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生徒がレビューされる学園に通ってるんだが、俺に★1が200個も付いてる件

作者:瀬戸メグル
何年か前、新人賞に出したやつを短編用にリメイクしてみました
設定に多少無理があるのですが、そこはコメディということで!
吉永 広也さんに対する
最も信用度の高いレビュー

投稿 名倉 勇馬
一言 なぜか説教されました
評価 ★☆☆☆☆
内容
本日の昼休み。僕が購買部で焼きそばパンを買おうとしたら、それは自分達のだと怒鳴られました。ネクタイから一年生なのはわかったので、その場は譲りましたが、あれはないんじゃないかなあ。みんなどう思う?

信用する 317  信用しない 45

  ◇ ◆ ◇

 俺の通う星臥良選高校は、普通ではあり得ない生徒評価制度を導入している。
 通販サイトなどにある、商品を評価するレビューシステム――あれを生徒一人一人にも適用してしまったのだ。
 生徒を物扱いするようなこれには世間から批判が集まったが、この高校は学業や芸術、スポーツ面で優秀な生徒を排出し続け、結果で周囲を黙らせてきた。

 かくゆう俺も、この星臥に憧れ、死ぬ気で勉強して奇跡的に入学したクチだ。
 でも、浮かれ過ぎてたせいかな……。
 俺は入学して早々、盛大にやらかした。昼休みの購買部で、正義感たっぷりにとある学生を説教しまったのだ。
 友達が狙ってたラスト一個の焼きそばパンを横取りした生徒の手を掴み、こう言った。

「いくら先輩だからって、横入りして奪うのはダメじゃないですか? ちゃんとルールに従ってください」

 今の俺、カッコいい。そんな風に自分に酔っていたわけだが、すぐに最悪な事をしでかしたと気がつく。
 彼は、この学校でも相当な人気者だったのだ。
 その日以来、俺の人生は下降線を辿る一方で、上昇傾向は悲しいほどに見受けられない。
 つーか、助けた友達も俺から離れていったし。そりゃまあ、俺の個人データを見りゃ当たり前か。つるんでるだけで避けられるレベル。

個人データ
吉永 広也(二年生)
レビュー(200件のレビュー有)
能力値
信用度

 この学校が運営するサイトにアクセスすると自分だけじゃなく全校生徒の詳細データが確認できる。
 一見、俺はすごい人気者に思える。
 二百もレビューもらえる人なんて、あんまりいないから。
 でもそこをクリックしてみれば……事実はまるで違うとわかる。以下、俺のレビューの幾つかだ。

投稿 匿名
一言 自分に酔ったキモ野郎
評価 ★☆☆☆☆
内容
人に説教するのが大好きの新入生。焼きそばパンが自分達のものだと威張り散らす人間のクズ。一年の癖に謙虚の欠片もない。
人として最悪で、人格が終わってます。

信用する 179  信用しない 6

投稿 匿名
一言 人気者に嫉妬して怒鳴り散らすゴミ
評価 ★☆☆☆☆
内容
人気者のNさんに対し、公然と説教をかました愚者。焼きそばパンは明らかにNさんのものなのに、自分たちのだと主張する傲慢さに、その場にいた人々は呆れていました。
信用できない人物です

信用する 190  信用しない 14

投稿 匿名
一言 説教からの~ドヤ顔
評価 ★☆☆☆☆
内容
もう他の方が説明しているので詳細は避けます。ただ私が一言述べたいのは、説教し終わった後のドヤ顔がキモかったということです。その場の人全員がポカーンとしていましたねw

信用する 138  信用しない 15

投稿 匿名
一言 うんこ
評価 ★☆☆☆☆
内容
吉永広也は、うんこの生まれ変わり
以上

信用する 218  信用しない 54

 二年生になって早々、自分のデータを調べたのがアホだった……。
 相変わらず酷すぎる。
 しかしこの評価は、意外にも現実を反映していないかったりするから不思議だ。

 俺は学校では、誰にでも嫌われているわけじゃない。
 そもそも顔だって知らない生徒の方が多いはず。
 避けられるのは、俺のこの評価を確認されてからの話だ。もちろん、俺はあれからヘイトを買う振る舞いはしていない。
 ならば、なぜ俺の悪評は広まり続けるのか?
 それがこのレビューシステムの大きな欠点である。

 信用する、信用しない、ボタン。
 これは他者がレビューを見て押すものだ。
 これがネックなのだ。
 『信用する』を集めれば集めるほど、個人データの『信用度』が上がるという仕組み。

 つまり信用されるレビューを書けば書くほど、人格者のごときデータになると。例え匿名で投稿しようと、管理してる学校側にはわかるので個人データに反映される。

 逆に投稿レビューに対し『信用しない』の数が多いと、信用度が下がっていく。
 評価は相対的なものになるので、一切レビューを書かなければ、自爆するやつが余程多くない限り信用度は下がっていく。
 だから、みんな必死にレビューを書く。
 でも適当なことは書けない。なぜなら『信用しない』ボタンを押されまくると自分の評価が下がるから。これが自爆だ。

 ところが――、実は適当なことを書いても大きく信用度を上げる方法がある。
 一つ、人気者の生徒に絶賛レビューをつける。ファンが多い人ほど有効だ。
 ファンが絶賛レビューに共感するから。

 そしてもう一つ。
 嫌われ者をこき下ろすレビューをつけること。こちらも同じくらい有効。
 アンチが多いと、それだけ『信用する』を稼げる。少なくとも『信用しない』を上回ることはないだろう。つまり、最終的にプラスになりやすい。

 実際、あの日俺につけられたレビューは数十件。あれは俺への攻撃で間違いない。
 しかしそれ以降の百件以上は、おそらく『信用する』ボタン欲しさのものだ。

 このように――
 結論を述べれば、この星臥良選高校は人気者はより人気になっていき、嫌われ者はより嫌われていくということ。
 それは半分虚像のようなものだが、人の認識能力は二十一世紀になっても大した進歩はないんだ、きっと――

 ――なんて負け惜しみを言ったところで、俺が★1なのは変わらない。
 この現実に苦しみながら、俺は今日も学校生活を送っている。

  ◇ ◆ ◇

 春の息吹が聞こえてくる四月。
 新しいクラスになった俺は心機一転して、生活を始めることにした。
 まず新クラスに入ると、隣の男子に挨拶した。彼は気さくなやつで、快く応じてくれた。話すうちにお互い趣味が同じだと気づく。
 俺はネット小説を投稿しているのだが、彼もまたそうだったのだ。
 彼はファンタジー、俺は学園もので頑張っている。

「吉永君すごくね!? ブクマ六千件もあるじゃん」
「そうでもないよ。たまたま運が良かっただけだって」
「やーやーやー、凄いっしょ! このサイトってチートファンタジーか悪役令嬢しかほとんど受けないからね? まともな学園ものでこれは凄いっしょ。俺なんてファンタジーなのにブクマ二件なんですけど!」

 こんな感じで俺たちはすぐに打ち解けた。

「吉永君のこと師匠って呼ぶね。ブクマの取り方教えてください!」
「や、俺なんかで良かったら、何でも教えるよ」
「やった、これからよろしくね」
「こちらこそ」

 彼とは上手くやっていける気がしていた。
 でも幾許かの不安は拭うことはできなかった。
 そしてそれは的中した。
 昼休み、彼はあからさまに俺を避けるようになった。

「あの、一緒に昼飯……」
「ご、ごめん。友達と食べるから……」

 目すら合わせてくれない。原因は判然としていた。見たのだ。俺の悪評の数々を。
 ハア……一年の時からずっとこれだよ。
 最初は俺と仲良くしてくれても個人データを確認すると誰もが去って行く。当然か。
 嫌われ者とつるめば、自分も貶される確率が跳ね上がる。
 結局俺は、また孤独メシを食べる日常となった。

  ◇ ◆ ◇

 放課後、俺を呼び止めたのは担任の教師だった。
 彼女は大学を卒業したばかりの若い先生で、俺の寂しい生活を気遣ってくれた。

「こんな言い方失礼かもしれないけど……同じ評価くらいの人と付き合ってみるのはどうかな?」

 つまり、嫌われ者同士でつるめばいいのではという話。盲点だった。そして一理あるように感じた。お互い★1に溢れているのなら、デメリットは打ち消える。

「ありがとうございます。考えてみます」

 俺は先生に感謝すると、すぐにクラスのデータをリサーチする。
 すぐに衝撃の事実が発覚した。なんと、俺と同じレベルで酷評されてる生徒が二人もいるじゃないか!

 男子と女子だったので、俺はまず男子のレビューを丹念に調べた。
 名前は寺島洋平君だ。

投稿 匿名
一言 king of 陰キャ
評価 ★☆☆☆☆
内容
さいてー、マジさいてー
こいつ階段の下に立ってパンツ覗いてた
スズメバチに刺されろ

信用する 299  信用しない0

投稿 匿名
一言 本当にウザイ
評価 ★☆☆☆☆
内容
人の弱点見つけてそこ突いてくる。ぼっちだし友達いないのも納得。こんなのと友達になりたいやつがいるわきゃない。

信用する 139  信用しない 2

 少し覗いただけでお腹いっぱいになる。
 レビュー見てると、俺も関わりたくなるから困るなぁ。
 けど、もしかしたら俺みたいな状況な可能性もある。
 自分が評価で判断されて嫌なのに、人をそれで判断するのは如何なものか?

 寺島君はまだ席に残っている。ヘッドフォンで音楽を聴いているみたいだ。
 見た目は少し太ってて髪の毛がうねっており、若干だけどそばかすがある。
 俺は緊張しながら、彼の近くにいく。

「あの寺島君、ちょっといいかな?」
「……何?」

 彼はヘッドフォンを外して応じてくれた。く〜、めちゃくちゃ緊張するんだが〜……。

「何の音楽聴いてるのかなって。急に気になっちゃって」
「ああこれは……」

 彼は意外にも快く応じてくれたんだけど、伝えられたバンド名がわかりません。
 海外のバンドらしい。アニソンメインの俺には全然だ。

「吉永君だっけ。レビュー見たよ。君、オレと同じくらい嫌われてんね」
「あー、バレちゃったか。実はさ、そうなんだよ。寺島君もだいぶ失敗しちゃった感じかい?」
「まーね。嫌われ者同士仲良くやりたい、そういうこと?」

 これは恥ずかしい。完全に狙いがバレバレじゃないか。でもここは嘘をついたら関係性が一気に嘘臭くなる。俺は首肯した。

「いいよ。じゃあさ、お互い趣味とか言ってみないか。オレは見ての通り音楽が好きでさ。家ではギターの速弾きにハマってるんだ」
「かっこいいなー。俺は一応、作家の真似事なんかしてるよ。投稿サイトに小説書いてて」
「へー、詳しく教えてくれよ」

 お互いに、自分の趣味のことを詳しく話し合う。俺も自分の作品を紹介したら、寺島君は興味を持ってくれ、一話もざっと読んでくれた。

「これ面白いじゃん。っていうか、タグにネットラノベ大賞入ってるね。もしかして、賞狙ってる?」
「うん、実は」
「わかったぞ、賞を取って購買部でリセット権利買う気でしょ?」
「寺島君には、何もかもバレバレだなぁ」

 この学園では、購買部で物以外に特殊な権利を購入できる。例えば誰か(自分含む)のレビュー評価を全て0に戻すことのできる権利。
 またレビューをかけるのは月に五人までと決まってるのだが、その上限をあげる権利。
 同じ人間にもう一度レビューを書ける権利。
 などなど。
 ちなみに俺が狙ってるレビュー評価を0にする権利は、同じ人からの書き込みも不可能にする。
 要するに、過去に俺に★を付けた生徒は、リセット後はもう二度と俺を評すことができない。

 じゃあ、どうやってこの権利を買うか?
 外部で活躍するしかない。
 学校外の活動で目に見える成果を残した人物に、この権利が与えられる。例えば、絵のコンクールで入賞する。大きいスポーツの大会で優勝する。小説で賞を取っても、おそらくは認められる。
 だから俺は高校生でありながら、デビューを目指していた。

「ブックマーク、すごいいっぱいあるじゃん。これ受賞いけるんじゃないの?」
「実はさ、最終選考に残ってて、もうそんなにせずに発表なんだ」
「……吉永君って実は凄い人?」
「全然だよ! それに、油断はできないんだ。更新とかサボっちゃうと、マイナス評価になるかもしれない」
「よく見りゃ毎日更新してるじゃん。すっげー。疲れないの?」
「めちゃくちゃ疲れるよ。でも、やっぱり自分のレビューは消したいからさ」
「尊敬するな~。羨ましい」

 そういう寺島君も、実はギターの速弾き大会にチャレンジしてるらしい。

「まあ優勝しても、購入権利もらえるか怪しいけどさ」
「絶対いけるよ。お互い頑張ろう」

 俺がそう口にすると、寺島君は立ち上がってこれからよろしくと肩を叩いてきた。
 それが嬉しくて嬉しくて、俺は久しぶりに学校で本気笑いをした。

  ◇ ◆ ◇

 夜、俺はいつものように自室で小説を書き、それを投稿する。発表まであと一ヶ月ほどだ。
 最終選考までは残れたけど、正直あまり受かる気がしない。
 俺よりもずっとブクマが多い人が何人もいるし、何よりみんな巧みだ。
 俺の作品は、平凡な男子高校生が美少女達にモテるハーレム学園生活もの。
 少し古い作風かもしれない。

 時折感想欄をチェックして、読者が何を期待しているのかを確認する。
 たまに、こういう感想に目がとまる。

『面白いです! 作者さんの書きたいものをこのまま突っ走ってください!』
『作者さんの好きなものが読みたいです! 応援してます!』

 多くの人に読んでもらえる。感想も貰える。評価もしてもらえる。
 これはすごく幸せなことだ――と口にする作者も多い。
 ところが俺は、毎日が苦行だった。
 本当は、嫌々小説を書いている。
 読者はよく俺の心から好きなものを書けという。でもそれじゃ人気は出せない。
 俺の前作が物語っている。
 ピュアな純愛を全力で書いたのだが、何万、何十万文字書いてもブクマは五十件止まり。
 それが欲望的なタイトルにして、適当なハーレムものにしたら六千件。

 好きだから、面白いわけじゃない。そう実感した。
 さらに創作とは衝動であり、情動でもあると俺は思う。けれどそれは長続きすることはない。何らかしらの燃料が必要になる。感想かもしれない。評価かもしれない。お金かもしれない。何も無しに頑張ることはできない。
 俺の場合は――レビューを消す権利が欲しい。これが動機だ。
 これがなきゃ、とっくに小説書くのなんてやめてる。何で心ない感想に耐えてまで、そんなことしなきゃいけないのか。
 このサイトでは、多くの作者が途中で書くのをやめる。仕事で忙しい。書くのに疲れた。そういうこともあるだろう。

 でも一番多いのは、作者が読者を嫌いになったからだ。
 嫌いなやつらのために、娯楽なんて提供したくない。だから作者は書くのをやめる。
 俺だって……賞を取ったら書くのをやめてしまう気がする。

「そうだ、寺島君からレビューきてたりして」

 俺はドキドキしながら、自分のデータを調べる。

レビュー(201件のレビュー有)

「きたーーーっ!」

 俺は雄叫びをあげ、くるくると座っている椅子を回す。
 すぐに新着レビューを確認した。

投稿 匿名
一言 気持ち悪い小説書いてる作者
評価 ★☆☆☆☆
内容
有名な小説投稿サイトで『男友達0のぼっちな俺だが、なぜか女友達は10人もいる』という小説を書いてる作者。
稚拙で欲望丸出しで、何より気持ち悪い。こんなモノを書いてるやつが頭まともなわけない。これで賞なんて狙ってるらしいので噴飯もの。

信用する 0  信用しない 0

 まだ投稿されたばかりのそれに俺はノックアウトされる。
 作品のタイトル名を知るのは二人。隣の席の生徒か、寺島君だ。
 隣の彼とは、賞のタグについての話なんてしなかった。
 非常に悲しいけど、後者だろう……。

 翌日の休み時間、俺は人気のない廊下に寺島君を呼んで、このレビューを見せる。

「書いたの、寺島君だよな?」
「……何で? オレ、そんなことしないよ?」
「俺がタイトル教えたの、君だけだから」

 本当はもう一人いるけど、ここは本音を引き出すためにそう発言した。
 寺島君は口をへの字にして、本音を吐いた。

「そうだよオレだよ。何か悪い?」
「何で、こんなこと書くんだよ。昨日、よろしくって言ったじゃないか!」
「よろしく死ねって言ったんだよ」

 なんだこいつ、意味がわからない……。
 寺島君は俺の胸ぐらを掴みあげ、別人かと思うほど顔を歪ませた。

「オレより評価悪いやつが消えたら、気分良くないだろ。そんなこともわかんないの?」
「……最低だ。お前、レビュー通りの人間だ」
「黙れよ。オレが嫌われ者だと知ってて近寄ってきたお前だって最低だ。オレを馬鹿にしてんのか」
「そんなつもり……」
「感想欄見たよ。チヤホヤしてくれる読者がいていいねー。何が嫌われ者同士だ。ふざけんな」

 寺島君はそう吐き捨てると、俺を睨みつけて去って行く。
 ……そうか、彼の瞳にはそう映ったのか。
 それで、俺に見下されていると感じたんだ。
 今回の失敗は、そういう人の心の機微に俺が疎かったのが原因なんだ。

「何だよ、無理なんじゃねえか、最初から……」

 俺はこの学校で友達を作るのを諦めた。

  ◇ ◆ ◇

「それではこれで終わりです。吉永君、姫山さん、日直お願いしますね」

 帰りのホームルーム、俺は先生に生返事をしてから作業に移る。魂が抜けたみたいに黒板を消し、それからゴミ箱のゴミをまとめる。
 肩くらいまでの黒髪の女子がタタタと小走りしてくる。同じ日直の人だ。
 可愛らしい容姿で、普段なら胸が弾んでもおかしくないのだが、今の俺は一切合切の感情が消えているらしい。
 何も感じない。

「吉永君、手伝うよ」
「大丈夫。問題ない」

 素っ気なく告げ、俺は教室を出て行く。
 校舎裏の焼却炉についてゴミの処理をしていると、背後に気配を感じた。

「……大丈夫って」
「うん、言ったよね。でも、きちゃった」

 どこか申し訳なさそうに笑う彼女に、ようやく色がついた。
 姫山……そうだ、姫山って……。
 俺のクラスには俺と寺島君以外に、もう一人異常な嫌われ者がいた。それが彼女だ。

「せっかく同じ日直だし、少しくらい話したいなーと思って」
「何で、俺なんかと?」
「嫌われ者同士だから――っていうのは嘘で、個人的に興味があるんだー」
「そっか。たださ、少しだけ待ってもらっていいかな。女子に言うことじゃないけど、トイレにいきたくて」
「我慢してたの? いいよ、行ってきなよー」

 すまん、と短く告げて俺は校舎に走り込む。建物内に入ると、俺はトイレ行くフリして階段の近くでスマホを使う。
 姫山さんの評価をチェックするのだ。
 寺島君の時、大失敗したからな。今回は事前にどういう人か、真剣に調べた方がいい。

姫山みのりさんに対する
最も信用度の高いレビュー

投稿 匿名
一言 クソビッチ
評価 ★☆☆☆☆
内容
色んな男と関係を持ってるエロ女。人の彼氏に手を出したり、援交したりしてお金稼いでいる。見た目は可愛いけど中身はサイテーなので男子は気をつけるように。

信用する 205  信用しない 40

 色々調べるが、ほとんどの内容がこれだった。清純そうだったけど、そっち系にはアバウトな人なのか?
 それとも、俺みたいに何か事情があるのだろうか。
 現時点では判断がつかない。

「まずいな、さっぱり参考にならない」

 まともに話せる自信が無い。とはいえ、そろそろ戻らないと怪しまれる。俺は澄まし顔で焼却炉のところまで戻る。

「待たせて悪い」
「全然いいよ。私のレビューはどうだった?」
「ッ!?」

 何でバレてる……? ここからは絶対見えない場所で調べたのに。

「わかり易すぎだよ吉永君。今のはカマかけたってやつ」
「……ビッチなの?」

 そっちがそういうつもりなら、こっちだって攻めていくぜ!
 という心意気だったのだがアホな発言だったと反省する。けど口から出たもんはもう戻らないわけで。
 意外にも、姫山は怒ることなく微笑を保つ。

「どうでしょうね? どう思う?」
「わかんないって。特に女は、見た目じゃ全然わかんない」
「そうなの? でも巧は言ってたじゃん。女がビッチかどうかは直感でわかるって。あれって吉永君の経験談じゃないの?」

 俺は困惑する。巧って誰? まさか俺の小説の主人公の名前だろうか?
 姫山は動揺する俺をさらにどぎまぎさせたいのか、二歩ほど距離を詰めてくる。

「どうも初めまして。いつも『0ぼっち』読ませてもらってる読者です」

 0ぼっち――――

 それは俺の作品の略称だ。
 投稿したてのころ、舞い上がった俺が活動報告で『0ぼっち』と呼んでね! とか書いちゃったのだ。付いたコメントは0。
 黒歴史、消し忘れてたわ……。
 しかし今は、姫山が読者だったことに驚く。そりゃ読者に女子もいるだろうけど、大半は男性なはず。少なくとも俺は彼ら向けに書いてた。

「う、嬉しいんだけど、何で俺が作者だってわかる?」
「それは、レビューをね。昨日、見ちゃって」

 何も不思議じゃない。誰だってクラス替えしたら生徒の評判くらい確認する。
 二百もレビュー付いてるやつがいたら、そりゃクリックするだろう。

「ビックリしたよ〜。私の超お気に入り小説だったから」
「姫山も、ああいうサイト利用するんだな」
「知ってるかもしれないけど、私友達いないんだよね。レビューのおかげ。それで、昼休みとか暇で暇で、そこにたどり着いたの」
「俺と一緒で評判悪いもんな……。しかし俺の作品によくたどり着いたな。もっと人気なのあるだろ」
「ファンタジーはあんまり。こんな学校生活送ってるから、楽しい学園ものが見たいの」

 ドキリと俺の心臓が跳ねる。姫山は表情は笑っているのに、ひどく寂しそうだったから。

「五話でさ、巧が瑞穂を助けるシーンあったでしょ? あそこで、一発でファンになったんだよね~」

 この子は、本物の俺の読者だ。五話では、巧はイジメを受けていた瑞穂というヒロインをわりと格好良く助けるのだ。

 目の前に、自分の読者がいるなんて……しかも同じ学校に――。不思議な感覚に俺は胸が熱くなってくる。

「とにかく私は、イロオトコさんの大ファンなので! そこのとこよろしくっ」
「うわぁぁ、その呼び方はっ、それは」
「なんで? いいペンネームだと思うよ。よっ、色男」
「やめて、くれえ……。それは願望とかじゃないからな、たまたまペンネームが思いつかなくてその時にテレビで……」
「OK、OK! とにかく、更新楽しみにしてるからね」

 彼女は溌剌とした様子で、踵を返す。俺は咄嗟にその背中に手を伸ばしそうになる。
 衝動を抑え、代わりに声をかける。

「姫山! まだ、ビッチの件まだ回答もらってないんだけど」
「秘密」
「ずるいって、それ」
「作家でしょ? 想像にお任せします」

 姫山は悪戯っぽく笑って、建物の中に帰っていく。俺の見立てでは姫山はビッチ……ではない。しかしそれほど奥手とも感じない。ずるい、ずるすぎる。
 想像力働かせたって、わかりっこないっての。

 教室に戻ると、すでに姫山はいなかった。
 帰ったらしい。
 俺も下校しようと席に向かい、机に紙切れが置かれていることに気がつく。

『更新はよ!』

「どんだけ~~~」

 どっかのタレントの物まねが自然と出てしまった。
 やべー、教室に誰もいなくて良かったー。

  ◇ ◆ ◇

 この感覚、いつ以来だろう?
 その日の筆は自分でも驚くほどノッていた。
 小説には書きやすいシーン、書きにくいシーンがあるのだが、そういうのお構いなしにグングン進む。
 あっという間に一話書き上がってしまった。
 いつものような辛さはない。むしろ、心地よい達成感が全身を包む。
 原因は、わかってる。一つしか考えられない。
 明確に、誰かのために書くことは、強いな。
 俺は次話投稿ボタンを押した。
 三十分後、何となく感想欄を覗くと、一件の感想が付いていた。

『更新ありがとー! 今回もおもしろかったー。また明日からよろしく~』

 間違いなく、彼女だ。
 っていうか、これ姫山だったんだ……!
 そのユーザーネームには見覚えがあった。
 いつも嫌な気分にならない感想をくれる人だ。
 何十、何百とある感想には腹が立つものも多い。

 大抵、そういう時は読者も怒っていることが多いが。自分の思い通りにならないからキツい感想を送るのだ。
 でもこの人は、そういう愚痴を吐かない。
 いつも応援してくれていた。
 感動しそうだ。
 小説書いてて良かったなんて感じたの、生まれて初めてかもしれない。

 翌日、俺は普段より早く家を出た。
 まだ早朝で、確実に教室に一番乗りするだろう。なぜか、そうせずにはいられなかった。

「おはよー」
「はっ!?」

 教室に入ると先客がいた。俺の席に座ってる女子がいるのだ。まあ姫山なんだけど。

「まだ六時過ぎなんだけど?」
「多分、早く来るだろうなって気がしてた」
「それで、そっちも早くきたの?」
「昨日の話、すごく良かったよ。それを伝えようと思って」
「マジか……。どんだけ熱心な読者だ。このレベルでされたの、主人公が平凡なのにモテるのはおかしいってダメだし感想もらった時以来かも」
「いたいたーっ。すっごい長文のやつ!」

 姫山も読んでいたらしい。その話でしばらく盛り上がった。
 やっぱ、楽しいわ。みんな姫山みたいな読者だったらいいのに。

「賞、とれるといいね」
「そのために頑張ってるな。でも昨日は楽しかったし、まだ更新頑張れそうだ。賞とってレビュー消す権利とりたい」
「絶対イケるよ。毎日更新だし、あれが落ちたら審査員の感覚を疑うな私は」
「いけると、いいけどな」

 俺は話しながら、姫山の★1レビューのことを考えていた。あれは、何か事情があるな。
 こんな斟酌できる子があのレベルで嫌われるはずがない。
 思慮していたのは俺だけじゃないらしい。姫山は、静かに問う。

「小説書くの、辛い?」

 言葉を失う。なぜ? この流れでそう感じたのか。彼女は続けた。

「さっき、昨日は楽しかった、って言ったでしょ。普段はそうじゃないのかなって。それに、最初の頃は活動報告とかも色々書いてたのに、最近全然書かないし」

 見破られているのかもしれない。
 でも本物の読者を前に、本音を伝えるのは忍びない。

「昨日は急かしちゃったけど、キツいなら無理しなくてもいいと思うよ。筆折る人、いっぱいいるから、無理しないで欲しいなって」
「……」
「それに、もし無理なら折っても私は怒らないよ。ここまで無料で楽しませてもらって、それで十分すぎるよ」

 もし、彼女みたいな読者ばかりなら、俺の好きだった作家さんも筆を折らなかっただろうな……。

「いや、書くよ。俺はちゃんと最後まで書くよ。次のシーンはもう決まってるんだ。巧と瑞穂が焼き肉屋いって肉食いまくる話」
「それいいね! 読みたいっ」
「でも取材が足りなくてなぁ。明日、休日だし誰か付き合って欲しいかも」

 我ながら、下手くそだなーとは感じる。でもしょうがないじゃないか。女の子をデートに誘ったことなんてリアルでは初めてなんだ。
 つか姫山、ニマニマしてるし……。

「ぼっちの巧くんでも、もうちょっとスマートな誘い方するけど」
「じゃ、じゃあ、来ないのかよ」
「いくけどね! おごりでしょ?」
「エッ。オゴリ?」
「エッ、自分から誘っといて?」
「あ、ああいや、そうだよ。オゴリだよ」
「冗談です、ワリカンでいいよ。賞とったらオゴッてもらう」

 という感じで、とんとん拍子に話が進む。
  これは夢か、まやかしか?
 俺の学校生活が楽しいなんて現実とは思えない。

  ◇ ◆ ◇

 週末のこれは、デートと呼んでいいのだろうか?
 休日の昼下がり、俺は隣を歩く姫山を尻目に捉え、そう心中で問う。
 賑やかな通りを肩が触れそうな距離で歩く。これだけでドキドキしてくるあたりに、俺の恋愛力の低さが表れているな。

「ねーねー、今日いく焼き肉店もう決めてるの?」
「一応は。雑誌で見つけたんだ。かなり美味しいらしい」
「そういうとこって混まない?」
「あー……」
「まー取材のためだもんね。私は何時間でも待つよ」

 ニコニコと話してはくれるけど、内心失敗したと俺は反省する。予約制のとこにするべきだったか……。

「とりあえずお腹が空くまで、たくさん楽しもうね」
「ああ、付き合ってもらってるし、なるべくオゴるから」
「そういうのいいよ。私も楽しみにきてるわけだしさー」

 女心がわかってねーなー、みたいに唇をとがらせ姫山はグングン先に行ってしまう。
 なんだよ、少しは花持たせてくれよ……とか言える立場じゃない。財布に大した金額入ってないし……。

 姫山と過ごす時間は、緊張もするけれど大いに楽しむこともできた。
 レジャー施設でスポーツをしてお互い軽くねんざしたり、映画を見てB級にもほどがある金返せーと公然と叫んだり、公園のベンチに座ってたら寄ってきた子犬におしっこかけられたり――。

 夕方の六時頃、姫山は思い切り伸びをした。
「んー楽しかったー。しかしハプニング多かったね」
「そうだな。ただ姫山、これからがメインだぞ?」
「うわ、そうだったね。お腹も減ってるし急ごうよ」

 俺はスマホの地図アプリを使って彼女を焼き肉店に案内する。三十分ほど待ち時間があり、ようやく席に着けた。
 会話に興じながら肉を焼いてると、姫山がこんな話題を出した。

「焼き肉店にいる男女二人組ってカップル率高いんだって。そうじゃなくても、今後そういう関係に発展する可能性高いとか」
「どこ情報?」
「心理学の本に書いてあった」

 信じられるのかね、そういうの。

「姫山は、彼氏とかは……いないんだよな」

 いたら、男と二人きりでデートになんかこない、と俺は考える。

「そうだね。吉永君も彼女いないでしょ」
「いたことない」
「あはは、正直者。……私はどう思う?」
「何とも。慣れてるような気はするし、でも案外それは繕ってるような気も」
「結構鋭いじゃん。でもさ、あのレビュー見てるし、本当は吉永君もそう思ってたりして」

 俺としては、レビューに触れるつもりはなかった。でも彼女の方から話題にするのでは仕方ない。

「もう、気にしないかな。目の前にいる人物の判断くらい、自分でしたい。★5で絶賛されてるから好きになったり、★1で酷評されてるから嫌いになったり。そういうのは、俺はやりたくない」

 同じ人物だって★5にも★1にもなり得る。
 その評価は、他人に影響を受けたものじゃなく、自分の意思で決めるべきだ。
 そりゃ彼女のレビューを読み漁れば、なぜ攻撃対象になったかのヒントはあるだろう。
 いいや、もっとシンプルだ。
 この場で尋ねれば、彼女は事の経緯を話してくれるかもしれない。
 けど。
 必要ない。
 今日一日、俺は楽しかった。
 今、彼女に好感がある。
 それでいいじゃないか。

 他人が勝手に作り上げた姫山と、俺に目に映っている姫山は違う。どちらを信じるかなんて、明白だろう。俺は俺なのだから。

「……吉永君って、やっぱり巧に似てるよね」
「そりゃないだろぉ。ぼっちは一緒だけど、あんなに捻くれてないかと。何より女に全然モテないね」
「難しいんだけど、芯が通ってる……みたいな。うん、やっぱ似てるよーっ」

 自作の主人公に似てるというのは褒め言葉なのだろうか。
 姫山はポジティブな意味でそう話してくれるけど、俺は何とも微妙な気分だよ。
 あのハーレム王に似てるなんてさ。

  ◇ ◆ ◇

 明日、ネット小説の賞の結果が出る。
 受賞者は、事前に連絡がくるとネットで見たことがある。
 俺には、サイトの運営からも賞の開催者側からも、なんのメッセージもきてない。
 ……やっぱり落ちるのか?
 不安を吹っ切るように、俺は執筆した。

 感情が足を引っ張り、なかなかノリ切れない。それでもパソコンの前に座り続ける。
 これを読んだ姫山のことを想像して、キーを打ち込んでいく。
 大多数ではなく、たったの一人のために。

「ふあー、ようやく終わった……。今回は難産すぎた」

 独り言を漏らしつつ、俺は投稿ボタンを押した。
 姫山の感想、今日も来るかなと十分おきに調べてしまう。
 何かの病気かと自己嫌悪に陥りつつ、三度目のチェックで、新しい感想が目に飛び込む。

感想
これまだ書いてたのかよw レベル低いクソハーレムがこんなに評価されてるのが本当わからん
どんだけ現実でモテないんだよ
こんなの書いてて恥ずかしくならないのかね


 当然、姫山のものじゃない。
 読者なのかも怪しい。
 とにかく俺のことが気にくわないのだ。
 俺はまずカーッと頭に血が上り、それから胸のあたりがズンと重くなった。
 よっぽど言い返してやろうとして、止めた。こんな馬鹿の相手、してやる必要はない。黙って削除してブロックに入れる。
 こういう作業、このサイトに来て何度も行った。
 一番、嫌な気分になる時だ。一回二回ならまだしも、十、二十と続くと少しずつ、だが確実に心を蝕んでいく。

 俺はベッドに身を沈ませ、天井をどことはなしに眺める。
 さっきまで感想や賞の結果が気になってたのに、どうでも良くなるから不思議だった。
 たった一通の感想。
 それが存外深く刺さったのかもしれない。

 ……まったく理解できない人種だ。
 俺だってこのサイトで小説を読んでいて、酷い内容だと感じる時はある。
 けどそういう時は黙って、二度と作品を読まなくなるだけだ。
 決して、作者にあんなメールを送ろうなんて考えない。だって、楽しんでる人だっているのだ。なら、彼らからすれば俺の感性の方が間違ってるのかもしれないだろ?

 合わなかった、それだけのこと。
 あんな便所の落書き未満な文章を書く必要がどこにある?

「無料で読んでるくせに、何でこいつはこんなに偉そうなんだよ」

 単に幼稚なだけかもしれない。
 単に常識がないだけかもしれない。
 単に嫉妬しているだけかもしれない。
 単に良心を持たぬ人なのかもしれない。

 奴は読者でも何でもない。
 そう自分に言い聞かせてもダメだ。
 批評家気取りのクソ感想のせいで、俺の意欲は完全に地に堕ちた。

 ――ピリリリリ

 突然の着信音に俺は半身を起こす。
 スマホの画面には、姫山みのりの文字。

「……はい、俺だけど」
『やっほー吉永君元気~?」
「……何だよ、テンション高いな」
『そりゃ彼氏に電話するんだから、高くなきゃおかしくない?』
「はいはい、俺をからかうのはそこまでな」
『本当ひどい話があってさー。ちょっと私の話聞いて!』

 俺は黙って耳を傾ける。家族が姫山の買ってた三百円のアイス三つを勝手に食った、という内容だった。
 初めは暗い気分だったけど、途中から吹き出しそうになる。

「三百円アイスなんて、ある意味下着よりも貴重なんだけどね。あの人らはそれを理解してない。家出したら泊めてくれる?」
「いいけど、うちの家族も勝手に食う派だよ」
『うげー、それは困る。――あ、ところで今回の話も超おもしろかったよ! あと、ついに明日だね』
「……うん」
『きっと大丈夫だよ。0ぼっち、すっごく面白いもん。ちゃんと寝てね。それじゃ……おやすみ』
「ああ、ありがと」

 電話を切る。胸がじんわりと温かい。
 不思議な感覚。また、命が戻った、そう表現すればいいだろうか。
 再びパソコンの前に座り、俺はキーを打ち始めた。

  ◇ ◆ ◇

 とうとう、勝負の日を迎えた。
 結果がウェブに出されるのは昼頃らしい。
 なら緊張するのは昼からにしよう!
 なんて精神コントロールは不可能。
 朝からずっと緊張していた。
 正午ジャストに俺はサイトを見て、受賞作の発表が未更新なのを確認してから本を読む。
 一時間後、また見よう。
 その直後、電話がかかってきた。

「もしもし」
『おめでとーー! コングラッチレーション! お祝い申し上げる!』

 どんだけ祝ってくれてんだよと口元を緩ませつつ、俺はサイトを確認した。
 更新がきてた。
 0ぼっちの名前が、受賞作の中にあった。

「力が、抜けそう」
『死んじゃダメだよ』
「もち、ろん。賞金もらって焼き肉食いにいくまでは……」
『お供するよ』
「今度こそオゴるから」
『期待してる! じゃあまたねー』

 長びかせず姫山は電話を切る。
 俺が喜びを噛みしめるため、気を遣ってくれたのだろう。
 俺は室内で一人、大きいガッツポーズを決める。
 しばらく歓喜の余韻に浸った後、俺はとある決意を固めた。

  ◇ ◆ ◇

 週明け、俺は学校で担任の先生に今回のことを話した。
 この学校は何事にも対応が早い。
 先生が学校側に報告すると、その日の内に確認を取り、俺に権利引換券が渡された。

 放課後、俺は購買部にこの券を渡す。

「必要な物は何ですか?」
「レビューを0にリセットする権利を」
「こちらに記入して、担任教師にお渡しください」

 購買部の人が渡してきた用紙には、対象者の学年と名前を記入する欄があった。
 俺はそこを埋め、職員室に持って行く。
 紙を渡すと、先生は驚いて眉を上げた。

「これで、いいんですか?」
「はい」
「……わかりました。では受理します」
「よろしくお願いします」

 職員室から出て歩いていると、姫山に出くわす。

「いたいた。どこ行ってたの?」
「ちょっと、用紙を提出しにな」
「そっか! レビューのやつだね。おめでとう、これでぼっちじゃなくなるね」

 どこか、からかうように姫山は話す。

「一緒に、帰らないか?」
「いいよ」

 即座に帰ってきた答えに胸を弾ませつつ、俺は平気な顔を装って下校する。
 姫山の話題は、受賞関連ばかりだ。

「もう編集者さんとか決まったの? 書籍ではWebと内容違うの?」
「一応、連絡は来たよ。内容についてはまだ未定だけど、俺は追加エピソードとか入れたいな」
「絶対買う! 三冊買ってお布施するよ」
「素晴らしい読者様に感謝する」

 たわいのない会話がどこまでも続く。頭上に広がる空のように。
 俺は別れ際、彼女に再度礼を述べた。

「本当に、感謝してるよ。筆を折らなかったのは、姫山のおかげだから」
「それじゃ、お返しは更新でお願い。また明日ね!」

 俺は去って行く彼女の背中を見送った。
 自宅に帰るとすぐに、パソコンの前に座る。
 やがて本日の分の投稿を終えると、俺は姫山の個人データを開く。

個人データ
姫山 みのり(二年生)
レビュー(0件のレビュー有)
能力値
信用度

 真っ白な世界に、俺は最初の一つを吹き込む。

投稿 匿名
一言
評価 ★★★★★
内容
姫山さんは、僕が苦しんでいる時にいつも励まし、応援してくれました。
天真爛漫で、楽しくて、恩情に富んだ人です。少し彼女に触れれば、豊かな人間性であると誰でも感じ取ることができます。
人を裏切ることはせず、非常に信頼に足る人物です。みなさんも一度、彼女と接してみればすぐにわかると思います!

 これで良しと。
 少し恥ずかしいけど、俺の本心を表現したレビューだ。後悔はない。
 リビングに下りて夜食をとる。
 部屋に戻ってくるとスマホが全力で鳴っていて焦る。

「はいはい吉永」
『……もしもし」
「姫山? テンション低いな」
『泣いた後だから、低いのかもね……』
「何で、泣いたの?」
『……吉永君がバカすぎて』
「俺かよ!? 何したっけ?」
『わかるでしょ……明日、やり直してもらってよ』
「いいや、やらないよ。あれでいい。俺からのお礼だよ。賞が終わってもまだ書き続けられるのは、どう考えても姫山のおかげだから」

 そう伝えると、姫山はしばらく黙した後、こう言って電話を切った。

『自分のレビューも、見てね』

 彼女に言われた通り、俺はすぐに自分のデータにアクセスしてみる。

レビュー(202件のレビュー有)

 一件増えているので、新着レビューをチェックする。

投稿 姫山みのり
一言 これからもずっと応援します
評価 ★★★★★
内容
虚実と悪意の入り交じるこの世界において、時に平気で誰かを傷つけるレビューが投稿されます。たとえ利己的な人であっても、面白おかしく他人を小馬鹿にする文章が書ければ、星臥良選高校では信用できる人物として判断されます。
私達はみんな、対象相手を何一つ知らずとも、見知ったかのように装って評価することができるのです。

でも私は、それをしたくないです。
このレビューは、自分の目で吉永君を見ての判断になります。
吉永君は高校生とは思えないほど倫理観がしっかりしていて、でも堅苦しいわけじゃなく、ユーモアもあります。
話す内容も楽しい。それに人に安心感を与えてくれますよね。小説を書く才能にも溢れていて、私は吉永君の書く『0ぼっち』がとても大好きです。
これかも一ファンとして、支え続けていけたらいいなと考えてます。

追伸
今後ともよろしくね!
あと更新がんばってね!
最新話の評価↓
★★★★★★★★★★


 胸中に様々な感情がわき上がってくる。
 津波のように押し寄せるそれに俺は震えながら、衝動的にスマホを手に取る。
 ワンコールで、彼女は出た。

『……読んでくれた?』

 その一言に、俺は激情を抑えることはできなかった。

「姫山、俺さ――――」

 何一つ隠さない気持ち。
 俺は余すところなく、全力で伝えきった。
 姫山からは……

 ――これからもずっとよろしく!

 そう返ってきた。

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