【45話】 最高にいい女紹介します! 2
店内に足を踏み入れた俺と涼太・・・いや、愛里の視界に入って来たのは、カウンターで俺達を待つ蓮の姿。
「よし、いよいよ戦闘開始だ。ドジ踏むんじゃねえぞ。」
小声で涼太に囁くと、『おぅよ。』と彼は俺にウィンクで答えた。
さぁ、開幕だぜ・・・蓮。
愛里を連れて真っ直ぐカウンターに向かった俺は、蓮に声をかけた。
「蓮、お待たせ。遅くなってすまん。」
「あ、樹。遅・・・」
店員とカウンター越しに何やら話をしていた蓮は、俺の声で振り向き文句を言いかけ固まった。
彼の視線の先には、愛里の姿。そして真っ直ぐ彼女を見つめる蓮の瞳。
まさか、感づかれた?
いや、そんなはずない。圭兄や俺でさえ分からなかった完璧な女装なんだ。
「早くしろって言ったんだけどさ〜。まったく女ってのは、支度が遅くて困るよ。はははっ。」
空気を変える為笑いながら愛里の頭をこつんと叩くと、彼女は察知したように申し訳無さそうな瞳で蓮を見つめ口を開いた。
「すみません。私のせいで遅れてしまって・・・」
小さく発せられたその声は、まさに女の子そのもの。
う〜ん、声まで変えるとは。恐るべし涼太!
「えっ、あ、ううん、たかが10分だし。遅れたうちに入らないよ。それより、ここじゃなんだし、テーブル席に移動しようか。」
我に返り慌てて言い返した蓮は、顔を真っ赤にしながらカウンター席を立った。
ふぅ、どうやら気付いてないみたいだ。
「あぁ、そうだな。」
素直に応じた俺は、愛里を連れ・・・蓮と共に店の一番奥にあるテーブル席へと移動した。
「お客様、ドリンクは何になさいますか?」
俺達の移動後に、グラスに入った水を持って注文を聞きに来た店員の男は、うっとりと愛里を見つめつつ声をかけた。
はははっ、ここにも女装男に落とされてる奴がいるぞ・・・。
笑える。
「そうだな、俺はビール。愛里は?飲み物何にする?」
隣りに座る愛里に尋ねると、彼女はん〜っと悩んでから口を開いた。
「じゃあ、オレンジジュースで。」
案の定アルコールを断った愛里は、店員ににっこりと笑みを見せる。
「かしこまりました。ビールとオレンジジュースですね。すぐにお持ち致します。」
注文を聞き終えた店員は、離れたくなさそうな顔をしながら、渋々カウンターへと戻って行った。
あんな別れ惜しそうな顔せんでも。
むぅ〜〜、それにしても涼太って得だよな。男でも十分綺麗形な奴だから、女装しても当然可愛いんだもんなぁ。って、何感心してんだ俺は。
あはははっ。
おっと、暢気に変なこと考えてる場合じゃなかった。自己紹介自己紹介・・・。
「さて、じゃあ、自己紹介始めようか。どうする?蓮からするか?」
グラスの水を一口飲んで蓮に声をかけると、じっと愛里に見入っていた彼は、ハッと我に返って俺を見た。
「え、あ、そ、そうだな。じゃ、じゃあ俺から、名前は『片桐 蓮』って言います。仕事は、その、一応俳優の卵って言うか、アルバイトしながら劇団で芝居の稽古とかしてます。」
少ししどろもどろな口調で自己紹介をした蓮に、愛里がすかさず口を挟んだ。
「まぁ!すごいですね。俳優の夢を追いながら頑張っていらっしゃるなんて。とっても素敵。」
にっこりと蓮を見つめて微笑みかける愛里に、蓮は瞬く間にカーッと顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振った。
「えっ、い、いや、そんな『素敵』なんて言われるほどのもんじゃないよ。実際は、ただのフリーターみたいなもんだから・・・。」
恥ずかしそうに答えた蓮は、自分の飲みさしのカクテルを口に運んで耳まで真っ赤にしていた。
何か変じゃねえ?こいつ。
女騙す場数踏んでる割には、ちょっとしどろもどろだよな?これも作戦のうち・・・か?
そういやお嬢様も『俳優の卵なんだって照れくさそうに言ってた』って言ってたしな。
もうしばらく様子を見るか。
「おっと、蓮、自己紹介終わり?じゃあ次は愛里の番だな?俺から言うよ。」
耳まで真っ赤な蓮に声をかけると、彼は『あ、おぅ。』とだけ返し、さり気なく愛里を見つめていた。
「彼女は『坂口 愛里』。俺が都内で勤めてる某会社の社長の娘さんなんだ。会社の創立記念パーティーで会ってさ。それから友達なんだ。年は俺達と同じで25だよ。」
計画通りの愛里の紹介に多少アドリブを加えた俺は、ビールをごくっと一口喉に流し込んだ。
そんな俺の計画的な紹介に素直に頷いた蓮は、そのまま愛里へ声をかけた。
「そうなんだ?どおりで・・・。清楚でお上品だなぁ〜って思った。」
にっこり笑顔で言った蓮の顔は、先程とは違い場数を踏んだ女慣れした男の顔。
やっぱさっきまでのは、わざとだったか?
それに愛里も気付いたのか、彼女はふっと蓮から視線を落とし小さく口を開いた。
「私、清楚でも上品でも無いです。ほんとはすごくドジだし、とろくさいし、不器用だし、気も利かないんです。お嬢様ってだけで、『清楚』だとか『上品』だとか決めつけるの・・・やめてください。」
うげっ。
おい、涼太。何喧嘩売ってんだよ。計画台無しにする気かよ。
愛里の言葉に内心ハラハラしたその時・・・。
「・・・あ、ご、ごめん。そんなつもりじゃ・・・」
急にオロオロし出した蓮が、小さく彼女に謝った。
へ?な、何だ?今のって、効果有りだったのか??
むぅ〜っと考え込んでいる俺の横で、愛里は言葉を止めることなく続けた。
「片桐さんて、やっぱり役者さん目指してらっしゃるから、お口が上手な方なんですね。私・・・、お世辞言う人ってあんまり好きじゃないです。」
少しがっかりしたような顔で俯き呟いた愛里に、『えっ』と小さく声を洩らした蓮は、表情を一変させ・・・『ダンッ』とテーブルに両手をついて身を乗り出した。
うわっ!な、何だよ急に。
一瞬身構えた俺をよそに、蓮は真っ直ぐ愛里を見つめて言葉を発した。
「ち、違う!お世辞じゃない!ほんとに、何て言うか・・・お嬢様なのが分かるって言うか、すごく素敵って言うか・・・その・・・。あ、えっと、もし不器用だとしても、ちょっと鈍くさいとしても、その方が・・・可愛いよ・・・。俺は・・・そう思う。ほんとに・・・お世辞じゃないよ。」
れ、蓮・・・?
顔を真っ赤にしながら言葉を並べる蓮に目を見開き驚いてる俺を、愛里がテーブルの下でツンツンと突いた。
え?
突かれて視線を向けると、愛里はにっと俺に笑ってから蓮の手をそっと握った。
まさかお前・・・わざと蓮を挑発してたのか。
むむぅ、策士め。
「ごめんなさい、片桐さん。怒らせるつもりじゃ無かったんです。私、普段、平気でお世辞を仰る方たちの中にいるものだから、すぐに人をそういう目で見てしまうんです。ほんとにごめんなさい。片桐さんて、ほんとはすごく純粋で素敵でいい人なんですね。何だか仲良くなれそう♪」
優しい眼差しを蓮に向け、にっこり笑う愛里。
そんな彼女に手を握られたままの蓮は、すごく恥ずかしそうに俯いていた。
う〜ん、涼太の方が役者が上?いや、これは蓮の演技?
イマイチ分からん。
「そうだ、片桐さんはご兄弟っていらっしゃるんですか?」
しばし続いた沈黙を破った愛里は、思い出したようにポンと軽く手を叩き、優しく蓮に尋ねかけた。
「え、あ、うん。二つ下の妹が一人。実家で親と住んでる。」
やっと開放されて自由になった自分の手をちょっぴり寂しそうに見つめた蓮は、愛里を見返し穏やかに答えていた。
へぇ、蓮って妹いるんだ。初耳。
「妹さんですかぁ〜。羨ましい。私も、姉か妹が欲しかったんです。」
「坂口さんは、一人っ子なの?」
羨ましげな愛里にすかさず聞き返した蓮。
「ええ、まぁ。そんなものです・・・」
オレンジジュースを一口こくっと飲み曖昧に返した愛里を、蓮が不思議そうに見やって首を傾げた。
「そんなもの?」
「あ、私の話はやめましょ。暗くなっちゃうので。それより、片桐さんのお話がもっと聞きたい。妹さんも、やっぱり同じように女優さんとか目指してらっしゃるんですか?」
悲しげな瞳を残し話題を変えた愛里に、蓮は気になってる様子ながらも問いただすことはせず、彼女の問いに答えるべく口を開いた。
「ううん、ただのOL。うちの親の会社で働いてるよ。」
めんどくさそうに妹のことを話す連を見て、愛里が驚いたように声をあげた。
「まぁ!片桐さんのお父様って会社を経営なさってるんですか?じゃあ、片桐さんってお坊ちゃんなんですね。」
「え、まぁ。一応は社長の息子ってとこかな。」
照れ笑いのような苦笑のような、どっちとも言えない顔でぼそっと呟いた蓮に、愛里が優しく微笑んだ。
「そんな『一応』だなんて、お父様に失礼ですわ。ちゃんと社長のご子息じゃありませんか。ということは、私とお仲間さんですね。」
ふふっと笑みを浮かべて言う愛里に、『そ、そんな、お仲間なんてとんでもない!』と蓮が焦ったように手をぶんぶん振って否定した次の瞬間、目の前にあったカクテルグラスにその手が触れ・・・、ガシャンと音を立ててグラスがテーブルに倒れてしまった。
「わっ!」
咄嗟に椅子を引いて逃げた蓮だったが、案の定グラスに残っていたカクテルは辺りに零れ、蓮の服にザバッとかかった。
はぁ〜・・・。
「ったく、何してんだよ、蓮。お前も愛里に負けないくらいそそっかしい奴だな。すいませ〜ん!何か拭くもの下さい!」
「きゃっ!片桐さん、大丈夫ですか?服にお酒が・・・」
俺が蓮と店員に声をかけたと同時に、ガタンと席を立った愛里が、バッグの中からハンカチを取り出し慌てて蓮のもとに寄った。
むぅ〜。涼太の奴、完全に成りきってるぞ。すげえ。
「え、あはは、こんなの大丈夫。すぐ乾くし。坂口さんのハンカチが汚れちゃうからいいよ。」
太腿の辺りにかかったカクテルを拭こうとした愛里の手を掴み遠慮した蓮。
だが、掴まれた手をそっと離した愛里が、『こういう時は、女の好意に甘えるものですよ。』と優しく返し、蓮のジーンズを拭いていた。
・・・涼太が普通に女に見える。怖い。
「あ、ありがとう・・・。」
素直にジーンズを拭かれつつ真っ赤になって礼を言う蓮。
「いいえ。私なんて、このくらいしかお役に立てませんから。・・・さぁ、さっきよりは綺麗になったと思いますよ。でも、帰ってすぐにお洗濯された方がいいかと思います。アルコールってベタベタしますから。」
優しくにっこり微笑む愛里を前に、『そうする。』と恥ずかしそうに蓮が呟いていた。
・・・で、結局俺がテーブル拭く役かよ。
店員に貰ったおしぼりで渋々テーブルを拭いていると、愛里がバッグを手に持ち、『私、このままちょっとお化粧室へ行って来ます。』と俺と蓮に声をかけた。
「あ、うん。」
「おぅ、いってらっしゃ・・・」
蓮に続いて素直に返しかけた俺は、思わずおしぼりをテーブルに置いたまま愛里をズルズルと席から引き離した。
「おいっ、涼太。トイレって、まさか女用に入るつもりかよ!?」
小声でひそひそ言うと、涼太は『当然。』と素で返しにっと笑う。
「と、当然って、お前。」
「だって、この格好で男トイレ入る方が怪しいだろ。それに、女トイレって未知の世界だし、滅多に経験出来ないし〜。じゃ、そういうことだから、ちょっくら行って来る〜。」
にこにことご機嫌な笑顔で言い残し、涼太は軽やかな足取りで行ってしまった。
・・・。
ため息をつきながら蓮のもとに戻ると、彼は俺が置きっぱにしていたおしぼりでテーブルを拭きつつぼんやりしていた。
「あ、すまんすまん。拭きかけだったな。ん?どうかしたのか?蓮。」
蓮からおしぼりを取り上げテーブルを拭きながら声をかけると、いきなり両肘をついた蓮は、自分の顔を両手で覆った。
へ?
「蓮?」
「樹、俺、変だ。いつもみたいに軽く気を惹いて落としてやろうって思うのに、彼女がそれを乱す。あの瞳で見られたら、いつもならいくらでも浮かんで来る口説きの科白も、何も出て来なくなる。くそっ。何でなんだよ。何なんだよ、あの女。」
え・・・。
蓮・・・お前・・・。
顔を覆ったままイライラしたように吐き捨てる蓮。そんな彼を、俺はしばし無言で見つめてから口を開いた。
「・・・何言ってんだよ。お前が紹介しろって言ったから紹介したんだろ。今更文句はやめてくれよな。」
わざと冷たく言い放ち、取り出した煙草に火をつけた途端、蓮が俺の腕をぐっと掴んだ。
「樹・・・」
蓮が言葉を続けようとしたその時、愛里が席に戻って来る姿が見えた。
それを見てさっと俺から手を離した蓮は、何事も無かったように戻って来た愛里に『おかえり。』と告げた。
「すみません。お待たせしました。片桐さん、服どうですか?まだ冷たいですか?」
気にした様子で声をかけた愛里に即座に首を振った蓮は、『もう平気。』と笑顔を見せた。
「そうですか。良かった。」
ほっと安堵の表情を浮かべた愛里が席についたのと同じくして、俺のケータイが鳴り響いた。
ん?誰だよ、これから面白くなりそうだってのに。
ゴソゴソ取り出し着信をみると、かけてきたのはお嬢様。
お嬢様?どうしたんだろう、こんな時間に。
「あ、ごめん、電話だからちょっと出てくるよ。二人で話しててくれないかな。すぐ戻る。」
鳴り響くケータイを二人に見せて断りを入れた後、いそいそとその場を離れ店の外へ出た。
「はい、早瀬です。いかがされました?このようなお時間に。」
―「あ、早瀬。ごめんね、今日来てくれたのにお仕事無くて。」―
え・・・。
何だ、そのことか。
「いえ。悠斗様からお聞きしました。今日は原稿を書くのにお忙しいと。ですから、お邪魔してはいけないと思い、本日は帰らせていただいた次第です。ところで、お電話などされていてもよろしいのですか?お仕事があるのでは・・・」
―「ううん、ついさっき終えたとこ。でね、お兄ちゃんと話してて、バーベキューの日決めたの。あのね、今週の土曜はどうかなぁ?私とお兄ちゃんと早瀬と桜でのんびりバーベキューしようと思ってるんだけど・・・」―
電話の向こうで、とっても嬉しそうに話すお嬢様。
彼女の言葉を聞いた瞬間、蓮と愛里のことが脳裏をかすめた。
今週の土曜・・・か。
あいつらがもし初デートすることになったとしたら、土曜か日曜なのは確実だ。
初デートに出かける涼太を放ってバーベキューに行く訳にはいかないし・・・。
とりあえず、今夜の様子を見てから考えるか。
「あの、お嬢様、お返事は明日でもよろしいでしょうか?」
―「うん、いいよ。じゃ、明日聞くね。ごめんね、用事それだけなの。えへへっ。だって、早く早瀬に伝えたくて。それじゃ、また明日ね。おやすみ早瀬。」―
「はい、おやすみなさいませお嬢様。」
お嬢様との電話を切ったあと、思わず彼女の行動が可愛くて笑ってしまった。
お嬢様って、やっぱ可愛すぎ。
ふふふっと笑いつつケータイをポケットにしまい込んだ俺は、一変・・・戦闘モードに切り替え、再び店内に戻った。
「さて、どうなってるかな?」
二人のいる席に戻ろうと足を向けた俺は、ふと足を止めた。
視界の先では、何やら楽しげに話をしている蓮と愛里の姿。
蓮の奴、あんなこと言ってた割には仲良さそうにしてるじゃん。
「しばらく二人にしておくか。」
涼太、任せたぞ。
ひとりカウンターへと場所を変えると、二人からは見えにくい一番端の席に腰を落ち着けた。
「お客様、お飲み物はいかがされますか?あちらの席のビールをお持ちいたしましょうか?」
気遣って声をかける店員に『いや、何かカクテルを。』と別注文し、俺からは見える蓮と愛里の様子を伺うことにした。
煙草を吸いながらぼんやりと二人を観察していると、再びバイブでケータイが鳴った。
見ると着信は圭兄。
「おぅ、圭兄。」
―「どうだ?涼はうまくやってるか?」―
どうやら気になっていたらしく、圭兄が興味あり気に尋ねかけた。
「あぁ、ばっちり。蓮の奴、すっかりあいつのこと女だと思ってるよ。それに、どうやら蓮の方が涼太に落ちたっぽい。もしかすると、今後の展開によっちゃ、ちょっとばっかし計画の変更もあるかもな。でもまぁ、今のところは一応計画通りには進んでる。」
―「そうか。じゃあ、俺は俺の出番を楽しみにしてるよ。」―
そう言ってふふっと笑う圭兄は、何だかとても楽しそうだった。
はははっ。
圭兄ってば、久々にボコボコに痛めつける相手が出来てよっぽど嬉しいんだな・・・。
「おぅ。楽しみにしててくれ。と言っても、初日はそろそろお開きにするつもりだ。こういうのは、相手が話し足りないくらいで引くのが大事だからな。じゃ。また連絡する。」
カクテルが来たところで電話を切った俺は、それをテーブルに置き、カクテルをこくっと一口飲んだ。
時計を見ると、11時を少し過ぎた頃。
さて、これ飲んだらお開きにしますか。
10分程二人の様子を観察しながらカクテルを飲み干すと、ガタンと席を立ち二人の元へ戻った。
「さぁ、そろそろお開きにするか二人とも。ほら、帰るぞ、愛里。送って行く。」
立ったまま声をかけた俺に頷いた愛里は、カタンと椅子を引いて立ち上がった。
「ありがとう、樹くん。じゃあ片桐さん、今夜はこれで失礼します。とても楽しかったです。ありがとうございました。」
「ううん、俺こそ楽しかったよ愛里さん。ありがとう。じゃ、土曜日に駅前で。」
同じように立ち上がり、すごく嬉しそうな顔で返す蓮。
「はい、じゃ、土曜日に。」
小さく手を振り返して答えた愛里は、ちょっぴり恥ずかしそうに嬉しそうにはにかんだ。
涼太・・・お前、絶対役者になれるぞ。と思うのは俺だけか?
むぅ〜。
「すまないな、蓮。あんまり喋れなくて。じゃ、また。」
「今夜はありがとう樹。じゃ。」
蓮と短い挨拶を交わした俺は、愛里を連れて店を出ると、早速タクシーを拾ってマンションへ向かった。
帰りのタクシー内・・・。
「お疲れさん。」
涼太の肩を叩いて声をかけると、彼はちらっと運転手を伺ってから俺に小声で口を開いた。
「お前、電話行った後わざと戻って来なかったろ?」
うっ。バレてたか。
「まぁな。何か二人で楽しそうに話してたし。いない方がいいかなって思ってさ。」
はははっと苦笑いをすると、涼太がはぁ〜っとため息をついた。
「楽しそうって言うのかどうか分からないけど・・・まぁとりあえず、土曜に初デートの約束をしたよ。時間は、朝の11時。駅前で待ち合わせ。」
相当疲れているのか、俺に寄りかかってぼそぼそ告げる涼太。
「そっか。一人で大丈夫か?何なら尾行するぞ?」
ちょっと心配で問う俺に、涼太は首を振った。
「いや、一人で平気だ。ただ・・・」
「何だ?」
「俺の感なんだけど、どうもあいつ・・・結婚詐欺師だってこと忘れてんじゃねえの?何か、どう見ても、俺にマジ惚れっぽいぞ。」
疲れた顔で苦笑まじりに呟いた涼太に、思わず『やっぱそうか。』と頷いた俺。
「え?拓海も分かってたのか?」
「あ、いや、見ててそんな気がしただけだ。ま、でも、今日一日じゃ分からん。デートで気を抜くなよ。バレたらお終いだからな。」
驚いて俺を見やる涼太に小声で釘を刺すと、『分かってる。』とため息まじりに答えた涼太。
それから俺達は、マンションに辿りつくまで互いに口を閉ざしたままだった。
ようやくマンションに戻り玄関のドアを開けた途端、涼太が行き倒れの如く上がり小口にバタンと倒れ込んだ。
「おい、涼太。大丈夫か?」
「だぁ〜〜〜〜、やっと女から開放される〜〜〜。もうダメ、動けない。拓海ぃ〜、おんぶ〜〜。」
倒れたまま両手を伸ばしておんぶをせがむ涼太。
「はいはい。分かった。ほら、掴まれ。」
ほんとはしばいてやりたいところだけど、今日一番頑張ったのはこいつだもんな。
大目に見てやろう。
サンダルを脱がして涼太を担ぎ、ズルズルとリビングまで引きずる。
リビングのドアを『バンッ』と足で蹴り開けた俺は、そこから更にズルズルと涼太を引きずり、ソファの上へドサッと投げ捨てた。
はぁ〜、重かった。
「おい涼太、何か飲むか?」
でろ〜んとソファに倒れて身動きひとつしない涼太に声をかけた次の瞬間、『ビール!』と即答されてしまった。
返事早っ。
「あははは、はいはい。ビールだな。」
注文を聞いて冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、ソファへ戻って涼太の手に握らせた。
「ほれ、ビール。ちゃんと持てよ。」
「ひゃ〜、冷たくてうまそ〜。」
一気に元気になった涼太は、『復活!』とばかりに起きあがり、早速ビールをプシュッと開けて喉に流し込んだ。
おいおい、さっきまでのダラダラは何だったんだ。
「何だよ。喉渇いてただけかよ。」
隣りにポフッと腰を下ろし、ビールを開けつつ呆れがちに言うと、涼太は『だって、さっきアルコール飲みたいの我慢してたんだ!』と膨れて答え、美味そうにごくごくビールを飲み干してしまった。
げっ、ほとんど一気飲み状態じゃん。
「ひゃ〜、美味かったぁ〜。もう一本も〜らい!」
いそいそとソファから立ち上がった涼太は、トコトコと冷蔵庫に移動してさっそく二本目をゲット。
はははっ、相当我慢してたんだな、こりゃ。
「しっかし、今日のお前、ほんとに女に見えたぞ。っつーか、喋り方も仕草も全部『女』だった。あれには正直びっくりだったぜ。」
ビールをこくっと飲んで今夜のことを振った途端、涼太が俺の横にちょんと座って『だろ?だろ?』と自慢げな瞳をした。
「あぁ、蓮もすっかり『女』だと思ってたみたいだしな。けど、俺がいない間何話してたんだよ?えらく楽しそうだったじゃん。」
「へ?あぁ、あれね、別にたいした話はしてねえよ。ただの世間話と土曜に行く場所決めてただけだ。」
俺の質問にへらへら笑って返した涼太は、二本目のビールをこくっと一口飲み込んだ。
世間話?の割にはすげえ楽しそうだったけど。
ま、いっか。
「へぇ、そうなんだ?で、何処行くんだよ?初デート。」
「ほえ?あぁ、えっと、ランチして映画観てその後ちょっと海辺にドライブだとさ。それでお開き・・・かな。ま、野郎二人じゃぜ〜ったい行かないプランだ。」
苦笑いをした涼太は、ふぅっと息を吐いてから飲みかけのビールをテーブルに置いた。
野郎二人じゃ行かないって・・・お前なぁ。
「阿呆、何言ってんだよ。そう言うお前だって、前に俺に『TDLいこ〜』って誘ったじゃねえか。あれも普通、野郎二人じゃいかないぜ。」
まぁ、結局行かずに済んだけど。
「あ〜〜ひどい!!一緒にするな。俺と拓海がデートするのはいいんだ!だって俺達、相思相愛じゃん〜。な?拓海ぃ〜。」
むっ。
俺を覗き込んでにへにへしながら言う涼太の頭を、思いきり平手でべしっとしばいた。
「ふざけたこと言ってんじゃねえ!誰がお前と相思相愛じゃ!!ただの幼馴染だ、ボケ!!」
うぎゃっ、気持ち悪いこと言うから鳥肌が立ったじゃねえか。
ひぃ〜〜、ブツブツしてる。
「ぎゃっ!いだい!!何で叩くんだよ!拓海の阿呆!暴力反対!!」
叩かれた頭を自分で撫でながら、きゃんきゃん吼える涼太。
「やかましい!叩かれて当然だ!気分を害した。俺はもう寝る。実弾撃ち込まれて死にたくなければ、お前も今すぐ風呂に入って寝ろ。」
まったく、変なこと言いやがって。
すっとソファを立った俺は、飲み干した缶ビールをテーブルに置いたまま、布団を敷いて寝るべく和室スペースへ向かった。
「ちぇっ、もう寝るのかぁ〜??つまんねーの。もっと喋ろうと思ったのに。あ〜あ、じゃあ俺も風呂入って寝よ〜っと。」
かなり不満そうに言った涼太は、二本目のビールを飲み干してからソファを立ち、『じゃ、おやすみぃ〜。』とだけ言い残してリビングを出て行った。
布団を敷き、その上にバタッと仰向けで倒れ込むと、ぼんやり天井を見つめた。
「はぁ・・・。」
そういや、土曜のデート・・・11時に駅前って言ってたな。
ってことは、お嬢様とのバーベキュー・・・何とか参加出来そうか?
明日行ったら、何時に始めるのかお嬢様に聞いてみよっと。
ポケットに入れていたケータイを開き、ピッピッとボタンを押すと呼び出されたお嬢様の写真。
「相思相愛・・・か。」
俺が勝手に好きになって、勝手に妄想して夢見てるだけだけど、いつか君と彼氏彼女になれたら・・・最高に幸せだろうなぁ・・・。
そしたら、ずっとずっと君だけを想って、君を守って生きて行くんだけどな・・・。
お嬢様の写真をぼんやり眺めてるうちに、相当疲れていたのか・・・いつしか意識は途切れてしまっていた。
|