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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

ギルドホームを作ろう

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場違いな工芸品

 クエストの報酬に関しては、特殊クエスト定番のスキルポイントの書がまず一つ。
 今回はそれに加えて、ヤイードさんからも王国政府からも大金を受け取ることが出来るそうだ。
 パーティの推奨レベルは35以上と記載があり、セレーネさんが僅かに低い以外は狙ったかのようにギリギリで満たしている。
 ともかく、このままでぶつかってみるしかない。
 特殊クエストの期限は短いので、レベルを上げている暇があるかどうか。

 俺達は相談の末、そのクエストを引き受けることにした。
 諸々の出費があったので、正直お金は欲しい。とても。
 このままでは、ギルドホームの建設もままならない可能性が高い。

「そうか、引き受けてくれるか!」
「討伐が完了しましたら、頭部のトサカ状になっている大きな角を持ち帰って下さい。それがヌシを倒した証明になりますから」
「ヌシであるバジリスクは猛毒を持っている。それと、視線で相手を石化させてくることがある。まずは目を潰す事を考えるといいかもしれん」

 と、そんな感じの助言を受けたわけだが。
 TBでは剥ぎ取りという要素はないので、恐らく倒せさえすればトサカを取得可能な筈だ。
 そんなことを考えつつ、その場はお開きとなった。

 クラリスさんに宿と食事のお礼を言って、俺達は彼女が取ってくれた部屋へと向かった。
 気を利かせてか、男女一部屋ずつに分かれている。
 俺は女性陣と別れ、トビと一緒に部屋に入った訳だが……。

「おおう、VIPルーム……」

 無駄にでかいベッドが二つ、部屋の中に鎮座している。
 窓を開けてみると、街の様子を一望できる素晴らしい眺めの良さ。
 調度品はブラウンとホワイトを基調に統一されており、落ち着いた雰囲気を部屋全体にもたらしている。

「はー、何とも勿体ない気がするでござるなぁ……これだけの部屋でログアウトするだけというのは」
「仕方ない。ゲーム内でどれだけ寝ても、疲れは取れないからな」

 ゲーム内で眠るとストレスが軽減する、なんて話も聞くが実際には眉唾物だ。
 科学的な裏付けはなく、運営サイドからもきちんと休むように注意喚起が為されている。
 俺個人の感覚では、連続プレイが三時間を超えるとログアウト後の体が重くなる感じだ。
 泊まれないことへのせめてもの腹いせとして、ベッドに腰掛けてその柔らかさを堪能しておく。
 トビも同じ考えのようで、対面のベッドの上に腰を降ろした。

「むぅ、口惜しや。……しかし、今日は楽しかったでござるなぁ」
「ああ、この冒険してる感な。もうすぐ王都だけど、街の様子とかを想像するだけでワクワクするよな」
「あっと言う間に攻略情報が出回る昨今では、中々味わえない感覚でござるよ。情報を見ずにやれば良いと言われれば、それまででござるが」
「何にでも良し悪しがあるもんだな」

 インターネットが普及していなかった時代には、学校で友人同士が集まって流行りのゲームの情報を交換し合ったそうな。
 父さんが俺の幼い頃に懐かしそうに話してくれたのを、不思議と今でも鮮明に覚えている。
 俺の部屋の押し入れに保管してあるレトロゲームの多くは、その父さんが遺していったものだ。

「話は変わるけど、伝承上のバジリスクっていえば結構な弱点があるよな」
「ヤイード殿の話を聞く限り、強力な毒と石化能力があるのだから弱点もそのままでござろう?」
「だよな。で、一応準備可能なものは揃えておきたいんだけど」

 雄鶏の鳴き声だとか、イタチが苦手だとか色々とあるが。
 生き物は取引掲示板で売り買いできないし、この街で生きている状態で売っているかというと微妙だ。
 となると……

「一個だけかな、用意できそうなのは。焙烙玉に使った硝石もまだ残ってるし……」
「ガラスはあるのでござるか?」
「前に取引掲示板で見たことがあるぞ。銀も売ってたから……うん、材料揃いそうだ。作業中の取り扱いに注意が要るけど、そこもきっとゲーム的に簡略化されてるだろ。こういうのを作るのも、開発側からしたら想定内だろうし」
「まあ、ゲーム内のそれは映りがぼやっとしているでござるからな。いずれ誰かがやったでござろう。全て、ハインド殿にお任せするでござるよ」
「おう。任された」

 明日は少し早く来て生産をしておこう。
 パーティメンバー分と、予備で幾つかあれば充分だろう。

「引き続き、拙者の忍道具も宜しく! 今日使った焙烙玉は最高でござった!」
「黒色火薬であれだけ爆発するのも、謎っちゃ謎だけどな。本当は焼夷弾に近いもんだろ? 焙烙玉ってのはさ。主に木造の物に投げつけるんだし」
「細かいことは気にしない!」
「じゃあ、次はリアリティ重視のくっそマズい兵糧丸でも作るか……」
「やめてよ!? 誰が得すんのソレ!?」



 翌日、全員の集合から三十分早く到着した俺は窓を全開にしてとある生産作業を行っている。
 念のために手袋とマスク代わりにした布で口を覆っての作業だ。
 相変わらず、化学反応だったり乾かしたりの作業は一瞬で進み。

「おおー……これは中々の出来では?」

 リアクションをくれる人は居ないので、一人寂しく呟く。
 掲げると満足気な顔をした自分が笑い返して来る。
 作っていたのは、銀鏡反応を用いた近代的な「鏡」だ。
 バジリスクの視線対策なので鏡であれば何でも良いだろうが、折角なのでこの世界にない物を作ってみた。

 手鏡サイズのそれを合計で十個作り、適当に作った枠に鏡を入れて完成させていく。
 その時、部屋のドアがコンコンとノックされた。
 部屋の臭いが抜けていることを確認し、散らかった材料をインベントリに放り込んで「どうぞ」と返事をする。
 ドアから顔を出したのはクラリスさんだ。

「ハインド様、少しお話ししても……あら? あらあら?」
「どうしました? ……あ」

 クラリスさんの視線を辿ると、そこにはしまい忘れた鏡が一枚転がっており……。
 彼女は俺の横を通ると、手に取ってそれに釘付けになった。
 不思議そうに鏡に映った自分の顔をまじまじと見た後、今度は角度を変えて部屋の中を映したりしている。
 自分の目に映るものと鏡の中とを比較するという行動を何度も繰り返した後に、ようやく口を開く。

「こ、これ……鏡ですか!? でも、こんなに鮮明な……どうやって……」
「あ、あー……」
「ハインド様、一体どこでこの鏡を!? 教えてください! 是非、是非! お願いしますぅ!」
「おおお、落ち着いて下さいぃぃぃ! 揺らさないでぇぇぇ! 言います、言いますからあ゛あ゛あ゛あ゛!」

 首元を引っ掴まれて何度も前後に揺らされる。
 脳がシェイクされて気持ち悪い……。



 中世頃の鏡というのは銅・錫、水銀などを用いた金属を磨いた物が主流である。
 当然ながら映りは現代のものよりも劣っているのがほとんどだ。
 俺が今回作った銀鏡反応を用いた手法が生まれたのは、19世紀になってからだ。
 つまりこの鏡はTBの世界においてはオーパーツということになる。

「ハインド様がお作りになった……? それは本当ですか!?」
「顔が近い、近いですクラリスさん」
「あっ、ごめんなさい」

 商人として興奮するのも無理はないかもしれない。
 しかし、本当にTBのNPCのAIは凄い……ここまで対応力が高いとは。
 アレを鏡だと認識できただけでも並のAIとは訳が違う。
 理解を超えたものを瞬時に受け入れるのは、普通の人間でも難しいのだから。
 しかしこうなると、次の彼女の言葉もある程度は予想できるというもので……。

「ハインド様、この鏡を是非売りましょう! 私が流通のお手伝いをします! 絶対に損はさせませんから、是非!」

 クラリスさんの商人魂に、火がついた。
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