リベンジマッチ
「MP回復のルール? そうだなあ……」
MPが回復する条件について聞きたい。
そんな事をリィズが言い出したのは『ドンデリーの森』を抜ける頃の事。
リィズは俺の弟子であると、それらしい説明をしてクラリスさんに許可を貰い、森で数戦だけ戦闘を行った。
その際に得た疑問なのだろう。
リィズは飲み込みが速く、即座にコツを掴んで一人でも森のモンスターを倒せるようになった。
俺達はヒイヒイ言いながら倒してたのに……装備の差があったからだと思いたい。
「まずはアイテムか。これは戦闘時・非戦闘時問わずに何時でも回復できる基本的な手段だ。で、他には戦闘時以外は歩いたり、走ったりしていればそれに応じて回復するな。距離だと体格で有利不利が出るから、多分歩数だと思う」
「疲れる行動をしているのに回復するって、少し変ですよね?」
「良いんじゃないか? 人間、じっとしていると却って体調が悪くなる場合もあるし……。適度に運動すると健康的だろ? MPもそんな感じってことで」
「ククク、完璧に言いくるめられているではないか。ざまぁないな!」
おー、根に持ってる根に持ってる。
ユーミルがゲームシステムを説明している時は、えらく嚙みつかれていたもんな……。
そのユーミルの煽りに、リィズが眉をピクリと動かした後に無表情になる。
あ、これはキレてるな。
「ハインドさんのそういう理由付けはとても納得しやすいです。何処かの誰かさんと違って。何処かの誰かさんと違って」
「どうして二回言った貴様!」
武器を抜いて二人が睨み合う。
やめてくれよ……後で回復するのは俺なんだからさ……。
それまで成り行きを見守っていたクラリスさんが、俺の隣に来てのんびりと一言。
「皆さん、仲がよろしいんですね。羨ましいです」
「これは仲が良い……んですかね? まあ、見方によってはそう取れなくも……」
「お互いに遠慮が無い感じがして素敵ですよ? 望んでも、中々得られないものだと思います」
「……あー、得難い関係だとは思っていますよ。確かに」
俺は照れもあって頭をポリポリと搔きながら答えた。
落ち着きあっていいなぁ、クラリスさん。
俺もこんな姉が欲しか――おっと、止めよう。
また冷たい視線をぶつけられそうな気がするし。
「お前らー、話の続きをしても良いか? 止めないと明日の弁当作らねえぞ」
「お願いします、ハインドさん」
「ちっ。続けてくれ」
「んで、次は戦闘中のMP回復についてな。戦闘中は歩いて回復する分が削除、微弱な自然回復が付与される。加えて、前衛の場合は……ユーミル」
「んむ。ダメージを与えるか与えられるかすると貯まるな」
「で、魔法職の回復手段は別にあって……と、丁度いい。あそこのゴブリンで試そう。敵に見つかるか、こちらから一発殴ると戦闘状態に入る。ほいっと」
ホーマ平原南部に入ったので、低レベルのゴブリンを杖で殴りつける。
ゴブリンの攻撃を躱し、『ガードアップ』と『アタックアップ』の魔法を自分に使って適当にMPを消費する。
「ここで、ある一定のポーズ……神官の場合は片手で杖を天に向かって掲げる体勢な。この状態で静止すると……」
足元に魔法陣が出て光を放ち始める。
その効果でMPゲージが通常よりも早い速度でチャージされていく。
「MPが回復する。立ち止まる必要があるから、これを使うかはケースバイケースだ。立ち止まれない時は回復アイテムを使うか、自然回復を待つかのどちらかだな――せいっ!」
レベル6のゴブリンを殴って戦闘を終わらせる。
クラリスさんが俺の手際にパチパチと拍手をくれた。
おだて上手だなぁ。
実際、悪くない気分だけど。
「なるほど……魔法を使う職は距離の取り方が大事なんですね」
「パーティなら、前衛が敵を引き付けている間はMPの回復に専念すればいいと思うぞ」
「つまり、ユーミルさんを囮に使えばいいと」
「おい」
「言い方は悪いが、その通りだ」
「くっ、納得がいかん……事実だとしても……」
「仕方ないだろ。前衛1、後衛2のパーティなんだから。本当は盾役を出来る奴が居るとバランスが良いんだけどな。ユーミルはアタッカーに回して」
「居ないものは仕方ないか……もういい、この苛立ちはオーガにぶつけてやる!」
「もはや発言がパターン化してきたな、ユーミルよ」
「頑張って下さい、メイン盾さん」
「うるさいぞお前ら! もう、さっさと進むからな!」
肩を怒らせて進むユーミルに続いて、俺達は『ホーマ平原』を北へ縦断した。
「ガアァァァァッ!」
「ひっ!」
北エリアに入り、現れたオーガの咆哮にクラリスさんが身を竦める。
俺の後ろに居る様にお願いし、三人でオーガと対峙する。
「ヒャッハー! リベンジマッチだぁ!」
「わあ……あんなに大きな相手に対して、全く恐れを抱かずに……」
「あいつはアホで鈍いだけです。リィズ、適当に魔法で援護してくれ。まだレベル差が大きいから、オーガに狙われそうになったら逃げに徹してくれていい」
「了解です、ハインドさん」
ユーミルがオーガに斬りかかる。
新しい防具の効果もあってか、充分に戦える状態に仕上がってはいるが……。
「うわらば!」
「は、ハインド様! ユーミルさんが!」
「防具込みで三発か……補助魔法を足して四発ってとこか? WT的には充分だな」
「お、落ち着いてますね……大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です、打ち合わせ通りなんで。まずはユーミルに聖水を投げます」
瓶が命中し、ユーミルが起き上がる。
続けて『ヒーリング』を使用、体力がフルに近くなる。
「な、なんのっ! まだまだ!」
「三十秒は持たせろよー。続けて補助魔法を掛け、ピンチになったら初級ポーションを投げます。で、MPをチャージ」
「……」
ユーミルがオーガに何度も斬りつけ、時折、リィズの方から『ファイアーボール』の魔法が飛んで行く。
ユーミルの被弾が一発、二発……そろそろか。
「次にユーミルの集中力を読んで、途切れそうになったのを見計らって……蘇生魔法の詠唱を開始」
「ふ、普通は無理ですよ? そんなの。魔法が空撃ちになっちゃいますよ!」
「ちにゃっ!」
「ええ!?」
長ったらしい詠唱が終わった瞬間、ユーミルが棍棒で吹っ飛ばされた。
良いペースでオーガにダメージを与えているじゃないか、これならイケる!
レベル15で取得した待望の蘇生魔法『リヴァイブ』を、ユーミルに向けて放つ。
「何度でもおっ!」
「か、完璧なタイミングで……!?」
「ユーミル、回り込んで背中を斬りつけろ! 攻撃が大振りだから、それで避けやすくなるはずだ! リィズ、弱点は頭部だ! 狙いをつけて魔法を撃ちまくれ!」
「応!」
「はい!」
「すごい……なんて的確な……」
パターンは読めた。
稀に事故の様に大振りの攻撃が当たるユーミルをフォローしながら、オーガのHPを削る、削る、削る……って、序盤にしてはやけに硬いな!?
「グオォォォォォ!」
「とどめだ!」
ユーミルが大ジャンプからの『捨て身』『アタックアップ』が乗った状態の『スラッシュ』をオーガの頭部に決め、ようやく巨躯が膝をついた。
体に亀裂が走り、光を放ちながら大げさに爆散する。
序盤のエリアボスに使う演出じゃねえだろ……。
それを見届けたユーミルがこちらを向き、嬉しそうに剣を掲げた。
「勝ったどー!」
「ああ、勝ったな」
「勝ちましたね」
「お前ら、淡泊過ぎないか!?」
嬉しいけど、キャラじゃないというか……まあ、いいじゃないか。
やっぱり、蘇生魔法があると戦いの安定性がぐっと増すな。
ユーミルは死に過ぎだけど。
「ハインド様、私、感動しました!」
「く、クラリスさん?」
突然、クラリスさんが両手で俺の手を握ってくる。
柔らかい手だな、癒される……。
「ハインド様、何処かのお城に仕えてみたらどうでしょうか! 貴方なら、立派な指揮官になれると思います!」
「……城?」
城を抱えているような大きな街が、TBには複数あるのか……?
新たな展開の予感に、ユーミルが目を輝かせた。