」
「これ百合の花!璃々奈の花ね!ありがとう貴兄様!」

 お兄様から花束を受け取って、璃々奈はとても嬉しそうな顔をした。ま、今日くらいはお兄様を貸してあげるわよ。
 私はそれより少し小さいブーケを、お祝いの言葉とともに璃々奈の友達に配った。少し多めに用意しておいたので余裕で足りそうで良かった。

「ありがとうございます!」
「麗華先輩からお花をいただけるなんて!」
「ありがとうございます麗華先輩」

 口々にお礼を言ってくれる後輩ちゃん達。麗華様ではなく、麗華先輩って呼んでと頼んだのは私だけど、うふふやっぱりいいな先輩って響き。慕われてる感じがするじゃない?

「いつも璃々奈みたいな我がままな子と仲良くしてくれてどうもありがとう。大変でしょう?子供だから」
「ちょっと!なに言ってるのよ!」

 私達の話が聞こえたのか、璃々奈が噛みついてきた。あーうるさいうるさい。

「璃々奈ったら卒業式だというのに騒々しくってよ」
「貴女のせいでしょ!」
「はぁ、うるさい。これだから子供は」
「なんですって!」
「ふたりとも、せっかくの卒業式なんだから」
「だって貴兄様!」

 璃々奈がお兄様の袖を引っ張って私が悪いと主張する。

「だいたい麗華さんはなにしに来たのよ。おめでとうの一言もないんだから」
「あら忘れてたわ。卒業おめでとう、璃々奈」
「遅いのよ」

 ほーんと可愛くない。
 お兄様が時計を確認した。忙しい合間を縫ってきてもらったから、もうタイムリミットか。

「ごめん璃々奈。僕はそろそろ仕事に戻らなきゃ」
「え~っ」
「璃々奈のおじ様とおば様にはさっき挨拶したから、このまま帰らせてもらうね」
「…はぁ~い。残念だけどお仕事なら仕方ないわ。今日は来てくれてありがとう、貴兄様」
「うん。卒業おめでとう」
「私もお兄様と一緒に帰りますわ。ではみなさん卒業おめでとう。これで失礼いたしますわね、ごきげんよう」

 私がみんなに手を振ってそのまま帰ろうとしたら、花束に顔を埋めた璃々奈に「麗華さん」と引き止められた。

「…………この花、ありがとう」

 ふん。

「マドンナリリーなんて10年早いわ、図々しい。璃々奈にはロリーポップがお似合いよ」
「うるさい!」

 可愛げのない従妹の相手は疲れるので、私はお兄様とさっさとその場を後にした。

「全く、ふたりしてなにをやっているんだか」
「やだわお兄様、私と璃々奈を一緒にしないでくださいな」

 あー、子供の相手をしたらおなかが空いちゃった。お兄様がこのまま会社に戻るなら、お昼ご飯はどうしようかしら。家に帰るのもいいけど、なにか食べて帰ってもいいわね。あ、長崎ちゃんぽん食べたい。

 そこへひとりの男子生徒が飛びだしてきた。

「おい!」

 アホウドリの桂木少年だった。

「お久しぶりね、桂木君。ごきげんいかが?」
「お前!この前のわかったぞ!うそだな!」

 この前の?なんのことだ?うそ?

「あんな暗号、すぐに解けたぞ!それに血塗れの兵士なんて来なかったぞ!」

 あぁ!あれか。この様子だと相当苦戦したな。それに血塗れの兵士は来なかったって、当たり前じゃないか。あれ?もしかしてその日のうちに解けなくて、兵士が来るのを怯えてた?

「それは運が良かったですわね。では私達はお先に」
「それだけかよ!」
「あら、もうひとつの話もお聞きになりたい?」

 桂木が体を逸らして逃げ腰の姿勢になったので、私はお兄様を促してそのまま駐車場に歩いた。
 後ろでアホウドリがガアガア鳴いている。のどかだわ~。もうすぐ春ね~。

「麗華、彼はいいの?」
「ええ。なんだか私の周りにはおバカさんが多くて…」
「それはきっと…」

 お兄様は困った笑顔で私の頭を撫でた。


 早く春休みにならないかな~。
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