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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大型アップデートと新コンテスト

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レクス・フェルス討伐戦

 大猪の体が目の前に近付いて来る。
 ――どうしてだ?
 ヘイトの累積値から言えば、今の段階で真っ先に狙われるのはローゼのはず。
 分からない……分からないが、ともかく突進を避けなければ!
 そうは思うのだが、揺れるが残る足元に体は思うように動かない。
 視線の先で走る猪の頭がグッと沈み込む。
 駄目だ、間に合わない! ……思わず目を閉じた直後。

「ハインドッ!!」
「――!?」

 肩に衝撃が走り、俺は地面を転がった。
 庇うために突き飛ばされたのだと理解したのは、起き上がった直後のことだ。
 揺れを物ともせずに駆け付けた弦月さんは、後は任せたと言わんばかりに笑い――。
 直後、『レクス・フェルス』の強烈なしゃくり上げによって俺の前から消えた。

「……げ、弦月さぁぁぁん!!」
「っ、このデカ猪! よくも弦月を!」

 激昂したローゼが後ろから大猪を何度も斬り付ける。
 その間にエルデさんが冷静に『ヒールオール』を使用し、『アースクエイク』で減った全員のHPの回復を図ってくれる。
 ありがたい、助かった!
 ローゼは敵が土魔法を使ったのを見て、魔法剣を風属性の『ウィンドソード』に変更。
 目論見通り弱点属性だったのか、表示されるダメージが伸び始める。
 しかし大猪はローゼの攻撃を意に介さず、今度は頭をエルデさんの方へと向けた。

「何でっ!? 止まれ、止まりなさいよっ! こっちを向けぇ!」

 ローゼがヘイトを高めるスキル『騎士の名乗り』を使用するも、『レクス・フェルス』は進路を変えない。
 俺は頭をフル回転させつつ、空に飛ばされた弦月さんの落下地点を探す。
 直後にグシャっと大きな音を立てて地面で跳ねた弦月さんの体は、既にその前の時点で戦闘不能であることを示す灰色だった。
 落下の痛みが反映されていないだろうことが唯一の救いか……弦月さん、すみません……。
 それにしても、位置が遠い。どう動けば今の状況を立て直せる?
 ここから『聖水』を投げても弦月さんまでは届かない、そして何よりも敵の動きが読み切れない。
『リヴァイブ』の詠唱を始めてはいるが、ヤツはどうしてローゼを狙わないんだ?

「ひゃっ……!」
「エルデェェェ!」

 その間にもエルデさんが木に叩きつけられ、戦闘不能が二人になってしまう。
『レクス・フェルス』は動きを止めることなく、またこちらを向いて走ってきた。
 魔法のスキルは「使用時」にヘイトが上昇するはずなので、やはりこれはおかしい。
 俺はまだ『リヴァイブ』を使用していない。
 距離があったことで辛くも突進を回避すると、再度こちらに攻撃を仕掛けてくる。
 リィズが『ダークネスボール』を放ち、速度を下げてくれたことでその場でのしゃくり上げから二度目の回避。
 が、地面を抉るしゃくり上げの土塊が当たり、『リヴァイブ』の詠唱がそこで途切れてしまう。
 それでもその場から『レクス・フェルス』は動く気配がない。こちらだけを狙い続けている。
 そこに来て、俺はようやくこのモンスターの知能が高いという肉長老の警告の理由に思い至った。
 ……なるほど、確かに賢い!

「――こいつ、ヘイト無視で回復役を優先して狙ってやがる! 間違いねえ!」
「何ですって!? あんのジジイ、特殊行動持ちならちゃんと事前に教えておきなさいよ!? ふざけんな!」
「ローゼ、走れ! 走って弦月さんをアイテムで蘇生させてくれ! まだ間に合う! リィズはグラビトンウェーブを頼む!」
「はいっ! すぐに!」
「ハインド、アンタは!?」
「俺は――うおおっ!?」

 即死級の激しいストンピングを躱し、地面を無様に転げ回る。
 ヘイト無視攻撃、それと林を利用したランダム攻撃……このゲームにおいて、初見殺しを発生させる最悪の要素が目の前のこいつには詰まっている。
 しかも特殊行動の発生がHPを二割削った早い段階と、これも他のモンスターとは大きく違う部分だ。
 二回目の攻略になればまず負けることはないだろうが、その理不尽な仕様に俺は段々と腹が立ってきた。
 目の前のデカい顔した猪が嗤っているようにすら感じる……この野郎。
 意地でもここからパーティを立て直して、一回でクリアしてやる。二度目はない!

「俺はどうにか逃げて時間を稼ぐ! エルデさんを起こしたら、俺よりもヘイトを稼ぐ行動をしないように言ってくれ!」
「わ、分かった!」

 弦月さんに庇われた後、大猪は『ヒールオール』を使用したエルデさんへと目標を変えた。
 つまり、回復役の中でのヘイトの上下はしっかり反映されている。
 俺は指笛を吹いてグラドタークをこの場に呼んだ。
 躱し切るための機動力が足りないなら、他から足せばいい!
 しかし、その前に大猪が長い牙の付いた顔を大きく振り上げた。

「この一撃だけはっ!」

 自力で避けなければ!
 脚に力を込め、踵を浮かせて吠える大猪の攻撃に備える。

「ハインドさんっ!!」

 後方からリィズの声が響き、体がズンと重くなる。
 ――間に合ってくれた!
『グラビトンウェーブ』は重力を倍加させ、対象にダメージを与える範囲魔法だ。
 巻き込まれて自分の体も重くなるが、元の体の重さが俺の比じゃない『レクス・フェルス』の動きは更に遅くなった。
 水中で動くように、ゆっくりと薙ぎ払われる牙を躱し……距離を取ったところで、魔法が切れる。

「ブルルルルッ……」
「グラドターク!」

 現れた頼もしい黒毛の馬に、俺は一気に飛び乗った。
 そのまま『レクス・フェルス』の周囲を六~七割の速度で回り始める。
 そして攻撃が来る瞬間だけ、速度を上げて全力で走らせて躱していく。
 こちらの安定した回避行動を見たリィズが、詠唱をキャンセルしてエルデさんの蘇生へと回る。
 横目でちらりと見ると、弦月さんは既に立ち上がりアイテムでHPを回復させているところだった。
 どうやらローゼと早口で何かを話し、状況把握に努めている模様。

「よし、このまま逃げて時間を――」
「ハインド、こっちだ!」
「――ん!?」
「ちょ、弦月! あんた正気!?」
「ローゼ、君は巻き込まれないように離れていろ! こっちだ、ハインド!」

 弦月さんが手を上げて呼んでいる。
 止めるような素振りを見せるローゼが気になるが……弦月さんはそれを制して俺を呼び続けていた。
 譲らないと見たのかローゼが慌てて離れたので、俺はグラドタークと共に弦月さんの下へと走る。
 速度を落とし、伸ばした彼女の手を掴んでグラドタークの上へと引っ張り上げた。

「おっとと! フフ、息ピッタリじゃないか私たち。それとも、君が人に合わせるのが上手いのかな?」
「弦月さん、この相乗りに何の意味が!? つい反射的に拾っちまいましたけど――」
「後ろ、来てる!」
「え!?」
「右へ旋回!」
「ぬおおっ!?」

 体重移動に加え腹を蹴りながら手綱を引くと、それに過不足なく応えたグラドタークが旋回する。
 地面の振動が伝わるほどの激しいストンピングに肝が冷えるが、弦月さんは動じた様子もなく前に座ったまま相乗りの意図を伝えてきた。

「――正気ですか?」
「ローゼにも言われたよ、それ。しかし名馬と駿馬の馬力の差、そして背の高さの違いを考えると……グラドタークなら恐らく可能だ。なに、失敗しても私が戦闘不能になるだけだ。それに、そうなっても君が何とかしてくれるのだろう? 奴のHPは多過ぎるし、今のままでは余裕で一時間コースだ。時間短縮を考えると、試す価値は充分にあると思うのだが」
「無茶苦茶言いますね! 不思議と耳触りよく合理的に聞こえますけど、実行する内容を考えたらやっぱ無茶ですよ! メリットが時間短縮しかねえ!」
「君は騙せないねぇ……そう、私は無茶を言っているよ」

 相乗りで下がった速度では『レクス・フェルス』の攻撃を躱すのがギリギリとなる。
 話しながらも、必死に手綱を操って進路を調整。
 視界の真横を茶色い物体が、さながら砲弾のような勢いで通り過ぎていく。
 ひぃぃ!

「ローゼから私が寝ていた間のことは聞いたよ。レクス・フェルスの特殊行動の分析と対応、実に見事だった。ハインドがいなければ、きっと私たちは今ごろ全滅していただろう。庇った甲斐があった」
「……弦月さんって、割と人たらしのがありますよね。そうやって褒め殺しでギルメンを増やしてきたわけですか?」

 だとすると、非常に得心が行くのだが。
 彼女のそれはさっぱりとしていて、相手が妙な勘違いをすることもないだろうし。
 アルテミスのメンバーを見ていればそれがよく分かる。

「ハハッ、否定はしない。ハインドのような一筋縄ではいかないタイプは特に燃えるね。弓術士じゃないのがとても残念だよ。しかし、君が後ろにいるこの安心感……故に、無茶をしたくなる勇者ちゃんの気持ちが今なら私にもよく分かる。さ、行こうか!」
「どうなっても俺は知りませんからね。リィズ!」
「!」

 無茶な作戦の成功率を少しでも上げるため、俺はリィズの名を呼ぶ。
『マジックアップ』をリィズに使用すると、意図を察したようにすぐさま詠唱を開始した。
 まずは『レジストダウン』から……よし、効いた。
 さすが我が妹、分かっている。
 デバフの成功率は術者の魔力と対象の魔法抵抗の値で決まる。
 先程はリィズに『マジックアップ』を使っておらず、しかも今『レジストダウン』が効いたので、他のデバフの成功確率も上がってくるはず。
 ローゼはリィズが蘇生したエルデさんに回復を施しながら戦況説明中、俺たちはそのまま回避を続行。

「ハインド、スロウが入った!」
「よっしゃ、行きます! 準備を!」

 グラドタークの腹をリズムよく強めに蹴る。
 そして突進してくる『レクス・フェルス』へと速度を上げて向かっていく。
 ぶつからずにすれ違えるように、しかし遠すぎないよう細心の注意を払って進路を調整。
 後は余計な動きをせず、グラドタークの挙動に任せて俺は踵を下げる。
 対照的に弦月さんは、グラドタークの背で足を鞍に掛けた。

「では、行ってくる――よっ!」

 グラドタークが『レクスフェルス』の横ギリギリを抜けていく。
 タイミングを計り、そのグラドタークの上から――弦月さんが跳んだ。
 普通に考えれば馬が走る振動で上手く跳べるわけがないのだ、普通は……あの人、やっぱ普通じゃない。
 抜群のバランス感覚で大ジャンプを成功させると、弦月さんは『レクス・フェルス』の背に両手で持った剣を突き立てた。
 激しく上下に揺られながらも、そのまま刺した剣と毛を掴んでどうにかよじ登っていく。

「……っしょ、と。はは、これで私たちの勝利は盤石か。観念するといい……と獣に言っても、特に意味はないがね。覚悟っ!」
「うーわ、本当に上に乗っちゃったよあの人……」

 やっていることはクラーケン戦のそれに近い。
 しかし『レクス・フェルス』は背に乗った弦月さんに対して何の攻撃もせず、そればかりか振り落とそうとする気配すらない。
 未だに回復役を優先して狙うという思考パターンを依然優先しているからだろうか?
 グラドタークに乗った俺に対し、当たらない攻撃を続けるばかりだ。
 右手に『精霊の加護』を纏った剣を、左手で毛を掴みながら弦月さんが背を豪快に斬り裂き始める。

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 背中で盛大に血飛沫が舞った。
 俺はなるべく大猪が突進攻撃を出さないように、近い距離をキープして旋回を始める。
 更にはリィズの防御ダウンデバフが両方効き、エルデさんの回復を終えたローゼが魔法剣を出しつつ参戦再開。
 後は特に語ることはない。
 最終的には安全地帯と化した背で弦月さんがダメージを最も稼ぎ、大猪は轟音を立てて広場へと倒れた。
 掛かった時間は全部で約40分超――弦月さんの活躍で大きく短縮されたものの、レイドボス並の長い長い戦闘がようやく終わった。
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