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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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下準備・情報交換

 翌日、木曜日の夜十時にTBへログイン。

 前日に少しだけタートル系モンスターと戦ったが、経験値効率的には今一つだった。
 ついでにホーマ平原の西部のみが期間限定でインスタンスダンジョンの形式になっていた。
 これはライフが削れたイベントモンスターを横取りされない様にという配慮だろう。
 ……限定と聞くとマナー違反をしてまで必死になるプレイヤーがいるらしいので、これは妥当な判断だと思う。

 今日は鍛冶の師匠であるセレーネさんと待ち合わせで『アルトロワの村』に戻って来ている。
 ゲーム内のメールによると最初に会った鍛冶場に居るという事なのだが……。

「セレーネさん、どうしてそんな隅っこに?」

 一番端っこの作業場の、更に隅……そこに彼女は丸まるようにして屈み込んでいた。
 俺に気付くと、小動物のようにキョロキョロと周囲を警戒する。

「ハインド君、ちゃんと一人? 一人?」
「言われた通りに一人で来ましたけど……」
「ほっ……。前に、私が人見知りだって話をしたじゃない?」
「確かに言ってましたね」

 何だか、俺が普段から複数人で行動していることを知っているような口振りだ。
 疑問に思い、訊いてみると……。

「一昨日だったかな? キミがとびっきり可愛い二人を連れてるのを見掛けてさ……もし一緒に来たらどうしようかと思って」
「はあ。二人の容姿が優れているのは認めますがね、中身は割とお察しですよ?」
「そうなの? でも、美形には特に気後きおくれするんだよ……男でも女でも関係なく」

 そんなにセレーネさんと差があるかな……。
 この人だって髪を整えて、眼鏡のフレームをもっとお洒落な物に変えれば周囲の目を惹くと思うんだけどな。
 素材を活かせていないだけというか。
 ゲームの素材は上手く扱えているのに……何故なのか。

「まあ、確かに俺は取り立てて美形でもないですから。それで話し掛け易くなったのであれば、それはそれで――」
「ち、違う違う! あの時はそういうの関係なしに、マイナー武器を語り合える相手が現れたのが嬉しくてつい……それにキミの話し方、何だか落ち着いてて安心するっていうか……」
「そりゃ光栄ですね。つっても、ちょいちょいラフな口調が混じってると思うんですけど、気になりませんか?」
「ううん、全然。伝わってくる感情が穏やかだから……かな?」

 ガンッ! ガンッ!

「「!?」」

 急に大きな音が響いたかと思ったら、隣の作業場のプレイヤーが力任せに鉄に金槌を叩きつけている。
 驚いて二人で視線を向けていると、今度は阿修羅のような形相で睨みつけられた。
 何となく、他所でやれ! 失せろ! という強烈な思念を感じたので――

「え、ええと……ここで雑談するのは作業の邪魔になるみたいなんで、外に出ますか」
「そ、そうだね。失礼しましたー……」

 俺達は場所を移動することにした。
 すると、隣の男性は青筋の浮いた顔のままにっこりと笑う。
 本気の殺意を感じたぞ……そんなにうるさかったかな? 怖い怖い。
 入る時に作業場の使用料300Gを払ったが、何もせずに出ると戻ってくるので特に問題ない。

 その後、人混みは苦手だというセレーネさんの言葉に従い、俺は人気の少ない見張り塔の下へと案内した。
 前に防具の生産を行った場所でもある。

「静かで良い場所だね。じゃあ、情報交換を始めよっか」
「ああ、なら俺から。NPCの挙動で色々と分かったことがあるので」
「いいの? 情報を先出ししちゃって」
「鍛冶について無償で教えてくれた時点で、セレーネさんのことは信用してますから」
「それは、ちょっと嬉しいかも。なら遠慮なく」
「はい。実は――」

 クラリスさんの事を中心に、掲示板で得た情報なども加えて整理しながらセレーネさんに話した。
 特にクラリスさんが行商人になったことに関しては驚いた様子で……。

「道具屋の店主がおばあちゃんになったのは知ってたけど、まさかハインド君達が受けたクエストが原因だったなんてね……」
「誰にも言わないで下さいね? クラリスさんのファンは思ったよりも多かったみたいで……バレたらそこら中でPKに狙われちゃいますよ」

 俺の念押しに対して、セレーネさんは悪戯いたずらっぽい表情を浮かべた。
 嫌な予感。

「どうしよっかなー」
「いやいや、本当に駄目ですって!」
「押すなよ! 押すなよ! って奴だね?」
「違います!」
「ふふ、やだなぁ、冗談だよ。そもそも私は掲示板なんかに関しては、基本的にROM専だからね」
おどかさないで下さいよ……」

 俺が持っている情報はほとんど話し終えた。
 セレーネさんは教えてくれる情報は、俺が持っていない基本的な知識の補完と、この前生産した「極上の」シリーズについてのことだ。
 特に後者に関しては気になっていたのだが、セレーネさんは詳細を知っているとのことで……。

「極上っていう冠詞が付く装備品はね、素材のレアリティが関わってくるの」
「うわっ、それかぁ! そっかー……」

 答えがシンプルだっただけに、予想が外れて非常に悔しい。
 製作難度とか製作時間が関係していると思ったんだけどな……。

「その様子だと、色々と推測してたみたいだね? でも仕方ないよ。TBって素材のレアリティが非表示なんだもん」
「じゃあ、俺が作ったアルミラージアーマーと三角帽子は……」
「アーマーはアルミラージの皮が、帽子は羊毛のフェルトが貴重品かな」

 ああ……言われてみれば、その二つの数量は他に比べて少なかった。
 但しそこまで極端な差は無かったので、レアと言っても一つか二つランクが上なだけなんだろう。
 膨大な数の装備を作製しているセレーネさんは、何となく素材のレアリティが分かる様になってきたのだという。
 この人、ひたすら取引掲示板と作業場を往復しているらしいからな……俺と比べると生産者としての経験値が、比較にならないほど高いという訳だ。
 ちょっと真似できない。

「でも凄いよ、特にアーマーの方は。現実でのレザークラフト経験者ってほとんど居ないから、TBでは精度判定が緩めに設定されてるらしいんだけど。それでも、極上の+8なんて初めて聞いたから」
「つまり、高レアの素材だと出来上がる装備の限界値が高くなると?」
「そういうこと。もちろん、腕が伴ってないと極上なんて出来ないから誇っていいと思うよ。裁縫、得意なんだね」
「本格的に始めてかれこれ五年になりますかね。良かったら、セレーネさんにも何か作りましょうか?」

 俺の何気ない一言に、セレーネさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
 そんなに変なことを言ったか?
 沢山の装備を作っているにも関わらず、セレーネさん自身の装備は未だに初期装備だ。
 俺としてはそれが気になったのだが。

「……男の子から、贈り物……? 私が……? 夢でも見てるんじゃ……」
「セレーネさん? おーい」
「はっ!? ななな、何でもないよ! 是非お願いします!」
「何が良いですかね。イメージ的には白衣とか……褞袍どてらとかでも似合いそうですけど。セレーネさん、インドアな雰囲気だし」
「えっ!? どうして私が現実リアルで着てるものを知ってるの!?」
「えっ?」
「えっ? ――あっ!」

 自爆。
 というか、褞袍どてら着てるんですか……部屋着には便利だよね。
 どちらにせよゲーム内で着るものでもないので、おかしいだろうと突っ込みが入ると思ったんだが……意外なところに飛び火してしまった。
 セレーネさんがうっかりプライベートの情報まで漏らし、少し場の空気が微妙になったものの、その後も情報のやり取りは続いた。
 特にイベントの役に立つ情報……現在のレベルキャップ、暫定での最強武器、経験値効率の良い狩り場などに関してはありがたかった。
 攻略に力を入れている訳でもないのに、どうしてそれだけ情報通なんですか? という質問には、検索にコツがあるとしか教えてくれなかった。

「じゃあ、私はこの辺で失礼するね」
「はい。色々と、ありがとうございました。今度、何か御礼に装備品を持っていきますね」
「う、うん。楽しみにしてる……。またね、ハインド君」

 はにかむような笑顔を残し、セレーネさんはその場でログアウトしていった。
 さて、俺の方は二人と合流してレベル上げに勤しむとしますかね。
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