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サラからせしめた8ポンド何がしかのお金は、ボブの薬に消え果て、もう少しで空になりつつあった。それだけでもジェームズの気持ちを沈ませるには十分だったが、もっと怖ろしいことを彼は悟ったのだ。もはやボブを救うことは不可能なのだという事を!
ジェームズは『黒猫荘』で飲み明かし、残った小銭の全てを使い果たした。もうお金では何一つ解決できない絶望の淵に、ジェームズは立たされたのだ。サラが心を裂き、罪を犯してまで盗んだお金は、全て泡のように無駄に消え果てた。
ジェームズは絶えずイラついて、ドリューやニッキーに当り散らしていた。顔の傷は一生残るだろうと思われたし、ジェームズを取り巻く状況は何一つ良くならないばかりか、少しずつ袋小路に追い詰められて行くようだった。
そしてもっと恐ろしい思いもかけないことが起きた。つまりジェームズは心の底からサラを求めている自分を発見したのだ。その衝撃は大きかった。
激しく憎むと誓ったのにも関わらず、なぜ自分がサラを求めているのか理解できず、ジェームズは苦しんでいた。ぼんやりしている時には、必ずサラの面影が現れる。純な瞳を持ち、心持ち首を傾げたサラの微笑を浮かべてしまう。ジェームズはそういう自分を嫌悪し、再び悪夢の中に漂う日々を送っていたのだ。
そして猟犬に噛み付かれて死に絶えた野ウサギが、まるで自分の未来のように感じて身震いした。自分はどう考えても……猟犬の方じゃない……。
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ようやく狩りが終わり、客人達が午後のお茶の為に屋敷の中に入っていった後、ジェームズは疲れ果てた足取りで、馬達を厩の方に引っ張っていった。
そして一通りの仕事が片付くと、どっと疲れが出てその場に座り込んだ。けれども安寧の時間は訪れそうも無かった。下女のマーガレットが、突然納屋に飛び込んできたと見るや、ジェームズの首に抱きついたからだ。
「ジェームズ! 今は誰も居ないわ。ね、あたしとやろうよ! あたし、あんたの為なら何でもするから」
マーガレットはがっしとジェームズの首根っこにしがみついたまま、どっと干草に倒れ込んだ。そして素早く自分のスカートを上までたくし上げ、何もはいていない自分の陰部を露出させた。
「ね、早く! 早くしようよ! この間のように。最近もうあたしとはしてくれないの、ジェームズ?」
納屋の暗がりに、マーガレットの下腹部と陰毛がうっすらと見えた。マーガレットはこれ見よがしに、自分の下肢を広げ、ジェームズを放そうとはしない。
「よせ! 疲れているんだ。今はその気なんてないよ!」
「ジェームズ……」
マーガレットは哀れっぽい甘え声を発した。「じゃあたしがその気にさせてあげるよ」
そう言うとマーガレットは、ジェームズのシャツを脱がそうとあがいた。ジェームズはほとんど張り倒すような勢いで立ち上がると、髪の毛の干草を払い、冷淡な目でマーガレットを見下ろしていた。
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台所付きの料理女でもなく、その下の下女に過ぎないマーガレットは、女の使用人の中でも最低の地位にあった。彼女は母屋ではなく、ジェームズと同じ使用人小屋で寝泊りしていたのだ。
マーガレットは極貧の子沢山の農家に生まれ、もちろん学校にも行かせて貰えず、幼い時から子守などをして両親を助けていたが、両親は口減らしにマーガレットをギルフォード家に預けたのだった。以来マーガレットは両親とは会ってもいないし、両親も会いにも来なかった。見捨てられたに等しいのだが、マーガレットは娼婦として売られたわけではない自分の身を、それほど不幸だとは思わなかった。少なくとも、ここは自分の家よりも食料があり、食うには事欠かなかったからだ。
そして何よりもマーガレットにとって幸いなのは、自分の住んで居た村では絶対にお目にかかることの無かった、美しいジェームズに会えたことだった。
幸運と言うか不運と言うか、かなり不細工でずんぐりした容姿のせいで、ジョンの目に留まって犯されることもなく、マーガレットはひたすら下女として働いていた。
他の下女や小間使い達が、ジェームズを心の中では賛美しつつも外見上は小馬鹿にして無頓着に振舞っている中で、唯一人露骨にあからさまに、そして正直にジェームズに恋焦がれている自分を隠そうとはしなかった。
ジェームズはそれを知っていながら、何度かマーガレットと愛のない情交を重ねていた。マーガレットは決して拒まず、むしろジェームズに弄ばれることを無上の喜びとしていたのだ。
マーガレットは、ジェームズが自分の事を性のはけ口としかみなしていないことを、重々承知の上だった。ジェームズは気まぐれで、自分に対する扱いは邪険で、そして心は残酷だった。
けれどもマーガレットは、ジェームズの浮世離れした美貌の虜になり、精神的にはどんなに傷ついていたとしても、彼を追い掛け回すのを止めようとはしなかった。それは貧しい一人の若い平凡な娘の、唯一つの拠り所だったからだ。
「どうしたの、ジェームズ? なぜ?」
マーガレットは更に自分の下肢を広げてみせたが、ジェームズは無言でスカートを被せた。
「もうやめろよ、マーガレット」
「なんでよぉ?」
「疲れているし……寒い」
「あたしが暖めてあげるからさぁ」
「嫌だと言っているだろう。俺だってやりたくないときぐらいあるさ。種馬じゃないんだからな!」
「最近、あんたって変よ」
屈辱感に襲われながら、マーガレットはつぶやいた。その目に涙がじんわりと滲み、ジェームズの顔が二重に見える。
「変じゃないよ。なに言ってんだ!」
「あたしがブスだから? それとも、あの淫売女達の方が上手いって事なの!?」
「違うよ。何も分かっちゃいないな」
ジェームズは舌打ちした。戯れに抱いたマーガレットは、今や罪の代償としての棘になりつつあることを、ジェームズは悟り愕然とした。
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