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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

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自然な笑顔で

 俺たちの最終的な記録は35階層突破で確定し、『王都ワーハ』へと帰還することにした。
 ダンジョン傍に待たせておいた馬へと乗り込み、力んでいた体を軽く解す。
『グラドターク』の馬首を並べて、ユーミルが俺と同じような動きをした。
 長い息を吐いて腕を回したりしている。

「ダンジョン別の場合は、特に記録更新のアナウンスなどはないのだな」
「前回の様子からいって、あるとしたら誰かがどこかのダンジョンの40階層を初突破した時点だろうな。このまま突破者が出なかった場合は、レベルキャップ解放直後の競い合いになるんじゃないか?」

 解放幅にもよるが、純粋に突破が容易になるので早い者勝ちになる可能性も高い。
 全員が馬に乗ったのを確認し、移動を開始する。

「私が言うのも何だが、それだと芸がないな」
「レベル差が埋まったことによる順当な突破になりますからね。ユーミルさんにしては、正しいことを言っているのではないかと」
「貴様は毎度毎度、一言余計だとは思わんか? あ?」
「あ、えと……れ、レベル解放前に誰かが突破してくれると、張り合いがあるよね!」
「セレーネさん、こいつらのやり取りにそんな気を使わなくても大丈夫ですよ……疲れちゃいますよ?」
「く、くく……」

 あ、今のやり取りの何かがアルベルトさんの笑いのツボに入った。
 今のレベルが最大になってから結構経つし、次のイベント辺りが怪しいんだよな。
 それとも新規の呼び込み中だから、まだ今のレベルままで引き延ばすのか……。
 どちらにしても、みんなが言うように誰かが戦術なり特化装備なりで工夫して突破してくれた方が面白いと思う。

「ふーっ……他人事のように言っているが、お前たちがそれを為しても構わないのだぞ?」
「あー、どうなんでしょう。今回は純粋な盾職がいませんでしたからね。トビかリコリスちゃんがいれば、もう少し違ったかな? どちらかといえばリコリスちゃんか」
「む、トビでは駄目なのか?」
「あのイタチの体当たり、風部分と本体部分で2ヒットするじゃん? 空蝉との相性がどうしてもな。しかもすばしっこくて攻撃を躱しにくいから、多分リコリスちゃんのほうが安定すると思う」

 その上、数もやたらと多かったからな。
 しっかり攻撃を受け切ってなお耐える、そんな状況を作れれば一番だ。

「イタチの風部分は魔法攻撃ですしね。風霊に至っては言わずもがな、ですから。ハインドさんの仰る通り、騎士の防御型ガードタイプが適任かと」
「今の私たちのパーティで何とかするとしたら、範囲攻撃の回し方になるのかな?」
「ですね。グラウンドインパクト、バーストエッジ、ブラストアロー辺りのスキルをもっと上手く当てられるように誘導できていれば……時間があったら、もう一回挑戦したいくらいの気持ちですよ。反省点ばっかりだ」
「初見にしては、ハインドは上手く対応できていたほうだと俺は思うが……それらを詰めてこその記録という訳だな。ダンジョン攻略というのも、中々に奥が深い」

 スキルは各人の判断で撃つ場合も多いが、大抵初撃の大技は俺の指示によるものだ。
 イタチをなるべく多く巻き込むように――できればよかったんだけどな。
 反省会と雑談の入り混じった会話を重ねつつ、砂漠を通って帰還。
 最初に街の宿でアルベルトさんが、ホームに戻ってセレーネさんとユーミルといった具合に次々とログアウトしていく面々を見送っていく。

「ハインドさんは、まだログアウトなさらないのですか?」

 俺の傍を極近い距離で歩くリィズが、袖を捉まえて小首を傾げる。
 場所はホームにある、個室に続く廊下の辺りだ。

「スクショ関係をちょっとな。悪いけど、先にログアウトして寝ていてくれるか?」
「はあ……あの、差し支えなければ、どなたを撮るのか教えていただいても?」

 俺がNPC部門にエントリーするというのはリィズにも伝えてある。
 ただ、みんな「見てからのお楽しみ」といった風情で、何となくどんなスクショにするかを詳しく教え合ってはいない状況だ。
 隠すようなことはないので、気になるのであれば別に教えてしまっても構わない。
 という訳で――

「クラリスさんだが」
「……」

 リィズの視線が目に見えて鋭くなった。
 全身から不機嫌ですと言わんばかりのオーラを発散しまくっている。
 その反応は予想できていたけどさ……どんな意図でそうなったかを話すために、俺は個室へとリィズを招いた。

「とりあえず最後まで話を聞いてくれ。少し前に俺たち、商業都市に行っただろう?」
「はい」
「そこのプレイヤーたちがさ、もちろん商売が上手く行っていないプレイヤーも中にはいるんだけど――」
「ええ」
「自分で作ったものや本当にいいと思うものを笑顔で薦めたり、それが売れた時の嬉しそうな顔を見て、なんかいいなって……そう思っていたら、自然とクラリスさんの顔が頭に浮かんでさ」
「……」

 俺の言葉に共感できる部分があったのか、険のあったリィズの表情から力が抜ける。

「つまり、ハインドさんは活き活きとした商売人の表情を撮りたいと?」
「そう直球な表現をされると恥ずかしいが……ま、まぁ、そうだ。おかしいかな?」
「全然おかしくないです。しかし、なるほど……プレイヤーを撮影したものは提出不可ですし、クラリスさんを選んだ理由としては……仕方のない面も……」

 リィズは部屋の中を考え込むようにしながら往復し、一つ頷く。
 そして俺に軽く抱きついてから離れると、言葉を続けた。

「え、今の何?」
「気にしないでください。そういうことでしたら、特に私から言うことはありません」
「理由によっては何か言うつもりだったのか?」
「当たり前じゃないですか」

 当たり前なのか……。
 それはそれとして、クラリスさんが商会に戻ると聞いていた時間が近付いている。
 そろそろ行かねばなるまい。

「ハインドさんの女性NPCを撮る理由が真っ当過ぎて、トビさんのスクショが酷くけがれて見えます」
「確かにあれは、あらゆる意味で欲望の産物だろうが……そんなにか?」
「ハインドさんがこれから撮るであろうスクショを見せれば、トビさんを浄化できるかもしれませんね」

 そこまで素晴らしい写真を撮れるかどうかは、自信がないが……。
 自分の部屋に帰らずに、そのままログアウトしていくリィズを先に見送る。
 それから俺は、一人ホームを出て街にある『クラリス商会』を目指した。



「ハインド様、お待ちしておりました! 何度か私に会いに、商会にご足労いただいたそうで。今日までお会いできず、本当に申し訳ありません」
「最近お忙しそうですね、クラリスさん。商会としてはいいことだと思いますけど、どうかお体にはお気をつけください」
「あっ……ありがとうございます! ハインド様のお顔を見ると、とてもホッとします……」

 クラリスさんのほうが断然癒し系だがな。
『クラリス商会』の応接間で、俺は久しぶりにクラリスさんと向かい合って座っていた。
 激務のせいか少し疲れ気味に見えるが、優しい笑顔とほんわかした雰囲気は健在である。

「ところでクラリスさん。今日は折り入ってご相談が――」
「はい?」

 俺はスクショに関してクラリスさんに協力をお願いした。
 最初はスクショの画面も撮ったスクショも見えないながらも、こちらを意識して緊張していたクラリスさんだったが……。
 商会の雑務の手伝いをしたり、客のいない間に雑談をしたりしてどうにか場に溶け込む努力を続けた結果、笑顔で接客する「普段通りの彼女」を上手くスクショに収めることができた。
 ちょっとスクショコンに出すのが勿体ないくらいに魅力的な表情だが、俺はこの一枚でエントリーをすることに決めた。
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