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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

ギルドホームを作ろう

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山頂に響く嘆きの叫び

「ストップ、ワルター。そこで止まってくれ」
「はい?」

 ワルターを制止し、それ以上進まないように指示を出す。
 俺は姿勢を低くすると、慎重に数歩先の草むらを掻き分けた。
 野生動物が踏み荒らしたにしては、不自然な痕跡がある。
 ……っと、あったあった、やっぱりな。

「見ろよ、ワルター」
「これって……ロープですか?」

 足に引っ掛かる高さに、ピンと張ったロープが設置してある。
 坑道の入り口がここから薄っすら見えるので、もしやと思ったが……。
 ロープを視線で辿っていくと、木の陰に侵入者感知用の鳴子がぶら下がっている。
 その他にも、数個の罠がカモフラージュされながら設置されている。
 これだけ厳重な警戒ならば、恐らく間違いないだろう。

「うん、どうやらこっちが当たりみたいだな」
「凄いです、師匠! あ、でも……師匠が敵のボスがここに居ると予想した理由、まだ聞いていませんでしたよね?」
「ああ、そうだったな」

 ワルターに俺の真後ろを同じ足運びで歩くように頼み、ロープをまたぐ。
 続けて移動して後ろに付いたワルターは、俺の上着の裾をギュッと掴んだ。
 うん、そういう所作はワザと――じゃなく、天然だろうな……。

「敵のリーダーの頭が切れるって話はしたよな?」
「はい。そこまではお嬢様と一致した見解でしたよね?」
「そうだな。で、ヘルシャは各所に指示を出しやすい中央付近に居ると予想したんだろう。でも、俺は――」

 話しつつ、大量の罠に掛からないように慎重に進んで行く。
 結構いやらしい配置をしている……トラバサミや落とし穴がメインなので、特に足元には注意が必要だ。
 その内の幾つかには、小型のモンスターや動物が掛かったままになっているものもある。
 ちゃんと処理しろよな……。

「――山賊のリーダーをやるような品性のヤツは、もっと臆病で卑怯だと踏んだ訳だ。それで、最も街から遠く逃げやすいここだと予想したってことになる。って、これだけ自慢気に話をしておいて、もし中に誰も居なかったら笑えないが」
「いえ、これだけ過剰な量の罠ですから……ボクは師匠の言う通りだと思いますよ」
「だといいけどな――と、ようやく着いたな……」

 100メートルそこそこの距離を進むのに、軽く五分以上は掛かってしまった。
 木材で組まれた坑道の入り口の奥は非常に暗い。
 俺が入り口に罠は無さそうだと告げると、ワルターが先に入ろうとするが――

「待った」
「え? またですか?」
「そこの岩壁、色に違和感が……」
「あ、本当ですね。時代劇のセットみたいな色です」
「ちょっと動かして――あ」

 俺が軽く触れると、岩に見えたそれはただの灰色に塗られた布で……。
 重しの石を除け、ぺらぺらと揺れる布をめくるとぽっかりと穴が口を開けている。
 確かに遠くから見ると分からないが、子供騙しのような入り口の隠し方だった。
 それとも、侵入者がここまで来たとしても正規の坑道の入り口に意識が向くから、これで充分という意図なんだろうか?

「……行くか。こっちだろうしな、正解ルート」
「あ、師匠、ボクが先に。前衛なので、神官の師匠よりは何か起きても大丈夫です!」
「ありがとう。じゃあ、頼むわ」

 念のためにワルターに『ガードアップ』と『レジストアップ』を使用。
 穴は狭いので、一列で順番に這って進んで行く。
 ……。



「ヒヒヒッ、単細胞のバカどもを上手く使ってやるだけでこの成果……全く、笑いが止まらんなぁ」
「「……」」

 語るに落ちるとはこの事か。
 積み上げた金貨を並べ、金勘定をしている男は俺達が背後に立っても気付く様子がない。
 ランタンの光が照らす薄暗い坑道の一画。
 やや据えた臭いが籠るその部屋には、強奪したらしい金品が積み上げられていた。
 狭い上に寝床も無いので、どうやらここは財宝を保管する隠し部屋のようだ。

「あのー……これって、もう攻撃しても……?」
「……ああ、いいぞ」
「!?」

 男が俺達の声に振り向いた直後、拳を固めたワルターが懐に飛び込む。
 痩せぎすの男は、その攻撃に吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
 faint! という表示が出て、ゲーム側から男が気絶したことを知らせてくる。
 一撃か、あっけない。
 しかし、綺麗な正拳突きだったな……スキルの補正だけでは、こうはなるまい。

「ワルターって、もしかして格闘技経験者なのか?」
「はい。空手の道場に少し……」

 容姿は可憐でも、戦闘力は高いのか……俺、例の質問をして怒らせるのが怖くなってきたよ……。

 その辺に落ちている布の切れ端やロープを使い、気絶した男をしっかりと拘束しておく。
 これは、ワルターと二人で運ぶのは大変だな……いくらこの男が軽そうとはいえ、背は高い。
 トビを連れてきて俺と二人で持たないとダメか。
 荷台のようなものがあれば別だが。

「よし、一旦あっちと合流しよう。こっちにリーダー格が一人で居たってことは、向こうが大勢に囲まれている可能性もある」
「はい、師匠」

 意識の無い男をその場に転がしたままにして、俺達は坑道の中央部へと足を向けた。



「何だこれ……」

 それは異様な光景だった。
 体つきのいい荒くれ者たちが、揃って平伏している。
 対するは鞭を振りかざして凄むヘルシャ、隣でオロオロしているだけのトビ。
 しかも、その状態のまま何か言い争いをしている様子だった。

「で、ですがあねさん! 団長は俺達にきちんと稼ぎを分配して……」
「そんな訳がありませんわ! 貴方達の収入と、奪われた被害額がさっぱり一致しませんもの! 被害額を多めに申告した不届き者が居たと仮定しても不自然で――あら、ハインド、ワルター」

 こちらに気付いたヘルシャが視線を向ける。
 「姐さん」て……荒くれ者達は怪我をしている者も居るが、恨みの篭った目をしている者は誰一人として居なかった。
 ……まさか、山賊達全員の心を掌握したってのか? この短時間で?
 恐ろしい奴だな。一体どんな手を使ったんだ?

「えっと……まずは無事で何より。で、こっちでリーダーは捕まえたぞ。かなりの財宝が隠し部屋にあったから、ヘルシャの言う事に間違いはない。奴は一人だけ私腹を肥やしているぞ」

 俺の言葉を聞いた山賊達が口々にわめきだす。
 もはや収拾がつかなくなるかと思われたその時――

「お黙りなさい!」

 鞭を一閃、甲高い音を鳴らして地面を叩いたヘルシャが一喝して場を収めた。
 それに留まらず、更には次々と指示を下していく。

「副団長!」
「へ、へい! 姐さん!」
「貴方が行って確かめて来なさい。ハインド、トビ!」
「あ、ああ。そいつに隠し部屋を見せるついでに一緒に行って、団長とやらをここに連れてくるよ」
「頼みますわね。ワルターはここに残りなさい」
「は、はい! お嬢様!」

 その後、異様な統率力を発揮したヘルシャの手により一気に事態は進展。
 部下達の前に引っ立てて来た団長に全てを吐かせ、ヘルシャに心酔してしまった副団長が自ら出頭すると宣言。
 部下達もそれに続いた。

 ちなみに当初、部下達の前で白を切る団長に対するヘルシャの責めは、それは苛烈なものだった……ヘルシャ以外の全員が顔を青ざめさせるほどに。
 普通、本当に生爪を剝がそうとするか? これは全年齢対象のゲームなんだぞ?
 どうにか止めることに成功したので、それは未遂で済んだが。
 俺だって見たくないしな、そんなもの……。
 ヘルシャの本気度を感じ取った団長は、慌てて全て吐くことにしたようだった。

 その痩せぎすの団長に上前をねられていた部下達は、どうやら強盗はしても殺しはしていなかったらしく……自首と合わせ、どうにか死罪だけは免れるだろうというのがヘルシャの予想。
 駄目だった場合は、ヘルシャ自ら町長に対して助命嘆願を行うとまで約束した。
 その言葉に泣くほど感激している山賊が居たのが何とも……。

 そうして一段落ついたので、慌ただしく坑道内を動き回る山賊達を俺はトビと並んで眺めている。

「盗みを働いていた張本人達が、こうして返す為に財貨を運び出しているのはおかしな光景でござるな……拘束していないというのに誰も逃げないでござるし」
「ああ、そうな……ヘルシャの影響力――というか、支配力の賜物か。ちょっと開いた口が塞がらないが……ところでトビ。ワルターの件に関して、俺はお前に謝らにゃならんのだが」
「! もしかして、ハインド殿の勘が外れて女性でござったか!?」
「いや、嬉しそうな顔をしてるところ悪いんだが――実はまだ分かってなくてな」
「おう……」
「なので、もうワルターに直接聞こうかと思うんだが……」

 そこで都合よく、ヘルシャとワルターが近くを通りかかる。
 呼び止めようと一歩踏み出したところ……

「はあ!? それでは、ハインドが居なかったらトラップに引っ掛かって逃げられていたではありませんか! 全くだらしない……だから他の使用人に馬鹿にされるのですわよ。何かにつけて()()()()()()だなんて言われて、悔しくありませんの?」
「でもでも、師匠は本当に凄いんですよ! ボク、何だか執事修行もやる気が出てきました! 今後は気持ちを入れ替えて、師匠みたいになれるよう頑張ります!」
「へえ……少しはマシな顔ができるようになったみたいですわね。またハインドに借りが出来てしまったみたいだけれど」

 致命的な一言が俺達の――特にトビの耳朶じだを打った。
 男らしくない……男らしくない……つまり、ワルターは……。

「アイエエエ!? オトコノコ!? オトコノコナンデ!?」
「ひぃっ!? どうしたんですかトビさん!? た、確かにボクは男の子ですけど……」
「アバーッ!?」

「二人とも、こちらに居ましたの? 探してしまいましたわ」
「あ、ああ。それよりトビが……」

 この世の終わりのような表情でワルターに詰め寄ったトビは、他ならぬ本人の口から止めの一言を聞くと、うずくまって悲痛な叫びを上げた。
 何というか……その、ごめん……。
 俺は気の毒で、それ以上トビを見ていることができない。
 気が付くと、ヘルシャに事実の念押しのような話をしてしまっていた。

「ほ、ほら、ワルターって女顔じゃんか? だから――」
「? でも、しっかりと執事服を着てますわよ? それを見れば男だと分かるでしょう?」
「そ、ソウダネー。ソノトウリダネー……って、分かるか! 無理だよ! 見た目で判断しろってんなら、ありゃ完全に反則だろ! ふざけんな!」
「くくっ、ははは……ひゃはははははははははは! イーッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」
「と、トビ!? トビが壊れた!? しっかりしろぉ! だ、誰か! メディック、メディーーーーーーーーック!!」
「何が起きているのかさっぱり理解できませんけれど……衛生兵は貴方では? ハインド」
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