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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼が「本体」と呼ばれる理由

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女王様からのお達し

「よいか、必ず勝て」
「……」

 開口一番にこれですよ……。
 いや、確かに美人だよ? 掲示板の皆が夢中になるのも分かる。
 しなやか且つ肉感的な身体からは、匂い立つような色気が放たれているし。
 ドレスも薄手の物を着ており、非常に扇情的だ。
 パトラ・アデニウム・サーラという名がこの女王様の名前だそうな。
 俺は玉座の間で、かしずいた体勢で話を聞いている。

「ハインド。サーラ国の代表として、必ず勝って参れ。優勝すればグラドとは別に、わらわからそちたちに褒美を取らせようぞ」
「まだ参加するともしないとも言っていないんですが」

 ただし、そんな彼女の性格は尊大で傲慢で傍若無人。
 偉そうなんていう生易しいレベルじゃなく、むしろ自分が世界で一番偉いと思ってるんじゃないかとこちらが疑いを抱くほどである。
 絵に描いたような女王様気質で、外見も相まってこういうのが好きな人には堪らないのではないだろうか。

 高札を見た後、ギルドホームに戻ろうとしたら王宮の兵士に俺だけが無理矢理連行された次第である。
 まさかオンラインゲームで強制イベント気分を味わうことになるとは思わなかった。
 女官達に団扇で扇がれながら、豪奢な長椅子に寝そべるような体勢で俺に告げてくる。
 優雅なもんだな……こっちは暑くて汗だくだってのに。

「ご用件はそれだけですか? なら、俺はこれで――」
「待て。まだ返事を聞いていないではないか」
「必ず勝つ保証が出来る人間なんてこの世には居ませんよ。無茶を言わないで下さい」
「それでも勝つと言い切るのがおのこの甲斐性というものではないのか? なんと情けない……」
「そう仰るなら来訪者などに頼らず、自国の兵を育てておけば良かったではありませんか」
「それが出来ない事情があったことは、そちとて知っておるではないか」
「はあ……」

 この女王様、軍備の縮小を推し進める派閥が大層邪魔だったそうで……。
 なんと、決定的な責を負わせられる状況になるまで放っておいたそうだ。
 それが例の『バジリスク』への杜撰ずさんな対応に繋がっていたとのこと。
 かくして、砂漠のフクロウによる討伐失敗の責を受けて軍備縮小を掲げていた派閥は王宮から追放。
 それによって不便な思いをしたのは民衆や商人なのだが……この女王様、どうもそれをちっとも悪いと思ってなさそうなんだよな。
 どうもその辺の意識のせいで、俺個人としてはこの女性を好きになれない。

「砂漠のフクロウの再編成はまだ始まったばかり。こちらとしては、王都唯一の来訪者たるそちたち渡り鳥に頼らざるを得ないわけなのじゃが」
「どうして俺に言うんですかね……ギルドマスターはユーミルなので、そっちに――」
「妾はそちを特に気に入っておるのでな。それこそ、渡り鳥などでなく妾の籠の鳥にしてしまいたい位に……」

 言いつつゆらりと立ち上がると、女王は艶めかしい動作で俺の顎をついっと撫でた。
 背筋がゾクゾクする……良い意味でも悪い意味でも。
 どんな香油を使っているのか、近付かれると甘く蠱惑的な匂いがする。
 平常心を保つのがしんどい。

「いや、そういうのなら仲間の覆面の男が美男子なんで、そっちに――」
「見かけの美醜など、妾は既に興味がない。美しいものなら見飽きておるしの」

 女王はそう言うと、億劫そうに後ろに控えている美女揃いの女官達を顎で指した。
 それから、部屋中に飾られている美術品も手の動きで示す。
 最後には大きな鏡を指差し――って、そこで自分が一番美しいって顔した!
 もうやだ、この人……。

 やけに俺だけ女王様の好感度が高いのには、恐らく理由がある。
 簡単に言うとクラリスさん→ヤイードさん→女王という話の流れが原因だ。
 まず最初にクラリスさんから始まり、クラリスさんからヤイードさんへ俺の話が伝わる。
 ここまでが前段階で、クエスト後にはそのままヤイードさんから女王様に俺の話が……。
 といった具合に、互いに信用度の高い相手からの連鎖反応で、何もしていなくともある程度まで好感度が上がった可能性がある。

 ヤイードさんまでは良いのだが、女王の好感度に関しては正直あんまり嬉しくない。
 それとクラリスさんの提案で、かなり大きな姿見を特別に生産して贈った――というか王宮に献上したので、もしかしたらそちらの影響もあるかもしれないが。
 先程、女王が指差した鏡がそうだ。
 ここに飾ってあるということは、それなりに気に入ったらしい。

「まあ、取り敢えず俺達のギルドからも誰かしらは出場すると思います。それでベストを尽くすということで、どうか御勘弁を」
「つれない返事だのう。まあ良い。試合は妾も見に行く故に、恥をかかせるでないぞ」
「え゛」

 来るの? 来るんだ、そっか……。
 しかし、また掲示板が盛り上がりそうな話題だな。
 他の国の貴賓が来るのかも気になる。可能ならば俺も見てみたいものだが。
 と同時に、彼女を見たら満足して砂漠に来るプレイヤーがまた減ってしまうんじゃなかろうか? という心配が。
 そんな俺の思いをよそに、彼女は話は終わったと言わんばかりに椅子に戻って大欠伸をした。
 なので、こちらも一礼してさっさとその場を辞することにした。



 王宮を出ると、入り口で兵士に止められていたユーミルとセレーネさんが心配そうに駆け寄ってきた。
 二人が一緒ならここまで疲れなかっただろうに……絶対にわざとだ、あの女王。

「大丈夫かハインド!? 何もされなかったか!?」
「いや、別に。大丈夫だ、問題ない」
「それにしては随分と嫌そうな顔をしてるけど……」
「あの人、何か苦手です。こう、じわじわと相手のペースを乱そうとしてくる感じが……」
「私は一目見た時に、蛇みたいな女だと思ったぞ。バジリスクにそっくりだ」

 ユーミルの言葉に俺は思わず吹き出しそうになった。
 確かにピッタリ……あの絡みついてくるような話し方と視線が特に。
 ただ、まだ王宮の衛兵が近くに居る。もし女王を笑っているとバレたらことだ。
 笑いを堪えつつ、俺は一度ホームに戻ろうと提案して移動を開始した。



 ホームに戻った俺達は、調理場の傍にある談話スペースでくつろいでいた。
 二人はテーブルで、俺は満腹度回復のために軽食を用意しながら女王にされた話の内容を詳しく語った。

「――というわけで、別に悪い内容では無かったよ。単に砂漠の代表として大会で勝てば、ご褒美をくれるってだけの話で。プレッシャーは掛けられたけど」
「あの女が褒美とか口にすると、何となくいやらしい響きに感じるのはどうしてだろうな?」
「あはは……色っぽいもんね、女王様……」
「さすがにそういうのじゃないだろ……全年齢対象のゲームだし……」
「あれ、知らないのハインド君? NPCの対応って、プレイヤーの性別と年齢である程度変わるよ?」
「そうなんですか!?」

 全然知らなかった。
 そういえば、さっきの女王も俺を見て男の甲斐性がどうとかって。
 ……まあそれでも、さすがにその褒美とやらは常識的なものだろう。

 話しつつも、料理を作る手は止めない。
 皮を剥いたそら豆とニンニク、卵をよく練ってペースト状に。
 パン粉、小麦粉、クミン、塩を加えて……小判型に成形。
 胡麻をまぶして、低温に熱した油の中へ投下。

「異性であれば、NPCから恋愛的な好意を向けられる可能性もある……かもしれないね?」
「あの女王の場合は、歪んだ所有欲って感じがしますが。そういう甘酸っぱい感情は、全くこれっぽっちも伝わってきませんね」
「……むぅ……なら、クラリスは……」
「どした、ユーミル? 珍しく難しい顔をして」
「何でもない!」
「イテッ! なぜ叩く!?」

 それもわざわざ立ち上がってまで。
 両面がキツネ色になったところで、完成したそれの油を切って皿へ。
 うーん、香ばしい良い香り。

「はい、ターメイヤ完成。足りない香辛料があるけど、それなりの形にはなっているはず」
「おおー! 揚げたてとはまた最高だな! いただきます!」
「いただきまーす」

 まだ熱い内に一口。
 味はあっさりながら、香辛料が後を引く美味さだ。
 衣もサクサクに揚がったかな……このそら豆、芋みたいにホクホクだ。

「うん、おいしいよハインド君! 上手だよね、お料理も。器用器用」
「それはどうも。美味しかったのなら何よりです」

 それでもヤイードさんのターメイヤよりは少し味が落ちるか……。
 今度会ったら、商売に支障の無い範囲でコツを教えてもらおう。
 こう、手で持ってガブリと行くのがイイ感じだ。
 学校帰りに買う肉屋さんのコロッケ的な。
 それほど難しくないので、現実で作るのもいいかもしれない。

「もごごっが? もごご?」
「ちゃんと食べてから話せ。このうつけ」

 口一杯にターメイヤを頬張り、ユーミルが何かを訴える。
 が、いくら長い付き合いでもそれは解読不能というものだ。

「むぐ。そういえば、次のイベントはどうするのだ? 誰と誰が組む?」
「あー、そうだな。ギルドの人数的には二組作れるけど……」

 セレーネさんを見ると、リスのように両手で持っていたターメイヤを置いてぶんぶんと顔の前で手を横に振った。
 やはりというか、対人戦は苦手らしい。
 そもそも、もし勝ち残ったら目立つことこの上ないだろうしな。
 セレーネさんは不参加ということで。

「リィズはどうかな……?」
「お前が頼めば出るのではないか? ただ、ヤツはお前としか組まないなどと言い出しかねんが」
「駄目じゃん。バランス的に、後衛と後衛じゃ勝てる気しねえよ。前衛と前衛で速攻を仕掛けるならまだしも」
「ふむ。だったら私と――」
「ちょっと待ったぁ! で、ござる!!」
「「「?」」」

 部屋に響いたのは、誰あろうトビの声だ。
 しかし、声はすれども姿は見えず。
 三人でキョロキョロと部屋の中を見回していると……突如、壁の一部がガコンという音と共に浮き上がる。
 そのまませり出した壁は、くるりと回転。
 すると、壁の反対側からぴったりと壁に張り付いた状態のトビが現れた。
 おい……おい!

「話は聞かせてもらったでござるよ!」
「聞かせてもらった、じゃねえよ! 仕掛けを作る時はみんなに一言相談しろって言っただろうが! 建物の強度が落ちたらどうする!?」
「好奇心を抑えきれなかったでござる! 今はこうして反省してまーす。だから許して!」
「この野郎……!」

 言葉の割には反省の色がさっぱり見えなかったので、俺はトビが手を伸ばそうとした先にあった最後のターメイヤを――

「あれっ!? 拙者の分は!? ねえ!?」

 素早く手にすると、止める声を無視して自分の口へと放り込んだ。
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