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本編
第58話 祝福されない婚儀
 剣の先は、ジョーの髪を舞い上がらせる位置まで来ていた。
「バカめ! そのまま首を斬り飛ばしてやる!」
とアールコットがもう一歩ジョーに近づくと、ジョーはスッとアールコットの視界から消えた。
「何!?」
 アールコットがジョーの位置に気づいた時、すでに勝敗は決していた。彼はアールコットの懐に飛び込んでいたのだ。
「こいつ!」
 アールコットは剣を回すのをやめ、ジョー目がけて振り下ろした。ジョーは素早くそれをかわし、ストラッグルを抜いた。
「ああっ!」
 アールコットの剣はその長さ故、床に突き刺さり、一瞬止まった。
「今抜いてやるよ」
 ジョーのストラッグルが吠え、剣が真ん中から断ち切られた。遠心力がまだ残っていた剣は、そのままアールコットの右腿に向かい、これを切断した。右脚が倒れ、血飛沫が上がった。
「うぎゃあ!」
 アールコットは剣を持ったまま右に倒れた。ジョーはアールコットを見下ろし、
「奴はどこだ?」
「陛下は婚礼の最中だ。カタリーナ・パンサーとのな」
「何!?」
 ジョーは驚愕した。ルイはハッとしてジョーを見た。アールコットは半身を起こして、
「婚礼の間は、この先を真っ直ぐ行った突き当たりだ」
「何故教える?」
とルイが尋ねると、アールコットは苦痛に喘ぎながらもニヤリとし、
「陛下がそれをお望みだからだ」
 ルイはジョーを見て、
「すぐ行こう」
「・・・」
 ジョーは無言のまま走り出した。ルイがそれに続いた。

 婚礼の間では、真っ白なウェディングドレスを身に纏ったカタリーナと、スパンコール付きの白い軍服を着たブランデンブルグが、祭壇の前に立ち、司祭によって今まさに婚儀を行おうとしていた。
「来たか、ジョー・ウルフ」
 ブランデンブルグは婚礼の間の扉がぶち破られる直前にそう呟いた。カタリーナはハッとして振り返った。
「何の冗談だ、ブランデンブルグ?」
 ジョーはストラッグルを構えて、ルイと共に婚礼の間に入って来た。
「ジョー!」
 カタリーナが2人の方へ駆け寄ろうとしたが、ブランデンブルグに腕を掴まれた。
「待っていたぞ、ジョー・ウルフ、ルイ・ド・ジャーマン。私とカタリーナの婚礼の席によく来てくれた」
「カタリーナを返してもらおうか」
とジョーは厳しい表情で言った。ブランデンブルグはニヤリとし、司祭を下がらせた。司祭はそそくさとその場から立ち去った。
「返して欲しければ、この私を倒す事だ」
「言われるまでもねえ。てめえだけは生かしちゃおかねえよ」
「口だけは達者だな。ストラードを倒して、少し自惚れているのではないか?」
 ブランデンブルグはカタリーナに当て身をくれた。
「うっ・・・」
 カタリーナは床に崩れるようにして倒れた。
「私に触れる事が出来たら、勝った事にしてやる。カタリーナを返してやるよ」
 ブランデンブルグの両手が、バンと前に突き出された。ジョーとルイは身構えた。
「フン!」
 ブランデンブルグの右手が、サッと横に振られた。その途端、ジョーの左頬がスッと切れた。
「うっ!」
「これは一体・・・」
 ルイは唖然としてブランデンブルグを見た。ブランデンブルグはフッと笑い、
「私の最高の能力。空気中に衝撃波を走らせ、お前の頬をほんの少しだけ切った。今度はもっと深く切る!」
と左手を斜め上に振り上げた。すると、ジョーの軍服の右胸の部分が切り裂かれ、血が噴き出した。
「ぐっ!」
 ジョーは思わず右膝を着いた。その時、彼の右手首から血が噴き出した。
「何だ・・・?」
 ルイはストラッグルを構え、ブランデンブルグを狙った。ブランデンブルグはこれに気づき、
「ルイ・ド・ジャーマン、お前にも私の力、思い知らせてやろう!」
と言って、スーッと右手を上げ、バッと振り下ろした。するとルイの軍服が切り裂かれ、ストラッグルを持っていた手が血飛沫を上げた。ルイはストラッグルを落とし、
「何だ?」
「ククク・・・。お前達はこの私に近づく事すら出来ん!」
とブランデンブルグは一歩前に出た。そしてまた彼の右手がサッと横に動いた。ジョーの髪の毛がバサッと切られ、パラパラと床にこぼれ落ちた。その時ジョーは目を細め、
「おめえの力が本物かどうか、今から確かめてやる」
と言い、髪の毛を1本拾った。ブランデンブルグはそれをせせら笑って、
「バカめ! 死ぬがいい!」
と左手を振り下ろした。ジョーは髪の毛を前に出し、微動だにしなかった。右肩が切れたにもかかわらず、その手前にある髪の毛は、切れるどころか揺れもしなかった。ジョーはフッと笑って、
「大した手品師だ、ブランデンブルグ。タネはもうわかった」
「何ィッ!?」
 ブランデンブルグは目を見開いた。ルイもフッと笑い、
「なるほど。同一直線上にある髪の毛と右肩。何故右肩は切れたのに、髪の毛は切れなかったのか? 答えは一つ」
 ブランデンブルグはギッと歯ぎしりした。ジョーは髪の毛を放し、
「てめえの衝撃波とやらが、全くの捏ち上げだっていう事さ」
「うっ・・・」
 ジョーのストラッグルとルイのストラッグルが天井の一角を破壊した。するとそこから無数の発射孔の付いたレーザー装置が落下して来て、床に当たって砕けた。ジョーはストラッグルをブランデンブルグに向け、
「やっぱりレーザーだったな。手品師としては大した腕だが、俺やルイの目は誤摩化せねえぜ」
「ブランデンブルグ、お前の負けだ。バッフェンとストラードが地獄で待っているぞ」
とルイが言うと、ブランデンブルグはサッとカタリーナを抱き起こして自分の前に立たせ、
「どうだ、撃ってみろ、ジョー・ウルフ! カタリーナごと撃てば、私を殺せるぞ」
「・・・」
 ジョーは無表情にストラッグルを構えていたが、指が引き金に掛かっていなかった。
( いかん。ジョーは精神的にブランデンブルグに追いつめられている。顔にこそ出していないが、迷っている・・・ )
 ルイはジョーの感情を察した。ブランデンブルグはそんなジョーの思いを逆撫でするように、
「今まで愚か者共は、カタリーナの命と自分の命を秤に掛けて貴様との駆け引きをした。しかし私は違う。私を殺すには、貴様の手で、最愛の女を殺すしかない状況を作り出した!」
と勝ち誇った顔で言った。
「・・・」
 ジョーは何も言い返さなかった。ルイの額に汗が伝わった。
( ジョーの手法が逆手に取られた・・・ )
「死ね、ジョー・ウルフ! これが私の本当の力だ!」
と言うと、ブランデンブルグは右手を後ろから前へ横に振った。すると壁に亀裂が走り、その衝撃がジョーの腹部を襲った。
「ぐはっ!」
 ジョーは大きく後ろに跳ね飛ばされ、腹部をザックリと斬り裂かれて仰向けに倒れた。ブランデンブルグは目を細めて、
「私は本当はお前を殺したくはないのだ。跪け、ジョー・ウルフ! 私に平伏して命乞いをしろ。そうすれば命を助け、私の腹心の部下にしてやろう」
と言った。ジョーは苦痛に顔を歪ませて起き上がり、
「下らねえ事を言うな。誰がてめえなんかの言う事なんか聞くか」
「これは誘いではない。命令だ。宇宙最強のこの私の絶対命令なのだ。この命令に逆らう者は、死あるのみ!」
 ブランデンブルグは目を見開いて言い放った。ジョーの身体から大量の血が流れ出していた。
「時間の問題だと思うがな、お前の無様な死は。私に跪けば、すぐに手当をしてやる」
「てめえに助けられるくらいなら、傷口を広げて身体中の血を全部出しちまった方がマシだ」
 ジョーはニヤッとして言い返した。ブランデンブルグは高笑いをして、
「強がりを言うな。今止めを刺してやる!」
 彼はそう言うと再び右手を後ろにそらして前へ振ろうとした。しかし彼はその動作を止め、右の壁を見た。
「むっ?」
 次の瞬間、ジョーとブランデンブルグの間を爆風が突き抜けた。ジョーとルイとブランデンブルグは異口同音に、
「何だ!?」
と叫んだ。爆風の中から2人の男と1人の女が現れた。それはバルトロメーウス、フレッド、マリーであった。
「ジョー!」
「バル、フレッド!」
 ジョーは片膝を立てた。ルイはマリーに近づき、
「どうやってここへ?」
「フレッドさんが、探知機を使って・・・」
「そうか」
 バルトロメーウスはブランデンブルグを睨みつけた。ブランデンブルグはフッと笑い、
「お前がバルトロメーウスか。ジョー・ウルフは半死半生だ。早く手当してやるがいい」
「そうだな。だがその前にてめえをぶち殺してやる!」
 バルトロメーウスは2丁のストラッグルを構え、ブランデンブルグを狙った。しかしカタリーナが彼の前にいるので、撃つ事は出来なかった。
「どうした、早く撃て」
「くっそう!」
 バルトロメーウスはストラッグルを投げ出し、右拳を振り上げてブランデンブルグに向かった。
「やめろ、バルトロメーウス!」
 ルイが叫んだ。次の瞬間、バルトロメーウスはブランデンブルグの衝撃波で右腿を深く斬られていた。
「ぐうっ!」
 巨体が波を打ったように倒れた。ブランデンブルグはカタリーナを抱き上げ、
「今回は助けてやる、ジョー・ウルフ。だがこの次はこうはいかんぞ」
と言うと、壁のどんでん返しを使って逃げてしまった。
「ブランデンブルグ!」
とジョーは立ち上がりかけたが、よろけて膝を着いてしまった。
「ジョー!」
 フレッドはジョーに手を貸し、座らせた。ジョーは歯ぎしりして、
「畜生・・・」
「ジョー、すぐに止血する。横になってくれ」
とフレッドは促した。バルトロメーウスもようやく立ち上がり、
「何だ、今の衝撃は?」
と呟いた。

 ブランデンブルグはカタリーナを側近に預けて、
「奴らの艦を破壊しろ。そして15分後にこの艦も自爆させよ。ジョー・ウルフ共を生かして帰すな!」
「はっ!」
 ブランデンブルグは元来た方を見て、
「ジョー・ウルフ、お前程度は爆死が相応しい。私が直接殺す価値もない」
と呟いた。
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