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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

ギルドホームを作ろう

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荒野の旅路と踏み出す一歩

「あの兵士の話によると、そこの谷に沿って北西に進むと小さな町が一つあるらしい」
「……聞いた通りの大きな谷だね。確かに自力で渡るのは無理があるかも」

 関門を出て少し進んだ先にある地面に、大きな亀裂が走っている。
 かなりの幅があるだろうその谷は、荒野の地面に長く長く横たわっている。
 兵士が言っていたその街の先まで行けば、この谷に大きな橋が架かっているとのことだ。

「おおー、深いな! トビ、落ちてみるか!?」
「嫌でござるよ! 急に何を言いだすのでござるか!?」

 落ちたらまず助からないと思うけどな……落下ダメージで戦闘不能間違いなしだ。
 ユーミルとトビは何が嬉しいのか、谷を覗き込んではしゃいでいる。
 俺とリィズはこの状況に少し滅入っているんだが。
 近くにこの谷以外、なーんにも見えないんだよな……まさに不毛の大地。

「落ちたら、口笛を吹きながら登ってくれば良いではないか!」
「無茶な!? 大体あのオープニング、崖を登っている最中は口笛ないでござるよ!?」
「……ハインドさん。あの二人は何の話をしているんです?」
「ん? ああ、こういう荒野が舞台のゲームがあったんだよ。BGMに口笛が多用されているのが印象的でな」

 あのゲームの音楽、良いのが多いよなぁ。
 確かに、この景色を見ていると無性に口笛を吹きたくなってくるような。

「っ、うう……」
「セレーネさん、話に混ざりたいなら行ってきていいんですよ? ゲームの話、好きでしょう?」
「た、タイミングが掴めない……」
「さいですか。なら俺と話しましょうか。焦らず、ゆっくり行きましょう」
「いいの!? じゃあねじゃあね――」

 セレーネさんが実に嬉しそうにゲームについて語る。
 しかし急にそれをやめると、気まずそうにリィズの方を見た。

「……」
「あっ、ご、ごめんねリィズちゃん。二人だけで話しちゃって」
「? 別に怒っていませんけど? 直ると良いですね、人見知り。……直したいんですよね?」
「う、うん! 迷惑かけちゃうかもしれないけど……」
「お気になさらず。私はマニアックな会話には付いて行けませんが、それ以外の話であれば大丈夫です。変に思ったりしないので、気軽に話し掛けて下さい」
「――! あ、ありがとう!」

 リィズの言葉を聞いたセレーネさんが俺の耳に顔を近付ける。
 何です?

「ハインド君の言う通り、ベースは優しいんだね。リィズちゃん……」
「……そうなんですよ。誤解されやすいですけど」

 自慢の妹なので、褒められると自分のことのように嬉しい。
 基本の表情と言動が冷たい感じなので、勘違いされやすいだけだ。
 ユーミルとトビにああなのは、付き合いの長さに加えて相手の度量の大きさを信頼しているから。

「……目の前で内緒話はやめて欲しいんですが?」
「ああっ、ごめんなさい!」
「……まぁ、別に怒ってはいませんけど。二回目ですよ? この言葉」
「ふふっ、そうだね」

 その後は三人で雑談しつつ、満腹度が減ってきたので調理に取り掛かる。
 リィズもセレーネさんも手伝ってくれたので、かなり手早く済んだ。
 といっても、ハムとレタスを簡単に挟んで切るだけのサンドイッチである。
 具をなじませる時間は無いが……って、挟んだ瞬間に数分置いた状態と同じになったな。楽で結構。
 これで軽食の完成だ。

「おらー、二人とも戻れ! サンドイッチを作ったから、食べてから進むぞ! ユーミル、トビを落とすのは後にしとけ、後に」
「分かった。後にする!」
「ちょっと! 今じゃなきゃいいみたいな言い方やめてよ!」

 まずは満腹度の回復だ。
 それが終わったら、日付が変わるまで進めるだけ進もう。
 今日の内に最低でも一つ目の街までは行きたい。



 と思っていたのだけど……。

「治安悪過ぎるだろぉ!」
「ひゃはははは! 水と食料を置いていけぇ!」
「金目の物を出せば見逃してやるよぉ! ヒャア!」

 モンスターよりも盗賊の方が多いのはどういう訳だ!
 引きも切らさず現れるヒャッハーの群れに、俺達は消耗戦を強いられていた。

「どうするんだハインド! 埒が明かないぞ!」
「どうもこうも耐えるしかない! 隠れる場所もないからな! 踏ん張れ!」
「こいつら、体臭がきついのでござるが! くさぁい!」
「……」
「は、ハインド君! リィズちゃんが淡々と敵の股間を蹴り上げてて怖いんだけど! モヒカンむしってるし、盗賊よりもバイオレンスだよ!」

 そう言われても、いかんせん敵の数が多い。
 細かいフォローを入れるほどの余裕がない。
 どれだけ規模の大きい盗賊団か知らないが、倒しても倒しても羽虫のように湧いてくる。
 仕方なく、現在は移動しつつの応戦となっている。

 その後もひたすら長期戦は続いた。
 減っていくアイテム、狂うペース管理。
 俺のイライラは募り……いや、俺だけではないだろう。

 盗賊達の一人一人は決して強くないのだ。
 峰打ちや手加減に関しても、このゲームでは頭で念じるだけで簡単に実行可能だ。
 この状態にするとどんな攻撃をしても相手を死に至らしめることはない。

 だが、しつこい・うるさい・下品と三拍子揃った不快さが、俺達の精神を徐々に蝕んでいく。
 そして、ついに――

「てめぇら、何をもたついていやがる! 五人程度、サッサと潰して金目の物を奪わねえか!」
「頭領! すいやせん!」

 百人近い盗賊を倒した後に、そいつは現れた。

「お前かぁぁぁぁぁ!」
「シェアアアアアア!」
「馬から落ちろぉぉぉぉぉ! で、ござる!」
「……」
「あ、えーと……えいっ!」

 ――俺達の怒りを受け止めるために。
 愚かにも目立つ馬に乗って現れた盗賊団の頭領に、五人分の攻撃が一気に叩き込まれる。
 部下達の腰は既に引けていて、頭領に対して簡単に接近することができた。

「も゛っ!?」
「と、頭領ー!?」

 そしてあっさりと捕縛。
 それを見た盗賊達は、方々に逃げ散っていった。



 長い戦いだった。
 盗賊の頭領は縄で縛り付けた後、馬に載せて俺が手綱を引いている。
 気を失っているので静かなものだ。

「にしても、戦いながら随分と進んだ気がするけど。今、どの辺りだろうな?」
「国境の警備兵さんから聞いた、街までの距離が正しければもうすぐ街に着くと思いますよ」
「そっか……セレーネさん、大丈夫ですか?」
「あ、うん。ちょっと疲れてきたけど、まだ平気だよ」
「……」

 セレーネさんは戦闘に慣れていない分、どうやら他のメンバーより疲れが溜まっているらしかった。
 鍛冶場から急に環境も一変した上に、ゲームとはいえVRという特殊事情。
 やはり、最低限リアルに疲れを残さないように遊ぶ必要がある。
 今日は少しオーバーペースだったかな……。
 次回はもっと、セレーネさんに合わせた進行速度を考えておこう。

「遅いですね、ユーミルさんとトビさん」
「そうだな。余り遠くまでは行かないようにお願いしたんだけどな」

 俺達三人が頭領の捕縛をしている間、体力に余裕のありそうなユーミルとトビに偵察をお願いしておいた。
 そろそろ戻ってくる頃だと思うんだけど……。

 あっ、きたきた。
 二つの人影が手を振りながら走ってくる。

「ハインド、あったぞ! 街だ!」
「本当か!」
「もう一息でござる! 早速行くでござるよ!」

 良かった、街まで進めば安全にログアウト出来る。
 TBはどこでもログアウトが可能なのだが、仲間とイン時間を完全に合わせるのは難しいし、インした直後にリポップしたモンスターに囲まれることもあると聞く。
 それを考えると、緊急時以外は街でログアウトした方が安心かつ安全ということになる。

「セレーネさん、リィズ。行こう」
「はい」
「よかったー。正直、ほっとしたよ」

 ユーミルとトビの先導に従い、砂塵の舞う荒野を進んで行く。
 暫くすると、徐々に豆粒ほどの街が視界に入ってきた。
 街は赤を基調にした箱形の建物が並んでおり、それなりの規模がありそうだった。



 『荒野の街バスカ』というのが、この街の名だそうだ。
 治安は余り良くなさそうだったが、衛兵は一応働いている様子。
 街の入口で盗賊と戦った経緯を話した結果、俺達は衛兵の詰所へと案内された。

 奴らはやはり国境を越える商人や旅人を狙う大規模な盗賊団だったらしく、頭領を引き渡したところ、それなりの額の懸賞金を得ることが出来た。
 プレイヤーが殆ど来ないせいで盗賊団の人数が膨れ上がったのだろうか?
 ……ゲーム的に考えれば、そういう可能性も多少はありそうだ。
 そういう場合のプレイヤーの影響力は、大きめに設定してあるだろうからな。

 ともかく諸々の手続き済ませると、俺達は街の高級住宅街の一画でログアウトすることにした。
 明日は午後十時頃に集まることを約束して、今夜は解散ということに――

「あ、ハインド君」
「あれ、セレーネさん。まだログアウトしなくて良いんですか?」
「うん、ハインド君に一言だけお礼を言いたくて」
「お礼?」

 他の三人がログアウトした直後、セレーネさんが俺に声を掛けてくる。
 何だろう?
 こちらからお礼を言うようなことはあっても、される様なことをした記憶はないが。

「あの鍛冶場から、私を連れ出してくれてありがとう。君がああ言ってくれなかったら、きっと私は……」
「……」

 ああ、これは恐らく真面目な話だ。
 俺は表情を引き締めると、静かにセレーネさんの言葉に耳を傾けた。

「人見知りを直したくて始めたVRゲームだったけど、一歩を踏み出す勇気が足りなくて。他にも鍛冶の腕を見込んで声を掛けてくれた人は居たけど、私、怖くて……」

 ……まさかそこまで深い悩みだったとは。
 軽い気持ちで誘った自分に、今になって腹が立ってきた。
 それを思うと、ユーミル達との引き合わせ方はかなりマズかったのではないだろうか……?
 ……無神経な部分が多くはなかったか?

「すみません。そこまで考えが至らずに、俺……」
「ううん、最終的に一緒に行くって決めたのは私だもの。それに、私は臆病だから……ちょっと強引なくらい、グイグイ来てくれたハインド君の態度が……凄く嬉しかった」
「……そう言って頂けると、後悔の念が和らぎますね。本当に、嫌じゃありませんでした?」
「嫌じゃなかった。それどころか――」

 セレーネさんが言葉を切る。
 少し迷うようなそぶりを見せた後……何故か顔を赤くしてこう言った。

「そ、その、今からするのは、私がまた人との距離感を間違っているせいかもしれないし、もしかしたらハインド君は嫌がるかもしれない。でも、こうでもしないと私の気持ちが収まらなくて、その、あの、だから――」
「は、はあ」

 どうしよう。
 いつになくセレーネさんが何を言っているのか分からない。
 らしくない言葉の羅列に俺が戸惑っていると……不意に、頬に温かな感触が触れた。
 眼鏡を外したセレーネさんの顔が、目の前からゆっくりと遠ざかっていく。
 ……え?

「じゃ、じゃあ、また明日ね! おやすみ、ハインド君!」
「え? あ、はい、おやすみなさい……」

 セレーネさんがログアウトしていき、後には俺だけが残される。
 俺は数分間、頬を押さえた姿勢のまま呆然とその場で立ち竦んだ。
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