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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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谷の町ワリスと装備のお世話

 その町は深い谷の底に存在していた。

 無事アースゴーレムを倒しアルヒ山脈を抜けると、目の前には深い谷が広がっていた。

 下へと続く道を降りていくと、山に囲まれるような場所に住居が立ち並んでいる。


「おお、霧が……何とも不思議な場所に人が住んでいるもんだな」

「静かな町だな。悪くねえ」

「お、ポル君が意外な発言を」

「フォルを休ませるには都合が良さそうな場所だぜ!」

「考え方の中心がフォルさん過ぎる……まぁ、別にいいけど」


 霧に沈む町は、昼間だというのに閑静な雰囲気を演出している。

 かと言ってまるっきり活気が無いかというとそうでもなさそうで、商店らしき建物の周囲にはしっかりと人の姿が見えた。

 中にはプレイヤーの姿も何人か。


「こういった場所ですと、やはりキノコでしょうか? ハインドさん」

「そうかもな。後は食べ物や酒の熟成なんかにも適しているかな? 直射日光が少なそうだし、気温も低い」

「お二人は次のコンテストの為の食材探しの旅なんですよね? 頑張ってください!」


 フォルさんの応援に、俺は笑って頷いた。

 谷に横穴を空けるように作られた部屋の幾つかが、熟成蔵ではないかと推測しているのだが……まずは町に入ってみないと何も分からないな。


「そういや今更だけどよぉ。あんたら二人の関係って何なんだ?」

「ん?」


 ポル君が不意に、俺とリィズを交互に見ながら問い掛けてくる。

 俺はグラドタークの手綱を握り直し、足元に気を付けながら段差を降りる。


「ダチにしちゃあ距離が近過ぎるし、家族にしちゃ性格はともかく外見は似てねえ。恋人ってのもなーんかしっくりこね――」

「恋人ですが何か? それ以外の何に見えるというのですか、ポル君は」

「へ? そうだったのか!?」

「いや、違うから。平然と嘘を教えないように、リィズ」


 俺が注意しつつ咎めるような視線を送ると、リィズはプイッと顔を背けた。

 不思議そうな顔でそれを見るポルフォル兄妹に向き直る。


「俺達は、というか俺達も兄妹だよ。だからこの場には、兄妹が二組居ることになるのかな」

「そうなんですか。素敵な偶然ですね! あ、でも……」


 フォルさんは、何かが気になるような表情で口を噤んだ。

 まあ、ポル君も先程口にした俺達があまり似ていないことが気になっているんだろうけど……。

 言っても良いか? とリィズに視線で問い掛けると、頷きを返してくる。


「まぁ、義理の兄妹なんで容姿が似ていないのは当然というか。どうだい、ポル君? これでしっくり来た?」

「なーるほど、しっくり来たぜ! そーかそーか、義理かぁ! それなら似てなくても仕方ねえな!」

「お、お兄ちゃん! 失礼でしょ!」


 時にはポル君のように、図々しい反応を返された方が良い場合もある。

 半端に同情されたり気遣われたりするよりも、そちらの方がいっそ清々しいものだ。

 そんな話をしていたところで、ようやく下へ降りる道も終点を迎える。


「さて、何はともあれまずは厩舎へ。それが済んだら鍛冶場へ行くよ」

「は? ハインド、鍛冶場なんかへ行って何すんだ?」

「――君達の新装備を作る」


 予想通りの驚き顔を見せてくれた兄妹に向かって、俺は二ッと笑ってみせた。




 この町は『谷の町ワリス』という名称らしい。

 そのワリスの鍛冶場で使用料を払い、三人に手伝ってもらいながら炉に火を入れる。


「旅先だし、掲示板で安く買った一般的な鉄鉱石で作製するけど……良いかな? それでも店売りよりは性能は上になるはずだから」

「そんな、作って頂けるだけでもありがたいです! よろしくお願いします!」

「何から何まですまねえ、ハインド……」

「気にしない気にしない。リィズ、サポートよろしく」

「はい」


 彼等の装備は店売りの物が主だ。

 なので、例えノーマルでも+さえ付けばその時点で数値が上昇することになる。

 それ以前に、ポル君の片手には致命的に抜け落ちている防具があるからな。

 熱した大きめの鉄塊を叩いて延ばし、大雑把な形を整えていく。


「早っ! 手つきが半端じゃねえ!」


 ポル君が目を輝かせて叫ぶ。

 これでも、ここの所は毎日毎日欠かさずに刀を打っているからな。

 セレーネさんには遠く及ばなくとも、それなりの回数の鍛冶をこなしてきた結果である。

 徐々に形を成し始めた装備は、何と言えばいいか……鉄板?

 設計図通りだが、このままだとのっぺりしていて寂しいので表面にも飾りを施していく。

 みんなが固唾を飲んで見守る中、手元から光が上がった。


「よっし、完成。上質なタワーシールド+7」

「おお! マジではええな! 五分も掛かってねえぞ!?」

「初めて作ったにしては上出来じゃないかな。掘り込みを入れたせいでアレンジ装備扱いになったけど、あのダサさは個人的に許せんからな。ポル君、早速装備を」

「ああ!」


 1メートル前後の長さがある長方形の鉄の板を、ポル君が右手に装備する。

 彼は左利きだそうなので、反対側の左手にメイスという形になる。


「あと、ついでにこれもあげよう。俺のお下がりだけど」


 そう言って、俺はインベントリから『上質なメイス+10』を取り出してポル君へと渡す。

 タワーシールドで既に満面の笑みだったポル君の表情は、許容量を超えて困惑へと移った。


「なっ……そんなにしてもらって良いのか!? 金属バッ――メイスまで!」


 今、金属バットって言い掛けたよね?

 やっぱり本人もそのつもりで振り回していたのか……納得。


「良い良い。どうせもう使わないし……やっぱり俺の前衛とかあり得なかったわ。無駄になるよりは誰かに使って貰った方が、こいつも喜ぶと思うよ」


 実はインベントリの整理にもなって一石二鳥だし。

 それなりの性能なので取引掲示板に流しても良いのだが、正直面倒なのでここは譲渡で。


「ハインドォォォ!」

「はいはい、どうどう」


 ガショガショと重装備になったポル君が抱きついてこようとしたので、俺は彼の頭を押さえて止めた。

 元々装備していた金属鎧と相まってかなりの重量だろうに、彼はそれを苦にする様子がない。

 ゲーム的な補正を抜きにしても、現実での力が相当強いのだろう。

 で、今度は補正込みでもロングソードが辛そうなフォルさんの武器作製だ。


「んじゃ、次は槍を作るぜ、槍。フォルさん、武器は剣じゃないと嫌だったりする? 大丈夫?」

「あ、だ、大丈夫です! 槍ですかぁ……槍も格好いいですよね!」

「そっか、良かった。幅広の剣に比べれば断然軽い、距離も離しやすいとフォルさんにピッタリな武器だと思う。それと、剣で得た経験と判断の良さを考えて――」

「「「?」」」

「……」


 俺はそこで言葉を止めた。

 彼女のヒットアンドアウェイの距離感は抜群だった。センスを感じる。

 なので、敢えて使用難度の高い武器を黙々と作り上げていく。

 叩いて、鍛えて、整える。

 二作続けての鍛冶作業に、額に汗がじわりと浮かび上がった。

 ゲームなので放っておけば勝手に消えるのだが、リィズは布を取り出して拭ってくれる。

 そして完成したのが……。


「はい、出来た。フォルさんどうぞ」

「上質なハルバード+6……ありがとうございます、ハインドさん! 凄く手際が良いんですね!」

「なるほど、ハルバードですか。ハインドさんらしいチョイスですね」


 リィズは気が付くと知識を蓄えているなぁ……ゲーム開始前は刀剣類に興味なんか無かったはずなのに。

 ハルバードがどういう武器か把握しているらしい。

 一方のフォルさんとポル君は、渡したハルバードをしげしげと眺めている。


「あの、武器には余り詳しくないのですけど、この槍はどういう……?」

「通常の槍と同じ突きは勿論、先端の斧の部分で斬り付けたり、反対側の突起で敵を引っ掛けたり……そういう多用途の槍だと思ってくれれば良いよ」

「あの、お聞きした限りとても扱いが難しいように思えるのですが?」

「でもフォルさん、攻撃前にどういう攻撃をするか明確なイメージを持ってから実行しているよね?」

「そうですね。先程までの突きならどこを突くか、攻撃したらどこをどう通って戻ってくるかを考えてから前に出ています。ちょっと時間が掛かっちゃいますけど」

「マジで!? フォルすげえ!」


 直感を頼りに生きていそうなお兄ちゃんは放っておくとして……。

 あの迷いのない動きを見るに、そうなのだろうとは思っていた。


「それなら大丈夫。その判断に三択+αが加わるだけだから」


 最前列で立ち回るならともかく、フォルさんの場合は攻撃毎に考える余裕がある。

 即応性を要求されないのなら、攻撃の択が多いに越したことはない……という訳で、俺はハルバードを作製することにした。

 槍の中では重い部類に入るものの、ロングソードよりはずっと軽い。

 俺の説明を受けたフォルさんは、槍を両手で抱くようにして大きく頷いた。


「分かりました……頑張って武器の性能に負けないような動きを練習しますね! ありがとうございます、ハインドさん!」

「うん。それと、フォルさんは防具をもっと軽装にするといいよ。取り敢えずは店売りの皮装備に変えようか?」


 フォルさんが重そうにしているのは、何も武器だけに限った話ではない。

 ポル君が犯人なのだろうが、全身が金属の防具でガチガチだ。


「何言ってんだハインド!? そんなことをしたらフォルが危ねえだろうが!」

「いやいや、そこを君が守るんでしょ? そのために盾も装備したんだし。それに、攻撃後の離脱速度に関わるから軽い方が安全だぞ?」

「へ? そうなのか?」

「そうだよ」


 今一つ理解が足りないポル君を説得するのに、そこから結構な時間が掛かった。

 ヒットアンドアウェイなのに全身鎧を纏ったままでは、戦術上足枷にしかならないだろう。

 その後は何度も礼を言うフォルさんとポル君、それと俺に密着気味のリィズを伴って町の探索へ。

 何か有力な食材が見つかると良いのだが……。

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