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 もしよければお気に入りの切ない曲とともに読んでみてください。

最後の曲
作:詩音




 三月某日、私宇佐見愛沙(ウサミアイサ)は故郷を出ていくことになった。
 理由は本当に単純なもので、東京にある大学に行くためだ。

 東北地方にある海に面した私の町は電車が一時間に一本という田舎で、東京まで通うのは至難の技だった。家族や学校の先生と話し合い、上京することになったのだ。

 ただ、ここで私には一つ問題が生じる。
 幼馴染みであり、恋人でもある冬月海斗(フユツキカイト)のこと。
 私が上京を考えていると告げると彼は
「そっか。」の一言しか言わず、私は見放された気がした。



 私たちは妙に冷めた付き合いだったかもしれない。キス以上の経験はなく、デートはどちらかの家か近所の公園。
 町は過疎化が続いており遊べるようなものはなかったからだ。

「私、上京する。」

 いつものように海斗の部屋でくつろいでいた時、私はそう切り出した。

「……そ。」
 海斗はそう言って再び雑誌を読み始めた。

「……今度の日曜日、発つから。」
「うん。」

 重苦しい沈黙が流れる。今までこんな沈黙、何とも感じなかったのに、今は凄く辛い。


「何も言わないの?」
「……止めてほしいの?」

 海斗の問いに私は黙って首を横に振った。

「私らさ……どうする?」
「どうするって……何が?」
「遠距離恋愛にするか、別れるか。」
「……。」

 再び沈黙が流れる。
 このときの私の頭は酷くぼんやりしていた気がする。

「愛沙はどうしたい?」
「……海斗が決めて。上京は私のわがままだから。」
「……じゃあ、別れよう。」
「……。」

 サラリと言われた。それほど重要でもないように。

「俺はここで漁師として一生を終える予定だから。これから仕事覚えたりして忙しくなる。お前だって……大学、忙しいだろ?」

 そう言われると確にそうだ。レポートや講義……忙しくなることは容易に想像できる。

「そんな中で恋愛続ける自信、俺にはない。」
「……わかった。」

 その後、私はすぐに自宅に帰った。出発の日まで一度も海斗には会わなかった。
 私と海斗は終わってしまった。あっけない終わり方に、私は泣くこともなく残りの日を過ごした。別れた、という事実をまだ理解出来ていなかったのかもしれない。


 そして、出発の日――



 私は少し大きめのかばんを持って玄関に立つ。

「本当に見送り行かなくて良いの?」
「うん、行くのが辛くなるから。」

 両親だけじゃない。学校の友達にも見送りは断った。決意を固めても、この町が大好きなのは変わらないから。

「……海斗君にはちゃんとお別れ出来たのか?」
「……うん。お父さん、海斗のことお願いね。漁師として。」

 私の父も漁師だ。水作業ばかりのせいで手はゴツゴツしていて頭を撫でられると痛かったのを覚えている。

「ああ。」

 父が頷いたのを見届けてから、私はドアを開いた。

「じゃあ……行ってきます。」



 外に出て家全体を眺める。しばらくは見ることの出来ない我が家だ。
 駅に向かおうとしたとき、ふと郵便受けに目が向いた。何気無く開けば、真っ白な封筒が入っている。

「私宛……?」
 差出人を見れば、やはり海斗だった。
 今すぐ見たい衝動にかられたが、ここで読んではいけない気がして足早に駅へ向かった。



 無事に電車に乗る。
 始発電車を選んだため乗客はほとんどおらず、ほぼ貸しきり状態だった。

 ボックス席に座り、封筒を開く。
 そこには一枚のMDが入っていた。私はウォークマンにMDを入れて再生ボタンを押す。


 聞こえてきたのは海斗の部屋でいつも流れていた曲ばかりだった。
 思い出される、海斗との全ての出来事が――





 小さい頃からいつも一緒だった。近所を探検したり、おもちゃの取り合いで喧嘩したり。
 思春期になるとだんだんお互いに意識し始めて、付き合うことになった。そのときも――

「付き合ってみる?」
「……良いよ。」

 なんて、淡白な告白だったのを覚えている。若々しさのカケラもない、思い返すだけで笑みが溢れた。
 場所は海斗の部屋で、この曲が流れていた。



 付き合ってから二人で初めて行った場所は近所の公園だった。
 公園で遊んでいた子供の仲間に入れてもらって遊んだり、缶ジュースを飲みながら気ままに喋ったり。

「ねぇ……」
「何。」
「これってデート?」
「愛沙がデートだと思えばデートなんじゃない?」
「……じゃあデートにする。」
「あっそ。」

 他愛ない時間が幸せだった。



 初めてキスをしたのも告白同様、海斗の部屋。いきなり海斗が近付いてきてキスをされたのだ。

「……。」
「愛沙?」
「……びっくりした。」
「あはは、びっくりさせた。」

 悪戯っ子みたいな表情をして海斗は笑った。そんな表情をするのは珍しかったから、私の心臓は酷くうるさかった。



 どんなときも、海斗は優しかった。私のことを大切にしてくれた。

 気が付けば、MDは最後の曲になっていた。一度だけ、二人で遠出したときに海斗が携帯で聞かせてくれた曲だ。

「俺この曲が今までで一番好き。」
「……洋楽わかんない。」
「英語苦手だもんな、愛沙。」
「海斗、この曲どういう意味?」
「……旅立ちの曲。人は必ず別れるものだ、って意味。」
「ふぅん……。」



 目から溢れるものが涙だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
 私は封筒に手紙が入っていたのに気付く。
 涙で歪む視界から手紙に目を通した。



愛沙へ
 俺は面と向かって大事なこととか言えないから、手紙を書くことにした。でも別に凄いこと言うつもりない。
 いつも隣にいてくれてありがとう。向こうでもちゃんと頑張れよ。
        海斗



「相変わらず、下手くそな字……」
 私はそれだけ言うのがやっとだった。
 泣いて泣いて…こんなにも自分が海斗を思っていたなんて知らなかった。



 最後の曲は終わりを告げた。



 私は数年経った今もまだかばんにそのMDを入れている。






 


 いかがでしたか?少しでも記憶に残る作品になると嬉しいです。

この後の二人の関係は…ご想像にお任せします。

 読んでくださり、ありがとうございました!!













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