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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大型アップデートと新コンテスト

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薔薇の花束に願いを込めて

 それから数日間、俺はローゼの調理技術の指導に熱を入れることに。
 ローゼは生徒としては非常に真面目で、それだけギルドの立て直しに必死なのが伝わってきた。
 それと、今日は生徒会の仕事が終わったユーミルからのメール攻撃が激しい……今頃は、同じく復帰したヒナ鳥たちと共にサーラで元気に農具を振り回していることだろう。
 帰ったらちゃんと構うので、もう少し待っていて欲しい。

 他には、俺がローゼに掛かり切りの間、他のメンバーは料理コンテストの審査員である王家のNPCに関して調べてきてくれたそうで。
 弦月さんが過去に王家のクエストをいくつか受けていた関係で、直ぐに謁見できたため探りを入れるのはそれほど難しくなかったとのこと。
 すっかり使い慣れたアルテミスの調理室で、今は弦月さんがその結果をまとめて俺に教えてくれている。

「まず、お菓子部門の王女様に関してだがね。味に関してはもちろん、お菓子の見た目にも大変こだわりがあるとのことだ。ハインドの予想が見事に当たっているね。配点も、僅かにそちらに偏りそうな感じか」
「まあ、女の子ですしね。目で見て楽しめる仕上がりになるよう、あれから改善を続けましたから」
「路線変更の必要がなくて、助かりましたねぇー」

 エルデさんの言うように、味重視ならもう少し時間を使ってレシピを変更する準備もしていた。
 しかしローゼは余り器用ではないので、ここに来て変えずに済むことに正直ほっとしている。
 そして日曜日の今日……普段よりも余裕のある時間を活かし、ローゼは薔薇のお菓子の総仕上げへと取り掛かっている。
 短い期間だったが、俺が教えられることは全て教えたつもりだ。

 ローゼはこちらの話に一切反応することなく、黙々と作業を続けている。
 調理開始前に集中できるように一人にした方が良いか? と訊いたところ、なるべく普段通りにしていて欲しいと彼女から要望があった。
 なので、俺たちはそのまま横で話を続けることに。

「では、王様の方はどうでした?」
「王様は王女様の真逆だね。美味しければどんなゲテモノでも、見た目が悪かろうと食べるグルメの化身のような人物さ。あらゆる種類の解毒薬を腰に巻き付けて歩いている姿には、ほとほと呆れるばかりだよ」
「腰に解毒薬!? 何ですかそりゃあ……王族なんだから、毒味役とかいないんですかね?」
「自分が食べる料理の量が減るから嫌なんだそうだ。中々に極まった人物のようだね」

 ……おかしな方向に極まってんなぁ。
 ローゼが焼き上がったスポンジに生クリームを塗り、回転台を使ってナイフで綺麗に均していく。
 上手くなったもんだ……この生クリームにも、ローゼが自ら絞って得た『シクゴート』のミルクがたっぷりと使用されている。
 倒してしまうとミルクが採れない特殊仕様のため、集めるのにとても苦労した。
 他には、汎用食材にも手を抜かず、取引掲示板で買える中で最も評判の良い生産者の物を選んで買い揃えてある。
 その際に結構な資金を使用しているが、ここまで来たら妥協はなしだ。
 出来る限り質の高い材料を用いて、渾身の一品を。
 スポンジケーキもきちんと事前に作って必要な時間、寝かせたものを使用している。
 無音にしない方が良いというローゼへの気遣いからか、リィズが話を続けた。

「それと、私たちには関係ない王妃様の情報も一応。簡単に説明しますと、王様と王女様の中間ですね」
「味と見た目の評価が半々ってことか?」
「ええ。このように審査員三人で綺麗に評価方針が分かれていますから、自分の料理傾向に従って出品するのが宜しいようです」
「なるほど……了解、ありがとう。と言っても、リィズが言った通りもう肉料理で行くのは決定しているしな。王様は味重視かぁ……」

 まだ肝心の肉が手元にないので、何とも言えないが。
 一方、ローゼの作業はいよいよ佳境を迎えている。
 丁寧に一つ一つミルクチョコレートの薔薇を複数作り、配置を考えながら慎重にケーキの上へと載せていく。
 ついそちらに注目して黙ってしまいそうになるが、後もう少しだ。
 適当に話を繋ぎながら、その時を待つ。

「こ、これで最後……!」

 震える手でローゼが飴細工を飾り付け……喉を鳴らして一歩下がると、大きく安心したように息を吐いた。
 俺たちもそれに続き、各自そっと息を吐く。
 終わった……終わった!

「できたぁぁぁ! ど、どう、ハインド!?」

 ローゼがこちらを向き、手で完成品を示しながら問い掛けてくる。
 俺は一つ頷くと、テーブルを揺らさないように静かにお菓子に近づいた。

「………………ローゼ」
「な、何? どっか問題でも――」

 よくぞここまで頑張ったと思う。
 幼児の泥遊びのような生クリーム塗り、作っている内にパースが狂っているかのごとく大きくなり、小型のラフレシアのようなサイズになった薔薇のチョコレート……。
 それらの怪作を思い返しながら、俺は万感の思いを込めて宣言した。

「いいや、完璧だ! よくやった!」
「――!!」

 ローゼが両手で口元を覆い、目を見開いた。
 そのまま目尻には、薄っすらと水分が集まっていき……。

「ローゼちゃん、おめでとうぉぉぉ!」
「あ、こらエルデ! ……あ、ありがとうね……最後まで付き合ってくれて……」

 ローゼに抱きつくエルデさんは、心の底から嬉しそうに笑っていた。
 生クリームでコーティングされたスポンジケーキの上には、満開の薔薇の花たちが咲き誇っている。
 そしてその中の一つに、飴細工で出来た青い蝶が羽を休めるという格好だ。
 バフ効果は『120分間MP最大値10%上昇、MP自然回復量1、5倍』という高い効果。
 手応えあり……会心の出来だ。

「これは美しい……ハインド、料理の名前は?」
「ストレートに“ローゼントルテ”ですかね……材料はともかく、実在するお菓子の名前ですよ。こういうものは捻らずに、そのままの方がいいかと」
「ローゼントルテ……素敵ですね……」

 うっとりとした表情で、リィズがメニュー画面を開いてスクリーンショットを撮りまくっている。
 それを見た他の女子三人は、思い出したかのように自分たちもスクリーンショットを撮り始めた。
 俺は自分の目に焼き付けておくことを優先し、敢えてスクリーンショットは一枚も撮らず。
 一通りみんなが撮り終わったのを見計らい、ローゼに声を掛ける。

「さて、ローゼ。味が落ちない内に出品登録を済ませるといいぞ」
「うん……惜しいし、二度と同じ物を作れる気がしないけど、そのために作ったものだからね……」

 ゲーム内で食品の時間が止まる条件は、インベントリやアイテムボックスに入れること。
 それ以外には、今回のようにシステム側に預けられている間がそれに該当する。
 なので出品登録を済ませた瞬間、この『ローゼントルテ』の時間も止まり、新鮮な状態で審査当日の王女様の下へと届けられるわけだ。
 ローゼがメニューを慎重に操作していき……ギルド再生への願いを込めながら、目を閉じて出品ボタンをゆっくりと押す。
 直後、お菓子でできた薔薇の花束は光となって消えていった。

「……」

 それを見届けたローゼは、姿勢を正して俺の目を真っ直ぐに見つめた。
 そして深く深く頭を下げ、震える声で告げる。

「ハインド、さん……数日間本当に、本当にありがとうございましたっ……!」

 彼女に似合わない、硬い礼の言葉だ。
 俺はローゼの前で「どういたしまして」と返した後に、エルデさんに視線を流して頭を下げたままのローゼを起こしてもらった。
 この場合、どういう言葉を掛ければいいのだろうか?
 ――と、そんなことを考えていると、先にローゼが言葉を続けた。

「ごめんハインド。実はアタシ、もうコンテストの結果がどうなろうと良いと思ってる。こうして料理をやり切って、自信が付いて……それでその間どんどん仲良くなってくアンタたちを見てたら、大事なのはアリスに勝つことじゃないって気が付いた。アタシは、リヒトやギルドメンバーのみんなと……あのアリスとだって、もっとちゃんと、沢山話をしなきゃならない。ギルドが壊れるのが嫌だったら、つまんない見栄を張ってる場合じゃないって」
「……」

 なんだろう、もう言葉が出てこない。
 ローゼの方も、俺に何か言って欲しいわけじゃなくて自分の言葉を聞いて欲しいだけなのだろう。
 クラスの女子に聞かされる相談事が大抵こんな感じなんだよな……と、ローゼの熱弁の余波で俺まで顔が少し熱い。
 エルデさんはそんなローゼの姿を、ただ微笑んで静かに見守っている。

「だから、その、ええっと……と、とにかくありがとう! 感謝してる! 妹ちゃんにも、弦月にも!」
「あ、ああ。どうあれお前が納得したんなら、それが一番の収穫だと思うぜ」
「――あ、は、はい。頑張りましたよね、ローゼさん」
「うん。良い顔になったね、ローゼ」

 ローゼの様子に動揺せず、普段通りに答えられたのは弦月さんだけである。
 大変クールで大人な対応だ。
 ちなみに数分後、自分が随分と若者らしい青い語りをしていたことに気が付いたローゼは、羞恥から調理室の床を転げ回って悶えるのだった。
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