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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼が「本体」と呼ばれる理由

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一転攻勢と勝負の行方

 もう残された手はこれしかない!
 トビが離脱を始める前から最悪の事態を想定して詠唱は開始していたので、恐らく間に合うはず……!
 というか間に合ってくれ、間に合わないとここで俺達の大会は終わる!
 ユーミルが焦った様子で叫ぶ。

「ハインドォ!」
「急所判定のある頭を腕で覆って、一歩も動くな! 矢はランダムにばらけるから、動いた方が却って危険だ!」
「他に手は無いのかっ!?」
「無い! 祈れ!」

 杖に取り付けられた宝石が輝きを増す。
 ミツヨシさんが引き絞った赤い矢を天上に放つと――数え切れないほどの矢が直上から降り注いでくる。
 そして最初の矢が着弾する寸前、杖の光が弾け、地面に落ちた。

「ぬああああああっ!!」
「あだだだだだだっ!? いってええええ!」

 視界が明滅する。
 矢のエフェクトは激しく、ドスドスという効果音は耳鳴りがするほど途切れなく耳朶を叩いてくる。
 何度受けても慣れねえ!
 こちらを応援してくれていた観客の何人かが顔を覆っているのが視界の端に入るが、それも無理からぬことだ。
 基本的に今のバランスだと、装備の整った重戦士以外の職はアローレインを受けたら戦闘不能になるのが普通である。

 ――だが、俺達はまだ死んでいなかった。
 どうにか間に合ってくれたか……。
 足元からは柔らかな白い癒しの光が、アローレインとは逆に上に向かって煌々と放たれている。
 この『エリアヒール』の光が、今の俺達の命を辛うじて繋ぎ止めてくれている。
 発動タイミングがギリギリなら消費MPも本当にギリギリだった。
 回復とダメージによって激しくHPが上下しているが、どうにか回復量が上回っているらしい。
 瀕死状態を表す赤いHP表示がチラチラ見える度に、寿命が縮む思いではあるのだが。

「――――、――――! ――――――!!」

 そして俺はアローレインが終わるまでの数秒の間に、ユーミルに向かって早口で指示を出しておく。
 矢の効果音が騒がしく内容が正しく伝わったか不明だが、ユーミルは戦意に燃える瞳でしっかりと頷いた。
 そして『エリアヒール』の効果時間を僅かに残したまま、『アローレイン』が先に終了する。
 次の瞬間――

「やはりかっ!」

 ユーミルが飛来した矢をガントレットで弾き飛ばす。
 この『エリアヒール』は計算外だったはずだが、それでもミツヨシさんは動揺を見せずに追撃を放ってきた。
 さすがに落ち着いている。
 だがそのコンビであるトビは『アローレイン』で俺達が生き残ったことに唖然としている。
 その隙、悪いが見逃せない。

「走れっ!」
「――おおおおおおっ!」

 『エリアヒール』が切れた直後、ユーミルがオーラをスパークさせながら走る。
 今の『アローレイン』による被弾でユーミルのMPは全快、『エリアヒール』による回復でHPは六割。
 そしてそのまま二人の元に辿り着くと、トビではなく――ミツヨシさんに向かって、ユーミルは『スラッシュ』を放った。
 惜しくも躱されるが、表情を歪ませて大きくバックステップを踏んだミツヨシさんをそのまま追い立てていく。
 それに慌ててフォローに入ろうとするトビの横っ面を、ユーミルに続いて肉薄した俺は杖で思い切り殴りつけた。

「――っ!?」

 細身の体が横転するが、転がった勢いを利用して舞台上に手を着いて立ち上がる。
 まるで曲芸師だな……。
 だが、俺はそのまま走られないようにしっかりと進路を塞いで杖を構えた。

「さあ、構えろトビ。俺が相手だ」
「は、ハインド殿っ……!」

 まだ動揺を残しつつも、トビはフォローに走るのを諦めて二刀を構え直した。



 前衛神官を除く神官の物理攻撃力は低い。
 ランク的には魔導士に次いで下から二番目の値だ。とても実戦で使えたもんじゃない。
 しかし同じ様に、軽戦士の物理防御は前衛職の中ではワースト。
 なんと後衛である弓術士に毛が生えた程度の耐久力しかない。
 故に、俺の杖による攻撃でも確実にダメージが通る。
 ただし当たれば、の話ではあるが。

「くっ! 何故、何故躱し切れんのでござるか!? こちらの攻撃は当たらないのに!」
「分からないのか?」

 俺はフルだったトビのHPを六割まで減らしていた。
 別に特殊なスキルを使ったわけでも、突然俺の反応速度が覚醒したわけでもなんでも無い。
 これは……

「あいたぁっ! 脛! すねぇ!」
「これは……単なる先読みだ!」

 だからこの場面では、そこまで優秀な運動神経は必要ない。
 次にどう動くかが分かっていれば、トビがどれだけ速く動こうが瞬間的な反応に任せずに充分に付いて行くことが可能だ。
 後ろから見ていたトビの癖、スキルの選択、回避方向に攻防切り替えのタイミング……それらを思い出しながら杖を振り回す。
 右は牽制、直後に左から掬い上げるように斬り上げ、その二刀を躱しつつ僅かな隙に杖で抉り込むように突く!

「ぬあっ!? ――てか、そういえば剣道の授業で一回も勝てなかったのを忘れてたぁっ! VRゲームなんだから気付けよ俺ぇ!」
「今頃思い出しても遅いわ、たわけが!」

 相手が良く知っているトビだからこそ取れる戦法だ。
 そうでなければ、俺はとっくに戦闘不能になっているだろう。

「……くぅ、ならば仕方なし! 最後の勝負に出るでござるよ!」

 体が光り、トビのHPが一気に目減りする。
 同時に体が二つに別れ、その片方がミツヨシさんを追い詰めつつあるユーミルへ向かって行く。

「馬鹿野郎が……」

 俺は勝利を確信しつつも、トビの行動に一抹の寂しさのようなものを覚えた。
 これでは、自分から負けに行っているようなものだ。
 そしてあいつがこんな死んだ目をして戦っていたことは一度もないので、どれだけ上手く動かそうと目の前に残して行った「コレ」が偽物であることが丸分かりだ。
 俺は攻撃を躱して杖で分身体の腹部を殴りつけると、あっさりと霧散させた。
 それを見届けたトビは悔しそうにこちらをちらりと見たが、頭を振って全力疾走に移行。

「そっちに行ったぞ、ユーミル!」

 直後に本体はユーミルに追いついたが、俺が叫んだことで奇襲は失敗。
 振り向いたユーミルの剣と走り込んで斬りつけたトビの刀が火花を散らす。

「ぬおっ!? 邪魔をするな、トビ!」
「ミツヨシ殿はやらせんでござるよ! まだだ、まだ負けぬっ!」
「トビ君、何故来た!? 戻れ、こっちはいい!」

 俺の残りHPは四割、後衛は被弾・攻撃命中でMPを得られず自然回復しか作用しなかったので、現在のMPもカツカツ。
 トビとの対峙では幸運にも一度も被弾しなかったが、これは冷や汗を掻きながら必死に足止めをしていた結果に過ぎない。
 それほどに神官は殴り合いに不向きだ。

 仮にもっとしつこくトビが攻めてくれば、もしくはスキルを絡めて積極的に潰しにきたら……俺は対応出来ずに簡単に崩れた可能性もあったのだろう。
 一番可能性があったのは、分身を含めた左右からの同時攻撃だろうか?
 そういった飽和攻撃をされたら、俺の場合は間違いなく慌てる自信がある。

 しかし、焦ってそうなるよう仕向けたとはいえトビの判断ミスは致命的だった。
 俺を無視して最初から合流を狙うか、逃げるミツヨシさんを信じてなるべく早く俺を倒すか……どちらかに徹するべきだったと思う。
 中途半端なことをして自分と味方のHPを無駄に減らしたトビに、もう勝ち目はない。
 ノーマークになった俺は必要分だけMPをチャージし、ユーミルに『ヒーリング・プラス』を発動。

「おおっ、HPが! よおおおし、これで終わりだぁ!」
「はっ、やっぱ本体の方……あの時ハインド君を倒し切れなかった時点で、俺達は――がはっ!」
「し、しまった! ミツヨシ殿ぉ!」

 HPに余裕ができたユーミルがトビを強引に突破、ミツヨシさんに『ヘビースラッシュ』で止めを刺した。
 良く持ちこたえたとは思うが、接近戦で弓術士が騎士に勝てる要素は何一つ無い。
 観客が沸き、トビの二刀が力無く舞台の上に取り落とされた。
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