7代目はお嬢様に恋をする。(47/77)PDFで表示縦書き表示RDF


7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【47話】 不安的中!?


 週末。土曜日・・・朝。
 今日は、俺はバーベキュー。涼太は蓮とデートの日。

 スーツに着がえてからリビングのソファで朝食のトーストをかじっていると、隣に座る涼太が声をかけてきた。
「なぁ拓海、何で最近ケータイ開いて寝ないんだよ??」
 えっ。
「阿呆。そんなもん、開きっぱなしで寝る訳ねえだろ。あれはたまたまだ。お前にだけは絶対見せねえ。」
 俺のお嬢様を見られてたまるか。
 ツンと顔を背けてトーストにかぶりつくと、涼太がくすくす笑い出した。
「何かそれって、俺がその子に惚れるみたいな言い方じゃん。俺に同じ子好きになられたら困るんだぁ〜?拓海は。」
 ぎくっ。
「べ、別に、そういうつもりで言ってんじゃねえよ。」
 痛いところをさされぼそぼそと返しコーヒーをすすると、涼太は『図星だろ〜。』とおかしそうに笑っていた。
 うぅ〜〜。
「そんなことより、着がえなくていいのかよ?もう10時だぞ?待ち合わせ11時だろ?」
 時計をちら見してから話をすり替えると、『わっ!いけねえ、忘れてた。』と慌てて朝食をたいらげた涼太。
 やれやれ。忘れるなよ。
「あ、そうだ、涼太。大丈夫だとは思うけど、念の為・・・。『襲われそうになったら“さり気なく”回避すること!』。いいな?“さり気なく”だぞ??」
 襲われて『男』なのがバレても困るが、露骨に嫌がってそこから怪しまれるのも困りものだからな。
 言い聞かす意味で念押しする俺に、『分かってるって〜♪』と涼太は笑顔でVサインを向けた。
 ほんとに分かってんのか?こいつは。
「分かってるならいい。」
「おぅ!さて、じゃあ俺はそろそろお着替えタイム〜♪あっと、ところで拓海は、今日って何処か行くんだっけ?」
 食べ終えた食器を手に持ちソファを立った涼太が、不思議そうに尋ねかけた。
「ん?あぁ、仕事だ。お前を駅まで送ってその足で向かう。」
「仕事〜〜???土曜だぞ??今日。また仕事行くのか?ご苦労な男だな。ま、頑張ってくれよ。じゃ、俺っちは着がえてくる〜。」
 俺の言葉に呆れた顔で納得した涼太は、いそいそとキッチンに食器を置いて、寝室へ着替えに駆けて行ってしまった。
 ふぅ〜・・・。ほんとに大丈夫かな、今日のデート。
 何か妙に不安だぞ。
  
 30分程して着替え終わった涼太がリビングに戻って来るなり、俺に嬉しそうな顔で声をかけた。
「なぁなぁ拓海ぃ〜、これどう?可愛いっしょ??」
 前回とは違ういでたちで登場した涼太は、ご機嫌にクルクル回ってファッションショーをして見せる。
「はいはい。今日の愛里もすごく可愛いです。」
 こいつ、これが趣味にならなきゃいいけど・・・。
 はははっ。
「にへへへ〜♪」
 褒められて超ご機嫌な涼太は、俺の首に両手を回して抱きついた。
 ぎゃっ。
「な、何すんだよ。女装でくっつくな、阿呆。」
 そんな格好でいきなり抱きつくんじゃねえ。ドキドキするだろうが。
 一生懸命涼太を剥がそうとするのに、ぎゅっと掴まれて剥がれない。
 くそっ。
「キスしたくなるぅ??拓海く〜ん。」
 うるうるの瞳で聞く涼太に一瞬ドキッとしたものの、即座にそれを振り払い口を開いた。
「阿呆!!なる訳ねえだろ!気持ち悪い。お前とキスするより、俺は本命と飽きるほどキスがしたい!!分かったら離れろ!」
 無理矢理涼太の身体を突き放すと、涼太は寂しそうな瞳でちらりと俺を見やった。
 な、何だよ。
「うぅ〜〜〜、つれない。こんなにダーリンを愛してるのに〜。ダーリンってば、ひとつもあたしとキスしてくれないし、抱いてくれない。」
 むっ。ぶちっ。
 こっちを見ながら、わざともじもじして呟いてみせる涼太に線の切れた俺は、にんまりの悪魔笑いで拳をバキバキ鳴らした。
「ほぉ〜〜、そんなに俺を愛してくれてるのかい?涼太くんは。じゃあ、思う存分、この拳で愛情表現してあげようかなぁ・・・。さぁ、おいで、俺の愛しのマイハニー♪これ以上無いってくらい愛してあげようじゃないか。」
 ぎろっと睨みつけて笑顔で言葉を吐き捨てた瞬間、涼太がひくっと頬を引きつらせ後退りした。 
「えっ、い、いや、そんな愛情表現は・・・。ひぃぃ〜〜〜冗談です〜〜もう言わないから勘弁してくださいぃ〜〜〜。」
 引きつった顔で言い返した涼太は、俺から脱兎の如く逃げてソファの後ろに隠れた。
 逃げるなら最初から言うなよ。ったく。
「ほんとだな?今度言ったらぶっ飛ばすぞ。」
「言わない、言わない。約束する。だって俺も本命いるもん。」
 ソファの後ろからちろっと顔を覗かせこくこく頷き言う涼太。
 え・・・?
 本命・・・?
 涼太の思いがけない衝撃告白に、俺の怒りの炎はシュンと鎮火してしまった。

「え・・・、お前・・・、本命が出来たのか?」
 目をしばたかす俺に涼太は、にかっと笑い『おぅ。』と答えた。
「へぇ。そっか。良かったな。」
 一変、にっこり笑って言った俺に、涼太は拍子抜けしたような顔をした。
「何だ?それだけ?どんな女か聞かないのか?てっきり問いただされるかと思った。」 
「はははっ、別に。聞かねえよ。そういうのって、聞かれたくないだろうし。事実、俺もそうだからさ。けど、良かったな、ほんとに。うまくいくといいな。」 
 う〜ん、これで、こいつがお嬢様を好きになることもないし、俺のケータイに映ってるお嬢様のことも気にしなくなるだろう。
 俺としては安泰だぁ〜。うんうん。
 はぁ〜〜〜、何てめでたい!
 今夜は、赤飯だ!帰りに小豆買ってこよ〜っと。
「お生憎さま。うまくいかないと思うぜ。俺の恋は。」
 ひとりご機嫌な俺をよそに、ふっと薄く笑いあっさり言い切った涼太は、ソファの後ろから出て来てポフッと座った。
 へ?
 うまくいかない恋?
「何でだよ?」
 ふと気になって尋ねた俺に涼太は答えること無く、『さて、そろそろデートに行かなくっちゃ〜。送っておくれ〜。』と話を逸らした。
「あ・・・うん。じゃ、行くか。」
 言いたくなさそうな涼太にそれ以上突っ込むことを止め、俺は涼太を連れてマンションを後にした。
 こいつも、俺や悠斗と同じでうまくいかない恋をしてるのか・・・。
 どんな恋・・・なのかな。
  
 
 涼太を乗せて駅前に到着すると、待ち合わせ場所から少し離れた場所で車を止めた。
「ここから歩いて行け。蓮に見つかるとやばい。」
「あいよ。じゃ、行って来る。何かあれば連絡するよ。」
 俺の言葉に笑顔で応じて車を降りようとした涼太の腕を、咄嗟にがしっと掴んだ。
「待て涼太、お前は電話して来るな。俺から時々連絡を入れる。デート中にやたら電話してたら、返って怪しまれるからな。」
「了解。ハニーからの愛のお電話待ってま〜す。じゃ、行って来ます〜。」
 俺の手を離して車のドアを閉め、ひらひらと笑顔で手を振った涼太は、軽やかな足取りで待ち合わせ場所へと歩いて行った。
 誰がハニーじゃ。ったく。やっぱり、帰って来たら殴ってやる。
 しばらく涼太を目で追い、待ち合わせ場所と思われる場所で蓮と合流したのを確認してから、俺はそっと車を沢村の屋敷に向けて走らせた。


 沢村の屋敷に着いたのは、11時30分ジャスト。
「ふぅ〜、ギリギリ間に合ったぜ。」
 早速車を使用人駐車場に止めると、今日もまたダッシュで玄関前まで走った。
 いいリハビリ・・・だよな、これ。
 はははっ。
 玄関前に辿りついたのと同じくして、目の前に横付けされた一台の高級車。
 ん?
 目をしばたかせて見ていると、降り立ったのは桜さんだった。
 何だ、桜さんか。あのクソガキかと思った。
「あ、こんにちは、早瀬さん。お久しぶりです。」
 車を降りて俺を見た桜さんが、ぺこっと頭を下げて挨拶をした。
 う〜ん、いつもながらよく出来た子だ。お嬢様よりお嬢様らしい・・・なんて、お嬢様に言ったら殺されそうだな。
 黙っておこう。
「はい、こちらこそご無沙汰しております。桜さんもお元気そうで何よりです。」
 答え返して頭を下げる俺に、『今日っていいお天気で良かったですよね。』と桜さんは笑顔で言った。
「ええ、そうですね。絶好のバーベキュー日和ですね。あ・・・っと、お嬢様と悠斗様をお呼びするのでお待ち下さい。」
 つい長話をしそうになったのを中断し、お嬢様を呼ぶべく呼び鈴を鳴らすと、間も無く出て来たのはお嬢様。

「あ、早瀬〜。桜も一緒だったんだ?待ってたんだよ〜。さぁ、入って。屋敷の裏へ行くのは、中を突っ切って行った方が早いから。」
 屋敷の中へ入るよう促すお嬢様に応じて足を踏み入れると、『こっちこっち』と彼女は前をてくてく歩き出した。
「あ、待って下さい、お嬢様。」
 慌てて桜さんとついて行きながら、周りをきょろきょろと見渡した。
 う〜〜ん、未だに謎の多い屋敷だ。
 ここの中はいったいどうなってるんだろう。って、ここに住むことなんて一生無いだろうし、俺には関係ないけど。
 だいぶ歩いてある扉の前で立ち止まったお嬢様。
「ここ開けると到着だよ。」
 そう言って彼女がドアを開けた瞬間・・・そこに拡がっていたのは、これが人工の川なのか??と思うほどによく出来た自然の風景。
 すげえ。財閥ってのは、いらんところで金をかけるんだ・・・。
 むぅ〜・・・。
 そりゃ、蓮みたいな奴にターゲットにされるはずだぜ。
 金有り余ってんじゃねえのか、この家。
 
「きゃ〜すごい!月華んちの裏に来たの初めて〜♪」
 テンション上がりまくりの桜さんが、嬉しそうに川原へと駆けて行った。
 はははっ、やっぱ普通の女の子なんだ。桜さんも。可愛い。
「ほんとにすごいですね。このような場所があるなど、存じませんでした。」
 目の前に広がる光景をただ感心しながら眺める俺に、お嬢様がくすくすと笑う。
「そんなに感心しなくても。ほら、早瀬も行こ。お兄ちゃんが先に準備してくれてるの。早瀬も手伝って。」
 俺の手をきゅっと握って引っ張るお嬢様。
 そのまま連れられて川原へ行くと、悠斗がバーベキューの用意をしていた。
「おっ、早瀬やっと来たか。遅いぞ。ほれ、お前も手伝え。」
 俺を見るなり、手伝うように指示した悠斗。
「はい。」
 素直に頷き早速スーツの上着を脱ぐと、袖を巻くり上げ・・・準備にとりかかった。
 
 炭を熾しながらふと人数が少ないことに気付き、辺りを見渡した。
 あれ?あのクソガキいないじゃん??
 何処を見ても、やはり大輝の姿は見当たらない。
 もしかして、やっぱ親に許可されなかったのか??ってことは・・・。
 おお〜〜!今日は俺がお嬢様独り占め〜♪
 『はい、早瀬、あ〜んして。』『はい、お嬢様〜』なんて・・・。シイタケ克服の為の愛の個人レッスンが・・・。にひゃひゃひゃひゃ。
 あぁ、やばすぎるくらい幸せ。
 いかん、嬉しすぎて幸せ度がマックス超えそう。
「何にやけてんだ、お前。」
 準備の手を止め、変な物でも見るかのようにちょっと引き気味で声をかけた悠斗に、我に返って赤面してしまった。
 はうっ。
 俺としたことが、また妄想の世界に浸ってしまった。
「あ、い、いえ、別に。それより悠斗様、あの・・・従弟の方は?大輝くんでしたっけ?今日お越しになるのではないのですか?この間合った際に『参加する!』って意気込んでましたけど。」
 とりあえず来るのか来ないのか知る為に尋ねてみると、悠斗がどうでもよさそうな顔で口を開いた。
「ん?あぁ、あのクソガキか。合ったのか?お前。・・・さぁな、来るって言ってたから来るんじゃねえの??」
 えっ。
 な、何だそのそっけない言い方は。曲がりなりにも、お前の従弟じゃねえのか??
「そ、そうなんですか。じゃあ、ちょっと遅れておられるだけですね、きっと。」
 とりあえず作り笑顔で返しておくと、悠斗が意地悪な細い視線で俺を見て口を開いた。
「そんな心にも無いこと言っちゃって〜。いいのか〜?あのクソガキが来ても。あいつに合ったなら知ってるだろ?奴が来たら間違いなくお前は月華に近づけないぞ〜?早瀬くんはそれでもいいのかなぁ〜?」
 うっ。
 そ、それは・・・。
「べ、別に私は、お嬢様の傍にいるために今日のバーベキューに参加した訳では無いので。大輝くんがお嬢様と仲良くされるのは構わないかと・・・。」
 うぐぐぐ、意地悪悠斗め。
 込み上げる怒りの科白をごくっと飲み込んで笑顔で言い返すと、悠斗が堪えきれずに吹き出した。
「あははは。お前、おもしろすぎ〜〜。科白と表情が矛盾してるぞ。目じりピクピク引きつってるって。ひゃははは。笑える〜〜」
 うぐっ。
 言葉に詰まって無言で炭をいじっている俺の傍に来た悠斗が、俺の肩をポンポンと軽く叩いた。
「ま、今日はビールでも飲んで、男同士で話しでもしようじゃん。お前に聞きたいこともあるからな。」
 えっ?聞きたいこと?
 ・・・あぁ、蓮のことか。
「ええ。でも、ビールはご遠慮します。一応仕事中ですので。」
 ビールを断った俺に『今日は仕事じゃないから遠慮するな。』と笑顔で言った悠斗は、ご機嫌に準備の続きを始めた。


 すべての準備が整い終えたのと同じ頃、来て欲しくなかったもう一人の参加者が登場した。
「月華〜、遅くなった。ごめん。」
 お嬢様の名を呼んで駆けて来たのは、言わずと知れた大輝・・・(クソガキ)。
「大輝、遅いよ。もっと早く来てお兄ちゃんたち手伝ってあげて欲しかったのに。」
 ちょっぴりむすっと膨れたお嬢様は、大輝に文句を言った。
「ごめん、月華。でも男二人で十分だと思ってさ。」
 あっさりさらっと言いのけた大輝は、お嬢様の両手を掴んで優しくにっこり微笑んだ。
 あのクソガキ〜〜〜。何が『男二人で十分だと思ってさ』だ。
 ふざけんな!ムカつく。
 拳を握ってわなわなと怒りに燃える俺の横をスッと通り過ぎて行った悠斗が、いきなりべしっと大輝の頭を思いっきりしばいた。
 うはっ。
「ばかたれ!!お前も参加するって言ったんなら、集合時間はきっちり守れ!それに、お前男だろ!後からノコノコ来ておいて、食うだけ食って月華にベタベタして帰るなんざ、俺が許さん!!働かざる者食うべからず!!お前は、バーベキューの参加資格無しだ!指咥えて見てろ。」
 冷たく言い放ってお嬢様の手を掴んだ悠斗は、彼女と傍にいた桜さんだけを連れて俺のもとへ戻って来た。
 悠斗すげえ。
 言ってることは間違ってないけど・・・でも、あれはちょっとばっかし言いすぎじゃ・・・。
 ちろっと大輝を見やると、案の定膨れっ面。
 はははっ。だよな。
「お兄ちゃん、あんなこと言っちゃ大輝が可哀想だよ。一緒に仲良くバーベキューしようよ。」
 大輝を見てから悠斗の手を引っ張って訴えるお嬢様。
「やかましい。だったら、後片付けを一人でやるってんなら食わせてやる。」
 うはっ。ひ、ひとりで・・・って。
 きつい。
 大輝をぎろっと睨みつけて言った悠斗に、すっかりすくんでしまった大輝。
 う〜ん、あいつが悠斗嫌いなのが分かる気がする。
 けど、たぶんその原因作ってんのは、恐らくあのクソガキなんだろうな。
 うんうん。
「もう、お兄ちゃんてばそんなに大輝いじめないでよ。・・・ほら、大輝、一緒に食べよ。ね?」
 悠斗の手を離してクソガキのもとへ駆けて行ったお嬢様は、彼の手をきゅっと掴んで優しく笑顔を向けた。
 するとクソガキは、『月華ってやっぱり優しい。』と微笑み返し彼女をぎゅっと抱きしめていた。
 うがぁ〜〜〜〜!!あいつ〜〜〜〜、俺のお嬢様にベタベタしやがって!
 やっぱり許せん!!
 キーッ!!
「もう、大輝。やめてよ。」
 ぐっと突き放したお嬢様に、大輝は嫌な顔ひとつせずにこにこ笑顔満開。
 むぅ〜〜。お嬢様があんな風に優しくするから、あいつが余計にお嬢様のこと好きになるんだ、絶対。
 間違いない。
 あぁ〜〜〜〜、お嬢様ってば、前にも言ってあげたのに。その気が無いのに優しくすると、相手が勘違いするって。
 うぅっ。お嬢様のバカ。学習能力ゼロなんだから。
 しくしく。
「ったく、勝手にしろ。バーベキュー始めるぞ。」
 呆れがちな口調で吐き捨てた悠斗は、さっそくシェフたちが運んできた肉や野菜を網で焼き始めた。
 結局、準備に時間がかかったせいで、時計を見やると既に12時45分。
 こうして、ようやく俺達の遅い昼ご飯が始まった。


 バーベキューが始まって間も無く、悠斗が俺に缶ビールを手渡した。
「ほれ。飲め。バーベキューにお茶じゃ美味くないだろ。」
「はぁ、ですが・・・。」
「いいから。俺が許可する。」
 にっと笑う悠斗に『では・・・』と応じ、ぷしゅっと開けて一口喉に流し込んだ。
 ひゃ〜、うまい。
「ところで、例の自称俳優野郎のことだけどさ、どうなった?」
 同じくビールをごくっと飲んで質問を投げかけた悠斗。
「ゆ、悠斗様、ダメですよ。お嬢様が傍にいらっしゃるのに。」
 こんなとこで話したらお嬢様にバレるじゃねえか。
 声を潜めて悠斗に突っ込むと、彼はそっと顎でお嬢様たちを指した。
「大丈夫だ。あいつらなら、楽しそうに食ってる。俺らの話しなんぞ聞いてないさ。ほれ。」
 悠斗に言われてちらりと視線を移すと、そこには大輝と桜さんと一緒に楽しそうに料理を食べ、こっちをまったく気にする様子の無いお嬢様の姿。
 ふぅ・・・確かに。
「そのようですね。じゃあ、話しますが、あの日悠斗様にお願いを申し上げた日から既に計画は実行しております。今日、今現在も計画真っ最中です。内容までは詳しくお話出来ませんが。っと、ちょっと電話をしてもよろしいですか?その件で・・・。」
 忘れてた。そろそろ涼太に電話入れないと。
 思い出して言うと、悠斗は『あぁ。』と頷きビールを飲んだ。
「すみません。ではちょっと失礼して・・・」
 ごそごそとケータイを取り出し、さっそく涼太へ電話を入れた。

「もしもし、俺だ。どうだ?そっちの守備は?」
―「あ、ハニー。お電話遅いぞ。今、ちょうど昼飯食い終わったとこだよ。急遽デートプラン変更になってさ。映画いっぱいらしくて、この後、海辺へドライブになった。たぶん間で、パレットタウン寄ると思うけど。」―
 電話の向こうでは、変更になったデートプランを報告する涼太。
 この後、海へドライブ?
「そうか。で、何か要求してきたか?」
―「それがさ、何も。っつーか、逆なんだよ。昼飯の前にちょっとふらふらしたんだけどさ、俺が『これ可愛い〜』とか『これ似合う〜?』なんて言ったら、全部買ってくれるんだよ、これが。やばすぎだぞ。俺ってば、貞操の危機!?」―
 ちょっと不安そうに言う涼太に、俺はひとつ息を吐いた。
 やっぱ、マジ惚れなのかな、蓮の奴。
「演技じゃないのか?」
―「いや、俺も最初そう思って疑ってじーっと見てたんだけど、どうもありゃマジだぞ。けど、買ってくれるって言っても、あの金ってもとは他の女から巻き上げた金だろ?買って貰う訳にいかねえじゃん。だから断ってるんだけど、あいつ引かないんだよ。ハニー、どうしよう。」―
 とてつもなく困り果てた様子の涼太の声に、しばし考え込んだ。
 どうしようって・・・言われてもなぁ。
「とにかく、くれるってんなら貰っておけ。あと、初デートで犯されるとは思えん。たぶん何かあるとすれば、『付き合ってくれ』とでも言う気だろう。もしそうならOKしろ。その先のことは俺がまた計画を練り直す。」
 まずは、付き合うところまで持っていかねば。
―「おぅ、了解。じゃ、また。」―
「あぁ。また俺からかける。」
 電話を切って一息つくと、話を聞いていた悠斗が俺をじっと見やっていた。

「早瀬、お前、女使ってあの野郎を落とす気か?」
 ぼそっと小声で尋ねる悠斗ににっこり笑顔で頷くと、彼は『落として、その先何をしようとしてる?』と更に突っ込んだ。
「いえ、別に。ただ、奴に本物の地獄ってのをちょっとばっかし見せてやるだけです。その為の計画ですよ。」
 蓮の目を覚まさせる為に、あいつを務所行きにさせない為に、友達一号としての俺からの愛の鞭だ。
 ふふっと冷めた笑いをしてビールをこくっと飲んだ俺を見て、悠斗が頬を微かに引きつらせた。
「“本物の地獄”・・・?何企んでるんだ、早瀬。」
「いえ、何も。悠斗様のお手は煩わせませんのでご安心を。」
「そういうこと言ってるんじゃない。何かやばいこと企んでるんじゃないだろうな?お前。」
 俺の腕をぐっと掴んだ悠斗が声を落として詰問した。
「うわっ、急に掴まないでくださいよ。ビール零れるじゃないですか。それに、そんなやばいことなんてしませんよ。ちょっとした可愛い悪戯ですよ。悪戯・・・。」
 にへにへと笑みを浮かべて悠斗の手を離すと、再びがしっと掴まれた。
 わっ。
「嘘つけ。俺には分かる。今のお前の目は、あの宮野って言うクソガキから証拠を掴むって言った時と同じ目だ。いや、それ以上に冷めた目だ。絶対何かやばいこと企んでるだろ。」 
「イヤですね悠斗様。変なこと仰って。さぁ、お腹も減りましたから、おいしいお料理をいただきましょう。」
 問いただす悠斗から話しを逸らし、網の上に乗ってる肉に箸を伸ばしたところで、お嬢様が俺の傍へやって来た。
 ん?

「早瀬はそれじゃなくて、これ食べるの。はい。」
 来るなり、おいしそうに焼けたハンバーグを俺の皿の中にちょんと入れたお嬢様。
 ハンバーグ?
「え?こ、これですか?」
 俺は、ハンバーグよりあのステーキみたいなお肉が食いたい。
「うん。それ。うちのシェフが作ったハンバーグ、すっごくおいしいんだから。ね?早瀬も食べて。」
 隣りでにこにこ言うお嬢様に断る訳にもいかず、『はぁ、では。』とだけ答えがぶっとかぶりついた瞬間・・・、ほんのりとシイタケの香りが口の中に拡がった。
 ぎゃっ!!
「おえーっ。げほっげほっ・・・。お、お嬢様、これって・・・シイタケが入ってるじゃないですか。」
 慌ててビールで流し込んだ俺を見て、『うそ!あんなにちっちゃく刻んでもらったのに。何で分かったの?』と不思議そうにお嬢様が聞いた。
 何でって・・・。
「嫌いな物は、どんなに小さくても入ってると分かります。」
 はぁ〜・・・。口の中がシイタケの味がする。うぅ〜〜〜。
「そっかぁ。私もピーマンの時そうだったもんなぁ〜・・・。でも、頑張らないと食べれるようにならないよ?早瀬。ちょっとだけ頑張ろ。約束したでしょ?ね?」
 まるで子供に言い聞かすように優しく言う彼女に、つい負けてしまった俺。
 お嬢様、可愛すぎ。
 そうだ、今日ってシイタケ克服の愛の個人レッスンだったんだ。
 頑張らねば。
「が、頑張ります・・・。」
 目をつぶって息を止めてがぶっとハンバーグにかぶりついた俺は、適当に噛んでビールで流し込む・・・を数回繰り返した。
 はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くそっ、『愛の』どころか、『地獄』の個人レッスンだ。
 口の中がシイタケの味ばっかりする。最悪だ。死にそう。
「早瀬すごい!食べれたじゃない。じゃあ、次は〜、ロールキャベツね。はい、早瀬。」
 何とかシイタケ入りハンバーグを完食した俺の皿に、次の強敵を入れたお嬢様。
 うおっ。どこからロールキャベツが出て来たんだ。
 バーベキューにロールキャベツは有り得ないだろ。
 頬を引きつらせてちらっと視線を移すと、ワゴンが用意され・・・その上には、まだまだいっぱいの料理たち。
 まさか・・・。あれ全部シイタケ入ってるのか!?
「さ、早瀬、これはもっとちっちゃく刻んでもらったから大丈夫だよ。食べて。」
 にこにこ笑顔で言うお嬢様の顔が、鬼に見える。
 怖い。
「は、はい・・・。」
 逆らえずに、またもや息を止めてがぶっとかぶりついたところまでは良かったが、キャベツが噛み切れない。
 ぎゃ〜〜〜〜。嘘だろ!何で切れないんだよ!ふざけんじゃねえ、こんなの一口で食えるか!
 何とか噛み切ろうと必死に格闘しているうちに、とうとう止めていた息の限界が来た。
 ダ、ダメだ、これ以上は止めてられない。ついに堪えきれず息をした瞬間、シイタケ独特の臭いが鼻の中に侵入してきた。
 ぎえぇ〜〜〜〜!!!!
 し、死ぬぅ〜〜〜〜。
 何とかキャベツを噛み切って鵜呑みした俺は、涙目でがばがばとビールを喉に流し込んだ。
 はぁ・・・はぁ・・・・。死ぬかと思った。
 くそっ、ロールキャベツめ・・・。
「早瀬大丈夫?あと半分だけど、食べれる?辛いならもう無理しなくてもいいよ。」
 心配そうな瞳で俺の手を掴んで言うお嬢様に『いえ、頑張ります。』と涙目な笑顔を向け、残りのロールキャベツを口の中に放り込んで鵜呑みしようとした次の瞬間・・・、ものすごい吐き気が一気に俺を襲った。
 まずい、出る。
 サーッと青ざめた俺を見たお嬢様と悠斗が、声をかけた。
「きゃっ、早瀬、大丈夫!?」
「おい、お前死にそうな顔してるぞ。大丈夫か!?」
 心配げな二人に返事を返そうにも、口の中のロールキャベツが阻んで喋ることさえ出来ない。
 ぐぞ〜〜〜。
 悠斗の手に掴まれていた缶ビールを奪い取ると、それで一気に口の中の敵を葬り去った。
 ダメだ、やっぱ吐きそう。
 死ぬ。
「すみません・・・。ちょっと休憩してきます。」
 ふらふらと立ち上がった俺に『何処行くの?』と聞くお嬢様。
「気分転換にその辺をふらふらと・・・」
「あ、じゃあ私もい・・・」
「月華、野菜と肉焼けたよ。一緒に食おう〜。」
 お嬢様が言いかけたのを遮って彼女のもとへ来た大輝が、手を掴み笑顔で言った。
「あ、うん、でも・・・」
「気分転換なら一人で行かせろよ。月華が一緒に行くことないって。だから、一緒に食お〜よ、月華。」
 強引に自分の横にお嬢様を座らせてにこにこする大輝に、彼女は心配気な瞳で俺を見つめていた。
 くそっ、今はこいつを睨みつける元気も出ない。
「お嬢様はごゆっくりお食べになっててください。私は、少しひとりで散歩に行って来ます。」
 死にそうな声でそれだけ言い置いた俺は、そのままふらふらとバーベキュー会場を後にした。
 うぅ〜〜、気分悪い。
 吐くぅ〜〜〜。

 屋敷を突っ切り、玄関から出て真っ直ぐ向かったのは運転手待機室。
 部屋に入るなり冷蔵庫を開けてお茶を取り出すと、それをアホほどがぶ飲みした。
「ぷはー。げぷっ。ちょっと生き返った。」
 俺ってば、お嬢様に『気合い入れて参ります』なんて言ったくせに、シイタケに大負けてしまった。
 うぅっ、情けねえ。
 でも、強敵すぎだぞ、シイタケ・・・。
 口の中をお茶で濯いでから待機室を出てトボトボと向かった先は、あの裏庭奥の大木。

「はぁ〜・・・。」
 根元に座り込んで木にもたれかかると、この間のように風が葉を揺らし音をたてていた。
 う〜ん、やっぱ癒しスポットだな、ここ。
 風が気持ちいい〜。
 今頃涼太、ドライブ中かな。大丈夫だろうか?
 まぁ、今日はそれほど心配は無いと思うが、次回・次々回が危険だな。
 マジ惚れなら必ず何かアクションを起こしてくるはず。

 どのくらい時間が経ったのか、ただ空をぼーっと眺めていると、ふいにかさかさと足音が聞こえた。
 誰だ?
 視線を落として足音の方へ向けると、歩いて来たのは悠斗。
 悠斗?
「みっけ。ほれ。お前シイタケ料理以外何も食ってねえだろ。とりあえず、ちょこっと持って来てやったぞ。」
 適当にうまそうな料理を乗せた皿とビールを俺に手渡した悠斗は、隣りに腰を下ろして自分のビールをぷしゅっと開けて飲み出した。
「あ、ありがとうございます。でもどうしてここにいると?」
 ここは俺とお嬢様しか知らないはずなのに。
「ん?あぁ、月華から聞いた。たぶんここだろう・・・って。あいつは大輝にくっつかれて身動き出来ないみたいだったし、代わりに俺が見に来たって訳。」
 あっさり答えてうまそうにビールを飲む悠斗に、思わず『なるほど』と苦笑してしまった。
 やっぱ身動き出来ないのか、お嬢様。
 あのクソガキめ〜〜〜、俺のお嬢様にずっとベタベタしやがって。
 許せん。
「けど、お前って、死ぬほどシイタケ嫌いなんだな?」
 うっ。
 思い出したように言った悠斗に、『ええ、まぁ。』と小さく答えると、『実は俺も嫌いなんだよね、シイタケ。』と小声で返された。
 え?
「悠斗様もですか?」
 意外だ。こいつって嫌いな物無いイメージがあるのに。
「あぁ、さっきお前の傍にいるだけで死にそうだったぞ。あのシイタケ臭で。」
 はははっと苦笑いをした悠斗は、美味そうにごくごくとビールを飲んだ。
 へぇ、悠斗もシイタケ嫌いだったのか。全然分からなかったぞ。
 人は見かけによらないもんだ。

「それはそうと早瀬、さっき中断した話の続き・・・してもいいか?」
 え?あ・・・。
「ええ。」
 再び蓮の話を持ち出した悠斗に頷くと、早速彼は続きを始めた。
「お前が今やってる計画って何だ?」
「計画ですか?一言で言うなら、蓮にお仕置きってところでしょうかね。」
 愛の鞭とも言うが。
「お仕置き??」
 さっぱり分からない悠斗は、目を丸くして俺を見た。
 はははっ。そんな目を真ん丸にせんでも。
「ほんとに詳しいことは話せないんです。すみません。ですが、決してやばいことをするつもりはありません。悠斗様にご迷惑をおかけすることも無いので、ご安心下さい。」
 にっと笑みを向けて言葉を吐くと、悠斗は『まぁ、それならいいが。』とそれ以上詮索することをやめた。
「大丈夫です。最後には、きちんと悠斗様にご報告しますので。」
 安心させるためにもう一言付け加えてから、皿に乗ってるステーキのような分厚い肉をぱくっと口に放り込むと、じゅわっと出る肉汁が口の中のシイタケ臭さを一掃した。
「ん〜〜、うまい〜。何て柔らかい肉なんだぁ。口の中のシイタケがいなくなった〜。」
 にへにへしつつ料理にかぶりつく俺を見ていた悠斗が、おかしそうにくすくす笑っていた。
「なぁ、早瀬。」
「はい、なんれひょう?」
 もしゃもしゃ食いながら悠斗へ視線を移すと、彼は『いや、やっぱりいい。何でもない。』と言葉を切り、口を閉ざした。
 ん?何だ?
「それより悠斗様って、あのクソガキ・・・もとい、大輝くんのことはお嫌いなのですか?」
 話題を変えて振ると、悠斗はビールをこくっと一口飲んでから口を開いた。
「まぁな〜。俺の大事な妹にベタベタする奴は好かん。それだけだ。」
 あっさりきっぱりズバッと答えた悠斗に、思わず苦笑しか出なかった。
 はははっ。大輝に負けてないぞ。こっちはこっちで、すげえ妹バカっぷり。
「悠斗様って、ほんとにお嬢様が好きなんですね。」
 くすくす笑いつつ突っ込む俺に、悠斗が一気に顔を真っ赤にした。
 ほえ?
「べ、別に俺はただ、兄貴として可愛い可愛い妹を好きなだけだぞ。それだけだからな。」
 あたふたしながら返す悠斗がものすごくおかしくて、笑いが止まらなくなってしまった。
 おっかしい奴。
「あははは、そんなの分かってますよ。」
 っつーか、それ以上の感情あったら怖いだろ。
 ケラケラ笑い飛ばしながら、ふと胸の奥で何かが引っかかった。
 何だ?この変な感じ。
 ちらっと悠斗を見ると、やけに真剣に真っ赤になっている。
 悠斗・・・?
「まさか悠斗様も、大輝くんみたいに本気で妹が好き・・・とか?」
 それとなく探りを入れた瞬間、べしっと頭を叩かれた。
「ぎゃっ!いだい!!何で叩くんですか!?」
 うぅ〜〜いてぇ。思いきり叩きやがった。
 タンコブ出来るじゃねえか。ボケ。
「お前が阿呆な質問するからだ。そんな訳ないだろ。何で俺が本気で妹好きなんだよ。おかしいだろ。」
 ツンと顔を背けて怒る悠斗に、心の奥でほっと安堵した。
 良かった、俺の思い過ごしか。だよな、そんな訳ないよな。
 もしかしたら、悠斗の本命ってお嬢様なのかも・・・なんて。
 う〜ん、俺っておバカさん。
「すみません。冗談です。」
 ふふっとひとり笑ってビールをこくっと喉に流し込んだところで、ケータイが鳴り出した。
 ほえ?
 着信を見ると涼太。
 ん?何かあったのか?
「あ、すみません、悠斗様。ちょっと電話なので・・・」
 一応悠斗に断りを入れてから電話に出ると、いきなり涼太が喋り出した。

―「ハニ〜〜〜〜〜。観覧車の中で告られたぁ〜〜〜〜。」―
 えっ。観覧車?
 遊園地行ってるのか?あぁ、パレットタウンがどうとかって言ってたな。
「で、お前今何処にいるんだよ?」
 こいつ、どこで電話してんだ?
―「トイレ。」―
 ・・・。
 なるほど。女トイレな訳ね。はいはい。
「もしかしてそれだけで電話してきたのか?お前は。」
 呆れがちに聞く俺に、電話の向こうの涼太がエキサイトしていた。
―「それだけじゃないぞ!OKした途端、手は繋がれるわ、肩は抱かれるわで・・・。やっぱり俺の貞操の危機だぁ〜〜〜〜!ハニー以外の男にやられるのはイヤぁ〜〜〜」―
 おい。俺はてめえとやりたくないぞ。
 って言うか、地球に俺と涼太だけになっても、絶対お断りだ。そんなことするくらいなら、死んだ方がマシだ。
「阿呆!その手の冗談はよせって言っただろーが!鳥肌がたつ!!とにかく、今は我慢だ。こうなりゃ、完璧に奴を落とせ。いいな?」
 計画変更だ。
―「えぇ〜〜〜!!そんなぁ、俺が男に犯されてもいいってのかぁ!?ひどい、拓海ぃ!!ちょっとくらい心配しろよな!薄情者ぉ〜〜〜!それでも幼馴染かぁ〜〜〜!!」―
 電話の向こうできゃんきゃん吼えまくる涼太に、思わずケータイを耳から離してしまった。
 うるさすぎだぞ、涼太。
「やかましい!そんなに吼えるな!お前は言われたとおりにやればいいんだ。」
―「うぅ〜〜〜〜、拓海の阿呆〜〜ボケ〜〜カス〜〜ヤクザ〜〜殺し屋〜〜!!バ〜カバ〜カ!!ふんっ。」―
 文句を言うだけ言ってすっきりしたのか、涼太は勝手にぶちっと電話を切ってしまった。
 あいつ〜〜。
 っつーか、何で俺が『殺し屋』なんだ。意味が分からん。
 ケータイを握り締めてわなわな怒りに燃えている俺を見て、悠斗がくすくす笑いながら声をかけた。

「どうかしたのか?えらく素が出てるみたいだけど。」
 えっ。
「あ、ええ、どうも計画変更する必要がありそうです。」
 苦笑まじりに答えビールを飲む俺に『計画変更?』と聞き返した悠斗。
「はい。ちょっとばっかし、友人には犠牲になってもらうことになりそうです。」
「友人?って、お前・・・まさか、あの野郎の相手させてるのって、男かよ??女装した・・・」
 信じられないといった顔で突っ込む悠斗に『ええ、まぁ。』とあっさり返した途端、目を点にされてしまった。
 はははっ、そんな驚かんでも。
「マジかよ。それ、バレてないのか?」
「ええ、完璧ですから。しかし、マジ惚れされたのは予想外でした。計画変更しないと。」
 帰って涼太の話しを聞きながら計画練り直さねば。
「むぅ〜、マジ惚れされたのか・・・。それってどう反応していいか困るぞ。男が男にマジ惚れって・・・」
 苦笑いでう〜んと頭を抱える悠斗を横目に、俺はビールを飲み干してから立ち上がった。
「とにかく、面白くなって来ました。まぁ見てて下さい。最高におもしろくしてみせますよ。・・・さて、それより、そろそろお嬢様たちのところへ戻りましょうか、悠斗様。きっと気にしていらっしゃると思いますから。」
「あ、あぁ、そうだな。」
 頷いて立ち上がった悠斗とともに、ようやく俺達はお嬢様たちのもとへと戻った。
 
 バーベキューに戻った途端、俺を見たお嬢様が駆けて来て抱きついた。
「わっ!お、お嬢様・・・。どうなさったんですか。」
 び、びっくりした、フェイント攻撃はやめてくれ。
 心臓バクバクする。
「早瀬、大丈夫??もしかして吐いちゃった?まだ気分悪い?」
 心配でたまらなさそうな瞳をじっと俺に向け、質問攻撃のお嬢様。
 うっ、可愛すぎる。
「ええ、大丈夫です。戻してもいませんし、もうすっかり復活です。ただ、シイタケは今回はもう勘弁してください。」
 お嬢様を見下ろし苦笑いで告げると、『うん。ごめんね。無理強いして。』と謝ったお嬢様は、俺ににこにこくっついていた。
 う〜〜〜、抱きしめたい。
 でも出来ないのが悔しい。
「あぁ〜〜〜〜〜〜!!!こらぁ、てめえ!!!俺のいない間に、月華にいちゃいちゃくっつくんじゃねえ!!離れろ!!」
 トイレか何処かへ行っていたのか、戻って来た大輝がいきなり俺からお嬢様をぐいっと離し、きゃんきゃん吼えまくった。
「ちょっと大輝!何すんのよ!離してよ!私は、早瀬の心配してるだけなんだから!!」
「イヤだ!!あんな奴とくっついたらダメだ、月華。妊娠でもさせられたらどーすんだよ!」
 えっ。妊娠って・・・。
 おい。俺は『歩く何たら〜』・・・かよ。
 逃れようとするお嬢様を離すまいとぎゅっと抱きしめる大輝は、キーッと俺を睨み・・・いつまでも威嚇していた。
 
 俺が何をしたってんだよ。
 何もしてねえだろうが!!
 う〜〜〜、やっぱこのクソガキは一度絞めてやりたい・・・。
 いや、絞めないと気がすまねえ。


こんばんわ、九条です。
とうとう47話まで来てしまいました。が、まだ先は長そうです^^;
どうか皆様、飽きずにお付き合いください。
よろしくお願いいたします。











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