挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマークする場合はログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

超短編ホラー

超短編ホラー13「生える山」

作者:青木森羅

 私の家は、県庁所在地から遥か離れた山奥にある。
 学生生活も終わり、就職をどうしようかと考えていた所に父方の実家に住む祖母から父に連絡があった。

「お父さんが脳梗塞で倒れた」

 祖父は父とあまり仲が良いとはいえない状態だったとはいえ、倒れたけど知らぬ存ぜぬを通す程悪い訳ではなかった。

「仕事、どうするの?」

「辞める、って訳にもいかんしねぇ。困ったわぁ」

 祖父は自営業をしていて、小さい頃は父の帰省について行った時は、その様子を見ていたりもした。
 祖父は父には厳しかったが、私にはどちらかと言うと甘い方だった。初孫だったというのもあるのだろう。

「お父さん、麻痺とかはあまりないみたいなんだけど、やっぱり力仕事はしちゃいけないって、お医者さんが」

「けど、俺がそっちに行くって訳にも行かないしな……」

 父が、私の方を見ていた。

「なあ? 行ってみる気、ないか?」

 そんなこんなで、私は今この村にいる。
 初めは、しばらくの間だけ、という話だったはずなのだが、いつの間にか五年程の歳月が経っていた。
 誰か人を招いて後継者に、というのが祖父母と父の思惑だったみたいだが、私みたいな変わり者なんてのは、そうそう現れる訳もなかった。

「どうだ、調子は?」

「おじいちゃん」

 最近ではめっきり仕事に口を挟まなくなってきた祖父だが、始めたばかりの時は「そうじゃない」「ああじゃない」と、色々な指導を受けたものだった。

「うーん、そこそこかな」

「そうか。なら、気をつけてな」

「分かったよ。おじいちゃんも帰り道、気をつけてね」

 祖父は、片手を振りながら去っていく。
 病気の影響はあまりないが、仕事を辞めたからか筋力が衰えはじめている祖父を、どうすればいいのかというのが最近の祖母と共通の悩みだ。

「さて、続きをやるか」

 この村は県の南部にあり、山に囲まれたような地形になっている。夏は暑いのがネックだけど、冬は山だというのに雪の量が少ない事が有難かった。今の時期だと、少し動いただけで汗ばんで来るが、山間やまあいを抜ける涼しい風のおかげで、前住んでいた場所よりも清々しい汗をかけて、気持ちが良かった。

「さてと、よっこい、せっ! っと」

 私の仕事場である場所は、我が家が代々受け継いできた持ち山、その比較的傾斜の緩い場所で作業している。
 夏は山菜、秋にはキノコ。他人の手がほとんど入らないこの山で育った物はなかなかの美味で、これを売るだけでもしれなりの生計は立てられるのだが、本業ではなく、あくまで副業だ。

「うまく、抜けないな……!」

 土の中で引っかかってるのだろう、意外とこういう事は多い。左右に軽く振る、土が混ぜられ緩くなりスポッと綺麗に抜ける。
 この感覚が、なかなかに気持ちがよかった。

「さて、次!」

 軽く腰を下ろす、背面から自分の手を両腕に引っかけるように通し、抱え込む。腰に負担をかけないようにゆっくりと引き上げる、胸位まで隠れていた姿が、腹部の辺りまで抜け出てくる。
 ここまで来たら引き抜く方法を変えなければいけなかった。
 体勢を直し中腰になる、腹部に腕を回して持ち上げる。祖父曰く、この姿はジャーマンスープレックスとかっていう、プロレスの技に似ている体勢らしい。

「よいしょ~!」

 今度は腕が引っかかる事もなく、すんなり抜けた。
 その体を、放り投げて捨てておく。 こうして放置して置かないと、また生えてきてしまうんだそうだ。

「さて、次は……あっ」

 山に生える人間の大半は口を閉じ、俯いた状態でいるのだけど、時たまこういうのが生えている。

「アー」

 首を90度に曲げ、空を見つめるようにして唸っている。
 この状態の人間を迂闊に抜くと、良くない事が起こると祖父から伝え聞いていた。

「えっと、新聞紙は?」

 途中に置いてきた籠の中を漁る。道中で拾った山菜の奥にある、新聞紙と水の入ったペットボトルを取り出す。

「アー」

 口の部分に、新聞紙を丸めて詰め込む。

「ヴー」

 そこにペットボトルの水をかける、この時に体を触れたりすると噛まれるそうだ。

「ヴ……ヴ……」

「これで……よし」

 二日位このままにしておくと、毒が抜けてクタッとなり、抜きやすくなる。
 この仕事を初めて、先人の知恵という物がいかに優れているかと身につまされる思いだった。

 ガヤガヤ。

「ん?」

 どこか近くの場所から、人の声のようなものがした。村に繋がる道路辺りのようだ。
 ここは私有地だから入らないようにと注意をしに行く為、籠の紐を肩にかけ足音を立てないように慎重に下っていく。
 たまに山菜泥棒がいるから、人の気配を感じると注意深くなってしまっている。

「な、なんだよ!? これ!?」

 男性の声だ。

「し、死体だ!」

 もうひとり居るみたいだ。

「ほら、噂は本当だったろ!? 人殺し村なんだって!」

 男性達は慌てているのか、声が奇妙に裏返っていた。

「とりあえず、警察! 警察に通報しよう」

「そ、そうだな」

 黄色い服の男性は腰ポケットから、携帯電話を取り出すが手が滑ったのか、落としてしまうのが見えた。

「あの!」

 声が届く範囲まで来たので、少し大声で話しかけた。
 それというのも、彼等はこちら側にある何かに興味が向いていたみたいだからだ。

「ひぃ!」

 青い服の男性は、腰を抜かしたらしく道路に倒れる。
 まったく、ただ人が出てきただけなのに酷い対応をしてくるものだ。

「ここは私有地なので、入ってこられると困るんですよ」

「ア、アァ!」

「ですので、早くここから出て行って頂けると助かります」

「アンタ! そんな事を言ってる場合か!?」

 私は、黄色い服の男性が言っている事の意味が分からず、

「はい?」

 と、聞き返す。

「ここに死体があるのに、何を言ってるだ!?」

 死体? 死体って、人が死んでるって事だよね?
 けど私には、いつものように『生えている』だけにしか見えなかった。

「死体、ですか?」

「ほら、そこにあるだろ!!」

 腰を抜かした青い服の人が指差すが、やはりそこにはいつものように人が『生えている』だけだった。

「いえ、死体なんて無いですよ」

「だから!」

 黄色い服の彼がガードレールを越えて、こちらに向かってくる。

「あ、だからダメですって」

 彼は、私の言葉を無視して、

「これだよ!」

 と、『生えてる人』に触れた。

「あっ!」

 首が90度に折れていた、ふたりに気をとられ過ぎて唸り声に気づけなかった。
 生えている人の、閉じていた目が見開かれてる。 白く濁った目は、黄色い服の人をまっすぐに見つめているようだった。

「アー」

 生えてる人の体が震えている、これまでに見た事がない反応だった。

「な、なんだこれ!?」

 黄色い服の彼は逃げるように、後ろの止めていた車に走り出す。倒れていた青い服の人も、何か思い立ったのか立ち上がる。

「アー」

 生えていた人の行動は思ったよりも早く、すぐに黄色い服の人を捕まえた。

「た、助けてくれ!」

 生えていた人が黄色い服の人に覆いかぶさる。
 私は、赤い生えている人に触れるとああなるのかと観察する。

「アー!」

 生えていた人か黄色い服の彼か、どちらのものか分からない声が響くが、こちらからだと何が起こったのか分からないのがもどかしい。

「嫌だ!」

 慌てて車に乗った青い服の人は、車をUターンさせて村から遠ざかっていった。

「アー」

「アー……」

生えていた人がふたつに増えている、一体いつの間に増えたのだろう?

「アー!」

ふたつの生えた人は、青い服の人の車を、全速力の馬のような速さで追って行った。



「あ、昨日の」

 元赤い目の『生えている』人は、下を俯いて生えていた。隣には、90度に首を上げた『生えている』人がふたつあった。
 その顔は、昨日見たあの男性二人に似ている気がした。

 ただ、そんな事よりも。

「今日も元気にお仕事だ!」

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ