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ジェームズは妹メアリーの成長振りを見て、あとが続かなかった。あの小さかった9歳の少女がこんなにも大きくなった。ここの生活がどうであれ、今の妹の快活そうな表情を見ていると、彼女がここで如何に愛されて育ったのかは、おのずと分かるというものだ。
けれどもジェームズの涙はなぜか止まらない。
「兄さん……泣かないで……本当に泣かないで。わたしは嬉しいの。笑いましょう? ね?」
メアリーは心配そうに兄を見上げる。
「笑いたいけど、でも出来ない。だってこの6年間、僕はお前を放ったらかしにしていたんだから」
「6年間、どんなことが起こったかと言う事は、お互いに言うのはやめましょうね。わたしも兄さんがこの間にどんな目に合ったか、知っているつもりなのよ。色々、色々あったってこと……」
ジェームズは下を向いたままやがて嗚咽をやめたが、まだ鼻をすすっていた。
二人は、許されている時間内に連れ立って外に出た。崖から遠い水平線をじっと見つめ、あれこれ話し合った。メアリーの頭の白い被り物が、強風にはためく。
「海はね、静かなときもあるの。いつもこうじゃないのよ」
とメアリーは波立つ時化た海を見下ろした。
「来たくても来られなかった」
何も聞いていないかのように、ジェームズはつぶやいた。
「もういいのよ、兄さん」
メアリーは兄には振り返らずに答えた。「分かっているの」
「今度来るときは、お前を迎えに来るよ。又二人で一緒に暮らすんだ。それまでには何とかしなくちゃならないが」
「何とかなればいいわね」
メアリーは漠然とした不安に駆られて言った。メアリーは自分は勘が鋭いこと、そして何とはなしに他人の未来が見えるという自分の能力に、怖れを抱いていたのだ。それは誰でもが持っている資質ではなかったが、メアリーはなぜかよく当たった。
メアリーは今兄が述べたことは嘘ではないが、けれども、それが不可能であるということも、何となく感じていた。
「そうするんだよ!」とジェームズは意思的に言い張る。
「ねえ、兄さん」とメアリーはやっと兄の方を向いた。妹でなければ、どこかときめいたかも知れない容姿を持つ、自分の兄に。
「お祈りしましょう。わたしに出来ることは祈ることだけなの。わたしは兄さんにとっては何の力になることも出来ないから」
「お前が健康で幸せならば、僕は何も言うことはない。愛しているよ、メアリー」
ジェームズはその捕らえどころの無い色彩の瞳で、愛しそうに妹を見下ろした。メアリーは俯き、そして微笑んだ。
例え兄妹でも、ジェームズはやはり大人の男だ。そしてスウォンシーでもカーディフでも、こんなに見目麗しい若者はまずほとんど居ないだろう。
メアリーは秘かに兄のことを誇りに思った。自慢したい気になった。“世界一素晴らしいお兄さんを持っているのよ!”と世間の人間に叫びたくなった。
けれどもそれが不可能なことぐらい、彼女はもう分かっているほど成熟していた。もしも言えるとしたら、ここの風と海にだけだろう……。
「もう時間だわ。戻りましょう」とメアリーは囁くように告げた。
あの日から、もう3年になる。ジェームズは大人になった。けれども魂と肉体は、更に墜ちて行った。そしてメアリーは益々世の汚れを知らぬまま成長していった。
この大きなギャップを、一体どのようにして埋めればいいのだろう。
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