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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼が「本体」と呼ばれる理由

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戦闘準備完了

「新・装・備! 新・装・備ぃ! うおおおおおおおおおお!」
「ユーミル、うっさい! 周りの迷惑だから静かに!」

 新しい鎧と剣を身に着けて、厩舎で忙しなくユーミルが動き回る。
 動く度にカシャンカシャンと金属音が鳴って、騒々しいことこの上ない。
 近くに居たラクダが迷惑そうな顔で口をモゴモゴと動かした。

 騎士の素防御力故か、鎧を装備していてもユーミルの動きは軽快だ。
 これなら以前と比べてそれほど機動力が落ちるということもなさそう。

 一通りの装備を完成させた俺達は、リィズが調べた経験値が高いモンスターの生息地に向かってラクダで移動中を開始することにした。
 もちろんパーティの方が効率が良いので、セレーネさんにもお願いして来てもらった。
 イベントの残り時間を考え、今日の内に全員でレベル40を目指すことになっている。

 王都の厩舎番に話し掛けて預けていたラクダを出してもらい、各々で乗り込む。
 街を出ると、もはや見慣れた砂漠の景色が地平線までひたすらに続く。
 新装備で上機嫌のユーミルの背を見ながら、俺はセレーネさんの方にラクダを寄せた。

「それにしても、どうしてゲームの女性用鎧はヘルメットが無い場合が多いんでしょう? ユーミルのもそうですよね?」
「私も最初はヘルメットを作ろうと思ったんだけどね。ユーミルさん折角のロングヘアなんだし、銀髪を靡かせながら戦った方が格好いいかなって」

 確かに、プレートアーマーのヘルメットだと顔も見えなくなるし、髪も纏めてメットに収まるようにするのが普通だろうしなあ。
 それを勿体ないというのも頷ける話だ。

「あー、そういう理由でしたか。だったら分かります。見た目は大事ですよね」
「分かるんですか……?」

 リィズは懐疑的だが、現実での戦いではなくこれはゲームである。
 実用性より見た目を大事にするのも、個人的には大いにありだと思うわけで。
 現に俺だって、あんな魔導書を作ったばかりなわけだし。

 メットを装備すると視界が悪くなるというデメリットも、一応は存在する訳だしな。
 頭は急所なので、着けない場合に比べたら些細なデメリットでしかないが。
 だったら頭部は気合で守れ! ということで、良いんじゃないかな?
 俺が理解を示すと、セレーネさんは何かを思い返すようにしながら話を続ける。

「他のゲームでも元は同じ様な理由じゃないかな。ヒロインが終始全身鎧で、素顔が全く見えなかったら――」
「大多数の人はガッカリしますね。確かに可愛いキャラなら、顔が見えていた方が嬉しいです」

 そういう昔からの流れで女性は兜を着けない場合が多い、と言われれば納得だ。
 本当のところはどうなのか、俺にはちょっと分からないが。

「逆に中盤終盤まで一切素顔を見せずに、ミステリアスな雰囲気を演出する場合もあるよね」
「それは途中で仲間になったり、実は正体が主要メンバーの身内だったりのパターンですか? そういうのは女性に限りませんが」
「お二人とも、段々と元の話題からズレてきてはいませんか……?」

 リィズが言う通り、これはストーリーがあるゲームなどでの話だ。
 もはやオンラインゲームの女性用鎧がどうこうという話題からは脱線してしまっている。
 起源を探るという意味ではそれほど離れていないんだけど。
 と、そこで先頭を進んでいたユーミルがトコトコとラクダを戻してきて、俺に向かって一言。

「お前の父はわしだ」
「嘘だああああ!」
「ちょっと待って。その台詞を言う時って、別に素顔はさらしていないよね? ねえ?」
「もう何が何やら……はあ……」

 その時点で完全にゲームと関係ない話へと移行。
 しかもユーミルに乗せられてつい反射的に叫んじまった……恥ずかしい。
 俺達は雑談を続けながら、そのままヤービルガ砂漠を目指して東へ。
 途上にマイヤの街があるが、今回は経由せずに進んで行く。

 暫く移動を続けてヤービルガ砂漠に入ると、ユーミルが落ち着かない様子で周囲を見回した。

「まだ着かないのか? 私は早く新しい装備を試したいぞー!」

 そんなユーミルの防具は『極上のデザートアロイアーマー+7』で、完成時には+10では無かったことをセレーネさんが非常に悔しがっていた。
 それでも、鍛冶の難易度を考えると物凄い性能をしている。
 ユーミルはその出来栄えに非常に喜び、セレーネさんに何度も感謝していた。
 数値的には以前の革鎧の倍以上の防御力となっている。

 鎧は採取したレアメタル『コバルト』と『クロム』をふんだんに使った特別製で、合金にするためにかなり高温まで炉を熱していた。
 それとセレーネさんは鉄以外にも何かを混ぜていたのだが、残念ながら秘密にされてしまった。
 そんな訳で配合比率及びその他の材料は全て彼女にお任せしたので、俺にはその合金を何と呼んでいいのか分からない。

 ちなみにリィズの物を除く三人分の「武器」も、鎧と同じ合金成分で既に作製済みである。
 名前は全てシンプルに『デザートアロイ』シリーズとして統一することにした。
 当然ながら、セレーネさんが合金を独自配合したので全てアレンジ装備である。

「我慢してください。場所はもっと北へ進んだ位置ですから」
「リィズ、随分と広範囲を探索したんだな。危なくなかったか?」
「大丈夫でしたよ。ちょうど見えてきたそこのピラミッドは、中の敵がレベル50だったので直ぐに引き返しましたけど」

 リィズが示した先には三角錐の建物が鎮座している。
 本当にあったんだ、ピラミッド……砂塵で見えなかった。
 直前までその存在に気付かなかった俺とユーミルは、それを見上げて暫し呆然としてしまった。
 唯一セレーネさんはリィズが示す前に気付いていたようで、いち早くこう切り返した。

「よく一人で中に入れたねえ……私だったら怖くて無理だよ」
「モンスターのレベルを確認しただけですから。倒せそうなら倒しましたが」

 我が妹は非情に豪胆であらせられる。
 しかしモンスターのレベルが50だと、次のレベルキャップ開放を待たないとピラミッドの探索は難しいな。
 涼しい顔をしたリィズは「ピラミッドの傍を通ったらもう直ぐです」と更に北を指差して先頭を進んだ。



 そこは不思議な場所だった。
 サラサラと特に粒子の細かい砂の上を、呑気に野生のラクダが何頭も歩き回っている。
 その光景に何か言い知れない違和感があったので、俺は目を凝らして良く見ようとした。
 それをよそに、ユーミルが無警戒にそのラクダ達に近付こうとする。

「待って。止まりなさい」
「ふおっ!?」

 見事な足払いを受けてユーミルが綺麗に転倒した。
 今は全員がラクダを降りており、俺達が乗ってきたラクダはやや後方に固めて待機させてある。
 抗議の声を上げるユーミルを無視して、リィズはインベントリから石を取り出すとラクダに向かって投擲した。

「な、何をしているの? リィズちゃん」
「そうだそうだ! ただの動物虐待ではないか!」
「黙って見ていて下さい。今に分かります」

 そのままポイポイと二、三個の石が野生のラクダが居る付近に落下すると……突如、その真下の砂がザラザラと動いて――。
 大口を開けた大きな魚が姿を現した。
 そいつはリィズが投げた石を砂ごと飲み込んで、再び砂の中に潜っていく。
 野生のラクダだと思った物体はその魚に額辺りに繋がっていて、動きに合わせてプラプラと頼りなく揺れていた。
 俺達三人はその光景に開いた口が塞がらない。

「ミミックリーアングラーという魔物だそうです。チョウチンアンコウに似ていて、提灯部分を他の生き物に擬態させて餌を誘き寄せるようですね」

 言われてから見直すと、周辺を歩くラクダ達の動きはどこか不自然で……。
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