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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

複合型レイドイベント

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小型船と人海戦術、及び定点観測

 そういった経緯で、NPCに対する聞き込みは“凜”の一部のメンバーが。
 撒き餌の調達に関しては、例のシリウスの釣りに詳しい二人とその手伝いで数人。
 そして残ったメンバーが何をするかというと……。

「よし、では各員持ち場に向かってくれ!」
「「「うぉいっ!」」」
「返事が体育会系のノリでござるな……なんで?」

 ミツヨシさんの号令の下、小型帆船に数人ずつが乗り込みセーピア水域各所に散っていく。
 俺達の持ち場は抽選の結果、比較的遠い位置にばかりになってしまった。
 なので奮発して、速度の出るだろう魔力帆船を三隻用意した。
 鳥連合からは三隻に三人ずつ別れて観測に出港する。
 筏で一人で居るとPKに狙われやすいという話があるため、小型船での三人一組での行動となる。
 それにしても何だかんだで、もうイベントに400万近い出費をしているな……だからこそ、このまま成果無しでは終わりたくない。

「師匠、こっちです!」
「おう。今行く」

 八人の俺達は三人三組には一人足りないので、ワルターに臨時で助っ人に入ってもらうことに。
 編成はヒナ鳥で一隻、ユーミル・リィズ・セレーネさんで一隻、ワルター・トビ・俺で最後の一隻となった。
 小型船と言っても20人まで乗船可能とあって、大型ボートくらいのサイズはある。

「可愛い……可愛い……見れば見るほど……ナズェ……」
「おいおい、しっかりしろよ。大丈夫か?」
「?」

 この編成に決まった時、トビは大量の汗と共に震えながら「いつまでも友人を避けているのは、スゴクシツレイ」と言葉尻に向かうにつれて何故か片言で発言。
 実際その通りなので、こうして男三人で乗り込むことになった。

「お、お久しぶりでござる! ワルター殿!」
「トビさん、こんにちは。一緒に頑張りましょうね!」
「……」

 その何かを堪えるような表情をこっちに向けるのはやめろ。
 妙な空気を作り出している二人をよそに、必要メンバーが乗り込んだ小型船は自動で出港を開始した。



 後部に波紋を作りながら、青い海を小型船が軽快に進んでいく。
 操船方法は船首近くにあるパネルでマップの一点を指定するだけでOKである。
 ミツヨシさんの話によると黒船もそうらしいので、一人から利用可能というのもこの操船方法から来ているのだろう。
 かといって、一人であんなでっかい船に乗っていると寂しい気分になるだろうが……。

「船が一杯ですね、師匠」
「本当だな。これだけ集まってるってことは釣れるのか? このエリア」
「しかし、やはり大型船はマイノリティでござるなぁ。居ると凄く目立つ」

 比率的には、数百隻の中に一隻あるかどうかといった程度。
 もちろん、その中に蒸気を出しながら進んでいる船があるかと言うとノーだ。
 周囲ではメインとなる小型・中型船がマグロを求めて行き交っている。
 と、近くを小型船が通り過ぎ――。

「あれえ、本体! 勇者ちゃんは!?」
「居ないの!? ふられた?」

 その途上、こちらの姿を認めたプレイヤーが叫ぶ。
 あまり近付かれると、一瞬PKが来たかと身構えてしまうので心臓に悪い。

「東海域だ! ってか、別にセットでもカップルでもねえから! ……なあ、トビ。俺はあと何回この返答を続ければ良いんだ?」
「有名税ってやつでござろう? 諦められよ」
「師匠ほどじゃありませんけど、ボクも一人で居るとお嬢様のご所在をよく訊かれます……」
「お前もか。頻度が低いならともかく、代わる代わる連続で訊かれると疲れてくるよな……」

 そんな話をしている内に目的のポイントに到着。
 魔力エンジンが停止し、帆が自動で畳まれて錨が降りる。
 ここに来るまでの道すがら、NPCへの聞き込み班からは成果が芳しくないとメールで同盟メンバーへの一斉送信が来ていた。
 やはりチャットが無いのは不便だ。この運営は狙ってこの不便さを作っているのだろうけど。

「今の内に満腹度を回復させておこうか。ワルター、金平糖食べるか?」

 俺はインベントリからガラス瓶に入った金平糖を取り出した。
 じゃらじゃらと振りながら見せると、彩り豊かなそれにワルターの目がキラキラと輝く。

「頂いて良いんですか、師匠?」
「ああ。一杯作り過ぎて余ってるから、瓶ごとやるよ」
「うわぁ、ありがとうございます! 嬉しいです! 綺麗ですねぇー……」
「……っ、ぐぅ、……ぅぉぉ……!」

 トビが金平糖を嬉しそうに眺めるワルターの姿に悶えている。
 何やら言いたいことを必死に堪えている模様。
 瓶から一つ口に入れ、甘さにうっとりしている様子は女子にしか見えないのは確かだが。

「甘くておいひいです……ふわぁ……」
「前にセレーネさんと回転鍋を作ったんだよ。上手く出来たのが嬉しくて、ちょっと作り過ぎちまってさ」
「……くっ……すー、はぁー……。ハインド殿、拙者にも一つ……気分を変えたい」
「ほらよ」

 金平糖を一つ放ると、トビは手で取らずにそのまま口で受け取った。
 ワルターが「おー」と呟きつつ拍手した。ナイスキャッチ。
 自分の口にも一つ入れると、俺は瓶を閉じて記録用の羊皮紙を取り出した。

「さて、観測のお時間だ。俺が記録するから二人は海をしっかり見て、こっちに報告をくれ」
「ふむ、今のところはあれ一つでござるか。他の船は、真っ直ぐにあの群れを追いかけているでござるな。見た感じ、定点よりは釣れているような気が」
「それでも、やっぱり速度が足りていないみたいです。段々と置いて行かれて……」

 どうやら海面に多数の船が集まり過ぎると、マグロが警戒して速度を上げて振り切ってしまうらしかった。
 30ノット(約55Km)という現代の軍船並みの速度が出るらしい「黒船」なら追い回せるかもしれないが、追いかけることで警戒されればそれだけ釣りにくくなると思う。
 やはりルートを把握して撒き餌を行えれば、それが一番良いのだろう。

「っと、群れが行っちまったな……周囲に他の魚影はあるか?」
「師匠、東の方から新しい群れが」
「ハインド殿、南からも来たでござる」
「えっと……あ、そっか。メニュー画面からマップを開いて、座標で言ってもらえるか? 自分が今向いている方向も表示されるから、見れば分かるはず。大雑把で構わないから」
「はい!」
「了解でござる」

 こうして報告を記録していくと、北エリアは酷かったな……。
 時間帯によっても変わる可能性もあるが、明らかに発見できる魚影の群れがあちらよりも多い。
 群れが侵入してきた座標、途中のいくつかのポイント、そして去って行った座標をしっかりと記録していく。
 しばらくの間、周囲のプレイヤー達の奇異の視線を浴びながらも、俺達はひたすら同じ作業を繰り返した。

 それから約三十分ほど経ったころ。
 風で飛びそうになる羊皮紙を押さえ付けて二人から上がってくる報告を書き込んでいると、急に派手な効果音が耳に届く。

「何だ今の音? ……ん? どうかしたか?」
「ハインド殿、あれ! あれ!」

 二人は同じ方向を見て固まっていた。
 トビが指差した方向に目をやると、円みを帯びた白い光の壁が天に向かって伸びている。
 続けて、視界の中に字幕が流れ始めた。

『セーピア水域南エリア(37:50)において、みかんの皮 様 がクラーケンを喚び出しました(参加者数5/250・参加可能)』

 どうやらあの中に入るとクラーケンとの戦闘を行えるらしかった。
 参加自由で現在5人ってことは、1PTで参加しているプレイヤー達ということになる。

「早いでござるな! もう10匹釣ったのでござるか!?」
「師匠、どうします? ボクらも行ってみますか?」
「……いや、ここは我慢だ。このままここでマグロの群れを追うぞ」
「くあーっ! 遠くから祭りを眺めているだけというのは、実にツライでござる! 参加してぇ!」

 光の柱に向かい、続々と周囲の船が近付いていく。
 そして柱に触れると、吸い込まれるように船の姿が消えていった。
 しばらくした後、光の柱の色は白から黄色へと変わる。

『セーピア水域南エリア(座標37:50)において、みかんの皮 様 がクラーケンを喚び出しました(参加者数250/250)』

 そして字幕の情報が更新された。
 なるほど、満員になると色が変わるわけか……光に向かって移動していた船は、色が変わったのを見て引き返していく。
 しかし、ほどなくして別の場所でも光の柱が昇り――先程までのゆっくりとした海域の空気は薄らぎ、本格的にレイドイベントが始まったのだという空気が周囲に充満している。

「出遅れてる感がパねえ! ハインド殿ぉ……」
「情けない声を出すんじゃないよ。俺達は俺達のやるべきことをやるぞ」
「トビさん。今は我慢です、我慢」
「くぅぅ……!」

 逸る気持ちを抑えながら、俺達はマグロの群れの観測を続けた。
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