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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大型アップデートと新コンテスト

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アルテミスとガーデン

「ハインド、無事かい?」
「ハインドさん!」
「二人とも、敵を頼む! 俺はあそこの瀕死の二人を何とかする!」

 弦月さんとリィズが駆け付けたのを見て、俺は状態異常の治療が終わった二人を蜂の群れから逃がした。
 それを見計らってリィズが『ダークネスボール』で吸引し、弦月さんが『コンダクトアロー』で仕留める。
 程なくして戦闘が終わり、俺は息も絶え絶えな二人に向けて『エリアヒール』を放った。
 HPがグングン回復し、呼吸が整い始めた二人が顔を上げる。

「はぁ、ふぅ……あ、ありがとうございますー……助かりましたぁ」
「ぜぇ、ぜぇ……あ、アンタ!? 誰かと思えば本体じゃないの!」
「よぉ、久しぶり。闘技大会以来かな? ローゼ」

 リヒトの相棒として闘技大会に出場していた『ローゼ』が、複雑な表情でこちらを見た。



 俺は主のいなくなった巣穴を探り、蜜のたっぷり詰まった蜂の巣を手に取る。
 溢れだす蜜を瓶に流し込むと『空き瓶』が『上質な蜂蜜』へと変化した。
 不純物が混ざらないのはゲームの都合である。

「おおお! こいつはいいもんだ! リィズもこっちに来て瓶に詰めてくれ!」
「はい。豊作ですねぇ……奥の流れ出ない分は、巣ごと持ち帰って後で絞りましょう」
「あ、私も良いかな? まさか、こんなにすんなり見つかるとはね。これは僥倖だ」

 三人で穴の前に屈みこみ、蜂の巣を手に持って瓶に流し込んでいく。
 軽く指で掬って舐めてみると、上品な甘さが口の中に広がる。

「あ、あのー……」
「ねえ、普通こうなった事情とか訊かない? 放置って何なのよ、あんたたち!」

 事情は気にならないこともないが、蜂蜜の回収も大事だ。
 そもそも二人はどうなんだ? 蜂蜜を探して林の中にいたんじゃないのか?
 並んで一緒に採ればいいのに。 

「少し待っててくれ、ローゼ。今、大事な作業をしてるんだ」
「聞きなさいよ!?」
「地面に蜂蜜が流れてしまっていますから、早目に回収しませんと。採取ポイントとは違って、これは現物限りの物のようですし」
「いや、あの、えええ……」
「……はぁ。ローゼ、そもそも君はハインドに助けられておいて、未だに礼の一言も言っていないだろう? 話を聞く気を削いでいるのは、己の方だという自覚をまず持った方がいい」
「げ、弦月……くっ……」

 弦月さんが鋭く睨みつけると、ローゼは蛇に睨まれた蛙のように委縮した。
 しかし互いの名を呼ぶ際に、どちらからもある種の遠慮のなさのようなものを感じる。
 これはもしかして……。

「弦月さんはローゼと知り合いなんですか?」
「ハインド、大正解。まさに“知り合い”と呼ぶのが最も相応しい間柄だよ。決して友人ではない。しかしローゼ、まずはきちんと礼を尽くし給え。話はそれからだ」
「わ、分かったわよ! ……けて……ありが……」
「……」
「に、睨まないでよ弦月! ……た、助けてくれてありがとう! 感謝してるわよっ!! これでいい!?」
「あ、あのぉ、ありがとうございましたぁ。本体さん」

 間延びした気弱そうな声が、ローゼをフォローするように続く。
 もう一人の少女は、見るからに気の強いローゼとは対照的な性格のようだった。

「どういたしまして。魔物を倒してくれた二人にも、礼を言ってやって」
「ありがとうございましたぁ。弦月さん、リィズさん」
「あ、ありがとう……二人とも」

 そこでようやく場に弛緩した空気が流れる。
 同じガーデン所属でもアリスたちとは違い、話がちゃんと通じるようだった。



 フィールドの中間エリア……安全地帯の小さな広場に腰を落ち着けた俺たちは、まず弦月さんから話を聞くことにした。
 山小屋の傍に在る、切り株のベンチがとてもお洒落だ。
 そこに座ってインベントリの整理を行いつつ、俺たちは話をしている。

 ギルド『ガーデン』と『アルテミス』は、どちらもルスト王国の首都『ウィリディス・ウルブス』にホームを構える古参にして同規模の巨大ギルドだ。
 首都への到達が近い時期だったこともあり、過去にはPK関係の治安維持などで交流があったそうな。
 過去ということはつまり、現在は交流がないということになる。
 だから『ガーデン』メンバーで比較的新参のアリスについて、弦月さんが知らなかったということのようだ。

「規模が小さかったころのガーデンはまだまともだったんだけどね。ローゼやリヒトと私が知り合ったのは、まともだった初期の頃さ。しかしガーデンのメンバーが増えるにつれ、徐々にギルドとしては疎遠になってね……」
「あー、なるほど」

 レイドイベントでガーデンの船に衝突された時のことを思い出す。
 確かにまともだったのはギルマスであるリヒトと、申し訳なさそうな顔をしていたローゼたちの一団だけだったように見えた。
 弦月さんの言葉に続くように、今度は内部事情を知るローゼがギルドの近況について語る。

「最近はリヒト目当てに後から集まったやつらが幅を利かせちゃってさ……その、迷惑かけてごめん」
「はい? その仰りようですと、初期メンバーにはそのリヒトという方を目当てに集まったわけではない人もいた、という風に聞こえますが」

 ローゼはリィズの言葉に、伏し目がちに「そうよ」と答えた。
 それから小さな溜め息を一つ零し、ぽつりぽつりと昔から今に至るギルドの様子を語り始める。

「最初はそうだった。女子メンバーが多いってことで、悪質な男性プレイヤーに絡まれているような子をリヒトが中心になって積極的に助けて回っていたのよ。あの頃の“ガーデン”は、今と違って女性プレイヤーの駆け込み寺みたいなもんだったわ。こっちのエルデもその一人でね」
「あ、はいー。私は変な人にストーキングされていたところをローゼちゃんに助けてもらいましたぁ。リヒトさんに関しては、保護してくださったことに感謝はしていますけどぉ。男性としてはあまりー……」
「つまり何か? 昔と今とで、ギルドが持つ性質がすっかり変わってしまったと」

 ローゼが俺の言葉を肯定するように頷く。
 そうか、疑問だったリヒトのモテる理由の一つがはっきりした。
 ただ顔が良いというだけで、そこまで女性が集まるとは考えにくい。
 そうやって積極的にゲーム内で女性を保護していたから、他の男性プレイヤーが嫉妬するような今の状況があるのだろう。

「助けて回って……吊り橋効果でしょうか? ちょろい連中ですね」
「ちょろ――ま、まぁ、確かにそういう見方もあるだろうな。そう考えると本気でリヒトを好きになってる子がどれくらいいるのか、ちょっとばかし疑問になるな」

 リィズの発言は一理ある。
 中にはもう感情が冷めていて、それでも何となくギルドでつるんでいるプレイヤーが結構いるんじゃないだろうか?
 と、そこで弦月さんが舌打ち混じりに愚痴をこぼす。

「私に言わせてもらえば、彼の優しさ……いや、本人が優しさと履き違えているそれは全くもって配慮が足りていない紛い物だ。彼に助けられた女の子たちは、彼に寄り掛かるばかりで……挙句、群れて気が大きくなったのかアリスたちのように他者を攻撃し始める始末だ。今のガーデンは迷惑ギルド一歩手前だよ、本当に」
「……あの、やけに攻撃的ですけど。弦月さんってもしかしてリヒトのことが嫌いなんですか?」
「いいや。鬱陶しい……という感情が一番近いかな? ギルドが大きい上に、ホームを構えた都市が同じだから嫌でも目に付く。しっかりギルドを運営して、こちらに迷惑が掛からないようにして欲しいものだね」

 うわぁ、目の前で虫でも飛んでいるかのような扱い……俺が弦月さんのような人にそんなことを言われたら、三日は寝込む自信があるぞ。
 さすがに自分の相棒のそんな扱いに、ムッとした様子でローゼが口を開きかける。
 しかし、俺はそれを手の平を突き出して遮った。話の流れが悪い。
 弦月さんとの関係性も一通り聞けたし、話はもう充分だ。

「俺たちはもう行くよ。これを二瓶渡しておくから、エルデさんと分けてくれ」
「な、何よ……これ、蜂蜜? いいの? 貰っても」
「どんな事情か知らないけれど、君らも蜂蜜を探していたんだろう? 足りなければもっと渡すけど……」
「あ、ううん。どうせアンタたちが来なければ私たちは死に戻りだったし、一瓶ずつもらえるだけでもありがたいわ」
「そっか。じゃあ、そういうことで」

 別れの言葉を告げ、三人で二頭の馬と一緒に移動を開始する。
 『悪夢の森』は大型フィールドなので、移動が結構大変なのだ。
 用が済んだらさっさと抜けてしまうのがいいだろう。

「それにしても、同じ町でギルド同士の関わりがあるだけ羨ましいですよ」
「おや、ハインド。サーラにはそういうのないのかい?」
「未だにありませんね。確か王都ワーハで、一番大きいギルドが……」

 俺が記憶を探りながら話していると、リィズが続きの言葉を引き取ってくれる。

「女王様親衛隊とかいう、ふざけた名前のギルドが一番大きいです。構成員がメインとサブで約100名。ただ、そのほとんどがいわゆるエンジョイ勢なのでゲーム的な影響力はあまり」
「女王様を見るためだけに、数日おきにログインしてそのまま帰っていくプレイヤーもいるそうですよ」
「何だい、それは……」
「リィズが言ったようなエンジョイ勢というよりは、正確にはスクショ勢ですかね……? 町で見かけた彼等は、何故だか酷く楽しそうではありましたが」

 他に急成長しているギルドもいくつかあるが、ワーハのギルド情勢はそんな感じだ。
 今は『ネフェルトゥム』や『聖地の主人』といった砂漠らしい名前のギルドに所属しているプレイヤーが、少しずつ町を歩くようになってきた段階である。

「――ま、待って!」

 広場から出る直前、背後から呼び止める声に俺たちは振り向いた。
 ローゼが息を切らしながら追いかけてくる。

「あ、アンタ!」
「俺か? 何だ?」
「アンタ、料理が得意なのよね!? そ、そのっ……お、お願いが、あるんだけどっ!」

 それはどこか必死さを感じさせる声音で、その場から去ろうとする俺たちの足を止めさせた。
 リィズと弦月さんの二人が俺に視線を向ける。
 どうする? という問いかけが含まれた視線だ。

「……あー……取り敢えず、話は聞くよ」
「本当!? ありがとう……!」

 引き受けるかどうかは内容次第だが……。
 俺たちは再度ローゼの話を聞くために、馬を引いてまた広場へと戻った。
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