7代目はお嬢様に恋をする。(4/77)PDFで表示縦書き表示RDF


7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【4話】 クリスマスプレゼント


 3ヵ月後―――。12月。
 結局、月華ちゃんとお近づきになる方法は見つからず、俺の片想いは現在進行形。
 そして今日は、クリスマスイヴ。

 夜―――。
「ああぁぁ〜〜〜〜〜、クリスマスに女と一緒じゃないなんて、小学生以来だぞ。」
「まぁ、いいじゃないですか。そういう年があっても。」
 ソファでうな垂れている俺に、圭兄が笑いながら言った。
「圭兄はデートじゃないのか??」
 顔をあげて尋ねると、『いたら今頃ここにはいないよ。』と苦笑いで答えた圭兄。
 あははっ。だよな。
「家でダラダラしてるのも何ですし、飲みにでも行きますか??」
 俺の肩をポンと叩いて笑顔で圭兄が誘う。
「そうだな、行くか。」
 がばっと起き上がりコートを羽織ると、そのまま一緒に部屋を出た。

 下っ端の蓮川に車を運転させ、圭兄と二人で飲みに繰り出す。
「ところで何処飲みに行く〜?」
 隣に座る圭兄に問いかけると、腕組をして悩んでから圭兄が口を開いた。
「う〜ん、そうだなぁ、とりあえずいつものクラブなんてどうだ?」
「おお!いいねぇ〜。あそこ好き〜。」
 いつものクラブって言うのは、うちの経営してる高級クラブのこと。
 若くてかわいい子ばっか雇ってて、超人気なクラブなのだ。
 ちなみにママは美人で有名だ。
 けど、俺はやっぱり月華ちゃんが一番好き。あの子以上に可愛くて美人な子なんていない。
 あの子がクラブなんかで働くことはまず有り得ないだろうけど、もし働いてたら俺、毎日通っちゃう。でもって、他の奴には絶対指名させないぞ!
 胸元のばっくり開いたドレスなんか着てたら、ドキドキするのと恐れ多いのとで近寄れないだろうなぁ。
 あと、際どいスリットの入ったドレスなんか着てた日にゃ…えへへっ…。
 でもって、そんな月華ちゃんに甘えられながら『拓海くん、はい果物。お口あ〜〜んして。』なんて言われたら…あぁ〜〜〜〜〜もうダメ、俺死にそう。
 うっ、いかん、興奮しすぎて鼻血出そうだ。
 完全に俺、やばやば男になってるぞ。
 でも、想像するだけでめちゃめちゃ幸せ。
 にへにへにまにまにやけてる俺に、圭兄が小声でぼそっと口を開いた。
「7代目、顔が弛みきってますよ。今、例のお嬢のこと考えてたでしょ。」
 ぎくっ。
「か、考えてねぇよ!それに、弛んでなんか…」
 火照る顔で言い返してから、車の窓に映る自分を見た。
 げっ、マジで弛みきってる。
 ダメだ、俺、だんだんキャラが変わっていく。

 店に着いて車を降り、中に入るとママが俺を見るなりやって来た。
「坊ちゃん!いいところに。」
「ママ、久しぶり。ん?何かあったのか??」
 店の中はいつもなら満席なのに、今日はがらがら。
 俺の腕を掴んで困り顔のママに聞き返すと、彼女は一点を指差して小声でそっと囁いた。
「あそこに・・・」
 あそこ??
 彼女の指差す方を圭兄と一緒に見やると、そこにはクリスマスイヴには会いたくない野郎がいた。しかも下っ端連れて…。
 あいつ…。
「安いお酒頼んで、ずっとああやって居座ってるんですよ。他のお客さんも怖がって帰っちゃって…。」
 困り果てた様子でママが呟く。
「7代目、どうします?」
 圭兄が俺に小声で問いかけた。
 どう…って。
「そんなもん、追い出すに決まってんだろーが。」
 さらりと言葉を吐き捨て、圭兄を残したまま真っ直ぐそいつのもとへと向かった。
「やぁ〜、早瀬くんじゃないか。いいお店だね〜ここ。」
 でかい態度でソファに座りへらへらと笑顔で言うのは、流揮会の須藤。
 流揮会って言うのは、うちと昔から対立してるとてつもなく仲の悪〜〜〜い組。しかもこいつは、俺のことを目の仇みたいに思ってるかなりうざい野郎だ。
 ちなみに俺もこいつは大嫌いだ。顔を見るだけで気分を害する。
「てめえ、うちの店で営業妨害してんじゃねえよ!!表へ出ろ!!お前らもだ!!おい、坂口!!こいつらつまみ出せ!」
 須藤の胸ぐらを掴んで睨みつけ、圭兄に下っ端の奴らを任せると、ズルズルと須藤を店の外へと連れ出した。
 この野郎、せっかくのクリスマスで稼ぎ時なのをめちゃくちゃにしやがって!!

 店の外に出た瞬間、須藤が俺の手を振り払った。
「人がせっかく客として来てやってんじゃねえか。もっと客扱いしろよな。」
 にんまり顔で言い放つ須藤に、沸き起こる怒りを何とか抑えた。
 う〜〜ぶっ飛ばしてやりたい。
「あぁ、そうかよ。だったら、『とっととお帰り下さい、お客様。』これで満足だろ。失せろ!!」
 吐き捨てて店に戻ろうとした矢先、須藤がにやりと笑った。
「ここの店は客を無理矢理追い出して帰らせるのかよ。」
 周りに聞こえるような大声で言い返す須藤の胸ぐらを、がしっと鷲掴みにした。
 もう許さん!!ガキみたいなことしやがって〜〜〜〜!
「お客様、だいぶ酔っていらっしゃるようなので通行人の邪魔にならないように、こちらへどうぞ。…てめえの目的は店じゃなく俺だろーが、須藤!!だったら、相手してやるよ。さっさと来い!!」
 店の前で丁寧に言ったあとに、裏路地へと須藤を無理矢理引っ張りながら小声で強く吐き捨てた。
「7代目!ダメです、こんなとこで!」
「うるさい!!お前は引っ込んでろ、坂口!」
 止める圭兄を振り切って須藤をそのまま路地裏に連れ込んだ。
 今日と言う今日は勘弁ならねぇ!!あの世へ送ってやる!
「やっとやる気になったか、早瀬。そう来なくっちゃ。」
「うるせえ!!」
 薄く笑って挑発する須藤の顔を思いきりぶっ飛ばした。
 殴り飛ばされた須藤が、にやっと笑みを浮かべてナイフを取り出した。
「今日こそ、お前をぶっ殺してやるよ、早瀬。」
 刃先をぺろりと舐めて須藤が笑う。
「はぁ??誰をぶっ殺すって??ふざけたことぬかしてんじゃねえぞ!!」
 バカかこいつ、俺に勝てる訳ねえだろーが。
 ナイフで襲い掛かる須藤の腕をぐっと捕まえ、その次の瞬間奴の腹部に拳を一発喰らわした。
「がはっ」
 痛みで崩れ落ちかけた須藤が、すかさず俺にナイフで切りつけた。
「うっ」
 しまった、俺としたことが油断した。
 スーツの袖は切れ、血液が滲む。腕を押さえた俺を、今度は須藤がぶん殴った。
「っっ!!」 
 いってぇ〜〜〜〜〜!!
「あれれ〜〜??早瀬くん、もう終わりぃ〜〜?」
 口端から血を垂らしたまま、にまにま顔で須藤が見下ろす。
 すっげえ腹立つ!!こいつの面。
「終わるのはお前の方だ!!!そのにやけた面、一生見れなくしてやるぜ!!」
 がばっと起き上がったと同時に、須藤の顔をこれでもかってくらいにぶっ飛ばした。
 それからしばらく続いた取っ組み合い&武器ありの喧嘩。
 だが、怒りの頂点に達した俺の方が、須藤をボコボコに殴り痛めつけて勝利した。
 ざまーみろ!!
 まったく、せっかくのクリスマスイヴを何でこいつと…。
 ムカつく。
 それにしても痛い、俺の顔かなりやばいんじゃ…。
 手を自分の頬に当てるとかなり痛む。口からは血が垂れていた。
「7代目!大丈夫ですか??うはっ、すげえ顔…」
 圭兄が俺の顔を見るなり、化け物をみるような顔で一歩後ずさった。
 うっ、そんなにすげえ顔してるのか??俺。
「帰るぞ、坂口。飲む気分じゃなくなった。」
 倒れて気絶してる須藤を捨て置き、気分を害した俺は…結局圭兄を連れてその場を立ち去った。
 まったく、あいつのせいで最悪のクリスマスイヴだ。
 くそっ。

 車に乗って自宅への帰り道、後部座席でずっと無言で窓の外を見つめていた。
 せっかくのクリスマスイヴなのに、何やってんだよ俺。
 ふと目に付いたのは、沢村の屋敷。
 見た瞬間…
「止めてくれ。」
 思わず運転していた蓮川に、俺の口はそう告げていた。
「え、あ、はい。」
 驚いた蓮川は、慌てて車を路肩に停車させると後ろを振り向いた。
「7代目、どうかなさったんですか?」
 不思議そうに尋ねながら蓮川がじっと俺を見やる。
「何でも無い。悪い、俺ここで降りる。」
 それだけ告げて車のドアを開けようとした俺の手を圭兄が掴んだ。
「7代目、お顔の傷と腕の傷を先に手当なさった方が…」
 心配そうな顔で引き止める圭兄に、痛い顔で軽く笑みを向けそっと手を振り払った。
「ちょっと、一人にさせてくれないか…。」
 そう言い残した俺は、ドアを開けそのままひとりで車を降りた。
「じゃあ、後で必ず電話ください、迎えに来ますので。」
 車の窓から言い返した圭兄は、そのまま蓮川の運転で自宅へと帰って行った。

 視線を上げると、少し離れた先には沢村の屋敷。
 クリスマスイヴなんだ、一人でいるわけ無い…か。
 そうだよな。
 もしかしたら会えるかも…なんて考え、甘いよな。
 やっぱり、俺じゃあ君の傍には行けないのかな。
 ヤクザな俺じゃあ、無理…なのかな。
 街路樹にもたれてぼんやりしていると、屋敷から少し離れた場所に止まった一台の車。
 咄嗟に見つかるまいと、街路樹の陰に隠れた。
 止まった車の中には月華ちゃんと、知らない男の姿。
 彼氏か?
 その光景を見た途端、胸の奥はズキズキと痛み出した。
 痛ぇ。めちゃめちゃ苦しい。
 バカすぎだぞ、俺。
 クリスマスイヴなんだ、予想してた光景じゃないか。なのに、何でショック受けてんだよ。
 しかし、見てると何やら様子がおかしい。
 むむっ。
 車の中では、ライトをつけて何か言い合ってるようだった。
 なんだ??
 それから間も無く、車から降りかけた彼女を、運転していた男が引っ張った。
 あの野郎、俺の月華ちゃんに何しやがる!!
 街路樹の陰でひとりメラメラと怒りに燃え、射抜くように睨みつけた矢先、強引にキスしかけたその男を何とか振り払った彼女が車の外に飛び出した。
 おお!月華ちゃんさすがぁ〜。
 良かったぁ、キスしなくて。
 でも、あれって彼氏じゃないのか?
 更にじっと眺めていると、慌てて運転席から出て来た男が彼女の腕を掴んで抱き寄せた。
 あの野郎〜〜〜〜!性懲りも無く〜〜〜〜!!
 思わず拳をぐっと握った瞬間、彼女が手に持っていた花束で男の頬を思いきり叩いた。
 うはっ、す、すげえ…。
 花束で男の顔を叩いたのと同時に、彼女のマフラーに付いていた何かが落ちた。
 あっ、今何か落ちたんじゃ…。
 目の前の光景にしばし見入っていると、突然彼女が大声で怒鳴った。

「あんたなんて最低よ!!顔も見たくない!!」

 花束を投げつけた彼女は、そのまま屋敷に帰って行ってしまった。
 これってつまり、月華ちゃんがあの男を振ったってことか??
 な〜んだ、振ったのかぁ〜。何かちょっぴり嬉しい。
 取り残された男は、不機嫌そうな顔で車に乗り込み、そそくさとその場を去って行った。
「ざまーみろ、お前なんか月華ちゃんには不似合いだ。」
 走り去る車に小さく文句を言ってから、さっきの現場へ視線を戻す。
 誰もいなくなったその場所には、残された花束の残骸と、キラリと光る何かだけがあった。
 そろそろと近づいてみると、花束の残骸に紛れて落ちていたのは、ダイヤと真珠の散りばめられた雪の結晶を模ったすごく綺麗なブローチ。
 だがそれは、あの男に踏まれてしまったのか、すっかり壊れてしまっていた。
「せっかく綺麗なブローチなのに…」
 これ、さっきまで彼女のマフラーに付いてたんだよな?
 そっと握り締めながら、まるで彼女と一緒にいる気がして、嬉しくて涙が出そうだった。
 ひとしきり幸せに浸ってから、そっと手の中のブローチに視線を落とした。
「返した方がいいよな。宝石付いてるし…」
 でも、返そうにも喧嘩でこんな顔してる俺なんかが行ったって、かなり…いや、すさまじく怪しいだけだ。
 そうかと言って、放って帰るのも…。
「仕方ない。今夜は持って帰って、後日ちゃんと返そう。」
 うん、そうしよう。
 きちんと事情を説明して返せば分かってくれるはず。
 ブローチをそっとポケットに入れてから、ケータイで圭兄に迎えの電話を入れた。

 迎えが来るまでの間、少し離れた公園のベンチに座りブローチを眺めていた。
 それは月明かりにかざすと、キラキラ光ってとても綺麗だった。
「すごく綺麗だ、これ。大事にしてるブローチなのかな。だったら、無くなったら困るよな。これ、なんとか直らないかなぁ…。」
 クリスマスイヴに雪の結晶のブローチかぁ…。ホワイトクリスマス…だな。
 そして、そのうち消えて無くなる俺の束の間のクリスマスプレゼント。
「君が好きだ…大好きだ…」
 ブローチをぎゅっと握りしめて呟いたのと同じくして、頬を伝った何か。
 そっと手を当ててみると、そこには一筋の涙。
 変だ、俺。何で涙なんか…。
 うつむいて、声を殺して泣いている俺の頭を誰かが優しく撫でた。
「…?」
 見上げると立っていたのは圭兄。
「風邪引くぞ。さぁ、帰ろう。」
 圭兄に言われて無言で立ち上がり、トボトボと公園を後にした。
「綺麗なブローチだな。」
 俺の手元を見た圭兄が、穏やかな口調で声をかけた。
「束の間のクリスマスプレゼントだ。雪と一緒で、そのうち消えて無くなる。」
「そっか。じゃあ、消えて無くなるまでは大事に持ってな。」
 俺の言葉で、誰の物なのか察した圭兄がそう言って優しく笑った。
「あぁ。」
 一言だけ答えた俺は、手の中のブローチをぎゅっと握り締めていた。

 自宅に帰ると、俺の顔と姿を見て親父が驚いていた。
「拓海、どうしたんだ??まさか、またやり合ったのか??」
「あぁ、まぁな。うちの店で須藤が営業妨害してやがったから、ぶん殴っただけだ。」
 親父の質問にさらっと返して、下っ端の奴らに傷の手当をしてもらった。
「流揮会め、どこまでも腹の立つ奴らだ。」
 親父が拳をぐっと握り、怒りに燃えていた。
「しばらく、見回りは強化した方がよさそうだ。親父。」
 手当てされながらぼそっと忠告すると、『そうだな。』と親父が頷いていた。
「ん?ところでお前が手に持ってるそれ…何だ?」
 俺の手を指差して親父が不思議そうに尋ねた。
 これは…。
「須藤とやり合った時に、店の女の子が落として壊れたんだ。それを拾っただけだ。」
「そうか。」
 俺のついた嘘に、親父は素直に頷いた。
 ごめん親父、言えないんだ。だって俺、すげえ身分違いな子…好きなんだ。
 好きで好きでどうにかなりそうで、あの子の傍にいたいって思うんだ。
 胸の奥で俺は、親父にそう告げていた。

 部屋に戻ってソファに腰を下ろし、手に持ったブローチを胸に当てた。
 返したくない。ほんとはずっと持っていたい。だって、大好きな彼女の付けていたブローチなんだ。
「好きだ…めちゃめちゃ好きだよ。俺…君の傍にいたいよ。苦しくてどうにかなりそうだ。」
 言葉とともに自然に落ちる涙。
 俺、おかしい。こんな泣き虫な男じゃ無かったのに…。
 ブローチに落ちる涙の雫。
 雪の結晶を模ったそのブローチが、涙のせいで雪のように溶けて消えてしまうんじゃないかと、必死にスーツの袖で拭いた。
 最悪だと思った俺のクリスマスイヴに、神様がくれた最高のクリスマスプレゼント。
 雪のようにすぐに消えてしまうかも知れないけど、それまでは俺の大切な大切な宝物―――。



『其の四』まで読んでくださりありがとうございます。
まだ四話だと言うのに、もう既にボロボロな作品になってます・・これ。すみません。
(むぅ〜、何とかせねば・・。)
頭を抱えてひとり唸っている、九条 要でした。











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