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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

複合型レイドイベント

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初日の方針 検証と最適化

 張り切って沖に出た俺達だったが、それからしばらく後。
 釣り糸を海面に垂らしたみんなの口数が減り始めるまで、それほど時間は掛からなかった。
 ここはイベント対象ポイントである『セーピア水域』の北エリア。
 使用している釣り竿は『港町ノトス』でNPCがショップ売りしている『テュンヌス専用釣り竿』である。
 通常の釣り竿よりも太く大型で、また耐久性にも優れている。
 餌はこれまたショップ売りの『釣り用・イカの切り身』という物を使用。
 しかし……。

「釣れねえ」

 テュンヌスことマグロは全くと言っていいほど釣れなかった。
 今のところ、それらしいアタリすら皆無。

「ハインド、私は眠くなってきたぞ……ふぁぁ……」

 船酔いこそしなかったものの、ユーミルは瞼を重そうにしている。
 他のメンバーも似たようなもので……。
 特にシエスタちゃんなんかは完全に立ったまま寝てるだろう、あれ。
 そんな倦怠感漂う船上で、リィズがススッと俺に体を寄せてくる。

「ハインドさん。ゲームというのは基本的に現実よりも手間が簡略化されている物が多いと、前に私に話してくださいましたよね?」
「ああ。言ったな」
「それでしたら、現状のペースを考えますと――」
「確かにおかしいな。もっと簡単に釣れていいはず。それに、これじゃいつまで経ってもまともにレイドボスを呼び出せんぞ」

 現在のマグロの釣果は「全体で」たったの五匹である。
 百人近くが一斉に糸を垂らして、三十分経過してたったの五匹……。
 そしてクラーケンを呼び出すために必要なマグロは一回につき十匹である。
 深く考えるまでもなく、これは良くない状態と言えよう。

「……ちょっと作戦会議が必要だな。ミツヨシさんとヘルシャに話をしてくる」
「ええ。その間、ハインドさんの竿は私が管理しておきます」
「ああ、任せ……今、何故だか急に寒気がしたんだが、どうしてだろう?」
「さあ。どうしてでしょうね?」

 気のせいか……? リィズは何もおかしなことは言っていないはず。
 俺を見返してくる瞳は普段と変わらないものだ。
 南の海は暑いくらいだし、もしかしたら風邪でもひいたのかもしれないな。
 ログアウトしたら何か温かい物でも飲むことにしよう。



 後部甲板に回ると、そこでは黒服の一団が前部甲板と同じように釣り糸を垂らしていた。
 その中で見覚えのある、サラサラヘアの小さな背中に向かって声を掛ける。

「よっす、ワルター」
「あ、師匠。どうかなさいましたか?」
「ヘルシャは何処に居る?」
「お嬢様はあまりの釣れなさ退屈さに堪え切れず、ミツヨシさんのところへ直談判に向かわれました。つい先程のことです」
「そか。ミツヨシさんと一緒なら都合がいい。ありがとうな」
「いえ。師匠、後でお時間がある時にもっとお話ししましょうね!」
「ああ。憶えとくよ」

 ワルターに礼を言い、黒服軍団に背を向けた。
 執事服にメイド服という格好こそ異様だが、彼等は彼等でガヤガヤと雑談しながら楽しそうにやっている。
 ワルターの周囲はやっぱり比率的にメイドさんが多かったけれど。
 女子の雑談の輪に混じって浮かない辺りが、いかにもあいつらしい。
 確か、ミツヨシさんは艦橋で操船方法を確認していたはずだ。

「――しかし、やっぱこの釣り方じゃ無理なんじゃねーかな……」

 踏み出し掛けた足を止め、聞き耳を立てる。

「なんか、みんなが普通に釣り糸を垂らし始めたから言い出しにくくなっちゃったな」
「んでも、他の釣り場じゃ必要なかったやり方だしなー。判断に迷うって」
「今更お嬢様にも言い出しにくいし。何なら俺達だけでこっそりやってみるか?」
「それこそ、もし上手くいったとしても怒られんだろ。ここは素直にだなあ」

 そこまで聞いた俺は、間を置かずにその執事服二人の元へと全力で走った。

「その話、詳しく! 是非!」
「お、おお!? 何だ何だ!?」
「誰かと思えば本体さんじゃん。どしたぁ?」
「お二人は釣りに詳しいんですか? 何か気になっていることがあるなら、俺に教えてください!」 



 艦橋に登るとミツヨシさんとヘルシャ、それと一人のメイドさんがヘルシャの斜め後ろに控えるように立っているのが目に入る。
 うーん、俺の勘違いでなければあの黒髪セミロングな後ろ姿……現実リアル静乃しずのと呼ばれていたメイドさんだと思うのだが。
 頭の上に表示されているプレイヤーネームは『カーム』となっている。

「お、ハインド君。どうした? キミも場所変えの提案かい? ただ、彼女の様に何処でも良いってのは困るんだが」
「場所変え? ああ、ヘルシャは場所さえ変えれば釣れるだろうって意見なのか」
「それ意外に何かありますの? 私、もうこれ以上退屈なのは耐えきれませんわ! 船の上でぼんやりするためにゲームをやっているんじゃありませんのよ!」

 ヘルシャは若干イライラしているようだ。釣りに向いてねーな。
 何処でも良いから移動を開始しろとミツヨシさんに盛んに言い立てている。
 しかし、無策で進んでも今と同じ様な結果にしかならないと俺は感じていた。
 魔王ちゃんの紙芝居からも、現実の生態から考えても、恐らくマグロは群れで移動しているはず。

「別にヘルシャの考えを否定しているわけじゃないって。ただ、闇雲に移動しても結局は時間を浪費するだけだよ」
「ならどうするんですの? 闇雲だろうと、このままここに居続けるよりは遥かにマシではなくって?」
「それに関して俺に一計がある。ただ、それ以外にも色々と考えなきゃいけないことがあるのも事実でな。そこで、まず大前提として……」

 俺はヘルシャとミツヨシさんの顔を順番に見て、それからある提案を投げかけるために口を開いた。
 それは……

「初日のランキングは、この際思い切って捨てませんか?」

 という内容である。
 二人が俺の言葉に、目を見開いて固まった。



 艦橋から甲板に向かって移動しながら、俺は先程の発言の意図を二人に説明した。

「このイベントは、究極的には同じ作業の繰り返しでしょう? 七日間、釣っては討伐の繰り返しですから。なので初日は要素の検証と、最適なパターン構築に時間を費やしましょう」
「言葉にしないだけで、多かれ少なかれどのゲームでも感覚的にやっていることではあるね。だから、ハインド君の意見は正しいと思うぜ。掲示板を見ても、今回は情報を渋るプレイヤーが多い印象だ」

 今日の内に最適なやり方を掴めれば、最終的には何となくプレイしている連中よりいい結果を出せるはず。
 情報に関してもミツヨシさんの言う通りならば、自分達で積極的に掴みに行かなければならない。

「……言われてみればその通りですわね。そんな簡単なことにも気が付かないなんて、わたくし、暑さに頭がやられていたのかしら?」
「この大きな船の姿に浮かれていた、の間違いでは? お嬢様」
「……」

 この口さがない感じ、そしてぱっつん前髪はやっぱりあのメイドさんで間違いない。
 カームさんの横槍にヘルシャは嫌そうな顔で沈黙した。どうやら図星を突かれたようだ。

「ま、まあそれはともかく。ここに来るまでに釣りに詳しいメンバーに聞いてきたんですけど、マグロの一本釣りってのは、現実では最初に撒き餌をするらしいんですよ」
「……ふむ。それで?」
「で、ゲームでもそれが有効かどうか確かめたいわけです。それ以前の問題として、マグロの回遊ルートの把握が必要になるわけですが」

 順序としては、まず先に大雑把で構わないのでテュンヌスの回遊ルートの把握。
 次いで撒き餌の有効性を確かめること、という形になるだろう。
 VRと言ってもゲームはゲームなので、現実との違いを確かめることは重要な作業となる。
 撒き餌に使う餌もタダじゃないし。

「回遊ルートに関しては、マグロらしき影を見たという人が何人か居まして。海上から群れを目視可能と判断しました」

 ここらのマグロの生息域は割と浅いようだ。
 海は澄んでいるし、拡大鏡のようなものがなくても確認可能ということになる。
 というか、船に探知機の類が無いので人力で何とかするしかない。

「後は、港まで戻ってNPCの漁師に情報を聞き込むのも手かと。すんなり情報が手に入れば良し、駄目なら先程言ったような目視でマグロの群れを追うことになりますが」
「何人か、ギルドメンバーの知り合いに親愛度の高いNPCが居るはず。当たってみよう」
「お願いします」

 ただ、NPCからの情報提供に関してはあまり期待していない。
 それが可能な場合、余りにも他地域から来たプレイヤーとこのエリアを拠点としているプレイヤーとの差が付きすぎるから。
 漁場のそういった情報というのは、現代と違って貴重なものだろうし……。
 そう気前よく教えてもらえるとも思えない。

「……と、こんな感じにざっくりとした方針ですけど。どうでしょう?」
「なるほどね。ウチは港町にギルドがある割に、海釣りなんかが趣味のメンバーが誰も居なくてなぁ。ちっと事前の準備が杜撰ずさんだったかな。ハインド君がその二人に聞いてきてくれたことは全部、ネットででも軽く調べれば分かることだもんな」
「仕方ありませんよ。みんなクラーケンのことで頭が一杯で、空き時間は回復薬の拡充を優先していましたから」

 同盟の連絡を取って、それから急いで移動して、集合して相談してアイテムを揃えてと異常な忙しさだったからな。
 そんな中で情報の共有や準備に不備があったとしても、それは仕方のないことだろう。
 彼等のギルドは大人数ということもあるし。

「私としたことが、上ばかり見て足元を疎かにするなんて。確かにあの二人、前々から何か言いたげにしていましたし……」
「身内からの情報を見落とすなどという失態、旦那様に叱られますよ? お嬢様」
「くっ……言われずとも、自戒して次に活かしますわ! 見てらっしゃい!」

 ヘルシャはゲームを使って何かの組織運用の練習でもしているのだろうか?
 時折、こういった普通とは違うズレた会話をワルターともしていることがある。
 ミツヨシさんに視線をやると、黙って肩をすくめた。
 深く触れない方が良いんじゃない? という感じの表情と仕草だ。俺もそう思う。

 しかし、こうしている間にもイベントの残り時間はどんどん減っていく。
 大事なのはここからいかに早く軌道修正するか、である。
 俺達は今後の作戦を練りつつ、メンバーが集まる甲板へと出た。
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