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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

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生産活動と膝枕

 日曜夜、午後九時。
 皆より少し早い時間にログインした俺は、生産活動にいそしんでいる。
 目的の一つはタートル系装備に武器を一新すること。
 防具に比べて武器の性能はそろそろ苦しい。
 ヒースローを出るにあたり、トビ以外のメンバーの武器を更新する必要性を感じていた。

 人が少なくなった『ヒースローの街』の鍛冶場でサッと作った杖2、剣1。
 タートル系上限の上質+10が作製できたので、こちらはそれで問題無し。
 セレーネさんの指導が生きてきたな……順調順調。
 攻撃力は鉄系の三割増しといったところで、タートル系の売りである耐久力は四倍もある。
 長旅になってもこれで安心だ。

 それが終わると、リィズと約束していたアクセサリーの作製に移る。
 場所はヒースローにある噴水傍のベンチの一つ。
 甲羅とは別にレアドロップした少量のべっ甲を用い、それほど手間取らずに完成。
 我ながら、悪くない出来だと思う。

 その次は裁縫だ。
 素材は取引掲示板で買ったデニム生地に似たプレイヤーオリジナルの合成繊維。
 それと、縫い込むことで防具全体に耐火性能を持たせることが出来るファイアーワームの糸も購入。

 どちらも高かったが……なんとエルフ耳が綺麗に全て売れたので、懐には余裕がある。
 まさか登録からたったの二日で売れるとは思わなかった。
 需要は確かなようなので、金欠になったらまた生産を考えるのもいいかもしれない。

 集中して丁寧に、やや硬いデニム風の生地にしっかりと糸を通していく。
 ……と、手元は何も問題ない。
 現実ならミシンが欲しい所だが、三割も縫えば勝手に完成するのがTBというゲームの裁縫の常なので。

 問題は、長時間同じ姿勢で居ることで感覚が無くなってきた太腿にある。
 そろそろ足がしびれてきた……。
 一度立って体をほぐしたい。ゲーム内でも体は固まるし、血は滞るのだ。
 だから――

「し、シエスタちゃん……そろそろ起きて、現実で寝なよ……」
「すぅー……むにゃ……」

 人の足を枕にして眠る少女に声を掛けた。
 彼女がここをふらりと訪れたのは約三十分前のこと。
 べっ甲アクセの仕上げのタイミングだったので、ロクに相手も出来なかったのだが……気付いたら膝の上が占領されていた。

「しかし、ゲーム内で寝て一体何の意味があるっていうんだ……?」
「……先輩、知らないんですか? ゲーム内で寝るとHPも状態異常も回復するんですよ。しかも、満腹度の消費も抑えられます」
「マジで!? って、起きたんならどいてくれよ! ……足が……もう、限界っ……!」
「貧弱ですねぇ……まぁ、鍛えてたらこんなに気持ちいい膝枕は望めない訳ですが。先輩の膝、気に入りました」
「ぬああっ!」

 答える余裕はない。
 シエスタちゃんが体を起こした直後、作製中の生地を横に置いてベンチから崩れ落ちるように地面に両手をついた。
 体重を逃がして足の血行を回復……って、こんな細かいところまでVRで再現しなくていいのに!
 あああ……NPCもプレイヤーも、不審そうな視線を俺に向けてくる。
 恥ずかしい、でも動けない。
 そのままの体勢でいると、通行人が蹴とばした石が偶然足に飛んできて――

「――!!」

 痺れている部分に直撃。
 声にならない呻きが、喉の奥から絞り出された。



「酷い目にあった……」

 ベンチに座り直し、裁縫を再開できるまで結構な時間あのままうずくまっていた。
 もうすぐこれも完成なので、一気に終わらせたいところ。
 寝起きでも一向に普段と変わらない眠そうな顔で、シエスタちゃんはそんな俺の手元をボーっと眺めている。

「ドンマイ、先輩」
「原因作った人の台詞かなぁ! それはさぁ!」
「どうどう」
「くっ……」

 完全に柳に風だこれ。まともな反応が返ってきやしねえ。
 気まぐれな猫を相手にしている気分だ……。

「……ところで、リコリスちゃんとサイネリアちゃんは? 今日は一人なの?」
「あの二人は良い子なので、今夜はもう寝ました。私は悪い子なので、こうして先輩と逢引きを……」
「不穏当な単語を聞いた気がするけど、俺の聞き間違いかな? ……はぁ。だったら、君もそろそろ寝たらどうだい? もう十時になるし、中学生には遅い時間なんじゃ?」
「――酷いです、先輩! そうやって私を邪魔者扱いするんですね……! うぅ……」
「どう考えても君の図太さで、その程度で泣くのはないなぁ……」

 噓泣きに決まってるって。
 ご丁寧に両手で顔を覆って声まで震わせているけど、余りの白々しさに俺が泣きたくなるレベルだよ。
 思った通り、降ろした手の下には変わらず眠そうな表情があるだけだ。

「――でも、同級生の男子はこれでコロッと騙されてくれますよ?」
「君の方がよっぽど酷いわ!」

 悪魔だ、悪魔が居る。
 女の武器を悪用するとは……同級生の男子も、もうちょっと良く見て気付け。
 バレバレだぞ。

「……? んー?」
「お? どうした?」

 急に何もない空間にキョロキョロと視線をやり始めるシエスタちゃん。
 その行動に俺が困惑していると、のっそりと立ち上がって小さく頭を下げて一言。

「では、私はそろそろ現実で寝ることにします。先輩、またお会いしましょう」
「お、おう、唐突だな。えーと……おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

 挨拶を残し、手を振りながらログアウトしていく。
 その行動に多少の疑問は残るが……まあいい。

 一人になったので、俺は裁縫の方に集中した。
 それから五分ほど後だろうか?
 静かな足音が聞こえたので、顔を上げるとログインしてきたリィズが隣に座るところだった。
 帽子を外して自分の膝の上に置く。

「ハインドさん」
「おう。どうだった、テストの自己採点は?」

 理世のログインが俺よりも遅かった理由は、自室で模擬試験の自己採点をしていたからだ。
 記述式の部分を除外し、記号問題だけをざっと……とのこと。

「はい。特に問題ありませんでした」

 こいつの問題無しは、イコール満点だからなぁ……優秀過ぎて、もはや競う気も起きないね。
 一時期は俺も妹に負けるかと対抗意識を燃やしたものだが、とても敵うものじゃない。
 今はもう、兄としてただただ妹の勉学の道を応援するのみである。
 頑張れ理世……お前がナンバー1だ。

「そっか、それは重畳。お疲れ様」
「あっ……ふふ……」

 頭をポンポンと軽く触ってやると、照れたように帽子で顔を隠した。
 そのまま体をすっと寄せてくる。
 今日くらいはいいかと放っておくと、不意にリィズが眉根を寄せて厳しい視線を俺に向けてきた。

「……ハインドさん」
「な、何だ?」
「ハインドさんの体から、他の女の臭いがします」
「はい!?」

 急におかしなことを言い出したリィズが、俺の周囲で鼻をひくつかせる。
 確かにさっきまでシエスタちゃんが近くに居たけど、まさか匂いなんて残ってないだろ……?

「クンクン……この太ももの辺りが、特に……」
「え゛!?」

 犬かお前は! 嘘だろ……どうして分かるんだ。
 別にやましいことはないし隠す気は無い、無いんだけど……言わない方がいいと俺の勘が激しく警鐘を鳴らしている。
 現にリィズの瞳からは光が失われ、その眼差しはもはや闇の深淵を覗き込むが如し、である。怖い。
 俺はその勘に従い、インベントリからアクセサリを引っ張り出してリィズに首に強引に着けさせた。
 突然の動きに、目を白黒させて体を起こすリィズ。

「こ、これは……?」
「ほ、ほら、イベント初日に約束しただろ? ユーミル用にイベントランキングを狙う代わりに、リィズには何か代わりのアクセサリーを作るって」
「憶えていて下さったんですか……? わあ、綺麗……」

 魔女の服が地味なので、なるべく明るい色の物を選んでべっ甲の首飾りを作った。
 色は半透明で、赤が少し混じった黄色に褐色の模様が独特な色味を形成している。
 髪飾りという案も考えたが、帽子を被ると見えなくなってしまう恐れがあったので首飾りという無難なチョイスに落ち着いた。
 性能は極上+1、魔力が+15される魔導士にピッタリの一品。

「ありがとうございます!」
「満足したか?」
「はい!」

 そりゃあ良かった。
 表情も明るくなったし、目に光も戻ってきたしで一安心だ。
 首飾りを手に取ってリィズが眺め出したので、俺は裁縫の続きへと――

「ですが、それとこれとは話が別ですよ?」
「ええ……」
「ね?」
「……はい……」

 その後、暫くの間リィズは俺にべったりと張り付いて離れなくなった。
 それもシエスタちゃんと同じ体勢で……つまりは、本日二度目の膝枕である。
 曰く、匂いを上書きするまでこのままだそうな。

 結果、ログインしてきたユーミルがキレてリィズを引っぺがすまで、俺はその体勢のままでずっとベンチに座り続ける羽目になった。
 これにより、俺の足が再び痺れたことは言うまでもない……。
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