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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

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長い夜の終わり

「疲れた……今夜は本当に目まぐるしい……」

 全力疾走後の戦闘だったので、これはこたえる。
 実際の肉体を使っている訳では無いのだが、息切れもするし不思議と疲労感のようなものも感じる。
 俺が砂浜に杖を突き刺して五体を投げだしていると、影が差して頭のすぐ横に誰かが立ったのが分かった。

「さんきゅーです、先輩。まさか本当に来てくれるとは思いませんでした。それもあんなメールで」

 内容が酷かった自覚はあるのか……あれだと相手によっては冗談と受け取るんじゃないのかな。

「……シエスタちゃん。無謀な戦闘を止められる立場に居た君には、色々と言いたいことがあるんだけど」

 言いつつ、視線を逸らしながら半身をその場で起こす。
 そのままだと見えてたんだよな、足の間の白い布が……スカートタイプの防具っていう自覚はないのか。
 無防備だと指摘するべきか、それとも黙っているべきか。

「もっと見ていてもいいですよ? 特に減るものではありませんし」
「ワザとなの!? ……そういう行為はしなって。いつか酷い目に会うよ?」

 ウェーブのかかった長い髪は目立つし、彼女はとても愛らしい顔をしているのだ。
 この眠そうな表情も、人によっては癒されるということでプラス要素になる可能性があるだろう。
 スタイルも、うん。
 トビじゃないけど、嫌でも目に付くよね……危ないでしょ、その分だけ余計に。
 しかし、彼女は感情の読めないぼんやりとした目で俺を見返してくるだけである。

「相手は選ぶので問題ないです。先輩おんりー」
「ええ……君は本当に、何を考えてるのかさっぱり分からん……」
「ご安心をー。自分でも時々、分からなくなりますから。感覚優先?」
「駄目じゃん」
「だめですねぇ」
「はぁ……文句を言う気力が削がれた……」

 あるいは、それが狙いなのかもしれないけど。

 一方、他の三人はというと大型モンスターを倒した喜びを互いに分かち合っている。
 エリアボスだったのかな……あのデカい牛は。
 レベルも1上がり、戦闘時間も長かったのでボスクラスなのは間違いないと思うけれど。
 現在のレベルはこれで31だ。

「……間に合ったのは、タイミングが良かったんだよ。丁度、他のパーティに誘われたクエストが終わった所だったから」
「へえ、クエスト。先輩、交友広い系ですか? 人たらしマン?」
「何だよ、人たらしマンって。全然そんなことないぞ? フレンドリストの人数は、君を入れて7人だから」
「ふーん……すぐに9人になりそうですけどねー。ふわぁぁぁ……ねむー……」
「?」

 欠伸あくびをしながら、シエスタちゃんが背を向けて数歩進む。
 急に距離を取ったことを不思議に思っていると……三人分の走る足音が接近し、俺の前で急停止する。
 目の前には砂の波が押し寄せ――

「わぷっ!?」

 しこたま砂を浴びることになった。
 口の中がじゃりじゃりする……目だけは辛うじて守ることができたが。

「あ、すまんハインド」
「「ごめんなさーい」」
「君達ね……」

 立ち上がって砂をはたき落とす。
 塊で乗っかった砂が、ザラザラと服から落ちて砂浜に返っていった。
 そんな俺に、目を輝かせた女子二人が勢い込んで話し掛けてくる。

「絶対勝てないと思ったのに、戦い方一つであんなに違うものなんですね! ユーミルさんのワイルドな動きも格好良かったですけど、私、感動しました! ハインドさんが居てこそユーミルさんも輝くんだって!」
「アローレインの連射、痛快でした! あの、もし嫌でなければ色々と教えて下さい! 参考にしたいです!」
「お、おお……」

 余りの勢いに押され、俺は思わず一歩下がった。
 助けを求めてユーミルを見ると、腕を組んで一言。

「と、いうわけだ! この二人ともフレンド登録するのだ、ハインド!」
「どういう訳だよ……別にいいけど……」
「「ありがとうございます!」」

 しかし、短い時間で随分と仲良くなったもんだ。
 シエスタちゃんは三人の中でも常に一歩引いた感じなので、別として。
 未祐みゆは元々年下の女子に慕われやすく、学校でも人気者なので納得の結果ではあるのだが。
 特に世話好きって訳でも無いのに、不思議といえば不思議な……リコリスちゃんも言っていたように、年下の女子にはアレが格好良く見えるのだそうだ。
 理世に言わせると粗暴で野蛮なだけ、となるので受け取り方次第ということかもしれない。

 フレンド登録を済ませた後は、さすがに長時間プレイしたこともあって解散の流れに。
 中学生が起きているには遅い時間でもあるし……あ、彼女たちはやはり中学生だそうだ。
 明日は休日なので、そういう時だけ多少の夜更かしが許されるのだそうな。

 全員でヒースローの街に戻り、この日はログアウトするということになった。



 部屋から廊下に出ると、理世りせの部屋から明かりが漏れているのが見える。
 まだ起きているのか……頑張ってるなぁ。
 少し遅くなったが、起きているなら予定通りに温かい飲み物でも差し入れようか。

 一階のキッチンに降りると、鍋を火にかけて牛乳と豆乳をブレンド。
 ココアパウダーと砂糖を入れてかき混ぜ、温まったらホットココアの完成だ。
 喫茶店によっては胡椒こしょうとか塩が入る場合もあるそうな。

 ココアを持って部屋のドアを弱めにノックするが……返事がないな。
 理世は勉強する時に音楽を掛けたりしないので、聞こえないということはない筈だが。
 「入るぞ」と一声投げてからドアを開けると――そこには机に伏せて寝息をたてる理世の姿が。

 ……作ったココアは自分で飲もうかね。
 机の上に一度カップを置き、ベッドの布団を先にまくっておく。
 中から出てくるカラフルなパッチワーク製の抱き枕は、例によって俺の古着で作られたものだ。
 裁縫初心者の頃に理世が配置を考えて俺が作った、思い出深い一品。なので、少し出来が荒い。

 幸い理世は寝間着ねまきで勉強していたようなので、そのまま小さな体を抱えてベッドに運ぶ。
 静かに寝かせて掛け布団を掛け、その場を離れようと――

「ん!?」

 したが、何時の間にか服の裾をがっしりと掴まれている。
 優しく手を解こうとすると、益々力を入れて放すまいとしてくる……本当は起きているんじゃないだろうな?

「はぁ……」

 仕方ないので手を伸ばして理世のデスクチェアを引っ張ると、それを使ってベッドの横に腰掛けた。
 ココアも……っと、ギリギリ届くな。
 それを飲みながら、理世が手を放すまで傍に居ることにした。
 理世の部屋は整理整頓されていて、女の子にしては小物とかが少ないんじゃないだろうか。
 いや、理世と未祐の部屋しか知らないんだけどさ。
 ちなみに未祐の部屋は俺が掃除しない限り散らかり放題である。

 そのまま何とはなしに部屋をぐるりと眺めると、こちらを見ている俺と目が合った。
 ……いや、鏡ではなく。
 机の上に写真立てがあるのだが、そこには制服を着た俺の写真が。
 いつ撮ったんだろう、あれ……少なくとも俺の記憶にはないな。
 気が付くと違う写真に更新されているんだよな……理世の部屋に入る度に、違うものを見掛けるような気がする。
 家族の集合写真ならばともかく、自分単品の写真が机に飾られているのはかなり恥ずかしい……出る時に伏せとこう……。

「んぅ……」
「おっ」

 理世がうめいて手を放したので、俺はすかさず椅子から立ち上がった。
 ちょうどココアも飲み終わったところだ。

「うぅ……」

 すると心細そうに手をもぞもぞと動かしたので、俺は空いたカップを机に置くと抱き枕を理世に掴ませる。
 顔を抱き枕に押し付けるようにギュッと抱え込むと、安心したような表情と寝息に変わったので、そのまま部屋を後に――

「あ、忘れる所だった」

 最後に自分の写真をぺいっと机に向けて伏せると、俺は電気を消して理世の部屋からそそくさと自室に戻っていった。
 おやすみ、理世。
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