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ラピスの心臓  作者: 羽二重銀太郎
謹慎編
13/184

第二話 深紅の狂鬼

   Ⅱ 深紅の狂鬼











 「花がないとはどういうこと!?」


 半狂乱に等しいサーサリアの怒鳴り声が応接室に響いた。

 威圧のこもった彼女の視線を、しかしこの邸の主であるアミュ・アデュレリアは、少しも臆することなく対応する。


 「はじめまして、と言ってよいでしょうな。同席する機会は幾度かありましたが、覚えているかぎりまともに言葉を交わすのはこれが初めてとなりますので」


 「そんなことッ――私は花について聞いている! 王都からここへ運ばせた物が随分前に届けられているはずなのに、それが一つもないなんて」


 「まず挨拶を交わす事が最低限の礼儀と心得ますが、よろしい……殿下がお望みの物はすべてこちらで処分致しました」


 アミュの言葉に、サーサリアは青ざめてふらついた。

 「処分って……」


 「あの花は人の心を惑わす作用を生む忌むべき物。我が領地では、そうした堕落を呼ぶ物の存在は認めておりませぬ」


 サーサリアの表情がさらに険しさを増していく。だが、それも当然の事で、アミュは今本人を前にして、遠回しにサーサリアの習慣を批判したのだ。


 「だったらかまわない、王都から追加ですぐに届けさせればすむことよ」

 無駄な抵抗を続けるサーサリアに、アミュはさらに無慈悲な言葉を浴びせる。

 「同じ事。花が領内に入りしだい、焼却処分と致します」


 うっすらとくまの浮かぶサーサリアの瞳に、怒気を越えた濁った感情の色が混じる。


 「……お前、誰を相手にしているのかわかっているのか」

 「その言葉をそのまま返そう、サーサリア殿――」


 アミュは立ち上がり、胸を張ってサーサリアに強く睨み付けた。


 「――我はアデュレリアが当主にして燦光石を継ぐ者。王族として生まれただけの小娘を相手にお前呼ばわりをされる筋合いは微塵もない。くわえて言うと、そなたの処遇に関してはグエン殿より一任され、書面と共に言質もとってある。当家での滞在中は、当主である我の指示に従っていただく……公爵たるこの身を口頭で従わせたければ、早々に体調を整えられ、天青石と共に王位を継承されるがよかろう」


 突然高圧的な態度をとったことで、サーサリアは怒りを鎮め、怯えた猫のように体を縮めて視線をそらした。


 サーサリアは逃げるように無言で出口へ向かう。その背中を見送り、退出するのを確認した後、アミュはどさっと椅子に体を放り投げた。


 「非礼をお詫び致します、閣下」


 すっとアミュの前に現れて深々と腰を折ったのは、部屋の片隅で静かに待機していた親衛隊の隊長である、カナリア・フェースだった。


 「謝罪は不要。あの態度に頭にきて、ちと言い過ぎてしもうた」


 「サーサリア様に対してあれだけ堂々と説教される人物を初めて見ました。僭越ながら、さすが氷長石様だと感服しております」


 心からの尊敬の眼差しを送るカナリアに対し、悪い気はしなかった。

 「そうか。じゃが、王女にはグエン殿がおろう」


 日頃から手を焼いている様子が度々見受けられた男の名を出すと、カナリアは表情を暗くした。

 「あのお方は……口ではとても厳しいことをおっしゃるのですが、肝心な部分でどこか殿下には甘いところがありますので」


 話が脇に逸れてしまいそうな雰囲気を察して、アミュは本来サーサリア本人に伝えるべきであった用件を、カナリアに告げる。


 「すでに聞いておろうが、滞在中のサーサリア王女と親衛隊の衣食住については、すべてこちらで保証する。本邸に隣接された宿舎を開放するゆえ、好きに使うがよい」


 カナリアは再び、頭を落とした。


 「お計らい、ありがとうございます」

 「うむ。しかしな、ざっと見たところ、こちらが思うていたよりもちと部隊の人数が多いように見える。全員が寝泊まりできるだけの場所を確保できるのか、と心配でな」


 「それなら問題はありません。殿下の護衛のために少々無理をして大規模な編制をしましたが、ここからは日常警護に必要な人数だけを配備する事になりますので。ただ、ここまで同行した者達の多くは寝る間もほとんどなくの任務でしたので、順番に王都へ戻して待機中の隊員と交代させたいと思います。その間、警護が手薄になりますので、左硬軍からの支援をいただきたいのですが」


 「よかろう。人員を見繕い一時的にそなたに預ける」


 再びカナリアは丁寧に礼を述べた。若くして親衛隊隊長の座を得ただけあり、所作や立ち居振る舞いはどこへだしても恥ずかしくない域にある。

 事務的なやりとりをすませ、アミュは個人的な話題をふった。


 「お父上、フェース侯爵は壮健か」

 話題が私的な事へ移ったことに、カナリアは一瞬戸惑いをみせたが、すぐに花が咲いたように笑顔を見せた。


 「はい、近頃は新種のブドウを育成するための大規模な土地の開墾に集中しているとかで。あの様子では、私に家長の座が回ってくるのも随分と先の事になりそうです」


 カナリアの家、フェース侯爵家は国内でも有数の富豪である。果物の栽培に適した広大な土地を有しており、質の良いジャムや酒類の製造で安定した収入を得ている。


 「それはよい。フェースの葡萄酒はアデュレリアの名産品である水貝に合う。今度、その新種とやらで造った酒の出来を試したいと侯爵に伝えておいてほしい」

 「はい、父も喜ぶと思います」


 「ところで、そなたはカザヒナの同期生であったな」

 「あ、はい……ご存知でしたか」

 「思い返せば、幾度かそなたの名を聞いた覚えがある。旧交を温めるには、今回の王女の遊学は良い機会ともなろう」

 「実は、それを楽しみにしておりました。あの子に会うのも随分とひさしぶりの事ですから」


 柔らかく笑むカナリアを見て、アミュもまたつられるように微笑みを返した。

 若い輝士達の羨望を集める親衛隊、その隊長である彼女が背負う重圧は並大抵のものではないだろう。


 「今後の細かな予定は追々詰めていくとしよう。今はまず、そなたも身を休めよ」

 「そうさせていただきます。それでは――」

 「まて」


 退出しようとしたカナリアを引き留めた。

 「はッ、なにか?」


 怪訝な表情でこちらを伺うカナリアに、神妙に声をおとして言う。

 「先ほど、王女が殴りつけた者がおろう」

 そう切り出すと、カナリアは眉をあげた。

 「あッ、はい……」


 「あれは我が個人的に預かり世話を見ておる者でな。相手が誰であれ、ぞんざいな扱いをされるのは不快である」

 カナリアがすっとんきょうな表情で驚きを見せたのも当然で、アミュは王族といえども、平民である青年に無礼は許さない、と釘を刺したのだ。


 「……承知致しました。以後、あのようなことがおこらないように努めます」

 凜々しい出で立ちで深々と辞儀をして退出していくカナリアを見送り、アミュは密かに感心していた。

 よけいな事は聞かず、淡々となすべきことをしようという姿勢は、理想的な軍属、輝士としての在り方である。

 ――惜しいな。

 あの王女の専属として働かせるには、カナリアはあまりにもったいない。そう思った。




 「いッてて……」

 消毒布で、鼻にできた切り傷をぐりぐりと擦られ、シュオウはたまらず声をあげた。


 「避けるっていう発想はなかったんですか」

 熱心に手当を行いながら言ったカザヒナの声は、若干あきれているようにも聞こえる。

 「考える間もなかったんですよ」


 王女サーサリアが到着して後、落とし物を拾おうとした無意識の親切心が仇となり、シュオウは顔面に堅い短杖での一撃をいただいてしまった。

 王女が邸内に入るのを待ってすぐに駆け寄ってきたカザヒナに、自室へ連れられ現在の治療を受けている状況に至る。


 「サーサリア様の態度は甚だ非常識ではありますが、王族の行進中に身を乗り出したあなたにも責任はあるんですよ。場合によっては、親衛隊に剣を突きつけられていても文句は言えないのですから」


 「……気をつけます」

 ぶすっとしながらも、シュオウは納得したふりを見せた。

 カザヒナの言い分はもっともなことだったが、理性や常識からははずれた所に貯まった汚泥のような怒りを、いまだに片付けられるにいる。


 ――どうして。

 そう思わずにはいられない。


 そうした感情を隠しきれていなかったのか、カザヒナがこちらを窺いながら微笑した。

 「怒っているのが自分だけだと思わないでください。私や、アミュ様もまた大変お怒りを抱いているご様子でしたよ」

 「あの人が、ですか? そんな風には見えなかった」


 「あの場で騒ぎにすれば、あなたに対する注目が集まってしまう。話がややこしくなる前に流してしまうのが皆にとって有益である、とお考えになったと思います」

 それを聞いて、よけいな気遣いをさせてしまったのかもしれない、と考えると頭から冷水をかけられた心地がした。


 「……すこし、頭を冷やします」

 「そうですね。今日は親衛隊の輝士方を集めての敷地内の説明等が行われます。あちらこちらで騒々しくなると思いますので、訓練はまた明日からということにしましょう」


 「継続してもらえるんですか?」

 聞くと、カザヒナは不思議そうに首を傾げた。

 「どうしてしてもらえないと思ったんですか?」


 「あ、いえ。王女が来て、忙しくなるんじゃないかと思ったから」

 「私はあくまで、あなたの専属として任務についていると、何度も言ったはずですよ。ここいいる間、なにも遠慮はしないでください」


 「ありがとうございます」

 感謝の気持ちを伝えると、カザヒナは微笑み、手当の道具を片付けて部屋の入り口へ向かう。

 「今日は慌ただしくなるので、食事はここへ運ばせます。明日は早朝から剣術の教練を行うので、早起きでお願いしますね」

 シュオウもまた微笑みを見せて頷き返し、退出するカザヒナを見送った。




 一夜明け、早朝の訓練を終えたシュオウは朝食を求めて調理場へと向かっていた。


 いつもなら食堂で座って待っていれば食べ物が運ばれてくるのだが、現在は王女、そして親衛隊の隊員達が来たことにより生じた雑務におわれ、アデュレリア公爵とは同時間に食事にありつくことはほぼ不可能な状況にある。


 そうした理由もあって、朝食は自室に運ばせるように伝える、と聞かされたシュオウはこれを固辞した。

 ただでさえ忙しない空気のなか、たいして役にもたっていない自分のために労力を使わせるのが心苦しかったのだ。


 それでもなお、自分が運ぶとカザヒナは言い張ったが、表向きシュオウの世話役としての任務を与えられている彼女の下には、あちらこちらから問い合わせや確認を求める声が入る。それはつまり、アデュレリアでの彼女の立場がとても重要な位置にあることの証でもあり、そんな人を自分の世話のために独占している状況に無理を感じたシュオウは、なかば押し切る形で、こちらにかまう必要はないと距離をおいた。


 それが良いことであったかどうかはわからないが、自分自身、あれだけの人物に身近でかしずかれるような生活に疲れていたのか、調理場へ向かう廊下を歩く最中、肩の荷を下ろしたような身軽な気分を味わっていた。


 アデュレリア公爵邸の調理場は戦場と化していた。

 大規模な料理屋がすっぽり収まるほどの大きな空間の中に、所狭しと調理器具や食材が置かれ、そこで一心不乱に調理をする料理人達が奏でる包丁の音や、現場を監督している者の怒声が飛び交っている。


 調理台の上に一斉に並べられた盆の上には美しい見栄えの料理が並べられている。これらはおそらく、来訪している親衛隊の輝士達に振る舞われるものだろう。

 真剣な表情で働く彼らを前に、一瞬このまま帰ろうかとも思ったが、グググっと鳴った腹の音に背中を押された。


 ――腹が減った。

 なにせ、早朝の訓練でたっぷりと体を動かしたばかりなのだ。


 「あのお!」

 なるべく注目を得られるように声を出し、配膳の用意をしている者に声をかけるが、返事どころか見てももらえず、相手は何事もなかったかのように忙しなく作業を繰り返していた。


 例えようのない居心地を悪さを覚え、後ろ頭をかく。

 「おい、なにしてんだよ」

 声のした方を見ると、大きなザルの中に大量のジャガイモを積んだハリオとサブリが、真っ赤になった鼻をすすりながらこちらを見つめていた。


 「朝飯をとりにきたんですけど、みんな忙しいみたいで」

 ハリオは機嫌悪く口元を歪めて言った。

 「はあん、俺たちが朝っぱらから働いてるのに、お前は優雅に貴族の飯ってわけか、いいねえ領主様のお気に入りはよ」


 拗ねたように視線を逸らしたハリオにならってか、後ろにいるサブリまで同じような態度を見せる。

 毒気のある言葉を浴びせられはしたが、不思議と悪意は感じなかった。

 とくに考える事もせず、シュオウはハリオの持つ重そうなザルに手を伸ばしていた。

 「手伝います」



 「――でな、石頭の給仕長に向かって俺は言ってやったんだよ、それはおかしいんじゃないかってな」


 シュオウを含めた三人は、調理場から少しはずれたところにある薄暗い小部屋の中でせっせとイモの皮むきをしていた。

 むいたイモを箱の中に放り込む音と、ハリオがアデュレリアへ来てから経験した出来事を聞かされながら、シュオウは慣れた手つきで目の前にジャガイモの皮の山を築いていった。


 部屋の中は吐いた息が白くなるほど冷たい。

 二人は井戸水でイモを洗ってきたのか、痛々しいほど手が赤く腫れていた。


 「こういうことを毎日しているんですか」

 「お、俺たちは別に調理場の下働きってわけじゃないんだけどさ」

 あまり慣れていない手つきで、おそるおそる皮を剥きながらサブリがそう答えた。


 「これといった特技がないからってよ、特定の場所へ配属されずに適当に扱き使われてんだよ。見ろよ、これ――糞寒いなか芋洗いまでさせられて手の皮が切れちまったぜ」


 ハリオは同情を誘う表情で手の平をつきだした。

 「大変ですね」

 シュオウは率直に同情の意を表した。


 「大変だよ! 誰かのせいでな!」

 二人がこうした状況に置かれたのは、公爵の酒を盗んだ彼らの責任である。だが、元をただせば二人が王都の公爵邸に来ることになったのは自分が彼らの助けを得たからでもある。

 今はまず、言わねばならない言葉がある。


 「ありがとう」

 「……は?」

 二人はぽかんとした表情で顔をあげた。

 「感謝しているんです、本当に。あの時二人に助けてもらえなければ、どうなっていたかわからない。ありがとうございます」


 シュオウの感謝の言葉を受け、ハリオはキョロキョロと落ち着きなく視線を泳がせた。

 「ふ、ふうん、まあな。詳しくは教えてもらえなかったけど、お前を氷姫のところに届けたからヒノカジ従曹やミヤヒが助かったんだろ?」

 「はい」

 「……ならいいんだよ。なあ、サブリ」

 話をふられたサブリも、うんうんと大きく頷いた。


 凍てつくような空気はそのままに、しかし少し温かくなった心地で、シュオウは二人の愚痴や自慢話に耳を傾けていた。

 しばらしくして、再び空腹を訴える音が鳴り、二人の視線はシュオウの腹に集まった。


 「そういや、お前は食い物取りにきたって言ってたな」

 シュオウは頷いて答える。

 「早朝の訓練からなにも食べていなかったので。ただ、目の前にいる人に話しかけても相手にしてもらえなくて」


 「ああ、そりゃあな――」

 ハリオの言い方には含みがある。シュオウはそれとなく探りを入れた。

 「なにかあるんですか」

 「いやな、ぶっちゃけた話、ここで働いてる連中の間でおまえ評判よくないんだよ」

 「嫌われるようなことをした覚えは……」


 「突然やってきて領主と肩を並べて飯を食う若造がいて、輝石の色は真っ白けときてる。ここの連中が気味悪がるのは当然ってもんじゃねえのか。自覚がないみたいだけどな、お前がここにきてからずっと、邸で働いてるやつらの間じゃお前の噂話でもちきりだよ」


 「……そうだったんですか」

 ハリオの言ったことにうんうんと頷くサブリが付け加えるように言う。


 「それと、みんな焼き餅やいてると思うんだ。あいつだけ特別扱いされてるってさ。調理場にいたやつらも、たぶんわざと無視したんだとおもうよ。あとでなにか言われたって聞こえませんでしたって言い張ればすむことだしさ」


 少し視線をおとし、シュオウは黙り込んだ。

 自分が特異な存在として注目を集めている事に自覚はあっても、悪感情まで持たれているとは考えていなかった。知らず、ここで働く人々の感情を逆なでするような行動をとっていたのだろうかと不安がよぎる。


 「そんな顔するなよ、しかたねえから、寂しかったら俺たちがいつでも話し相手になってやる」

 少し的外れな申し出だったが、照れ隠しをしながらそう申し出てくれたハリオの言葉はありがたかった。


 「そうさせてもらいます」

 うっすらと笑むシュオウを見て、サブリが肘で小突いた。

 「いいやつぶってるけどさ、ハリオのやつ、お目当てはこうやって仕事を手伝わせる事なんだぜ」

 「おいッよけいな事言うなよ!」


 とっくみあいを始めた二人を見て、苦笑する。そうしていると、自分を忘れるなといわんばかりに腹の底から重低音が鳴り響いた。


 咄嗟に腹に手をあてるが、それで出て行った音が戻るわけもない。

 音につられて喧嘩をやめた二人は、きょとんした表情でこちらを見た。


 「そうだった、飯がまだだったんだよな。そういうことなら――」

 ハリオとサブリの二人はどこからともなく食べ物を取り出してシュオウに見せる。


 「こっちは焼きたてのパン、それに俺らが一生働いても食えないような高級魚の卵の塩漬けもある」

 とハリオが説明すれば、負けるものかという勢いでサブリも得意げに米や肉料理を披露する。


 「それ、どうしたんですか」

 シュオウの問いに、二人は一度目を合わせてからにんまりと笑って言った。

 「全部ちょろまかしてきた!」


 あまり記憶にないくらいに、シュオウは盛大に笑った。


 まったく反省していない二人を前に、空腹を満たすための分け前をいただく。それを口に入れた途端共犯になることはわかっていながらも、楽しそうに収穫を自慢する二人を見ていると、それも悪くないと思い始めていた。




 徒歩で市中を行きながら、ジェダ・サーペンティアは人々の注目を一身に集めていた。

 それはジェダが一目で輝士階級にあるとわかるから、というだけではなく、生まれもっての美貌にも原因がある。

 春の日の草原のような淡い黄緑色の髪をかきあげると、周囲の女達から溜息が漏れた。


 サーペンティア一族とは犬猿の仲といえるアデュレリア一族の本拠地を歩きながら、街並みを観察する。


 ――それにしても。

 ジェダは思う、なんという活気だろうかと。


 行き交う人々の表情は明るく、商売人達の威勢の良いかけ声がそこかしこから聞こえてくる。子供達の笑い声と、井戸端会議に夢中になる女達の明るい話し声。どこをみても、このアデュレリアという街には希望に満ちあふれているように見えた。


 街中を一通り歩き、ジェダは目的地であるアデュレリア公爵邸へ向かう前に、市場へと立ち寄る事にした。


 市場は、すんと嗅ぎ慣れない魚の臭いに包まれ、店先には干した貝や魚があちこちにぶら下げられている。


 目に新鮮な光景を眺めながら歩き、土産物の下調べをしていると、ふとめずらしい物を置いている小さな露店に興味を誘われた。

 店の前で立ち止まり、商っている物を観察するに、ここは薬を扱っている店のようだ。


 「おや、輝士様がこのようなむさくるしいところにお見えとは、めずらしいですな」

 白髪の老店主は、長い白髭をなでつけながらジェダに応じた。


 「旅先で土産物を買うのが趣味なのでね」

 「そうでございますか。それにしても、ここのところ街中でよおく他の領地の貴族様をお見かけしますな。わたしら市井のもんには知らされとりませんが、領主様のお邸でなにかあるんでしょうな」


 老いた分だけの抜け目なさというべきか、店主は輝士であるジェダに向かって探りをいれるように世間話を切り出した。


 「そんなに大勢来ているのかい」

 ジェダは質問に答えず、さらに質問で返した。

 「ええ、そりゃあ。各地の領主様方や家来方も大勢来てるもんで、宿場は大賑わいです。貴族様の従者や下僕が旅行気分で買い物に来るもんで、市場も滅多にない好景気で皆喜んどりますわ」


 「そうか。それなら僕も便乗して商品を見させてもらおう、かまわないかな」

 「はい、それはもう。ですが、高貴なお方のおめがねに適うような品は、なにも」


 たしかに店主の言うとおり、置かれている品は効能の怪しいような、出来の悪い薬剤や虫やトカゲを閉じ込めた飲み物などが数点置かれているだけである。だが、そのなかで一点、ジェダにも見覚えのある珍しい物があった。


 「これは?」

 ジェダは干されて薄茶色に変色した一輪の花をつかみ取った。その瞬間、店主の顔が青ざめる。


 「あの……それは……」

 「色が変わっているけど、僕の記憶が正しければ、これはリュケインの花だ。たしか、アデュレリアでは禁制品の指定を受けていたはず」


 ジェダは鋭利な刃物のような視線で店主を見つめた。


 「どうか、どうかお見逃しを。たしかにここではこの花の取り扱いは禁じられとりますが、それは人の心を惑わす効能に対しての事でして、干した物を砕いて腹に収めると関節痛によく効く薬になるのです。まあ、副作用でひどい吐き気と頭痛を伴いますが」


 最後に付け加えられた事を聞くに、本当に薬として役に立つのかと疑問に思ったが、ジェダはそれよりも気になった事について質問を重ねた。


 「ここでこれを手に入れるのは苦労したのではないのかい。外から仕入れるにもアデュレリアの関所砦の荷調べは厳しい」


 店主は手を大仰に振って答えた。

 「いえいえ、こりゃアデュレリアの山中で採れたもんでして」

 「へえ、リュケインの花がこんなところで採れるなんて知らなかった」


 「そりゃ、ここいらのもんでも知っとるもんは少ないです。代々跡目を継いできた薬師一族の者なら、それぞれ秘密の採集場所を持っとるもんでして」

 「なるほどね」


 ――面白い事になるかもしれないな。


 ジェダは手にした花をまじまじと見つめた後、店主に言った。

 「これを貰っていくことにするよ」


 「は、はあ、わかりました。ですがね、そりゃ劇薬の部類に入るんで、よくわかっとらん者が使うのはちょっと……」


 「かまわないよ、別に薬として欲しいわけじゃない」

 「それならまあ。でしたら、それはさしあげますので、どうかこの件は内密に、どうかどうかッ」


 店主は折れ曲がってしまいそうな背筋をさらに曲げて頭を下げた。


 「いいだろう。だが代金は支払う。その代わりといってはなんだが――」

 本来の額より遙かに高い金を差し出し、目を丸くする店主に向かって、ジェダは有無を言わさぬ凄みを込めて聞いた。

 「――この花を採れる場所を教えてもらおう」

 



 一夜明け、早朝に一帯を覆う霧が晴れる頃、カザヒナに見守られる中、シュオウはアデュレリア公爵邸の庭で剣術の稽古に励んでいた。

 剣の扱いにおいては、棒きれを握ってごっこ遊びをする子供にすら及ばない自分に与えられた課題は、ひたすら木剣を振るうという基礎訓練であった。


 縦、縦、横、突き。と一定の間隔で同じ動作を繰り返す。基礎体力訓練を日常としてきた自分にとって、たいして苦労のある訓練方法とはいえないが、シュオウは手を抜く事なく必死に剣を振り続けた。


 頭の中にこびりついて剥がれないシミのような記憶。初めての職場で先任従士であるミヤヒに剣で完敗した時の事が、後悔と羞恥心と共に今も胸をざわつかせるのだ。


 あの時、彼女にもたれた失望は、その後の行いによって払拭されているのは間違いないが、剣術という枠の中において、自分が負けたという事実が消えたわけではない。


 いつか再戦の機会に恵まれた時、軽やかに勝利を得て努力したのだと胸を張りたい、という気持ちが向上心となってシュオウの背中を押していた。


 庭のあちらこちらでは、洗濯物を並べる者達や、庭仕事にせいをだしている者達が見える。初めの頃はめずらしがられてよく視線を送られていたが、今では表向き、彼らは無関心な風を装いつつ自分達の仕事に集中していた。


 訓練中は体を動かしやすいよう薄着になる。

 時折、肌に痛いと感じるくらい冷たい冬の風がすり抜けていくが、そこそこ体を動かして汗ばむくらいになってくると、これが逆に気持ちよく感じられてくる。

 ほどよく体が温まり、寒さを忘れてきた頃。カザヒナが唐突にシュオウに訓練を止めるように指示した。


 「まだ始めたばかりですけど」

 「いえ、それが」


 カザヒナが軽くアゴをしゃくった先を見る。そこには手を振りながら歩み寄る、親衛隊輝士の姿があった。


 「ひさしぶりね、カザヒナ」

 「おひさしぶり、カナリア」

 凜とした出で立ちの女性輝士、カナリアは鼻に皺を寄せて満面の笑みを浮かべた。


 「見ないうちに随分と出世したわね。その歳で重輝士まで駆け上がったうえに左硬軍重将の副官まで務めるなんて」

 「親衛隊隊長に抜擢されておいて、その言いぐさはないと思うけど」


 カザヒナはむずがゆそうに微笑した。


 「どこかの誰かが首席の私を差し置いて先に出世してしまうものだから、嫉妬の炎にお尻を焼かれて予定より早く親衛隊筆頭の席を得る事ができたんじゃないかしら」


 二人の女輝士は、じっと見つめ合った後、吹き出すように笑った。互いに抱き合い、かみしめ合うように再会を喜ぶ様子を見るに、二人の関係が良好なものであったのが窺える。


 「本当にひさしぶり。今回の事は唐突だったけど、カザヒナに会えるかもしれないと思うと、殿下のおもりの憂鬱さを少し忘れられたのよ」

 「おもりだなんて、聞かれるとまずいんじゃない」

 「旧友と話してるときくらい本音を言う権利はあるでしょ。あなたのほうこそ、絶賛おもりの真っ最中みたいだけど?」


 カナリアの視線がシュオウをまっすぐに射貫く。

 まだ整っていない呼吸のまま、シュオウは初対面の挨拶をすませた。

 「そう、私はカナリア・フェース、こうみえて親衛隊の長を務めている、よろしく」


 赤みのある金髪が印象的なカナリアは、春の日差しのように暖かな笑顔を向けてくる。先日のアマイとは違い、まったく嘘を感じない人柄に、つられるように微笑みを返していた。


 「こちらこそ」

 「カザヒナとは親しい様子だったけど、あなたは彼女の弟子かなにかかしら」

 「いや、滞在中に剣の訓練を頼んだだけで、師弟関係とまでは」


 シュオウの説明にカザヒナも頷いて同意した。


 「そう、カザヒナの直接の剣術指南を受けられるなんて、やっぱり氷長石様が特別扱いをするわけね」

 カナリアは一人、納得した様子で頷いていた。


 「あの?」

 「こっちのことよ。それより、剣の稽古なら私が特別に差しで相手をしてあげましょうか」


 カナリアは突然そんなことを言いだし、シュオウの返事を待たずして傍らに置いてあった予備の木剣を手に取った。


 「まだ基礎訓練を始めたばかりで、試合ができるほどじゃ――」

 カナリアは木剣の切っ先をシュオウに突きつけ、勝気な双眸を向けて言う。


 「本当にいいの? 剣の腕ならカザヒナより上で宝玉院では首席の座を維持し続けた私が直接稽古をつけるといってるのに」


 返答に苦慮していると、カザヒナがこちらを手招きしているのに気づく。近づいて顔を寄せると、カナリアには聞こえないように静かにささやかれた。


 「彼女、自分からの誘いを断られるとすごく拗ねるので受けてあげてください。実際腕が一流なのはたしかですし、初心者相手にほどほどに手加減もしてくれるはずですから」

 世話になっているカザヒナから願われる形で言われれば、断るわけにもいかない。


 「……わかりました」


 「さあ、どうするのッ!」

 落ち着きなく剣を振り回してこちらを挑発するカナリアの姿をみて、この人はなにか鬱憤でも貯めているのではないのかと疑わずにはいられなかった。

 「やります。というより、お願いします」

 軽く頭を下げたシュオウを見て、カナリアは満足げに頷いていた。



 カナリアに誘われるままに、石畳の敷かれた庭の中央部に場所を移す。

 湿り気のある土の上よりもずっと安定感のあるこの場所は、試合形式の練習の場としては妥当な選択といえる。だが、シュオウとしてはあまり良い心地はしなかった。


 なにしろ、ここは目立つのだ。

 その効果は早々に発揮され、木剣を構えた自分と親衛隊の隊長という構図は、身近で働いていた使用人達だけにとどまらず、話を聞きつけたカナリアの部下達までもこの場に集結してしまっていた。


 集まった人だかりが、また他の人間の注意を惹いていく。

 四角形の石畳のまわりを多くの輝士達が囲み、またその周りを遠慮気味に邸で働く者達が集まってこちらを注目していた。


 またにしませんか、とでかかった言葉は、涼しい顔で体をほぐしているカナリアの顔を見て引っ込んでしまった。

 彼女の様子に嫌味な所は一切見受けられない。

 注目の集まるなか、ここで逃げ出せば自身の評判と共に、シュオウを預かり手厚くもてなしてくれたアデュレリア公爵の名にも泥を塗ることになるだろう。


 覚悟は決まった。


 間近でこちらを観察する若い輝士達。彼らの表情に緊張感はない。むしろこちらに向かって同情的な顔を向ける者もいる。


 ――そんなに見たいのか。

 シュオウはカナリアへ向け、そっと剣を構える。

 ――おれが負けるところを。


 カナリアもまた、シュオウとまったく同じ条件の木剣を手に構える。

 間に立つカザヒナが手をあげ、開始の合図をとる前にカナリアに小声で話しかけた。


 「これが訓練だという事を忘れてないでしょうね」

 カナリアは短く返す。

 「愚問よ」

 カザヒナが最終確認といわんばかりに視線を送ってきたため、頷き返した。


 ほどなくして、合図の手は下ろされた。

 開始が告げられた瞬間、虚空を貫くカナリアの剣先が、シュオウの胸を狙って鋭く繰り出された。


 ――手を抜いてくれるんじゃなかったのか!

 抗議の言葉を発している暇などない。


 おそらく、自分でなければ決まっていたかもしれない一撃を、一瞬の判断で体をよじって躱す。そのまま堅い石畳を蹴って間合いを置くと、周囲からはどよめきがたった。


 カナリアの顔からは驚きが窺える。が、彼女は間を置くことなく次の一手に出た。細身の木剣を活かした空気を抉るような鋭い突きが再びシュオウを襲う。


 並の者であれば怯んで眼を閉じてしまうような一撃だ。が、シュオウは瞬きも忘れて剣の動きに集中していた。


 恐怖心はなく、心は平静を保っている。

 ミヤヒを相手にして始めて剣の試合をしたとき。手に持った重さ、体に乗った違和感にふりまわせれ、心を乱していた頃の自分ではない。


 ――こんなにも違うものなのか。


 突きという点での攻撃に対して、シュオウは半身を後ろに下げてこれを躱した。

 本来目にもとまらないような速さの一撃は、しかしシュオウの目にはとまっているのと同義である。


 突き出された木剣。それを握るカナリアの手首が隙だらけの状態で目の前にある。

 剣を放り出し、カナリアの無防備な細い手首を掴んでしまいたいという誘惑にかられた。

 今、これを掴んでしまえば、完全な勝利を得る事ができる。この間合いは、自身が命がけで体得した戦意を挫く技の最も得意とする間合いだからだ。


 瞬間、脳裏によぎった誘惑をシュオウはふりはらった。代わりに前のめりとなったカナリアの足を払い体勢を崩す。

 一転してシュオウは攻めの姿勢をとる。右手に持った木剣を振り上げ、左手を添えて体勢を崩したままのカナリアの肩を狙って振り下ろした。


 よろけた相手に対し、完全に優位な状況で放った一撃。だがカナリアは焦った様子もみせず、剣を持ち上げて進んでシュオウの一撃を受けた。


 ――押せる。


 体勢は優位、腕力ではこちらが勝っている。さらに力を込めて振り下ろした剣は、しかし手応えをまったく感じる事なく石畳を叩いた。

 カナリアは素早く間合いを置いて、膝についたホコリを払う。


 ――すごいな。


 あの一瞬、カナリアは剣を壁として使い、振り下ろされた剣の力を利用して自身の崩れた体勢を整えた。腕力や体躯で完全な有利を得ているというのに、逆にこの状況を活かした戦い方をしている。


 「過小評価していたわ」

 ほどよく距離をとったカナリアが神妙な表情のまま、こちらを見つめている。

 「あやまるべきですか」


 「ここまでの動きをみて剣を始めたばかりだと言われても、ちょっと信じられなくなってきているかもしれない。もし熟練者である事を隠してこの試合に臨んだのだとしたら、そうね、一言謝ってもらいたい気分よ」


 「嘘は言っていません。剣術に関しては、ほんとうに始めたばかりですから。ただ……剣に関しては、とだけ付け加えておきます」


 「そう……そういうこと」

 納得が得られたのか、カナリアはそれ以上の追及をやめる。


 「再開しましょう、実力がわかった以上、私も相応に相手ができる」

 頷きを返し、互いに再び剣を構える。


 今度はシュオウから仕掛けた。

 振り上げた状態から縦に繰り出した一撃を軽くあしらわれ、すぐさま一線を描くような横へのなぎ払いを見舞う。が、これは早々に体を後方へ退かれて躱されてしまった。


 「本当に初心者なのね、躱す術と間合いの計り方は一流なのに攻撃があまりに正直で単調すぎる――」


 カナリアは言うやいなや、右足を踏み込んで突きの体勢に入った。

 ――単調なのはどっちだ!

 シュオウは相手の先を予想し、素早く回避の体勢に入る、が――

 ――消えた!?


 真っ直ぐこちらへ向かってくるはずの木剣の姿を見失う。カナリアの肩から腕の動きを追い、その先を見ると、剣は下段からこちらの手首を狙って切り上げられている真っ最中であった。


 その剣先は、すでにシュオウの手元に到達しようという頃合いである。

 貪欲に勝ちを貪るような一撃。ほんの一瞬の間にこれだけの事を行える研ぎ澄まされた技術に、刹那状況の忘れて見惚れていた。


 シュオウは握っていた木剣を、あえて手放して手首を狙ったカナリアの切り上げを躱した。

 カナリアが戸惑いを覚える間もあたえぬまま、手放した木剣を空中で再び掴み、無心のうちに右足を踏み込んで突きの姿勢をとっていた。


 カナリアは点の攻撃に備えて体をひねろうとする。それは、わずかな猶予の中で彼女がとれる最善の回避行動であったはずだ。


 だが次の瞬間、シュオウの木剣はカナリアの手首を打ち付け、カナリアの剣は石畳の上に落ちて、からころと乾いた音をたてた。


 一瞬おりた静寂は、カザヒナの言葉によって打ち消される。

 「それまで!」


 口をぽかんと開けて絶句する輝士達とは正反対の反応を見せたのが、邸で働く使用人達だった。遠慮がちに試合を見物していた彼らは、どよめきにも似た歓声をあげて興奮した様子で手を叩いている。見上げれば、拍手の音と歓声は邸の二階の窓から顔を覗かせていた者達からも聞こえていた。


 視線を戻せば、神妙に見守る輝士達に囲まれたカナリアが居る。彼女は呆然と地面に目を落とし、赤く腫れ上がった左手首を押さえていた。


 「カナリアさん……」

 相手をしてくれた事に礼を言えるような雰囲気ではなかった。カナリアはシュオウの言葉を待たず、独り言のように呟く。


 「子供の頃から、毎日かかさずどれだけの時間努力してきたとッ――」

 カナリアは顔を上げ、うっすら涙を溜めた目でシュオウを睨み付けた。

 「――再戦を!」


 そう言った直後、公爵邸に隣接された建物のほうから、女の悲鳴と共に窓ガラスが割れる音がした。

 音のしたほうを見ると、地面に割れたガラスと壊れた椅子が散乱していた。

 静観していた輝士の一人が、興奮の収まらない様子のカナリアに声をかける。


 「隊長、おそらく殿下になにか」

 カナリアは乱れた髪を整える。一つ深呼吸をして落ち着いた声音で応じた。

 「確認したつもりだったけど室内に蜘蛛でもいたのかしら。様子を見にいく――」


 彼女の視線が再びシュオウを捉える。一度口を開きかけたカナリアは、躊躇した様子で口を閉じ、急ぎ足で別館のほうへと走り去ってしまった。


 カナリア率いる親衛隊の面々がいなくなった後、騒然とした場はカザヒナの一声で静けさを取り戻していた。


 「おつかれさまでした」

 ずっと握りっぱなしだった木剣と引き替えに渡された汗ふきで顔を拭う。


 「よかったんでしょうか」

 カザヒナは首を傾げて聞いた。

 「なんのことですか」


 「手を抜いてもらったとはいえ、人前で俺が勝ってしまって」

 「……彼女、手を抜いてなんかいませんでしたよ」

 「だけど――」


 「初心者を相手にした稽古としての立ち会いは前半だけです。後半は、私が見たかぎりではカナリアは正真正銘、本気で挑んでいました」


 「じゃあ、俺は……」

 熟練の剣士を相手に勝利を得たという実感は急には湧いてこなかった。


 両手の平を見つめると、部分的に皮が厚くなり始めているところがあるが、この程度なのだ。皮膚が破けてそこにさらに厚い皮ができるほど、シュオウは訓練を重ねてきたわけではない。


 「ただ、彼女が限定した条件の下で勝負をしていたことは事実です」

 カザヒナの冷静な言葉に、シュオウはハッと顔をあげた。

 「そうか、晶気を使っていない」

 カザヒナは一つ頷いて、

 「そうですね。優秀な輝士が近接戦闘を行う際には、武器と合わせて晶気を有効活用することは常といえます。けど、あえて限定した条件下で戦っていたのは、シュオウ君も同じでしょ」


 シュオウは控えめに首を縦に振った。

 カザヒナは淀みなく柔らかな表情で言う。


 「互いに剣での戦いという約束の下、勝負をして、あなたはそれに勝った。もっと自信を持って嬉しそうにしてもいいくらいですよ」

 「そう、ですよね」


 言いながら微笑みを返すが、それは心からの笑顔ではなかった。

 勝負に勝った喜びよりも、負けたときのカナリアの悲痛な表情が脳裏をかすめ、小さなトゲのように心に刺さる。


 去り際言っていたように、彼女は剣術というものに対して長年真摯に努力を重ねてきたのだろう。それは実際に対してみた今、誰に言われずとも確信できる事だった。


 自分はどうだろう。

 誰にでもできるような素振りを数日行ってきただけだ。

 熟練の剣士と相対し、勝利を得る事ができたのは、シュオウの持って生まれた個性である眼の良さに頼っての事。


 ずるをしたという気持ちは持ち合わせていないはずなのに、もやもやとした気持ちは晴れないままだった。

 片付けをすませ、邸に戻る途中、カザヒナの言った言葉がそうした気持ちをさらに加速させた。


 「ほんの短期間でこれだけ剣をものにするなんて、正直驚いています。天才、とそう言い切ることができるくらいの結果を、あなたは残したんですよ」


 ――ああ、そうか。


 ずきりと嫌な感覚を胸に抱え、この不快な感情の正体に、シュオウはようやく思い至った。

 それが、罪悪感であるということに。




 訓練後、ほどよく腹もすいてきたこともあり、前日と同じく一人、調理場を目指して長い廊下を歩いていた。


 ――なんだ?

 周囲の様子がいつもと違う。


 すれ違う使用人達が、男女を問わずこちらと目を合わせて軽く会釈をしてくる。彼らは普段、遠巻きにこっそりと視線を送ってくる事はあっても、これだけ近距離で愛想良く振る舞われたことは今まで一度もなかったので、シュオウは大いに戸惑った。


 そして、そうした戸惑いは調理場に入った途端にさらに増した。

 昨日と同様、忙しそうに働いていた料理人達は、シュオウが入ってきた事に気づくと、一斉に手を止めて地鳴りにも似た歓声をあげたのだ。


 昨日とはあまりに違う彼らの対応に困惑していると、まだ見習いであろう若い料理人の一人が盆に乗せた豪華な食事を持って前に立つ。

 「あの、これ料理長があなたにって」

 「あ……ありがとう」


 両手で料理を受け取ると、見習い料理人の後ろで強面の料理人が小さく手をあげているのが見えた。


 「さっきはすごかったです! あんな偉い輝士様を剣で圧倒してしまうなんて、俺すごく感動してッ!」

 顔を火照らせながら、まだ少年といったほうが適切であろう若い料理人が、興奮したように叫ぶ。手を休めている周囲の者達も同調するように頷き合っていた。


 「あの、これすごく美味しそうです。ありがとうございますッ」

 調理場全体に届くよう、シュオウは大きく声をはりあげた。


 豪勢な食事を手に、去り際料理人達の拍手を背負いながら、シュオウは調理場を後にした。

 自室に引き上げる途中、若い女達に挨拶をされたり、きゃあきゃあと黄色い声援をもらいながら歩くことになり、シュオウは彼らの豹変ぶりに終始首を傾げずにはいられなかった。




 皆がほっと一息つく昼下がり。

 食休みを終えたシュオウは、読み終わった本を別の物と交換するために一人廊下を歩いていた。

 本というものにたいして、どこかジメジメとして古くさいという印象を持っていたのは、時折育ての親である師のアマネが持ってきた本が、どれもぼろぼろの古い物ばかりだったという体験からきているのかもしれない。


 だが、そうした負の印象は、公爵邸の書庫を見て一変してしまった。ほどよく陽も入り、専属の司書まで置かれた広い書庫には、管理の行き届いた清潔な書籍がずらりと並べられていて、ある意味絶景ともいえる光景が広がっていた。


 書庫へ入る。

 入り口近くに置かれた老齢の司書の椅子は空だった。


 いきなり目的の達成が危ぶまれる。ここへ来たときに自由にしていいと公爵から許可は貰っていたが、責任者不在の書庫から無断で本を持ち出すのはさすがに気が引けた。


 ――戻すだけなら。

 返却するぶんには、とくに不都合はないだろう。

 ずっしりと重たい本を担いだまま、奥の書棚のほうへ向かう。ふと、かすかに届いた紙をめくる音が耳に入り、足を止めた。


 ――誰かいるのか。


 だとすれば、おそらく司書の老人であろう、と決めつけたシュオウは無駄足にならなかった事を喜びつつ人の気配のするほうへと向かった。


 「あッ」

 「あ……」

 出会い頭に、シュオウとその相手、カナリア・フェースは同じような声をあげて沈黙した。


 カナリアは長方形の古ぼけた書を手に、驚いた様子でこちらを凝視している。

 「朝は、どうも」

 シュオウは当たり障りなく声を掛けた。


 「こちらこそ。知り合って間もないのに、いきなり相手をさせてしまって。情けない事に自信満々に勝負を持ちかけておいて、あっさり負けてしまったのだから、笑われたってしかたないわね」


 「あれは訓練の一環でした。あなたが手を抜いてくれたことも承知してます」

 カナリアは困ったような笑みを浮かべ、首を横にふった。


 「正直にいって、経験の浅そうな君を軽くへこませてやろうって、そのくらいに考えていたのよ。だけど始めてみると、身のこなしが並ではないとはすぐにわかった。その後は知っての通り、むきになって本気を出してみたものの、あっさりと返り討ちにあってしまったというわけ」


 戯けていうカナリアは、少々無理をしているようにも見えた。


 「……そうですか」

 「そんなに気を落とさないでって、私が言うのもどうかと思うけど。思い上がっていた事を自覚させてもらえた分、感謝すらしているくらいなのよ」


 なにも言わず、シュオウは頷いた。下手なことを口にすれば、彼女の自尊心を傷つける事にもなりかねない。


 「ところで、見たところ本を返しにきたようだけど」

 カナリアがシュオウの手にある本の束を見て尋ねた。


 「読み終わったので、新しい物と交換しようとおもったんですけど、ここの人が不在のようだったのでとりあえず返すだけでもと思って」


 「そう、偉いのね。ここにいたおじいさんなら、さっきまで居たんだけど、食事にいくからって出て行ったのよ。持ち出したいものがあれば紙に書いて置いておけばいいって言われているから、君も同じようにすればいいんじゃないかしら」


 「なるほど、じゃあそうします」

 カナリアの提案をありがたく受け入れることにしたシュオウは、さっそく本を元の位置に戻す作業にとりかかった。


 一冊、また一冊と片付けて手元が軽くなっていく。

 カナリアはさきほどから同じ本を手にとったまま、中身を静かに読みふけっていた。


 「なにを読んでいるんですか」

 好奇心に背を押されたシュオウは、邪魔になるかもしれないと思いつつも遠慮を振り払って聞いた。


 「アデュレリアの地図よ。とても古いものだけど、王都と違ってアデュレリアは地形をあまりいじらないそうなので問題はないと聞いているから」

 「地図、か」


 カナリアの手元の本をのぞき込むと、たしかにアデュレリア領地のものと思われる地形が詳細に描かれていた。

 顔をあげると、カナリアがじっとこちらを凝視していた。

 「なにか?」


 「聞いていい事かどうかわからないけど、君はどう見ても北方の人間よね。その歳で傭兵として雇われていた風でもないし、ムラクモで軍人をしている経緯を不思議に思って」

 聞かれ、シュオウは可能なかぎり嘘の少ない返答を用意した。


 「俺は王都育ちです、孤児だったので自分の出生についてはわからないんですけど。軍に入ったのは宝玉院の卒業試験に参加したことからの流れっていうやつで。ここへ来る事になったきっかけについては、口止めされているので言えません」


 「そう、ありがとう。それだけ教えてもらえれば十分だわ。ただ、氷長石様が君に肩入れしている理由について気にならないといえば嘘になるけどね」

 シュオウは答えに窮した。

 「すいません」


 正直に自分の出自について明かすことができないのは、とてももどかしい。そう思ったのは一度や二度ではなかった。


 「突然だけど、これから予定はあるのかしら」

 「いえ、これを返しにきたくらいですから」


 シュオウは手元に残った数冊の本を掲げて見せた。


 「だったら、ちょっと付き合ってもらおうかな」

 「いいですけど、なににですか?」

 「ちょっとしたお散歩に、ね」

 カナリアは手にしていた古い地図を見せながら、シュオウを外出に誘った。




 カナリアが散歩、と言った通り幸いにも徒歩での移動となった。

 広大な中庭を通り抜け、表側の門から外へ向かう途中、別館の前に散らばったガラスを、親衛隊の輝士達が回収している姿が目に入った。


 「あれって朝の?」

 カナリアは渋い表情を見せて、

 「ええ、サーサリア様は時折ああいう事をなさるので」

 「暴れるってことですか」


 「意味もなくというわけではないのだけれどね。あのお方は虫がお嫌いで。皆気をつけてはいるのだけれど、箸の先くらいの小さな虫でも部屋にいようものなら、半狂乱で周囲の物を投げとばしたり、酷いときには無差別に晶気を使われるようなこともあったりで」


 「……ひどいな」


 シュオウがサーサリア王女に対して、まるで人形のように生気がなく無気力であるという印象を持っていた。だが、突然自分を殴りつけてきた事と、たった今カナリアから聞かされた事とを合わせて考えると、不安定で気の荒い一面も持ちあわせているようだ。


 一瞬とはいえ、王女の不安定な部分での被害を受けた自分としては、目の前にいるカナリアの日頃の苦労に対して同情の念がふつふつと湧き上がってくる思いがしていた。

 カナリアはふっと破顔し、空を見上げる。


 「情けない事にすっかり慣れっこになってしまっている自分もいるの。滞在中は精々殿下のご機嫌を損ねないようにしたいと思っているけれど、氷長石様はサーサリア様に対して厳しく接するおつもりのようだから、間に挟まれる身として覚悟はしているつもりだけどね」


 「俺に手伝える事があったら言ってください」

 目の下にうっすらとクマを浮かべていう彼女を可哀想だと思ってしまったのか、シュオウは意識せずにそんなことを口走っていた。


 「そんなこと、軽く言うと後悔することになるわよ」

 意地悪くにやりと笑うカナリアを見て、シュオウは引きつった笑みを浮かべた。

 「ひ、暇を持てあましてますから」


 後悔があからさまに表にでていたシュオウの反応を見て笑うカナリアからは、気負いのないただの年相応の美しい女性にしか見えなかった。



 門を抜けた先には、市街地まで繋がる緩い坂が続く。その途中には枝分かれした道がいくつもあった。

 カナリアは持ち出した地図を片手にいくつかの細道を選んで歩き、その先の様子や地形の観察を熱心に行っていた。


 太陽が最も高く昇る頃、カナリアが新たに調査のために選んだ道は、大物物資の運搬に利用される幅の広い道だった。

 この道はアデュレリアが管理する北南の両方の白道にも通じている。目的からいってもよく整備されている道ではあるのだが、カナリアはそこから山奥へ通じている脇の小道へと入っていった。


 「こんなところまで見るんですか?」


 「必要な事なの。敵が潜む事のできそうな場所や、外から入ってこられそうな経路を見つけたり。それに敵は外から来るだけともかぎらないから、緊急時に逃げるための手順は頭に入れておかなければいけない。君も覚えておきなさい、慣れない場所に長時間滞在するような状況になった時、逃げ道だけはまっさきに頭にたたき込んでおくって事を」


 カナリアが選んだ道は先へ行くほど細く、道も獣道のように険しくなっていった。積雪が深いところでも足首のあたりまでしかないため、歩くのに困難しないギリギリの線といった状況である。


 唐突に道は行き止まりとなった。

 水の流れる音と、ドドドッと落ちた水がたたき付けられる激しい打音が耳に届く。


 「滝だ」

 行き止まりの先は崖になっていた。そこから眼下に広がる風景は、一目で印象に残りそうなほどの幻想的なものだった。


 巨大な岩山のてっぺんから流れ落ちる一条の白い滝。その足下では飛び散った水滴が苔を濡らし、表面に小さな粒の水の球を無数にちりばめて光り輝いている。


 周囲には黒くごつごつとした岩が入り組んだ迷路のように散乱し、奥へ続く道を形成していた。

 シュオウが景色に見とれている間、カナリアは同じものを見ながらもずっと現実的な思考によって観察していたらしい。


 「この下に広がる空間の奥がどこまで通じているのか気になるけど、今の装備でここを降りるのは難しいか」

 「戻りますか?」

 「ええ、暗くなる前に元の道まで戻りましょう――」


 しかし、カナリアは言っておきながら戻ろうとはせず、足下に何かを見つけて雪の中に手を伸ばした。


 「ちょうどいい長さね」

 カナリアは長めでしっかりとした枝を一本手に取った。それを剣に見立てて、姿勢を正して突きや素振りをはじめる。


 「君との対戦がどうしても忘れられない。あの時の流れを頭の中で何度も再現したけど、最後の一手だけはどうしても納得がいかないのよ」

 カナリアは自身が握る物と似たような長さの枝を見つけて、シュオウに放り投げた。


 「まさか、これで今から再戦しろなんて言わないですよね」

 「それを求める権利はあるはずよ。改めて問うけど、君はいったい何者なのかしら」

 「別に何者でも……今はただの謹慎中を言い渡された従士です」


 カナリアは堅く声を張り上げた。


 「ただの従士に負けるような鍛え方はしていないッ。朝の勝負で私が放ったのは、だましを起点として相手に守りの隙を生じさせる必勝の一手だった。君はそれを躱したうえに直後にまったく同じように模倣してみせた。対してみて、君が剣に不慣れであることは知っている。だからこそ、あれだけの短い間に熟練した剣技を模倣できるなんて普通はありえない。ムラクモに残された唯一無二の王家の血を守護する身としては得体のしれない者が殿下のお側にあることを許せないのよ」


 カナリアの表情は険しい。それが決して冗談ではないことを知り、適当な言い訳が許されるような状況でない事をシュオウは悟った。


 「見える、と言って信じてもらえますか」

 「は?」

 「見えるんですよ、集中していると物体の動きを明確に捉える事ができる。おれの体が、ただ生まれつきそういう風に出来ているっていうだけの事で――」


 言い終える直前、目の前に拳ほどの大きさの石が鼻先目がけて迫り来る。一瞬の出来事に混乱しながらも、石が顔面に当たる間際にさっと顔を避けて躱す事に成功した。


 「……嘘じゃないのね」

 カナリアは驚きを隠せない様子で佇んでいた。

 今更、さきほどの石つぶてを誰が投げたなどと聞く必要もないだろう。


 「信じてもらえたならいいですけど、不意打ちはやめてください」

 抗議を口にすると、ようやくカナリアは表情を緩めて肩の力を抜いた。

 「謝るわ。だけど確認はしなければ、言葉だけで簡単に信じられるような事でもないもの。だけど、そう……それじゃあ君はあの時私の動きを見てそれをそのまま真似したっていうことなのよね」


 頷いて肯定すると、カナリアは溜息をこぼした。


 「ただ真似るにしたって簡単な事ではないけれど。それができるくらいの身体能力が備わっているからこそなのでしょうね」

 「ずるをしたと、思いますか」


 「いいえ、才能を活かす事をずると言うほど落ちぶれていないわ。どうりで初手から私の攻撃に動じないはずよね……たいした才能だけど、でも調子に乗らないで。君は片眼という不利を負っている、常人より見える範囲に限りがあるはず。元からして一度にすべての方向を見渡すことなんて人間にはできないんだから」


 言って、緩慢な動作でカナリアはこちらに剣を突き出した。

 それを奇妙に思いながらも、躱す事になんら苦労は必要としない。半身を後方へひねろうと足に力を入れたその時だった。


 「なッ!?」

 ずるりと右足が沈み、足を取られて背中から地面に倒れ込んでしまったのだ。

 背中の痛みを感じつつ、見上げるとカナリアがしてやったりの笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。


 「よく見てごらんなさい」

 カナリアが指を指した先、シュオウの足下を見ると、そこだけ地面がドロドロに溶けたような状態になっていた。そこに、シュオウの足はずっぽりとはまってしまっている。

 「カナリアさんの輝石の力、ですか」

 「輝士の剣は、本来晶気との複合技として扱われるもの。一方にだけ集中しているとこういうことになるという事を分かってもらえたかしら?」


 シュオウは苦笑いを浮かべ、言う。

 「十分すぎるくらいに、教えに感謝します、先生」

 少し皮肉を込めて言うと、カナリアは気まずそうに口元に手を当てた。

 「やられっぱなしなのも悔しいのよ」


 互いに笑いながら、シュオウはカナリアから差し出された手を取った。だが、体を起こす時に視界に入った違和感に気づき、そのままカナリアを引き寄せた。

 「ちょっと!?」

 「静かに」


 シュオウの緊張した様子に、カナリアは即座に口を閉じて頷いた。

 違和感の元を探る。茂みの中から見える二つの鈍い光が、その正体であった。

 ――目?

 カナリアをその場に残し、ゆっくりと茂みに近づく。正確に対象の姿を捉えられるようになり、シュオウは緊張を解いた。


 「動物の死骸か……」

 こちらをじっと見つめるものの正体は一頭の死んだ雌鹿であった。

 「何事かと思ったわ。このあたりまで来るとほとんど山の中なのだから、生き物の死骸くらいめずらしくないでしょ」


 「でも、少し様子がおかしいですよ、これ――」

 シュオウは手にしていた木の棒を使い、鹿の死骸をよく見える場所まで移動させる。

 「――捕食された形跡がないのに、中身が抜かれたみたいにへしゃげてる」

 「ええ、たしかに」


 鹿の体は骨と皮だけが余っているように、棒でつついても肉の手応えを一切感じなかった。目や舌は綺麗なまま残り、ざっと全体を見ても腐敗した様子もない。


 不意に背後から、空気をつんざくカラスの鳴き声が聞こえて、二人はぎょっとしたままに後ろを振り返った。

 死に群がる黒い鳥がじっとこちらを凝視している。


 「戻りましょう、暗くなる前に」

 不気味な空気に気圧された様子で、カナリアは一人来たほうへ向けて歩き出した。

 ――怖いのか。

 決して口にはだせない感想を胸に秘めたまま、シュオウも彼女の後を追いかける。

 振り返ると、いつのまにか複数に増えたカラス達が、死んだ鹿の遺骸に残された暗く濁った眼球を必死につついている真っ最中であった。




 翌日を迎え、夜のアデュレリア公爵邸は喧噪に包まれていた。

 玄関には次から次へと豪華な馬車が到着し、大勢の従者と土産物を伴った身分の高い人々が押し寄せる。

 貴族のための控え室と従者のための控え室は、それぞれに許容量を超えるほどの勢いだ。


 この度の晩餐の主催者である当主のアミュ・アデュレリアは、全体を取り仕切るために奔走していた。


 「湖底エビを香草と共に蒸し焼きにして、薄口のタレをかけたものです」

 料理長の提示した料理を少し摘まみ、味見をする。

 「悪くない、透き通るような香草の香りが湖底エビの臭みを消している。しかし味付けに少しおもしろみがないな……もう二種、味に個性のあるタレを用意して自由に選べるよう工夫せよ」


 いくら当主とはいえ、普段ここまで細かく振る舞われる料理に口出しはしない。だが今日は希にあるかないかの特別な日なのだ。


 王女を目当てにした各地の領主や大商人達が押し寄せるこの日。アデュレリアが用意する料理に使う食材は、そのほとんどがアデュレリア産の物なのである。その目的はもちろん宣伝にあり、酒や果物、米や魚介の物をふんだんに使い、試してもらおうというのである。


 実際、想定していたよりも現場は混乱状態にあり、シュオウの専属としての役をあてていたカザヒナを急遽現場の監督に呼び出す事態にまでなっていた。当主自らがあちらこちらへ出向いて細かな指示をとばしている理由はここにもある。


 ――情けない。


 ひさしく大規模な晩餐会の取り仕切りなど行ってこなかった事もあり、大人数の賓客を捌く事への勘が鈍っていたことを、アミュは悔いていた。


 次の現場へ足を運ぶ途中、腹心の家来であるクネカキが声を荒げて駆け寄ってきた。

 「なにごとじゃ」

 「御館様、お耳を――」

 耳打ちを許可し、報告を聞いたアミュは目を大きく見開いた。

 「サーペンティアの小倅じゃと……」



 地下に設けられた牢のある部屋に降りると、そこには一族の若い男達にかこまれて薄ら笑いを浮かべる男、ジェダ・サーペンティアがいた。

 後ろ手できつく縛られ、ジェダは堅く冷たい地面に膝をついた状態で拘束されていた。


 「薄汚い蛇の子が、よくも我が邸へ土足で踏み込んだものじゃ」

 怒気と怨念の籠もった目で睨み付けるも、ジェダは涼やかな余裕のある表情は崩さず、まっすぐアミュを見つめて応じた。


 「訪れて早々の歓迎がこれとは、少しくらい嫌味を聞く覚悟はありましたが、突然縛り付けられてこんな所に押し込められるのは、さすがに予想を大きく上回りましたよ」


 だまれ、と周囲から怒号が飛んだ。

 ジェダを取り囲む男達は、皆一族の若い男達であり、手練れの輝士でもある。血の気に余る彼らに囲まれ睨み付けられているジェダは、しかし額に一滴の汗も浮かべてはいない。作り物のように整った眉目と合わさり、一層不気味な空気を醸し出していた。


 「今宵はサーサリア王女が初めて公の場で臣下と接する重要な舞台じゃ。申請もしていない者が訪れれば、王女の身を案じて対応するのは当然のことといえよう」


 「申請はしています」

 しれっと言うジェダを前に、アミュは聞き返した。

 「なに」


 「先日、父サーペンティア公爵の名で私を家の代表としてこの場に出席を求める旨をしたためた書状はアデュレリアへ届けさせました。一介の輝士にすぎないこの身が一族代表として出席する事への許可として、父がグエン公から許しを得た書状もそえてあるはずなのですが」


 「まさか」

 嘘をつくな、とも思ったが、相手の様子を窺うに思いつきで言っている様子はない。一応の筋を通しての訪問であれば、いくら相手が因縁のある一族の者とはいえ、大きな理由もなしに同国人の訪問を断る事は難しい。


 だが、もちろんアミュはサーペンティア公爵からの書状など目にしてはいない。そうした失敗のないように、自らが時間をかけて一通ずつ返事をしたためていったのだ。

 この場にいる者達をなにげなく見回していると、一人が露骨に気まずそうに視線をそらした。一族の若い男達の中でも、特に普段からサーペンティア一族への敵意をむき出しにしている男だ。


 ――なるほど。


 この場で確証は得られないが、おそらくこの男がサーペンティアという差出人の書状を見て、捨てるなり燃やすなりしてしまったのだろう、とアミュは推察した。


 「そのご様子、どうやら手違いがあったと認めていただけるようで」

 なおもこちらを食ったような態度で余裕を見せるジェダに、アミュの傍らに控えていたクネカキが怒鳴り声をあげた。


 「黙れジェダ・サーペンティア!」

 「僕のような一介の輝士の名をご存知とは光栄ですね」


 「なにを誇らしげに! 残忍な方法で人を殺す貴様の名は、血臭と共に噂となって嫌でも耳を汚すのだ。王国軍の名を貶める貴様のような存在がこの地を踏んだというだけで、我が主の名に傷がつく。そのにやけた顔を納めぬようなら、即刻そのほそっ首を握りつぶしてくれようぞッ!!」


 言った事を本当に実行しそうな勢いで前へ出ようとしたクネカキを止める。

 「待て」

 「……はいッ!」


 頭に血が昇っていても、そこは忠実なる家臣である。即座に頭を下げ、クネカキ・オウガは一歩退いた。


 「アデュレリア重将閣下、どうやらこの場で冷静な判断が下せるのは私と閣下だけのようです。今すぐ解放していただけるのであれば、蛇紋石の主サーペンティア公爵の名代として、今回の不幸な誤解は忘れる事にいたしましょう」


 慇懃無礼なジェダの態度に皆の目つきはさらに険しくなるが、アミュの心はすでに冷めつつある。いくら相手が因縁深い間柄の家の人間とはいえ、越えてはならない一線はある。それに今回の件については、おそらく不手際はアデュレリアの側にあるのだから、これ以上の諍いは無意味であり、一歩間違えば一族に多大な不利益をもたらす事も考慮しなくてはいけない。


 「よかろう。じゃが謝罪はせぬ。当家も王女の滞在という大事にあって、少し過敏に反応しすぎたが、王女殿下をお守りするための措置として必要であったと理解を求める」

 「この状況で謝れなどと無粋な事は言いませんよ」


 アミュは頷いて返し、目線でジェダを拘束している男達に合図を送った。

 渋々といった様子だが、当主の命令に彼らが逆らうことはない。押さえつけていた手を離し距離をとった。


 流麗な動作で立ち上がったジェダは、なおも後ろ手に縄で縛られている。それを解くように命令する、が――ジェダは縛られていたはずの両手を前へ回して縄を引きちぎってしまった。


 「貴様、はじめから拘束を解いていたのか」

 クネカキが重々しく言った。

 ジェダは口元だけで微笑する。


 「抗うことは容易かった、とだけ言っておきましょう。僕の役目はサーペンティアの名をサーサリア王女の記憶の片隅に置いていただくことだけですから。あえて抵抗をしなかったという事実をもって誠意と受け取ってもらえると、両者のためになると思うのですが」


 ジェダは案内役の従者につれられて部屋を後にした。

 残された者達は彼の置き土産となった、ちぎられた縄に注目していた。


 さして太くもない縄に、軽く力をかけるだけで千切る事ができるほど、絶妙な長さで鋭い切り込みが入れられている。後ろ手に縛られ見る事もできず、並の者であれば集中して晶気を操ることのできる状況ではなかったはず。


 ――風蛇の影を背負うだけの実力、か。


 冷静な判断力と度胸、輝士としての実力。どれをとっても一流といっていい。ジェダ・サーペンティアという人間が、生まれる家が違えば褒め言葉の一つもかけていたところだが、残念なことに彼はアデュレリアにとって最も忌むべき一族の人間である。


 「クネカキ」

 「は、承知しております」

 ジェダの目的が真に王女への機嫌とりだけにせよ、危険な人物に鈴をつけておかないわけにはいかないだろう。




 アデュレリアが、集まった賓客のために用意した会場は、思い描いていた貴族達の夜会の舞台としては、少々狭く感じる造りであった。

 だが、それは決して狭い空間しか確保できなかったというわけではなく、社交が目的のこうした場においては、適度に人が密集する狭さが、逆に目的にかなうという利点がある。


 会場には少し前から集った上流の人々が通され、賑わいと強い香水の香りがあたりいったいに充満していた。


 シュオウは今、その場に一人佇んでいる。


 世界中探したところで、自分にとってこれほど場違いな空間は存在しないはず。そう思えるほどシュオウは浮いた存在となっていた。


 周囲からじろじろと視線を向けられているが、平民とは違い表向きだけでも見ている事を隠そうとしているところが、やはり社会の上位に位置する人々の矜恃というものなのだろうか。


 なんらこの場に目的のない自分が、夜会に出席した理由は一つ、見学である。

 出席者として参加してみないか、とアデュレリア公爵に誘われた時は、即答で断りをいれたが、めったに経験できることではないと聞かされた途端に気持ちが揺らいだのだ。


 そう、たしかに公爵の言うとおり、煌びやかな衣装と色とりどりの輝石を持つ人々に囲まれるというのは、まったく希有な経験であったことは間違いない。だが、シュオウはこの場に出ることを決めた自分の決断を早くも後悔していた。


 ひょんなところから救世主は現れた。

 銀装に身を包んだ輝士を従えて登場したサーサリア王女である。

 奏者達の和やかな演奏が鳴り止み、かわりに厳かで重厚感のある音が会場を包んだ。


 王女が奥へ向かってゆっくりと歩を進めていくなか、場を埋め尽くしていた人々の視線はすべて彼女へと集まっていた。

 シュオウとしては、この舞台の主役が登場したことにより、自身への注目が和らいだ事に心底安堵を覚えていた。


 部屋の中央奥に用意された簡易の玉座に、サーサリア王女が腰掛けると、人々はよく訓練された軍隊のごとく、列をなして隊列を組み、早々に先頭の者から挨拶をかけ始めていた。


 この好機を逃すのは惜しい。

 人気のなくなった食台から、腹を満たすことのできそうな食べ物をいくつか見繕った。

 始めに目についた光沢の良い肉を頬張ったところ、不意にすぐ近くから男に声をかけられた。


 「おいしいかい」

 シュオウは口に含んだ肉を噛みながら、声の主を見た。

 口の中の食べ物を飲み込むまでに、相手が誰であったかすでに思い出していた。


 「たしか、ジェダ……」

 「サーペンティアだよ。僕の名前を知っていたとは意外だね」


 絶世の美女と見紛うばかりの容姿を持つ目の前の男、ジェダは、一切の淀みのない微笑を浮かべてこちらを見ていた。


 「なにか用でも?」

 社交辞令のために声をかけてきた雰囲気ではない、と察した。それはアミュやカザヒナから、目の前の男に関して決して良い話を聞いていなかったから、という理由もある。

 警戒心を表に出し過ぎたせいか、ジェダは不自然に薄く笑みを浮かべた。


 「君は用心深い性格のようだね。別にとって食おうというつもりで近づいたわけじゃないさ。あのグエン公に向かって啖呵を切った平民がどんな人間なのか、身近なところから観察してみたいと思っただけなんだ」


 そういえば、この男はあの場にいたのだと今更ながらに思い出す。


 「なら目的は果たせただろう。用が済んだのなら離れてくれ」

 無意識に、シュオウはジェダに向かってトゲのある言葉を選んでいた。

 「僕は友好的に接しているんだ、もう少し愛想良くしてもいいんじゃないかな。こちらは上級士官としての態度で君と接する事もできるんだよ」


 シュオウは手にしていた皿を置き、正面からジェダと向き合って睨み付ける。

 「好きにすれば良い。ただ、こっちも態度を変えるつもりはない」


 ジェダは嘲笑するように鼻を鳴らした。


 「ふ、氷犬一族に囲われて貴族にでもなったつもりなのかな。だけど、甘い幻想は捨てた方が良い。アデュレリアの当主は有能な人材を好み、多く登用してきた人物だ。下々の者から能ある者を引き上げるといえば度量の広い人間のように聞こえるが、実際は我欲で人を選び金で買い集めているだけの悪趣味な商人にすぎない。君もまた、彼女の所有欲を満たすためだけに選ばれた商材にすぎないんだよ」


 ジェダの物言いを耳に入れ、怒りを感じて一歩詰め寄る。


 「あの人には世話になっている。恩人を侮辱するなら、この場でお前を組み伏せる理由としては、それだけで十分だ」

 「サーペンティアの名を知りながらの暴言か。それとも、本気で僕に勝てると思っているのかな」


 シュオウは答えなかった。ただ、相手の目を微動だにすることなく射貫くように見つめるのみである。

 不穏な空気を感じ取ったのか、王女に関心を向けていた周囲の者達の中で、こちらに視線を向ける者達が増えてきた。


 再び向けられた好奇の視線を受けて、シュオウはやや冷静さを取り戻す。

 謹慎という身であり、アミュに身柄を預けられているこの状況で騒ぎを起こせば、公爵とこの家に迷惑をかけてしまう。


 シュオウはジェダから視線を外し、この場から離れるために一歩を踏み出した。

 「おや、大層な事を言っておいて逃げるとはね」


 挑発的なジェダの物言いが耳に届いた瞬間、二の足を止めてしまったが、必死に感情を抑え込む。そのままジェダの横を通り抜けようとした時、わざと前へ出されたジェダの足に引っかけられて盛大にこけてしまった。


 王女にいただいた鼻の傷跡を再び強打し、痛みに呻きながら立ち上がると、周囲からくすくすと嘲笑する笑い声が聞こえてきた。

 シュオウは精一杯冷静さを装い、そのまま振り返る事をせずに、早足で庭に続く扉のほうへと向かった。




 なにがそんなに楽しいのだろう。

 ムラクモの王女サーサリアは、次々と現れこちらの機嫌を伺う人々を、消えかけた蝋燭のようなうつろな瞳で眺めていた。


 家名とともに差し出される貢ぎ物の目録を受け取る。が、当然中身など見ないし、気にもならない。

 すぐ側で、カナリアが現れては消えていく有象無象の名や経歴を耳打ちするが、一言たりとも頭の中に残りはしなかった。


 ――いらいらする。


 頭の中で何十匹もの蠅が飛び交っているような不快感を抱え、サーサリアは大声で叫び出したい気持ちを必死にこらえていた。


 自分が決して良質な人間ではないことくらい、自覚はある。

 心一つで周囲に当たり散らしたり、脅しをかけたりする事など日常茶飯事だが、この場でそれをすれば自身の立場が悪くなるのは明白である。


 しばらくの間大人しくしていれば、あの子供にしか見えない底意地の悪い公爵が、気持ちを変えて花を運び入れる事を許してくれるかもしれない。

 そうした打算を持って、サーサリアは辛うじて正気を維持していた。が――

 「――で、ですな。この間私が仕留めた獲物などは、大の大人が二人がかりで両手を広げても届かないくらいでして」


 初老の男がくどくどと話す自慢話は、ぎりぎりのところでせき止められていた不満を爆発させるのに十分すぎた。


 ――いらいらする!


 男の話を遮るように、サーサリアは勢いよく立ち上がった。

 慌てて、カナリアが声をかけてくる。

 「殿下、まだ伯爵閣下のお話の途中です」


 慌てておろおろとする男に横目を流し、サーサリアは背を向けた。

 「休ませて」


 多くの人々の視線を一身に受けつつも、サーサリアは避難先を求めて歩き出した。

 どこがいいかと見回して、庭へ続く扉が視界に入った。

 扉を開けた瞬間、すーっと冷たい風が体を通り抜けていく。外は厚着をしていても寒いくらいの気温だが、苛立ちを抱えて火照った体には心地良かった。


 当然の如く、頼んでもいないのにカナリアを先頭とした親衛隊はぴったりと後をつけてきている。

 サーサリアはたっぷりと不快感を込めて怒鳴った。

 「ついてこないで! あの馬鹿みたいな催し物には付き合うわ。だから、今は少し一人にして!!」


 カナリアは戸惑いの表情を見せながらも親衛隊に停止を命じた。

 頼んだからといって一人きりにはしてくれるわけもないが、気分を害していると知れば、視界に入らないくらいの配慮はするだろう。


 ようやく偽りの孤独を手に入れ、さらに腰を落ち着ける事のできる場所を探す。

 少し歩いたところに、休憩のために用意された長いすが置かれていた。

 暗がりでよく見えなかったが、近づくほどに見えてきたその場所には、先客がいた。


 薄暗い灰色髪をした男。顔を覆う大きな黒い眼帯をしていて、なんとも不審者のような風体である。

 長椅子の前に立ち、そこで腕を組んで遠くをぼうっと見つめている男に告げた。

 「どきなさい」


 男はゆっくりと視線をこちらへ向ける。

 「え……」


 男にあまりにも鋭い視線を向けられて、サーサリアは一瞬たじろいだ。だが、すぐに怒りのほうが勝る。

 「どけって言ったでしょ!」


 男は眉間に皺を寄せ、吐き捨てるように言った。

 「いやだ」

 「おまえッ、わたしがだれだか――」

 男はサーサリアの言葉を強い調子で遮る。

 「知っている。先に座っていたのは俺のほうだ」


 この国の王女であり、唯一の王位継承者である自分を知っていて尚この態度なのか、と強く困惑した。

 おかしな風体の男は再び視線をはずし、遠くへ視線を移した。どういう理由があるにせよ、このまま何か言い続けたところで、この男が立ち上がるとは思えなかった。ここが王都で水晶宮であるならば、晶気を用いて藻掻き苦しむまで痛めつけてやるところだが、不幸なことに今は機嫌を損ねたくない相手がいる。


 かといって他に休憩をとれるようなめぼしい場所も見当たらなかった。それに、このまま自分が立ち去ってしまえば、目の前の不敬な男に負けてしまったようでくやしい。

 サーサリアは覚悟を決め、長椅子の空いている側へと腰掛けた。

 すこし間は開いているが、突然となりに腰掛けたにもかかわらず、男の反応はなにもない。


 月明かりに照らされた朧な世界。

 風の音しか聞こえない。


 前をじっと見ているように装いながら、こっそりと横目で男を覗くと、小刻みに左足が揺すられていた。


 「お前は異国の人間なの?」

 好奇心などという感情は、長い間身近に存在し得ないものだった。だが、自分を敬う事も恐れる事もしないこの男の事が気になったのだ。


 「……覚えてないのか」

 男は呆れた表情でこちらを見つめた。

 サーサリアは首を傾げる。

 「なんのこと……」


 男は盛大に溜息を吐いた。

 「アベンチュリンのアレといい、王族ってのは変なやつばかりなんだな」


 アベンチュリンの、と聞いて何のことを言っているのか、やはり気になった。

 ――聞いてみたい。

 好奇心に押され口を開きかけるが、その前に男はすっと立ち上がってどこかへ歩いていってしまった。


 男が壁になっていたのか、突然横から届いた冷たい風に身が震える。

 月明かりの下、風の音だけが聞こえる世界。

 さきほどとなにも変わっていないはずなのに、どこからともなく降って湧いた孤独感に心が小さくしぼんでいく。


 そろそろ戻ろうか。そう思い始めた頃、どこからか輝士の制服に身を包んだ男が目の前に現れた。

 「殿下、少しお話をお許しいただけるでしょうか」

 男は膝をついて頭を落とし、そう言った。

 首を左へ動かすと、近くでこちらを見張っていたカナリア達親衛隊がじっとこちらの様子を窺っているのがわかる。


 サーサリアは視線で強く睨みをきかし、近寄るなという意思を見せた。

 立ち上がり、輝士を見下ろして言う。

 「くだらない紹介なら後でまとめて聞く」

 そう宣言してさっさと立ち去ってしまうつもりだったが、おもむろに輝士が差し出したモノを見て、サーサリアは再び腰を下ろした。


 「これ……」

 「乾燥したリュケインの花です。街中でこっそりと売られていた物を手に入れました。薬としての効能があるとかで、ささやかな土産物になれば、と」

 「そう……」


 輝士の手の平にあるリュケインの花に、吸い寄せられるように手を伸ばす。が、輝士は突然軽く手を握って花を隠してしまった。

 「なにを――」


 言いかけたところで、男はすっと顔をあげて言った。

 「ジェダ・サーペンティアと申します」

 「サーペンティア……」

 よく知っている名を聞かされて、はじめて輝士の顔を見る。見れば一目で印象に残るほどの美形だが、サーサリアにとっては彼の手の中にある花のほうが何倍も興味をそそられる。


 「名前は覚えておく。早く、それを見せて」

 「どうぞ、殿下のために骨を折って手に入れた物ですから」

 男は手の中の花を差し出した。


 受け取った物を見るに、すでに萎れてしまっていて、サーサリアの望む使用法には耐えないだろう。それに、どのみちこれっぽちの量では到底満足できるはずもない。花による幻覚作用を得るには、両手いっぱいの量が必要になるのだ。


 僅かに抱いた期待が砕かれて意気消沈していると、ジェダと名乗った輝士が小声で話しかけてきた。

 「実は、それを商っていた男が語るに、リュケインの花はこのアデュレリア領内でも採れるのだとか」


 サーサリアは食いつくように声をあげた。


 「それはほんと!? くわしく……詳しく教えてッ」

 容姿の良い輝士の顔が苦くゆがむ。その口から紡がれる言葉に耳を傾けるため、サーサリアは身を乗り出して話を聞いた。




 夢も見ていなかったはずである。


 深い眠りについていたにもかかわらず、なにかに呼ばれるようにして目を覚ました。

 こうした感覚は、僅かに懐かしさを覚えるものでもある。


 狂鬼ひしめく深界の森で一人夜明け待っていた頃の感覚。危険な狂鬼の接近を肌で感じ取る野生的なひらめきと直感。狂鬼に怯える心配もない今となっては縁遠いものとなってしまった鋭敏な危機感が、シュオウの体に起きろとたしかに命じたのだ。


 上体を起こす。

 氷室のように冷たく乾燥した空気の中、強い乾きを感じた。


 部屋の外へ顔を出すと、いつもと違う空気を感じた。自分自身それがなにであるのかはっきりと理解しているわけではなかったが、大きな石の下で無数の蟲が蠢いているような、ざわめきを彷彿とさせる気配だ。


 寝間着のまま廊下に出ようとしていたのをやめ、シュオウは普段着に着替えて外套を羽織って部屋を出た。


 なんとなくの感覚が、確信に変わったのは邸の玄関近くを通りかかった頃だった。微かに耳を誘うざわめきを辿って庭まで出ると、銀装を纏った輝士達が慌ただしげに馬の用意をしているのが見えた。


 ――こんな時間に?


 ぼんやりと彼らの様子を眺めていたシュオウに、一人の輝士が歩み寄ってきた。厚い外套を羽織っていたため、一瞬誰かと思ったが、赤みがかった金色の髪が見えて相手がカナリアであると気づいた。


 「起こしてしまった? 音には注意していたつもりだったんだけど」

 カナリアが声を発する度、もわっと白く色づいた息があがる。

 「水を飲みにきただけなので、偶然ですよ」


 カナリアの次の言葉を自然と待っていたが、彼女はなにも話そうとはしなかった。というより、シュオウがこの場に居合わせた事に困惑している様子だ。


 無言の時を嫌い、シュオウは極々当たり前の質問を投げた。

 「こんな時間に何を?」

 「……それが」

 カナリアは歯切れ悪く返事をためらい、黙って後方へ視線をやった。


 その先を追うように見ると、暗がりの中にぽつんと一つ造りの良い馬車がある。それを取り囲むように騎乗した四人の輝士が警護についているのを見るに、中に誰がいるのかは考えるまでもない。


 「王都に戻るんですか?」

 カナリアは渋い顔でシュオウの問いを否定する。

 「だったらよかったんだけど。殿下の命令で、これから山奥に向かう事になったのよ」


 あまりにも漠然とした話に、シュオウはぽかんと口をあけた。

 「山奥って、どのあたりまで?」

 「さあ、ただ行けと命令されてしまったから」

 「断れないんですか」


 「無理ね。殿下は普段からわがままの多い方で、だいたい気まぐれな時と、なにか強い目的を持って主張なさる時とがあるけど、今回は後者みたい。押しても引いても行くの一点張りで」


 ――むちゃくちゃだな。


 サーサリア王女のあまりにも身勝手な振る舞いを見ているうち、シュオウはとある女王の姿を思い出していた。吐き気にも似た苛立ちに胃を押さえるうち、生まれ持っての権力を振りかざして周囲の人間を振り回す行為への嫌悪感に襲われた。


 「やめさせるべきですよ――」

 シュオウは怒りと苛立ちを込めて強く言った。

 「――朝まではまだまだあるし、ここの所早朝にかかる霧も濃さを増してるんです。深界ではないけど、夜の山道は視界も悪くて危険ですから」


 分をわきまえぬ物言いだったが、カナリアはそれを咎めることなく、礼を言った。


 「ありがとう、すべてあなたの言う通りね。けど、これは仕方ないのよ。臣下の立場では間違いを指摘することまではできても、最終的な主君の判断に否とは言えない。殿下を守護するのが私の務めだから、あの方が行く以上私もついて行くのは絶対だから」


 「この時間に外出することを公爵には?」


 「伝えていない。きっと良い顔はされないから、という殿下の指示よ。ただ、昨日から私たちの補佐についてくれている若いアデュレリアの輝士候補生には事情を説明して、同行を認めてもらったわ。ちょうど交代要員を王都に返したばかりで人手不足だったから大助かりで」


 輝士の中に混じって、見覚えのある年若い少女が馬の支度をしていた。彼女が、前に紹介されたカザヒナの妹であることを思い出す。

 他の洗練された輝士達とはあきらかに違う、幼さの残る彼女を見るうち、一人で行かせる事への不安がよぎった。


 「俺も行きます」

 シュオウの申し出に、カナリアは驚きつつもほっとしたような表情を見せた。

 「気を遣わないでっていう余裕はないから、甘えるわよ?」

 「すっかり目も醒めたし、気になるので」


 王女の事などどうでもいい。カナリアには同情するが、彼女はこうした不意の出来事には慣れっこだろう。シュオウが気になるのは、アデュレリアの若き姫の無事である。恩あるアデュレリア公爵の身内でもある彼女が、王女のわがままに巻き込まれて危険にさらされるような事になれば、ここで見過ごした事を後悔することになるだろう。


 「殿下も外の空気を堪能すれば満足されるはずだから、明るくなる頃には戻れるでしょう。できるかぎり早く出発したいから、急いで支度をお願いするわ」

 了承したことを伝え、シュオウは駆け足で自室へと向かった。



 念のために手持ちの装備を一通り袋に詰めて自室を後にする。

 できるかぎり音をたてないように走り、急いでカナリアの下まで戻ろうとしたが、玄関へ向かう途中、調理場の近くをうろうろしていたハリオに呼び止められた。


 「なにしてんだよ、こんな時間に」

 ハリオは酒瓶のような物を手に、口につまみの乾物を咥えていた。


 「王女の外出の護衛を手伝いに行くところです」

 「ほぉ、王族ってやつはこんな真っ暗闇の中を散歩するもんなのか。物好きなこったぁな」

 「俺もそう思います」

 本来であれば不敬といえるハリオの物言いに、シュオウは心底同意した。


 「じゃあ、急いでるので――」

 挨拶もそこそこに、立ち去ろうとしたシュオウをハリオが呼び止める。


 「待てよ、この時間外はくそ寒いぞ。この前夜中に物資の搬入を手伝わされたからわかるんだ。これ、もってけよッ」

 ばさりと放り投げられた皮の外套を受け取る。それはハリオが寸前まで纏っていた物で、独特なすえた臭いと酒臭が鼻腔を刺激した。


 「いいんですか?」

 「貸しといてやるよ。安物で生地も薄いけど、お前のその上等な外套の下に羽織るにゃ丁度良いだろ」

 言われた通り、シュオウは纏っていた外套の下に借りた薄手の外套を纏った。

 少し臭いことを無視すれば、暖かみが増して心強い。

 シュオウは先輩従士の気遣いに礼を言い、すぐ戻る事を伝えて外へと向かった。




 時間がたつごとに濃度を増していく霧の中、サーサリア王女とそれを守護する親衛隊に同行したシュオウは、余りの馬を借りて覚えたての馬術を頼りに馬を走らせていた。


 一行はサーサリア王女の指示に従い、邸から遠く離れた山道を進んでいた。

 道幅は馬車がぎりぎり通れるくらいしかなく、整備された道ではないため、無遠慮にのびた枝をよけながら走るしかない悪路である。


 あたりはしんと静まりかえっている。

 ――気味が悪いな。

 夜の世界に慣れている自分がそう感じてしまうほど、あたりは静かだった。


 普通なら、夜行性の鳥や動物が活動する物音が、大小あれどかならず耳に届くはず。にもかかわらず、周辺から生命の鼓動を一切感じ取ることができなかった。


 途中、いくつかの分かれ道を進む。

 王女の根拠のない指示に従い、あちらこちらの道を適当に進んでいくうち、さらに濃くなっていく霧も手伝って、狂っていく方向感覚に不安を覚えた。


 唐突に、開けた空間へ出た。

 木々の連なりが途切れ、平面に広がる空間は、地面も見えないほど霧が充満していた。

 明かりとりの夜光石は、霧に阻まれて役割を果たすに足りていない。


 ――なんだ、この空気。


 白く煙る檻の中、漠然とした不安に心臓を鷲づかみにされた。

 シュオウは、馬車の中から指示を飛ばすサーサリアの相手をしていたカナリアに詰め寄った。


 「カナリアさん、戻りましょう。なにかおかしい――」

 驚いてこちらを見るカナリアとは別に、馬車の中からヒステリックな声があがる。

 「だめよッ! まだ見つけていない!!」


 いったいなにを、そう聞こうと口を開いた時だった。

 空気を震わせる鈍い振動音が耳に届く。ぞくぞくとした悪寒が背中を走った。

 同じく、素早く異常を察知した馬たちは、輝士らが宥めるのもきかず、怯えたように首をばたつかせた。


 次の行動を考える間もなく、それは来た。

 空中を自在に泳ぐ六枚の羽根。暗く底光りする血色の瞳。石ですら噛み砕く堅い大顎。おぞましく伸びた長い六本の足。巨体の男ほどの体躯で、触覚の先から尻尾まで赤で染まった深紅の狂鬼。


 ――アカバチ!?


 シュオウは深界での生き方、狂鬼を狩る術を師であり育ての親であるアマネから学んできた。中には見たら逃げろ、と交戦を許されなかった狂鬼も少なからず存在する。

 アカバチという名の狂鬼は、その一つである。


 天空を自在に駆り、群れで獲物に襲いかかる無敵の戦士。その生態もほとんど解っていない。姿を見たのも、以前に遠くから飛んでいる姿をちらりと眺めた程度だった。


 数にして三匹。霧の中から羽音とともに浮かび上がってきた紅の身体を見せつけるようにして、こちらへと急加速で迫り来る。

 どうしてここに狂鬼が、という疑問は、怖気とともに走った恐怖で塗りつぶされた。


 「逃げろッ!」

 叫んだのも束の間、三匹のアカバチは驚くほど静かに着地した。


 混乱の中、身動き一つとれずにいた先頭の輝士を、アカバチの前足が貫く。位置は肩口、致命傷を避けたはずなのに、輝士はそのまま馬から転げ落ちて身動き一つとらなくなった。だが、輝士の瞳は涙をたたえてきょろきょろと周囲の様子を窺っている。


 ――麻痺毒か。


 半狂乱になった馬はすでに足枷でしかない。逃げ去ろうとして暴れる馬を捨て、シュオウは大地に転がった。

 最初にやられた輝士の剣を手に取り、別の者に注意をとられている一匹のアカバチに斬りかかった。


 胴体を狙い、振り下ろした剣は、寸前で躱されて空を切った。

 あきらめることなく、一歩を踏み出して突きを見舞う。が、刃がアカバチの身体に触れる瞬間に猛烈に羽ばたく羽根に阻まれ、手にしていた剣を吹き飛ばされてしまった。


 紅い複眼が、じっとこちらを睨み付けていた。

 ――眼が良いのはお互い様か。


 一挙一動を完全に把握されている。シュオウがそうであるように、彼らは種として生まれ持って優れた動体視力を有しているのだろう。


 降って湧いた最悪な状況の中、輝士達は果敢に王女の馬車を囲んで守りを固めていたが、尋常ならざる生物を前にして恐怖に怯える者もいた。


 悲鳴をあげ、一人の輝士が馬車から離れて逃げ出す。が、その姿がふっと突然かき消えてしまった。

 狂い叫ぶ悲鳴が、引きずられるように地の底へと消えていく。


 一部始終を見ていたカナリアが絶句する。

 「そんな――」

 彼女と同じく、シュオウは気づいていた。

 この先が、崖っぷちであるということに。


 ――まずい。


 気づいた頃には時すでに遅かった。

 さきほどから遠慮がちにこちらを威嚇していたアカバチは後方に陣取り、こちらは崖を背にした不利な状況に陥っていた。白煙に視界を阻まれるなか、どこまで地面があるのかもわからないあやふやな状態である。


 カチカチカチカチ、とアカバチが顎を鳴らす。

 鼓膜を打つ不気味な音に耐えかねた馬が、ついに制御不能に陥った。


 馬車につながれた二頭の馬は我先にと足を前に出し、懸命に手綱を引くカナリアもろとも、底の見えない崖下へと転落した。


 残された輝士達は暴れる馬に振り落とされ、身もだえするなか、アカバチの前足に突き刺されて行動不能に陥っていく。


 なおも威嚇音を発しながらこちらを威嚇する二匹のアカバチとは別に、もう一匹のアカバチは身動きのとれなくなった輝士の首元に口から出した透明で鋭い針管を差し込んだ。

 「アヮアヮ……」

 針管を刺された輝士から言葉にならない不気味な呻きが漏れる。


 やがて、輝士の体は人のそれとはおもえない動きで痙攣を始めた。

 すぐに事切れたように動きが止まったのとほぼ同時に、差し込まれた透明な針管に紅く染まった液体のような物が流れ、アカバチの体内に吸い込まれていく。


 ゾっとするような光景が眼前に広がっていた。

 輝士の体はしだいに中身を抜かれてしまったかのように萎れていく。その姿をみて、シュオウは先日カナリアと共に見た鹿の遺骸を思い出していた。


 ――兆候だったのか。


 それを見逃した事への後悔を感じるより先に、まずは生き残る術を思考しなければならない。


 サーサリア王女とカナリアは共に奈落へと消え、他の輝士達も半死半生の身。自身の命を最優先に考え、すべての技術を活かして逃げるべき時である。

 そう考えた、まさにその瞬間であった。


 アカバチの前足から這うように身を躱し、死にものぐるいで逃げ惑うカザヒナの妹、ユウヒナの姿が目に入った。


 ユウヒナは目や鼻、口から出せるかぎりの恐怖の汁を垂らしながら、にじりよるアカバチから尻をこすりながら逃げ惑っている。

 ふっと、ユウヒナの身体が後方へ傾いた。その先にあるのは行き先不明の崖の底だ。


 ――まずいッ!


 後先を考えぬまま飛び出していた。


 すでに身体の半分以上が空中に投げ出されていた放心状態のユウヒナの身体を掴んで引き寄せる。

 無事に大地のあるほうへとユウヒナを引き戻せた事と引き替えに、シュオウの身体は濃霧に隠れた常闇の底へと投げ出されていた。









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小説の表紙
― 新着の感想 ―
目が良いからか、反射に欠けるところがあるな 気合を入れてる時は何でも避けるけど、気を抜いてる時に不意を打たれるとあっさり当たるし 多分目が良すぎるから攻撃を見て避けるのが癖になってて、反射に任せて咄嗟…
[良い点] だいぶ昔、10年くらい前に読んでた事あったから、ランキングで見かけて今だに連載しててびっくりした 当時アカも作って無かったからブクマもせず、作品名完全に忘れて思い出せずそのまま読まなくな…
[一言] アカバチ、消化液注入系か……えげつない。エメラルドゴキブリバチの類いじゃないだけ、マシかもしれないけど。
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