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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼が「本体」と呼ばれる理由

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魔導書(グリモワール)の作製

「何ですこの液体は? ……インクですか?」

 ほぼ出来上がっている牛革と羊皮紙で作製した『本』を見て推測したのだろう。
 確かにリィズの言う通り、用途は合っている。
 ただし、その中身は……

「使い方はインクで間違いない。ただしこれはモンスターの血だ。血液だ」
「え……」

 正確に言うと、少し前に『ルキヤ砂漠』で戦った『ホーンヴァイパー』の血である。
 モンスターの血はレアドロップらしく、インベントリの中に少数だが入っていた物をこうして目の前に置いているわけだ。
 って、何で血だって言った途端にリィズの口角が上がるのだろうか? 怖いぞ。

「モンスターの血を使ってプレイヤーが一から作成した本に書き込みをすると、なんとモンスターの種類に応じた魔導書が出来上がるんだそうだ」
「……魔導書って自分で作るようなものでしたっけ? 既に存在しているものを使用するのが普通だと思っていました」
「TBではそうらしい、としか言えんな。俺には」
「それでその、魔導書の用途というのは一体……?」
「魔導士の武器」

 リィズが長い睫毛の両まぶたを、パチパチと開閉した。
 うん、理解が追い付かないよな。仕方ない。
 結論を急がずに、ここは順を追って説明しなければならないだろう。

「前にリィズ、杖が重いって言ってただろう?」
「はい。魔導士の攻撃力が低いせいもあってか、亀の甲羅で作ったコレは少し……」

 と言うと、億劫そうに持っていた杖を掲げてみせる。
 リィズは同年代の平均よりも背が低いし、腕力に関しても並以下だ。
 ヘルシャのように『鞭』という選択も一瞬考えたが、あれが似合う人間は恐らく限られるだろう。
 それに何となくだが、リィズには鞭とか持たせない方が良い気がするし。兄として。

「魔導士の杖は普通に鈍器としても使える重さだから、重いのも道理だな。それで解決策を求めて、掲示板の各職業のスレ――魔導士スレを覗いてみたら、面白い書き込みがあってな」

 曰く、レザークラフトの設計図に載っている魔導士用の武器があるのだと。
 それを見てからゲーム内で自分でも確認すると……。
 序盤の蜂モンスター『キラービー』の体液を使った魔導書『グリモワール・ワスプ』という装備の設計図が確かに存在していた。

「ですが、魔導士で杖を装備していないプレイヤーはほとんど見た事が無かったように思います。他のプレイヤーを見なくなってから一週間は経ちましたが、現在の状況は……?」
「掲示板を見る限り変わってないな。理由の一つとしては、主材料であるモンスターの体液・血液のドロップ率の低さだな。この魔導書の存在を知って書き込んだプレイヤーも、自分では二つ目の魔導書をわざわざ作ろうとは思わないと発言していたし」
「一つ、ということは他にも理由が?」
「魔導士に最初に渡される武器が杖だからな。人間、使い慣れた物を手放すのには、何か積極的な理由を求めるもんだろ?」

 性能的には杖よりも魔力上昇値が高いのだが、手間に見合う程かというと誤差レベルに過ぎない。
 神官と共通した装備ということもあり、杖は生産に携わるプレイヤーからの供給も安定している。

「つまり、わざわざ杖から乗り換えるほどの積極的な理由がないと」
「そうそう。取引掲示板にも全くと言っていいレベルで出回ってないしな。自分で作るにしても、皮の加工に慣れていないと結構面倒だから」

 リィズの場合は軽量化したいという切実な理由があるので、だったら次は魔導書を作ろうと俺は前々から考えていた。
 それとこの魔導書、戦闘で使用している時の状態が非常に格好いいのだそうだ。
 完成するのが今から楽しみだ。

「で、このホーンヴァイパーの血を使って今から本の中身をリィズに書いて貰いたいわけだ。それで魔導書が完成する」
「ありがとうございます。ですが、ハインドさん完成させなかったのは何故ですか?」
「……設計図にはこうある。魔導書は装丁の出来栄えや紙の質以外にも、書き込んだ筆者の思念の強さで性能が決定します……と」
「はあ……?」

 どうもユーミルの『勇者のオーラ』にも使われている、脳波感知機能の応用ではないかと思われる。
 筆者の思念の強さ……つまりはどんな感情であれ、文章を書く際に平常心と比して振れ幅が大きければ、武器としての性能がアップするというように解釈できる。
 怒りながら書いたり、笑いながら書いたりすれば良いのだろうか? と思われるのだが。

「何てデタラメな……」
「魔導書らしいといえばらしいがな。怨念とか呪いとか、そういう負の感情で成り立っている魔導書だってあるだろうし。魔導書と言ったら儀式魔術に天使だの悪魔だの、そんなのばかりだからな」
「それで、質問が戻るのですが。どうしてハインドさんはご自分で魔導書をお書きにならなかったのですか?」
「迸る感情とか情動とか、特に思い当たる節がなくてな……自分で書くと性能が低くなりそうで。だから、リィズに任せるよ」
「……そうでしたか」

 ユーミルに頼もうかと思ったが、それだと何か違う気がした。
 自律してビームとか火炎放射とかを放つ変な魔導書が出来上がりそうだし。
 なので、ここは魔導書を自分で使うことになるリィズに書いて貰おうという判断に至ったわけだ。

「それは構いませんが、ここに書く内容というのは決まっているのですか?」
「いや、現代文で書くとこの世界の古代の文章に勝手に置き換わるらしいぞ。どうせプレイヤーには読めないんだから、内容は自由でいいはずだ。それこそ感情が乗りそうな文章で、思い切りいくといい」
「分かりました。必ず最高の成果を出すとお約束します」

 やけに自信ありげだな。
 リィズは羽ペンにちょんちょんとインクを着けると、何故か俺の方をじっと見つめ出した。

「…………」
「……? どうして俺の方を――」

 じーっと、何も言わずにじっと見つめてくる。
 俺が居心地の悪さに視線を逸らそうかと迷った刹那、羽ペンが翻る。
 そのままリィズは猛然と紙にペンを走らせ始めた。
 何を書いているのか非常に気になったが、その異様な緊張感に一言も声を発することができない。
 固唾を飲んで見守った。
 リィズの視線は紙の上と俺とを忙しなく往復し続けている。
 あっという間にページは消費されていき、最後のページに到達すると――

「あれ? もう終わりですか」

 一息ついたリィズがペンを置いて本を渡してきたので、俺は文字が乾いているかを確認。
 既に文字は読めない不可思議な文様になっていたが、血は渇いているようだった。
 これなら閉じてしまっても大丈夫だろう。
 本を閉じ、金具で封をしてアイテム用のウィンドウで生産完了の登録をする。
 リィズも関わったので、生産者の名前は連名にしておいた。
 直後、本から眩い光が放たれる。

「うお、なんじゃあ!? 何の光!?」
「え、何々……!? 生産完了の光に似てるけど、こんな強烈な……!?」

 部屋中に広がった光に、ユーミルとセレーネさんも作業の手を止めてこちらを注目する。
 視界がホワイトアウトするほどの光は、徐々に本に向かって収束。
 完全に収まると、今度は纏わりつくような禍々しい黒い霧が本を覆い始めた。
 ええ……? 聞いてた話と全然違うぞ。
 完成してこんなに派手なエフェクトが出るなら、掲示板に書き込まれているはずなんだけど。

「何だ、ハインド! 一体何を作ったのだ!?」
「本……に見えるけど。アイテム? でも、本型のアイテムなんて聞いたことが……」

 俺が説明しようと口を開きかけると、視界の中に何かテロップが流れ始めた。
 レベルがカンストしたプレイヤーの名前など、ゲーム内のちょっとした情報が良く流れているのだが、タイミング的に引っ掛かるものがある。
 全員が一度口をつぐみ、その文字を追っていくと……。

『ハインド様 & リィズ様 が 極上のガーヤト・アル=ハキーム+10 の製造に成功しました!』

 という表示が流れた。
 予想外の事態に鍛冶場の空気が凍り付く。

「――ちょ!? おぉぉぉぉい!? 状況がさっぱり分からんぞぉ! 説明しろ! 説明しろぉぉぉ!」

 ユーミルの叫びがホーム内に木霊こだました。



 前にも触れたレザークラフトの難易度故か、はたまたリィズの思いの丈が勝ったためか。
 ともかくゲーム内で初の、質がカンストした武器を偶然にも我がギルドで作り出すことになってしまった。
 一通りの経緯を聞いたユーミルは、そういう面白そうなことには混ぜろ! と憤慨。
 一方のセレーネさんは少しだけ落ち込んだ様子を見せる。

「ハインド君に先を越されちゃったかぁ……極上+10、狙ってたんだけどなぁ」
「いやいや、鍛冶とはまた別の話ですし。それにテロップ通りに、リィズとの共作ですから」
「私とハインドさんであれば、当然の結果です」

 どこかで聞いたような台詞を誇らしげにリィズが放つ。
 それを受けたユーミルの嫌そうな顔を見て、そういえば初めて一緒に決闘した後に同じようなことを言っていたのを思い出した。
 決闘での成果が出るまではまだ時間が掛かりそうなので、ユーミルとしてはこの状況がさぞ面白くないのであろう。

「ところで貴様、それだけ高い判定をされる感情とは……一体、何を本に書いたのだ? まさか人に言えないような恥ずかしいことかではあるまいな? ん?」

 そして俺が訊けなかった内容にズバッと切り込んでいく。
 しかしリィズは涼しい顔をしてこう返した。

「私のハインドさんに対する想いを、この本に全力でぶつけました。ページ数はちっとも足りませんでしたけど。これ以上に強い想いが、この世に存在するはずがないでしょう?」

 その清々しいまでに言い切った言葉に、思わず俺は硬直。
 セレーネさんは頬を赤らめ、ユーミルは益々苦虫を嚙み潰したような表情になった。
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