【70話】 お嬢様のMail 4
12月24日(日曜日)―――。朝。
布団の中でぬくぬくと気持ちよく眠っていた矢先、突然ケータイのバイブが鳴り出した。
「う〜〜ん、うるさいなぁ〜」
耳元でブーンブーンと音を立て、布団の上を徐々に移動するケータイ。
それにぼやいて布団へ潜ったのと同時に、いきなりボフッと拳が飛んできた。
「うっさいねん!はよ止めんかい!ボケ!!」
「ぐふっ!痛い!!何で叩くんだよ、千尋!うぅ〜〜、誰だよ、こんな朝からぁ〜〜」
がばっと布団をまくり千尋に吼えてからケータイを掴んで見てみると、届いていたのはメール。
何だよ、誰だよ、こんな朝っぱらからメール送ってくる野郎は。
目を擦りつつ、怒り半分でメールを開いた俺が見たものは・・・
『メリークリスマス 早瀬 』
と書かれた、お嬢様からのメッセージ。
だがそれは、この間のメッセージとは天と地ほど違っていた。
何故なら―――、今回は絵文字付き!!
『メリークリスマス』の後には、クリスマスツリーの絵。そして、『早瀬』の後についていたのは・・・ついていたのは・・・、何とハートが2つ!!
それを見た瞬間、俺はボトッとケータイを布団に落としてしまった・・・と同時に、完全に覚醒した。
お、お、お嬢様・・・。
『24日にメール送るね』って・・・、もしやこのメールのこと?だとしたら、何てメールを・・・。
「拓海、どうかしたんか?もしかして、また例の流揮会のことか?」
びくっ。
「え、あ、その・・・」
千尋の問いに、言葉に詰まってカーッと顔を赤くすると、千尋は寝転んだまま頬杖をついてニヤリと笑みを作った。
「はぁ〜ん、さてはメールの相手、例の片想いの彼女か?」
ぎくっ。
「ち、違う。そ、そんなんじゃ・・・ねえよ。お、俺、ちょっとトイレ!」
しどろもどろになりながら落ちたケータイを急いで拾った俺は、ガバッと布団から抜け出し、トイレへと走った。
はぁ〜。千尋の奴、絶対見抜いたよな。うぅっ。
トイレに篭って再びメールを見やれば、そこにはやはり“ハートマーク”が2つ並んでいる。
ダメだ、たったこれだけのことなのに、幸せすぎて心臓ドキドキするし、顔がにやける。
でも、お嬢様、どういうつもりでこの“ハートマーク”つけたんだろう。『好き』の意味で付けたんじゃないってことだけは、確かだよな。
だって、彼女の中で俺は『兄貴』みたいな男だし。何だかそう思うと、幸せだけどやけに切ない。
「一応、メール返しておくか。せっかくくれたんだし。」
『よいクリスマスをお過ごし下さい、お嬢様』
同じように一行だけメールを打って絵文字抜きで送信すると、5分も経たないうちにメールの返事が返ってきた。
は、早っ。
開けて見るとそこには、さっきよりも長い文章。
『んもう!早瀬のメール、硬すぎだし素っ気無さすぎ!せっかくメル友になろうと思ってるのに。どうしてもっと柔らかい文章書けないの?妹みたいに思ってくれてるなら、もっと文章は柔らかく!!でもって、絵文字とか入れてくれないとつまんないよ。お兄ちゃんともメル友だけど、お兄ちゃんだって絵文字入れるよ。だから、早瀬も絵文字付きでちょうだい。これは命令です!』
えっ。
一瞬、信じられない彼女のメールに目を疑った。
俺と・・・メール友達?・・・俺と?
っつーか、悠斗ともメル友なのか、お嬢様。一緒に住んでるんだし、何もメル友にならなくてもいいと思うんだけど・・・。
はははっ。
でも、メル友か。嬉しいけど・・・俺には・・・
『早瀬は、使用人です。お嬢様と気軽にメールをするなど、もってのほかです。お許し下さい。』
断りのメールを打って送信してから、ケータイをぐっと握り締めた。
俺だってお嬢様と仲良くしたい。だけど、俺は、使用人を貫くって決めたんだ。彼女のことは、心の中で想うだけにするって決めたんだ。
だから、これでいいんだ。
大きくため息を吐いてトイレから出ようとしたその時、再びメールが届いた。
送って来たのは、もちろんお嬢様。
『どうして?私、メイドの子ともメールしてるよ?なのに、どうして早瀬とはメールしちゃダメなの?変じゃない?』
うっ、そう言われてしまうと返す言葉が・・・。
どう返信しようかとしばらく頭を悩ませているところへ、突然震えだしたケータイ。
「のわっ!!び、びっくりした!」
驚きで落としそうになったケータイを咄嗟に何とか持ち応えた俺は、はぁ〜っと大きく安堵の息を吐いた。
「急に震えるなよ。びっくりするじゃねえか。」
ぼやきながら着信を見ると、電話の主はお嬢様。
お嬢様・・・。
そっか、一向に返事が来ないから電話かけて来たのか。でも、ここで出るのはまずいな。
外へ行くか。
震え続けるケータイを握り、ひとまずトイレを出た俺は、真っ直ぐ玄関へ向かい外へ出た。
「・・・はい。おはようございます。」
玄関ドアにもたれて電話に出ると、待ち構えていたかのようにお嬢様が喋り出した。
―「ねぇ、どうしてダメなの??使用人とメールしちゃいけないって誰かが決めたの?」―
えっ。いや・・・それは・・・。
真剣な声で問いただすお嬢様に、俺は答えに詰まってしまった。
「・・・べ、別に、そういう訳ではございませんが・・・」
―「じゃあ、いいじゃない。」―
何ともあっさり言い切ったお嬢様は、電話の向こうでふふふっと笑う。
お嬢様。どうして君は、そうやって俺の決意を揺るがすんだ。
そんな風に言われたら、仲良くしてもいいかなって思っちゃうじゃないか。
自分が使用人なんだってことを、忘れそうになっちゃうじゃないか。
「そう申されましても・・・」
―「何よ。早瀬は、こんな年下の子供相手とじゃ、メールは出来ないんだ?」―
えっ。
俺の言葉でコロッと不機嫌に変わったお嬢様は、意地悪っぽく、そして嫌味っぽく刺々しい口調で言った。
そんなお嬢様に、俺は即座に否定の言葉を入れた。
「い、いえ!違います。決してそのようなことを申しているのでは・・・。」
―「じゃあ、メールしようよぉ。ねぇ、いいでしょ〜?早瀬ぇ。ダメぇ?」―
意地悪モードから一転、俺の耳元でゴロゴロ甘えた声でお願いしたお嬢様。そのとてつもなく可愛い甘え声に、心臓は途端に鼓動を速めた。
うぅ〜〜っ、ずるいよ、お嬢様。意地悪の後にそんな超甘えた声でお願いされたら、断れなくなるじゃないか。
「い、いえ・・・。ダメ・・・では。」
案の定無意識に自分の口から出たのは、メールOKの言葉。
あぁ、俺って何処までもお嬢様に弱すぎ。
―「ほんと??やったぁ〜、嬉しい。じゃあ、毎日メール送るから、必ずお返事頂戴ね。絵文字付きでだよ??」―
嬉しそうにはしゃぎ言うお嬢様に『・・・はぁ。』と後悔しながら返事をすると、電話の向こうでノックが聞こえた。
―「あ、朝ごはんの時間みたい。じゃあ、またね、早瀬。あ、帰ってきたらうちに来るの忘れないでよ!?それじゃ。」―
一方的に言いたいことを言って、あっさりプツッと電話を切ってしまったお嬢様。
はぁ〜・・・。何だか、とんでもないことになってしまった気が・・・。
お嬢様とメル友かぁ。どうしよう。でも今更断れないし。するしか無いのかな。
ケータイを握り締めつつ肩を落としてため息をついていると、突然もたれていたドアが勢いよく開いた。
「ぎゃっ!」
「あっ!拓海みっけ!何してんだよぉ。朝飯だぞ。今日の朝飯は、ご飯と味噌汁とだし巻きタマゴと焼き鮭と、嵐山行ったときに買って来たお漬物だぞぉ〜♪超美味そうだろ??千尋が作ってくれたんだ〜♪な?早く食おうぜ、拓海ぃ。」
俺の服を引っ張って笑顔で急かす涼太。
はははっ。お前は、食うことしか頭に無いのか。いいよな、悩み無さそうで。
「はいはい。分かった。」
涼太の頭をポンと叩いてケータイをジャージのポケットに仕舞いこんだ俺は、ふぅっとひとつ息を吐き、涼太と一緒に部屋に戻った。
食卓に並んでいる料理は、まるで旅館の朝ごはんのよう。
さすが千尋。料亭の息子だけあるぞ。
「すごい、美味そう。」
箸を握って呟いた俺に、千尋が照れくさそうに笑った。
「味はあんま期待せんと、まぁ食うてく・・・」
「美味〜〜い!!超美味い!このタマゴ焼き!」
千尋が言いかけたのを遮った涼太の声。
見遣ると、既にカツカツとお食事タイム中。
「こら、涼太。“いただきます”言ってないだろ!?」
「ほへ?わふれてた。いたらいてまぁ〜ふ。」
俺に言われて口をモゴモゴさせながら言った涼太は、再びカツカツと美味そうに食い始めた。
やれやれ。子供かよ、お前は。
「それはそうと、今日帰るんやろ?何時ごろ出るねん?」
鮭を一口パクッと頬張り千尋が俺に尋ねた。
「ん〜、そうだなぁ。夕方頃にあっちに着けばいいかなって思ってるけど。涼太、お前はどうだ?明日仕事だっけ?」
だし巻きタマゴを小さく切って口に運びつつ涼太に話を振ると、涼太は口のものをごくんと飲み込んでから言葉を発した。
「俺、明日まで休み取ってるから大丈夫だぞ。何時でもOK〜♪」
「そうか。じゃあ、3時か4時頃の新幹線に乗って帰るか。」
「了解。ほな、昼から京都駅行って伊勢丹ウロウロしながら土産でも買うか?ついでに、昼飯もそこで食うたらええし。」
「あっ、それ賛成〜。土産いっぱい買って帰ろ〜っと。」
千尋の提案に即賛成した涼太は、ほっぺたにご飯粒をつけて超ご機嫌な笑顔。
「お前なぁ、ご飯粒くっつけてにへにへするなよ。ったく。」
仕方なく涼太のほっぺたにくっついてる米粒を取ってパクッと食った俺を見て、千尋がポロッと箸を落とした。
ん?
「拓海・・・、やっぱお前と涼太て、そおいう仲なんか?」
へ?そおいう仲?・・・っっ!!
「そんな訳ないだろ!!変なこと言ってんじゃねえよ、千尋!!お前も何とか言え!涼太!」
涼太の頭をべしっと叩いて言い返すよう命令した瞬間、こいつに話を振るんじゃ無かったと後悔した。が、時既に遅し・・・
「そうそう、俺と拓海はと〜〜っても愛し合ってるんだぞ、千尋〜。何てったって、一緒にベッドで・・・」
バカ野郎!それ以上言わせるかぁ〜〜〜!!!
「涼太、このだし巻き美味いぞぉ〜〜〜ほれほれほれ〜〜〜食えぇ〜〜〜!!」
思った通りとんでもないことを言いかけた涼太の口に、咄嗟にだし巻きタマゴを3切れ掴んで突っ込むと、涼太は噛むことも飲み込むことも出来ず呻いた。
「んぐっ、〜〜〜〜〜っっっ!!!」
ふんっ。ざまあみろ、これで喋れまい。
まったく、いつもいつも変なことばっかり言いやがって。
「た、拓海・・・、涼太の顔が青なっとる・・・。」
涼太を指差しぼそっと呟いた千尋へ、俺はメシの続きを食いながら平然と口を開いた。
「心配するな、千尋。こいつは殺しても死なない奴だから大丈夫だ。」
「そ、そうかも知れんけど、これはさすがにヤバイんちゃうか?大丈夫か?涼太!ええから口の中のもん出せ。」
涼太の背後に回って彼の背中を叩く千尋。一方背中を叩かれた涼太は、言葉にならない言葉を放ちもがいていた。
「*△×□○×*◇〜〜〜〜っっっ!!!」
「涼太、はよ出せ。窒息死してまうで。」
そう言って千尋が思い切り涼太の背中を叩いたと同時に、目の前の皿の上へげほっと吐き出された卵焼きの残骸。
「げほっげほっげほっ・・・」
「はぁ〜。大丈夫か、涼太?生きてるか?」
「何とか・・・。」
涙目で千尋に言い返した涼太は、何度も深呼吸を繰り返してから俺を睨んだ。
「何だよ。その目は。もとはと言えば、お前が変なこと言うから悪いんだろ。」
「拓海の阿呆〜〜〜!!だからって、幼馴染の俺を殺す気かよ!!!」
俺の服を掴んでキーキー怒る涼太からツンと顔を背けた途端、涼太が俺の頬をむにゅっと思い切り引っ張り抓った。
ぎゃっ!!
「いらいっ!!いらいいらい!!あにすんらよ!!ろーた!!」
思うように喋れない口で文句を垂れると、涼太がケラケラと笑い出した。
「ひゃひゃひゃっ。ざまあみろ!さっきのお返しだぁ!それから、一生『ハニー』って呼んでやるからな!悔しかったら何とか言ってみろ〜。けっけっけ。」
この野郎〜〜!!
必死に涼太の手を離そうとするものの、びくともしない。
くそぉ〜〜〜!
「ふはへるな!へめえ!!はなへ!!」
「けっけっけっけ。何喋ってんの〜?拓海く〜ん。全然怖く無いんですけどぉ〜。ひゃひゃひゃひゃ」
俺の頬を引っ張り抓ったまま小バカにして笑う涼太。
おのれぇ〜〜〜!!こうなったら!
負けじと涼太の鼻を摘まんで引っ張ると、『いたたたっ』と涼太が叫んだ。
「おまへもやっへやる!これれもか〜〜〜」
「痛いっ痛いっ!!ふえ〜〜〜やめてくれぇ〜〜〜」
俺に摘ままれジタバタした涼太は、たまらず降参して俺から手を離した。
はぁ〜〜〜、やっと放しやがったか。うぅっ、くそぉ、まだジンジンする。
ようやく自由になった頬を両手で擦った俺は、涼太をキッと睨みつけべしっと頭を殴った。
「この、バカ涼太!思いっきり頬を抓りやがって!まだ痛いだろうが!!」
「いたっ!また叩くぅ〜〜〜〜!叩くなよ〜〜!暴力ヤクザ男〜〜!!」
「うるさい!俺様に逆らってみろ、次は一発であの世へ送るぞ。」
「うぅっ・・・。」
俺の言葉に口答えをやめて唇を噛んだ涼太は、うぅ〜〜と唸りながら渋々味噌汁をすする。
こんな俺と涼太の様子を傍観していた千尋は、一人可笑しそうに笑っていた。
まったく。疲れるよ、朝から。
はぁ〜・・・。
午後3時―――。京都駅、伊勢丹。
千尋に連れられ土産売り場をウロウロ歩いていると、突然涼太が俺の服を引っ張った。
「拓海、拓海!メロン八橋とかイチゴ八橋売ってる!美味いのかな。」
「さ、さぁ、微妙なんじゃねえの?」
八橋にイチゴやメロンって、合うのかよ。
とりあえず曖昧な答えだけ返す俺に、涼太は『微妙なのかぁ』と複雑そうな顔でその八橋を眺めていた。
はははっ。気になるなら買えばいいのに。
そういや、俺も土産買って帰らないと。三千院行った時に作った焼き物は直接マンションに届くようにしておいたからいいとして。嵐山行った時に漬物は買ったし、あとは、親父と圭兄と望と、銀龍会のみんなにもお菓子買って帰るか。それから・・・蓮と翔太兄と加藤さんと山中さんにもお菓子か何か買って帰るだろ。それに・・・悠斗の分と・・・あっ、お嬢様にも何か買って帰らなくちゃ。
お嬢様、何がいいかなぁ〜。
いろんな土産を見ながらにまにましていると、千尋が声をかけてきた。
「何にやけてんねん。あ〜、さては彼女に土産買って帰ろ〜とか思てんねやろ?」
ぎくっ。
「ま、まぁな。なぁ千尋、女の子って京都土産何がいいかな?」
赤くなってるだろうと思われる顔でぼそぼそ聞いた俺に、千尋がにっと笑みを浮かべた。
「それやったら、ええのんあるで。あとで寄ったるわ。“よーじや”言うてな、舞妓も御用達の店や。京都旅行来た女の子は、みんな買って行きよる。」
「へぇ、そうなんだ?じゃあ、そこで買おうかな。」
お嬢様、気に入ってくれるといいな。
へへへっとひとりにやけ笑う俺を見遣り、千尋が穏やかに笑っていた。
その後、必要な土産を全て買ってご機嫌な涼太と、同じく必要な菓子と土産を買い・・・尚且つ千尋に連れて行ってもらった店でお嬢様用のお土産を買ってにこにこの俺は、意気揚々と新幹線のホームへと向かった――。
「久しぶりに、楽しいクリスマスやったわ。ほな、気ぃつけて帰ってや。来年明けたら俺も暇出来るよって、今度は俺がそっち遊びに行くわ。」
新幹線のホームで笑顔で言った千尋。
「あぁ。俺も久しぶりにゆっくり出来たよ。じゃあ、来年は千尋が遊びに来てくれるのを待ってる。な?涼太。」
「おぅ!待ってるよ、千尋。俺も今回の旅行で京料理堪能したし、すっげえ満足満足♪」
俺に続けるようににへにへと言った涼太は、千尋にピッとVサインをした。
「はははっ、そら結構や。ほな、来年入ったら、都合つけてはよ行くわ。あっ、そろそろ新幹線出るんちゃうか?はよ乗った方がええで。」
時計を見て急かした千尋に、俺と涼太は新幹線に乗り込んで、扉が閉まるまで千尋に手を振った。
その後間も無くドアが閉まり、発車した新幹線。
切符を見ながら座席へ向かった俺と涼太は、早速荷物を降ろし座席に腰を下ろした。
「はぁ〜、重かったぁ〜。男ばっかのクリスマスも、案外悪くなかったな、拓海。」
座席に座るなり、欠伸をしながら俺の肩を叩いて言った涼太。
「そうだな。」
同じように欠伸をし、しみじみ返して何気なくケータイを取り出すと、メールが一件届いていた。
来ていたのは、お嬢様からのメール。
『早瀬は、今頃帰りの飛行機か新幹線の中?』
はははっ。もうメル友は始まってるのか。
それにしてもお嬢様、余程暇なのかなぁ。こんなメール送って来て。あっ、返事返さなくちゃ。また怒られる。
え〜っと、『今、新幹線に乗りました。』あとは、新幹線の絵を添えて・・・っと。送信。
ピッと送信ボタンを押したところで、涼太が話しかけてきた。
「俺、ちょっと寝る。着いたら起こしておくれ、ハニー。」
むっ。
「誰がハニーじゃ!」
「んじゃ、おやすみハニー。」
完璧俺の言葉を無視してスヤスヤと眠りに落ちた涼太。
無視かよ。ま、いいか。俺もちょっと寝ようっと。疲れた。
ケータイをポケットに仕舞って寝ようとした矢先、再びメールが届いた。送り主は、お嬢様。
相変わらず返事早いな、お嬢様。
『何時ごろ来れそう?早瀬。』
『さぁ、8時までには伺えるかと・・・』
大よその時間を書いて送ると、数分後送られてきた返事には『じゃあ、クリスマスケーキと紅茶用意して待ってるね。』と書かれていた。
どうしたんだ?お嬢様。妙に優しいぞ。何かいいことでもあったのかな?それとも、何かとんでもない仕事を言いつけるためのゴマすりか?
むぅ〜〜。
『ありがとうございます。では、なるべく早く伺えるよう急ぎます。それでは、早瀬は疲れたので少し休ませていただきます。おやすみなさいませ、お嬢様。』
凄まじい睡魔に耐えられなくなり、お嬢様にメール打ち切りのメッセージを送ると、またもや送られてきた返事。そこには『おやすみ、早瀬』と言う文字とともに、唇の絵とハートマークがついていた。
ぶはっ!お、お嬢様・・・。これって、これってもしや『おやすみのちゅ〜』ってことですか!?
何て大胆な。
でも、おやすみの“ちゅ〜”。おやすみの・・・。へへ・・・へへへへっ。うへへへへ♪
ダメだ、嬉しすぎて笑いが止まらねえ。それどころか、睡魔も吹っ飛んじまった。
はぁ〜〜、でも、お嬢様からの“おやすみのちゅ〜”かぁ〜。して欲しいなぁ。
『拓海くん、おやすみのちゅ〜してあげるね♪』
な〜んて、ほっぺに“ちゅっ”ってしてくれたら、最高に幸せだよなぁ。いや、どうせするなら、やっぱ口がいいかなぁ。口かぁ〜・・・。へへ・・・へへへへっ・・・ぬへへへ♪
いかん、また俺の妄想癖が。んぎゃっ、鼻血が出た!うぅ〜〜。
慌ててハンカチを取り出し鼻を押さえてもう一度ケータイを見遣ると、やっぱりそこには『おやすみ、早瀬』の後に唇の絵とハートマーク。
へへっ・・・うけけけ・・・にひゃひゃひゃひゃ。ダメだ、俺、今絶対変体だぞ。
でもいいんだ♪だって、だって、たとえメールでもお嬢様に『おやすみの“ちゅ〜”』してもらったんだもん♪
あぁ〜〜〜、早瀬 拓海、今、死にそうなくらい最高に幸せすぎですぅ!
おし、このメールは、早速永久保存だぁ〜〜〜。
メル友・・・ちょっといいかも♪
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