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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼が「本体」と呼ばれる理由

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グループH・決勝

 そしてあっと言う間にグループHの最終戦へ。
 互いにここまで勝ち残った、俺達の対戦相手は……。

「やはり来たか……トビ! 待っていたぞ!」

 舞台の向こうから現れたトビとミツヨシさんに、ユーミルがきりっとした顔で人差し指を突き付ける。
 決勝の相手は軽戦士(回避型)と弓術士(連射型)の、和風装備で統一性のある二人である。

「そっちが一回戦で相手を圧倒した時点で、こうなる気はしていたよ」
「ふふふ……そういうお二人も、暫く会わない内に随分と鍛え上げてきたようでござるな? 拙者、今から胸が高鳴っているでござるよ!」

 対するトビも、悠然とこちらに向かって歩きながら余裕の笑みを見せる。
 ユーミルは手を降ろすと、腕を組んでそれに不敵な笑みで返した。
 しかし俺は、どうにもこの変な空気に耐えられそうもなく……。
 なんだか悪い意味で鳥肌が立ってきたぞ。

「動悸か? 駄目だぞ、ゲームで夜更かしばかりして不摂生しちゃ」
「え? あ、ごめん気を付ける……ってハインド殿!? シリアスな空気が五秒と持たないってどういうことでござるか!? 動悸じゃねえよ! 空気読めよ!」
「――っく、はっはっはっはっはっは!」

 いやだってムズムズするし恥ずかしいじゃん、そういうの。
 やるなら俺を巻き込まないようにやってくれ。
 そう言うと、トビとユーミルは「えー」と不満そうな顔で俺を見てくる。

 ミツヨシさんが俺達の間の抜けたやり取りに大笑いしている。
 ひとしきり笑い終わると、目の端の涙を指で拭ってこう言った。

「……ふー。しかし、ハインド君の言う通りだぞ。試合前のやり取りはリプレイに残らないが、試合中のやり取りは音声含めて下手すると一生ものだ。年取ってから思い出して、後で悶絶しないようにな?」
「否! 我々は敢えて、敢えて黒歴史を作っていく方針であーる! 恥ずかしい演技をして、後から皆で見返して転げ回ろうぞ!」
「ユーミルちゃん、分かっててやってたのか……いやはや、恐れ入るね」

 ミツヨシさんの隣のトビは「えっ、そうなの!? 恥ずかしいのこれ!?」などと叫んでいるが、放っておくとして。
 もう全員揃ってるのに待ち時間が長いな……これなら、まだ雑談する時間がありそうか。
 戦うにあたってミツヨシさんの性格把握もしておきたいので、自分から適当に話題を提供してみる。

「――そういえばミツヨシさんのプレイヤーネームって、どういう経緯で付けたんですか? まさか本名ということはないでしょう?」
「ん? そうだな……トビ君と同じ戦国武将から取ったもので、弓にも関係している人物だ。知る人ぞ知る、という感じだから分からないのが普通だろうけど」
「いやー、ミツヨシ殿。ハインド殿なら、ひょっとしたらひょっとするでござるよ?」

 戦国武将でミツヨシか。
 うーん……ミツヨシ……弓……ときたら、恐らくあの人だろう。
 鉄砲が持てはやされる中、最後まで弓で戦い抜いた長寿の武将。

「うん、大島光義おおしまみつよしでしょう? 違います?」
「――おおおおっ! すごいなハインド君、正解っ!」

 ミツヨシさんは俺の回答に驚いたような顔になった後、興奮気味に俺の背を叩いた。
 しかし、随分と渋い武将から名前持ってきてんなぁ……。

「さすがハインド殿。93歳で関ケ原とか、本当だったらワクワクするエピソードでござるよなー」
「その逸話の真偽は別として、弓でのし上がった人物なのは間違いないからな」
「昔は同じ弓でも、那須与一だとか源為朝だのの派手なのに惹かれたんだがねえ。この歳になると、そういうのよりもパワフル爺の方にどうにも惹かれちまうのさ。自分もそうありたい、ってなもんでね」
「む? しかしミッチーは、まだ若いように見えるのだが?」

 ユーミルによるミッチーという呼び名を気にせずに、ミツヨシさんは「何歳に見える?」と訊き返してくる。
 俺は素直に30くらいと答えた。
 ユーミルも似たような答えだったのだが、ミツヨシさんの口から「詳しくは言わないけど、50は超えてる」という驚くべき言葉が出てきた。
 若作りだなあ……キャラメイクで弄っていないという髪は黒々としているし、顔の皺も少ない。
 体型が細マッチョ風なのも若く見える要因かな? 下っ腹とかも、全然出ていないし。

「ハインドの母親並だな? 若い若い」
「いや、あの人は……モノホンの魔女でござろう? きっとそうに違いない」
「人の母親を化け物みたいに言うなって。バレたらお前、また絞められるぞ?」
「なんだ、三人はリアルでも知り合いなのか。良いねえ、そういうの。俺の学生時代なんて――」

 そのまま雑談が盛り上がった。
 ミツヨシさんは口調こそ崩しているが年齢通りの落ち着きがあって、話していて中々に楽しい人だ。
 この分だと、決闘中の精神的な揺さぶりは通用しないんだろうなあ……。
 観客達の「なに和んでんだこいつら」という視線を浴びつつ、俺達は舞台上でスタートの合図を待った。



 試合開始から数分――。

「せいやっ!」
「はっはっは! 当たらんでござるよー!」
「むがーっ!! うざい、半端じゃなくうざいーっ!」

 素早く動き回るトビに翻弄され、俺達は苦戦していた。
 敵に回るとここまで鬱陶しく、且つ面倒な奴だとは……。
 ユーミルの攻撃は当たらず、トビの二刀によって細かなダメージだけがどんどん蓄積していく。

「――もらった! ……ぬおっ!?」

 ようやく捉えて肩口を斬りつけるも、その姿がブレてダメージが無効になる。

「残念、空蝉でござる」
「ひきょう!」
「卑怯じゃないでござるぅー。忍者の正統な手段でござるぅー」

 小学生の喧嘩みたいな言い合いだ……。
 しかし、本当にあいつ帰宅部か? と疑いたくなるような身軽で華麗な動きだ。
 バク宙で剣を躱す様は、まるで体操選手かそれこそ創作の中の忍者のようですらある。
 そしてそれを見ている俺の方はと言うと、

「――うひぃっ!?」

 魔力をチャージしようとユーミルの真後ろで立ち止まった直後、矢が顔の真横を掠めて飛んで行く。
 ……一瞬でも目を離すとこれである。

 正確な狙いに加え、連射型にしては一射ごとにそれなりに威力が乗っているのが怖い。
 位置を変え、ミツヨシさんから見てユーミルが邪魔になる場所で再度魔力チャージ。
 ユーミルならば多少の矢を受けてもダメージは低いので、こうしてかばってもらいつつ少しずつ魔力をチャージするしかない。
 そのせいで俺達は密集陣形を崩すことが出来ない。
 油断するとトビも俺に突っ掛けてくる距離なので、防御重視の我慢の展開を強いられている。

「ハインドさん、しっかり!」
「ゆ、ユーミルさんも、頑張って!」

 リィズとセレーネさん二人の応援の声が聞こえるが、答える余裕は一切ない。
 始まってからここまでずっと劣勢だ……どうやってこの局面を打開したものか。
 二人の声援に具体性が無いのも、俺達の現状をよく表していると思う。

 ミツヨシさんは明らかに俺の妨害に徹しており、現在のMP量を考えると消費が低い『ヒーリング』をユーミルに送り込むので精一杯だ。
 それと相手の攻撃は物理のみなので、同じく消費の低い『ガードアップ』だけは俺とユーミル双方に使用しておく。
 被弾することでユーミルの方はMPがそれなりの状態になっているのだが、普段は俺の回復を当てにして特攻している面が大きいので今は慎重になっている。
 俺達の戦法は一にも二にも回復ありきなので、この戦況は非常に辛い。
 頼むからMPチャージをさせてくれ! と素直に叫んでしまいたい気分だ。

 しかし二人とも隙が少ない上に判断が早く、紛うことなき強敵だ。
 そんなあちらの狙いは恐らく……

「トビ君、離脱だ! これで決める!」
「フッ、どうやら拙者達の勝ちのようでござるな! さらば!」
「! まずい、ユーミル! トビを捕まえろっ!」
「くっ……!」

 ユーミルの剣は無情にも届かず、トビは俺達から大きく距離を取った。
 フレンドリーファイアの心配が無くなり、ミツヨシさんがつがえた矢を天へと向ける。
 ――『アローレイン』が来る!
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