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『 シスター・ルース様

 ……ついでながら、あなたが以前申しておりましたメアリー・A・エドワーズの兄であるジェームズ・C・エドワーズは、傷害の罪で今はドーセットの警察に身柄を拘束されております。被害者は、C・M・オーウェル氏、57歳で、ただ今瀕死の状態で生死をさ迷っているような状況です。
 もしもオーウェル氏が亡くなりでもしたら、ジェームズ・エドワーズの罪は殺人罪と言うことになるでしょう。彼は7年前の放火もあり、他にも様々な余罪があると言う以上、ジェームズの処罰はかなり厳しいものになると思われます。ことによったら、処刑という最悪の事体になるやもしれません。
 メアリー・エドワーズに真実を告げるべきかどうかは、あなた様の裁量にお任せ致します。メアリーのような賢く清らかでかつ美しい女性に、かくもあのような邪な兄が居ると言う事は、まことに残念に思います。

 それでは、神のご加護を!
                リトル・ウッド司祭 J・サイモン 』
 
 シスター・ルースは、憤りと哀しみのあまり、机の上でその手紙を握り潰した。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*


「お嬢様……さぁ、下に降りて下さいまし」
 エレーンの声がし、扉を全開にした音がした。
「どうして……」
「もう、ここに居られる理由はなくなりましたし……それにお父様にお会いしなければ」
と言い難そうに、エレーンは告げた。
「ベス様もロバート様もおいでです。もう直ぐトレイシー様もお着きになるでしょう」
「どうしたの!? 下で何か騒がしい音がしたけど」

 エレーンはそれには答えず、ほとんど何も見えないサラの手を取った。痩せ細ったその小さな手は、けれども頼りなくエレーンの分厚い腕を掴んだ。
「教えて、何かあったのね」
 ハァハァと言うただならぬ興奮したエレーンの息遣いで、サラは直感した。
「お父様が!」
「仕方ございませんね〜。いつかは分かる事ですからね」
 エレーンは覚悟を決めた。

「お父様は、重症を負って、ただ今臥せっております。意識はございません」
「え?」
「やったのは、エドワーズです、お嬢様」
「やった?」
「彼は」とそこまで言うと、エレーンは激しい怒りで声が詰まった。「彼は、オーウェルの旦那様を殺そうとなさいました!」
 ただでさえ弱っていたサラは、身内を雷で貫かれたような衝撃を受けて、倒れ掛かった。けれども、何の言葉も出て来ない。

「さ、お父様のお部屋に参りましょう」
 久しく使わなかった足は、まるで萎えたように感じ、そして更なるショックの余り、ほとんどエレーンにしがみつくようにしながら、サラは急な階段をよろよろと下りた。
 二階ではではざわざわという声と、そして不思議な静寂とが入り混じっていた。
「あ、サラ!」と呼びかけるオーウェル夫人の涙声が響いた。
「済みません、あたし、言っちゃいましたわ」とエレーンは夫人に向かって、謝りの言葉を述べたが、誰も聞いては居なかった。

「いつかは、分かる事よ!」と叫ぶベスのヒステリックで耳障りな声が響き渡る。
「あんたが付き合っていたあの悪魔によって、お父様はご重体になられているのよっ! 少しは目が覚めた、サラ!?」
 サラはよく見えない目でベスの方を向いたが、両手で口元を覆っているだけで、何一つ言葉が出ないのだ。
「何か言ってよ、サラ! あいつは今頃、警察署に捕えられているわ。数人が目撃していたし、自分が全てやったって白状したのよ。そして何も後悔していないとも言ったって! あいつがあんたを自分の復讐の道具に使っていたってことが、分かったでしょう!! あんな犯罪者を愛するなんて、あんたって何て馬鹿なの!?」

「もういいのよ、ベス」とオーウェル夫人が止めに入った。「もういいの。サラも今度こそ、分かったでしょうし、わたし自身も騙されていたのよ。だからもう……サラ……いらっしゃい。お父様の寝室に行きましょうね」
 サラは少しずつ後退りしていた。そして、ぼんやりとした光のほうへ、微かに見える開け放たれた二階の窓の方へとジリッジリッと近寄った。既にサラ自身は抜け殻だったが、自分が何を欲しているか、今この時分かったのだ。
 サラは窓にクルリと振り向くと、窓枠に手を掛けた。下は見えない。それだけが幸いだ。もう何も欲しくないし、ここから逃れる事だけを考えていた。

「あ〜〜っ! サラ〜!」
 最初に気付いたのは夫人だった。けれどもサラはもう半分は身を乗り出していた。サラは宙に飛び出した……と思った瞬間、何者かがサラを背後からしっかりと抱き締めた。
「サラ! 早まらないで! わたしよ!」
 姉のトレイシーの優しい声が耳元でした。しっかりと自分を繋ぎとめる暖かくがっしりとし、決して離さないと誓ったような、その力強い腕……。

「もう大丈夫よ、サラ。わたしが居るから」
 サラは抱き締めたトレイシーの胸のブラウスのレースにつかまると、声にもならない声で号泣し出した。
「サラを責めるのはもうやめて」とトレイシーは穏やかに、けれども毅然として言った。「サラもまた犠牲者なのよ!」
 ベスも黙り込んだ。サラはトレイシーの豊満な胸の中で泣き続けたが、もう言葉を発する事はできなくなった。言葉は、既に何の意味も持ってはいない……。あるのはただ、全てを失うと言う事実だけ。






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