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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大型アップデートと新コンテスト

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旅の空の下で

 農作業が終わり、収穫物を倉庫にしまいこんだ少し後。
 今夜は二人とも風呂に入ってからインしたので、日付が変わる辺りまでプレイすることに決めた。
 持っていくアイテムや所持金の額などを相談しつつ、ホームの談話室で軽食を摂る。
 旅のルートなども細かく話し合っていき……準備に掛ける時間が長いのは、いかにも俺達らしい気がするが。
 ユーミルかトビが居た場合は、今頃とっくにホームから飛び出していることだろう。

「よし、こんなもんかな。回復アイテムは多めに、所持金は控えめに、と」
「大金を使う予定はありませんからね。PK対策にサブ装備も持ちましたし……」
「余計な物を持つとすぐにインベントリが一杯になるからなぁ。今回は食材を沢山持ち帰りたいし、馬に付いているインベントリも活用しないと」

 馬やラクダ、ロバなどの乗り物には、プレイヤーに比べて容量が低めのインベントリが設置されている。
 これも等級や乗り物によって差があるようで、荷運びに適したロバやラクダの方が馬よりも許容量が多い。
 今のところ、馬が他の乗り物に唯一劣っている点であると言える。

「まずはサーラの戦い慣れたモンスターを倒しながら帝国へ。そこまでは初見の敵が居ない分、二人でも何とかなると思う」
「前衛が居ないのですけれど、大丈夫ですかね?」
「サーラに居る間の前衛は、臨時で俺がやるよ。魔導士よりは神官の方がまだ防御力がマシだからな。ある程度進んだら、そこから先はまた別の手段を考えるけど」

 具体的には、野良PTを募集しながら進む形になると思う。
 過疎気味のサーラにおいてそれは難しいので、募集は帝国に入ってからのことになるが。
 そこで二人ともサンドイッチを食べ終わり、満腹度が回復する。
 そして見覚えのない光が体の周りでくるくると……これが新実装の料理バフか。
 表示された情報によるとバフ効果は120分間、魔力が1%上昇だそうだ。
 俺達二人の職業にはピッタリだな。
 これで準備は全て完了。ゲームに食休みは必要ないので、すぐに席を立って気合を入れる。

「よっし。じゃあ、そろそろ――」
「兄さん」
「うん?」
「楽しい旅にしましょうね」

 そう言って柔らかく笑む妹はいつになく上機嫌だ。
 その嬉しそうな表情を見ていると、俺まで楽しい気分になってくる。

「……ああ。俺達らしくのんびりと、だな」
「はい!」

 リィズが立ち上がり、寄り添いながら俺の手を握る。
 少し歩き難いが……俺はその手を振りほどいたりはせず、二人でゆっくりと厩舎への道を歩いた。



 グラドタークの背に揺られ、俺はリィズを抱くようにして手綱を握っている。
 砂漠の暑さは相変わらずで、こうして密着していると汗が止まらない。
 当然グラドターク二頭にそれぞれ乗った方が効率が良いわけなのだが、今回は妹を甘やかす旅にすると決めた。
 相乗りしたいという要望に、グラドターク一頭に二人で移動することに。

「しかし、ラクダの時も思ったんだが……こうしていると昔を思い出すな」
「昔と言いますと……おもちゃの車を二人乗りしていた時のことですか?」

 それは幼稚園児時代の話だ。
 おもちゃの車というのは、園に誰かの寄付で置いてあった代物である。
 ゆっくり進む電動の物で、みんなが雑に乗り回したせいで少ししたら壊れてしまったが。
 壊れるまでは、幼い俺と理世も二人で何度も一緒に乗ったものだ。
 昔、としか言っていないのに偶然にもリィズは同じ記憶を探り当てたらしい。

「良く分かったな。大概、二人でそれに乗っていると未祐が他のことをしよう! と言いながら体当たりをかましてきたもんだけど」
「あの女は昔から本当に、私の邪魔ばかり何度も何度も何度も何度も……!」

 俺の言葉のせいで不要なことまで思い出したのか、目の前のリィズの体が怒りで震える。
 放っておくとしばらくして溜息をつき、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。

「そういえばあの当時はまだ、兄さんが兄さんではありませんでした。私の呼び方は当時からお兄ちゃんでしたけれども」
「言い回しがややこしいな。確かにその通りなんだが……」

 年長組の頃のことだったか?
 確か、父さんが亡くなって寂しかった時期のはず。
 俺を慕って後ろをトコトコとついてくる理世には、随分と救われたものだ。
 可愛かったなぁ、小さい頃の理世……今も十二分に可愛いけれど。
 色々あったので、幼い時分の話とはいえその頃のことは未だに記憶が鮮明に残っている。

「母さんとさとるさん、あっという間に仲良くなったからなぁ。確か二人が再婚したのが――」
「翌年私が年長組に、兄さんが小学校に入ってしばらく経った頃でしたね。これで亘お兄ちゃんと離れずに済む、と無邪気に喜んでいた当時の自分が憎いです……フフ、フフフフ……」
「……ま、まあ、なんだ。俺は嬉しかったぞ? 理世が来てくれて、沈んでいた家の空気が一気に賑やかになったし。悟さんは優しい人で、無理して笑っていた母さんも明るさを取り戻したからな」

 理世の父親である悟さんは、俺のことを本当の息子のように扱ってくれた。
 いかんせん線が細く、ついぞキャッチボール程度の運動すら一緒にした記憶はないが……。
 海外のビジネス書等を翻訳する仕事をしていた彼の知識は広く、実に色々な話を俺にしてくれた。
 コーヒーを飲みながら穏やかに話すあの人の表情は、今でも直ぐに瞼の裏に浮かんでくる。

「私も兄さんの妹に……それと、明乃あけのさんの娘になれたことはとても嬉しかったです。でも、それとこれとは別の話で――」
「――あっ、あったぞリィズ! デザートスコーピオンの巣穴だ!」
「……どこですか?」

 気まずい話の流れになりかけたところで、俺は都合よく砂山に空いた穴を発見した。
 そんな誤魔化すような言葉に、リィズは追及せずに乗ってくれる。

 発見した巣穴を迂回し、グラドタークを少し離れた安全な場所へ。
 自分が先に馬を降り、理世に手を貸して抱えるようにして砂漠の上に降ろす。
 焼けつくような熱が、着いた足の裏からじわじわと伝わってきた。
 メニュー画面を呼び出して装備を変え、戦闘準備を整える。



「行きます、ハインドさん」
「あいよっ!」

 リィズの声と共に『ダークネスボール』が三体の『デザートスコーピオン』を引き寄せる。
 それを見た俺は習作である『上質なメイス+10』を構えて前へ。
 リィズの闇魔法が敵を捕まえている内に倒し切ってしまいたい。
 振り回される鋏に注意を払いながら、俺はぎこちない動きでサソリの甲殻に鉄塊を叩き込んだ。
 硬い感触と共に体液が飛び散り、一体目のサソリが動かなくなる。
 近くで断末魔の叫びを上げるモンスターを見ると、体が緊張すると共に肝が冷える。
 何度やっても、ユーミルやトビのように上手くはいかない。

 メイスは杖の魔力上昇分を物理攻撃力に振り分けた武器となっている。
 重量で叩き潰す都合上、剣よりは扱いが幾分か楽だ。
 但し重さはかなりのもので、支援型神官の攻撃力だと結構しんどい。
 本来なら前衛型神官に最も適した武器だが、神官であればどのタイプでも装備可能となっている。
 なので前衛をやる場合は、消去法でこれ一択だ。
 同じような振り下ろしで三体目の消滅を確認すると、俺はリィズの方を振り返る。

「どうだ、食材は?」
「サソリの尾(食用)と胴体(食用)が多数。ですが、まだ鋏や頭部は出ていませんね」

 自分の方の取得ログも確認すると、こちらも胴体と尾しかドロップしていない。
 PTで同じモンスターを倒しても、取得する素材の種類や数は違ってくる仕様なのだが。

「うーん。最初からそんなものは存在しないのか、それともレアだから出難いのか判断に困る。砂漠の魔物に関しては、当然のように掲示板には何も情報が無かったし」
「出ているのが大雑把に尾と胴体なのですから、普通に考えるならば――」
「あっても不思議はないよな? よし、なら残り10体で出なかったら切り上げることにしよう」
「宜しいのですか?」
「ああ。これ以上ここで時間を掛けていられないからな。自分の身の程も充分に思い知ったし……」

 ここでやや長く戦っていたのは、実は俺の前衛としての練習も兼ねていたからだ。

「お気持ちは分かります。思考に体がついて行かないもどかしさは、私にもよく分かりますとも。ええ」
「本当、お前は俺そっくりなのな。多分だけど、ユーミルやトビなんかは考える前に体が動いているよなぁ……。考えてから動こうっていうのが、そもそも間違いなのかもしれん」

 だが、その前衛練習ももう充分だろう。上達する兆しが感じられないし。
 ただ、見慣れた砂漠のモンスターは別で……

「――よっと。やっぱり攻撃が三種類程度なら、俺でも余裕だな」

 追加で現れた数体のサソリの鋏攻撃を、余裕を持ってステップして躱す。
 これは相手の攻撃を何度も見ているからで、慣れていない相手ならばこうは行くまい。
 俺がトビ相手に闘技大会で負けなかったのと同じ理屈だ。
 動きのパターンさえ把握してしまえば、多少反応が悪かろうと補うことが可能となる。

「これで最後――っと!」

 宣言してから10体目、デバフの掛かったデザートスコーピオンをメイスで潰し、俺とリィズは巣穴から距離を取る。
 その後グラドタークの傍でドロップを確認したが、やはり食用の頭部はインベントリに入ってはいなかった。
 どうも、そう簡単には行かないものらしい。
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