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『 親愛なる妹、メアリー
 久しぶりですが、元気ですか? 
 今まで書いてこなかったが、実は言いたいことがあって書きます。兄さんはお前のことを心配している。だからここには来て欲しくないということを告げたくて……』
 ここまで書くと、ジェームズは手紙を破り捨てた。

― 一体何て書くんだ!? ここのドラ息子が女たらしだから来るな、と言うのか? そして、そのまま尼にでもなれと命じるのか。
 ああ! どうすればいい?

 ジェームズは暗く狭く侘しい自室で、煩悶していた。ボブのことも気になった。この間はあんなに元気そうにパブで酒を飲んでいたではないか。けれどもジェームズは知っていた。ボブの中の恐ろしいほどの忍耐強さを。彼は決して誰かに弱音を吐くような奴じゃない。そして他人に弱みを見せることすらない人間なのだ……。例え親友にでも。
 金があれば、ボブを医者に見せたいと思っていた。けれども仲間の内、誰一人として金のある者は居ないのだ。
 
 ジェームズ自身も酷い有様だった。彼の財布にはほとんど金はなく、蓄えも無かった。毎月のお給金は、只のようなものだったからだ。ニッキーだけが長男で、細々と農業を営む親と住み、幾らかあるかもしれないが、それだって最近の飢饉で底をついているはずだ。
 それなのに、サラは莫大な大金を使ってロンドンに行き、目の手術を受けた。その大金が一体どうやって出来たか、本当のことをあのバカな小娘に知らせてやりたいものだ! 多分彼女は何も信じないだろうが……。
 ジェームズは黒い髪を掻き毟り懊悩していたが、やがて目が塞がり始め、昼間の疲れで寝入ってしまった。 

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 スウォンシーは西に行った所にある古い街だが、そこから更に西に海岸線を辿って行くところに、寂しげな女子修道会が建っていた。北側はヒースが生い茂る何も無い大地、そして南は崖になっていて、荒々しい大西洋の波がいつも岬に押し寄せている。
 そのような場所に妹のメアリーを預けていることに、ジェームズはいつも深い罪悪感を抱いていた。が、自分の置かれている立場もどっこいどっこいなのだ。
 罪の意識を必要以上に抱かない方がいいと、ボブはいつも言い聞かせていた。
「俺達を見ろよ! 俺達だって、他にどこへ行けばいいと言うんだ!? どこにも逃げる所なんかないんだぜ」と。

 セント・マグダレーナ修道会は、もちろん男子禁制だったので、ジェームズは入り口の直ぐ脇にある古びたアルコーブの側の椅子に座り、長い間妹が来るのを待っていた。それは今からもう3年も前のことだ。
 目の前に駆け足で一人の美少女が近付いた時、ジェームズは正直言ってそれが妹だとはにわかには信じられなかった。

 メアリーが修道会に入るとき、ドーセットの町外れで泣きながら別れて以来だから、もう6年の年月が経っているわけだ。それだからだろうか? いや違う。少女の成長は見違えるようだった。ジェームズは「兄さん?」と躊躇いがちに呼ばれて初めて、その美少女がメアリーだと悟ったのだった。

「兄さんなの?」
 椅子に座ったまま帽子をいじっていたジェームズは、不思議そうにメアリーを見上げた。
「メアリー?」
「そうよ。やっぱり兄さんね!」
 満面の笑みが、そのうら若き修道女見習いの少女の顔に広がった。メアリーは立ち上がった兄の首に腕を廻すと、抱きついた。

「嬉しい! この日を待っていたのよ!」
 それから彼女はやっと腕を放すと、一歩下がった。頬がポッと赤らんでいる。誰であろうと、ここは若い男性はほとんどお目にかからない場所なのだ。
「でも、どうして……どうしてそんな哀しそうな顔をするの? 嬉しくないの?」
「そりゃ嬉しいさ、もちろん」
 ジェームズは複雑な感情にとらわれて、曖昧に口ごもった。そしてやっとニッコリと微笑んだ。

「それにしても、大きくなったね。背も伸びたし、背が高い方じゃないかい? 元気そうだし、それに何より綺麗になった。すっかり見違えたよ、本当だ」
「本当? ……兄さんだって、最初呼びかけるのを躊躇ったわ。そのうえ、戸惑ったし。だってもうすっかり大人なんですもの。お母様に似てきたわね。その目とか……その紫色の独特の瞳の色よ。そしてその表情とか。変ね、兄さんを見て、お母様を思い出すなんて」
「僕はお前を見て、父さんを思い出した。だから……」
 ジェームズは胸がつまり、声が出なくなった。ほろ苦い涙が、滅多に出ないと思われていた涙が、悔しいが目ににじみ、彼は下を向いたままだった。








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