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7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【37話】 愛しい君・・・


 どのくらいそこにいたのか・・・。
 
 ようやく心と身体が落ち着き・・・ふと夜空を見上げると、大きな月とその周囲に点々と瞬く星の群れ。
「月・・・。そうだ、お嬢様と一緒にこの月を見ようって・・・言ってたんだった。早く戻らないと・・・。」
 ほんっと、ダメだな、俺。この程度で自己コントロール出来なくなるなんて。
 まだまだ我慢と忍耐の足りないお子様だぜ。
 ふぅっとひとつ息を吐いて立ち上がり、頬をパシッと一発叩いて気持ちを引き締めてから、お嬢様の元へと戻った。
   
 
「すみません、お嬢様。遅くなりました。おや?悠斗様は?」
 お嬢様に声をかけてから辺りを見渡したが、悠斗の姿が見当たらない。
 あれ?あの野郎、何処行きやがったんだ??
 まだ電話してやがるのか?
「あ、お兄ちゃんなら、ちょっとだけ出てくるって。何か、お友達から受け取る物があるらしくてね。でも、すぐに戻ってくるって言ってた。」
 にこっと笑って教えてくれたお嬢様は、傍にあったベンチに腰を下ろした。
 友達から受け取る物?
 へぇ、あいつにも友達いるんだ。って、当たり前か。
「さようでございますか。あのお電話は、やはりお友達からだったのですね。」
 ベンチに座るお嬢様を見下ろし言葉を返すと、彼女は笑顔でこくんと頷いた。
「うん。お兄ちゃんと中学から友達付き合いしてる人。あ、早瀬も隣りにおいでよ。立ってると足疲れちゃうよ。」
 自分の隣りをポンポンと叩いて俺を呼ぶお嬢様に、『はい、では。』と腰を下ろした途端、右手をきゅっと掴まれた。
 え・・・?
「早瀬、どうしたの?手、怪我してるじゃない。大丈夫?」
 血の滲む右拳を見てから、心配そうな声と瞳で俺を見上げたお嬢様。
 あ、・・・これは。
「大丈夫です。これは、さっき壁で擦っただけですから。こんなの放っておいてもすぐ治りますよ。ほら、全然痛くも無いですし。」
「ダメだよ、こんなに血が出てるじゃない。」
 痛む右手を動かし笑顔で嘘をついた俺に優しく返したお嬢様は、ごそごそとハンカチを取り出した。
 え・・・。
「あ、そ、そんな、結構です。お嬢様のハンカチが汚れてしまいますから。」
 何をされるのか瞬時に察知し・・・慌てて手を引っ込め遠慮したが、『ダメ!』と目じりを吊り上げ怒ったお嬢様によって、俺の右手は再び捕まってしまった。
 うぅっ。お嬢様、目が三角で怖い。
「ほんとは痛いくせに。嘘つくんじゃありません。・・・はい、出来上がり。」
「あ、ありがとうございます。」
 手当てを施してくれたお嬢様に礼を言いつつ、ようやく開放された右手へ視線を落とすと、そこには薄いピンク色の綺麗なハンカチが巻かれていた。
 こんな綺麗なハンカチなのに・・・。
 また俺の血で汚してしまった。
 これで・・・二度目、いや、三度目か・・・。
「すみません、お嬢様。このような綺麗なハンカ・・・」
 申し訳無くて頭を下げ謝りかけたその時、再び俺の手をとったお嬢様が口を開いた。
「早く治るといいね。今度から気をつけなきゃダメだよ?早瀬。」
「あ、は、はい。心がけます。」
 お嬢様の優しい口調にドキドキしながら答えると、彼女はハンカチの巻かれた俺の手を優しく撫でていた。
「お、お嬢様・・・」
「ん?なぁに?」
「あんまり、親しくない異性に優しくなさると、勘違いされますよ。」
 手を撫で撫でされながらお嬢様へぼそっと忠告の言葉を吐くと、彼女は『勘違い?』と首を傾げて俺をマジマジ見つめた。
「ええ。お嬢様にその気が無くても、相手は『もしかして自分のこと好きなのかも。』と勘違いする・・・と言うことです。」
「えっ、そういうもんなの?じゃあ、今度から気をつける。」
 俺の説明に素直に納得したお嬢様は、すかさず『もしかして早瀬も?』と言いたそうな瞳を向けた。
 ぎくっ。
「あ、私はそのような勘違いはしませんよ。自分の立場はきっちり弁えておりますし、それ以前にお嬢様にそのような感情は持ち合わせておりませんので。」
 ちょっぴり引きつってるであろう笑顔で即答する俺を見たお嬢様は、『そっか。』とだけ返事をして空を見上げた。
 お嬢様・・・?


「ねぇ早瀬、今日の月って、昨日よりちょっとだけ欠けてるの知ってる?」
 へ・・・?月?
 いきなり話しを変えられ、一瞬ついていくのに時間を要してしまった俺。
 月?欠けてる?・・・あぁ。
「え、ええ。」
 脳みそフル回転で何とかお嬢様の話しについていけて返事をすると、『では、ここで早瀬に質問です。何処が欠けてるのでしょう?』と突然意地悪な瞳で質問を投げかけられた。
 えっ。
 ど、何処・・・と言われても。
「さぁ、早く答えないと時間切れになっちゃうよ?早瀬。」
「えっ、時間切れとかあるんですか!?」
 焦って聞き返す俺に『当たり前じゃない〜。答えられなかったら罰ゲームありなんだから。』とにへにへするお嬢様。
 ば、罰ゲーム。・・・い、嫌だ。
 う〜〜ん、う〜〜〜ん。
 月を睨んで必死に頭を悩ませるが、ちっとも分からない。
 ダメだ、いくら考えてもちっとも分からん。 
「降参です。ちっとも分かりません。と言うか、早瀬には、昨日とあまり変わらないようにしか見えません。何処が欠けてるか教えてください」
 大きなため息とともに降参し答えを求めると、俺を見やったお嬢様は『答え』ではなく、ただへへへっと笑顔だけを浮かべた。
 むっ。
 もしや・・・。
「さては、笑顔で誤魔化すと言う事は、お嬢様もご存知無いんでしょ!ずるいですよ。私にだけ罰ゲームさせるおつもりだったんですね??そうはさせませんよ。分からなかったお嬢様も、ご一緒に罰ゲームです。」
 にまーっと悪魔の如く笑ってみせると、お嬢様がヒクッと頬を引きつらせた。
「あ、や、やっぱり、罰ゲーム無しってことで・・・。ね?早瀬。」
 そう言ってそろそと後ずさりをして逃げようとするお嬢様を、がしっと捕まえ引き戻した。
「逃がしませんよ、お嬢様。さぁ、罰ゲームは何にしましょうか??」
「な、何って・・・。う〜〜、じゃ、じゃあ、お互いのことをひとつだけ教えあうって言うのはどう?」
 必死に考え提案したお嬢様。
 えっ。
 自分のことを教える?
 お嬢様の科白を聞いた瞬間、自分の中には『ヤクザ』で『銀龍会7代目』な自分と、『お嬢様が好き』ということしか思いつかなかった。
 ダメだ、こんなの両方言えない。
 他に何か無いか?他に・・・。
 必死に悩んでいる俺の横で、『じゃあ、私から・・・』とお嬢様が口を開いた。
「私、最近やっとピーマン食べれるようになったの。はい、言ったよ。次、早瀬ね。」
 へ?ぴ、ピーマン?
 そんなのでいいのか??それなら・・・。
「えっと、私は、未だにシイタケは食べれません。あの味と、臭いが・・・どうも好きになれません。」
 ぼそぼそと白状した途端、お嬢様が俺に抱きついた。
「きゃ〜、そうなんだぁ〜。早瀬ってば子供みたい〜〜〜。可愛い〜〜〜〜。」
 俺の頭を撫で撫でして笑うお嬢様に、思わずぶすっとふくれてしまった。
 こ、子供みたいって・・・。
「わ、悪かったですね、子供みたいで。」
 嫌いな物は嫌いなんだ。仕方ないだろ。
「あ、ごめんね。でも、早瀬のことひとつ知って、ちょっと得した気分。うふふ。ねぇ、今度から、何かした時の罰ゲームはこれにしない?お互いに一個ずつ白状し合うの。」
 げっ。
 そんなの困るよ。
「いや、それはちょっと・・・」
 ご機嫌に提案したお嬢様に待ったを入れると、彼女が『困るの?』と即座に突っ込んだ。
「いえ、別にそういうんじゃ・・・」
 ただ、そんなのが続いたら、いつか俺の素性も気持ちもばらさなきゃいけなくなりそうで。
 口ごもる俺にお嬢様が、ピッとVサインをして口を開いた。
「じゃあ、決定〜!今度から罰ゲームはそれにしよ〜。」
 うぅっ、そんな勝手な。
 ただただ苦笑いをしている俺をじっと見やったお嬢様は、にま〜っと笑みを浮かべて俺の頭を撫で撫でした。
「そっかぁ〜、早瀬くんはシイタケが食べれないんでしゅかぁ〜。よしよし。」
 うぐぐぐっ。
 何か弱みを握られた気がする。
「だったら、どうやったら食べれるか教えてくださいよ。」
 頭を撫で撫でされながら言い返すと、お嬢様がしばし『う〜ん』と悩んでからポンと手を叩いた。
「一番好きな食べ方で食べたらどうかしら?」
 一番好きな食べ方?
「じゃあ、お嬢様の口移しがいいですね。それなら食べれるようになるかも。」
 にまっと意地悪な目で言ってのけると、お嬢様がカーッと顔を真っ赤にした。
「は、早瀬ってば・・・そんな・・・。」
「な〜んて、冗談ですよ。そんなことで食べれるようになる訳ないじゃないですか。お嬢様おかしすぎ。」
 にへらにへら笑う俺に、お嬢様が『早瀬のバカ!からかわないでよ!』と真っ赤な顔のまま頬を膨らませて怒った。
「さっき私をからかったお返しをしただけです。」
 あっさりきっぱり言い返した俺に返す言葉を失ったお嬢様は、苦虫を潰していた。
 お嬢様、可愛い。
「お嬢様、子供みたいで可愛すぎです。」
 あまりにも面白くてつい言葉に出した途端、お嬢様にべしっと頭をしばかれた。
 ぎゃっ!い、いたい・・・。
「早瀬のバカ!!子供じゃないもん!!」
「まだ18でしょ?十分、早瀬よりお子様ですよ。お嬢様は。」
 だって6つも年下だし、まだ18だし。
 じゅーぶんお子ちゃまじゃん。
 ま、そのお子ちゃまにベタ惚れな俺なんだけど。
 しばかれた頭を擦りつつくすくす笑う俺に、お嬢様がムキになって食ってかかった。
「違うもん!!もう19になったもん!!結婚だって出来るもん!!子供だって産めるんだから!!全然子供じゃないもん!!」
 お嬢様・・・。
 ・・・にしても、いつの間に誕生日来てたんだ??・・・知らなかった。
「そうですね。お嬢様の仰るとおりです。お嬢様は、十分ご成長なさった大人でしたね。失礼なことを申しました。」
 軽く頭を下げて謝る俺に、お嬢様が聞き逃しそうなほど小さく呟いた。
「・・・子ども扱い・・・しないでよ。」
 え・・・。
「お嬢様・・・?」
「何でもない。それより、眠くなっちゃった。そろそろ病室に帰ろ、早瀬。お兄ちゃんも、直接病室へ戻るって言ってたし。」
 恥ずかしそうに慌てて立ち上がったお嬢様は、そう言って俺の手を引っ張った。
「あ、え、ええ。」
 大人扱いして欲しいって言うのが、そんなに恥ずかしいのかな??
 19の女の子の考えることは分からん。
 引っ張られるままに立ち上がると、お嬢様は俺の腕を掴んでトコトコ歩き出した。
 そうして、来たルートを引き返し病室に戻るまで、お嬢様はずっと無言だった。
 

 何とか誰にも見つからず病室に戻って時計を見ると、既に0時前。
「悠斗様、遅いですね。」
 ほんっと、何してるんだあいつ。
 声を落として言った俺に『そうだね。確かに遅いね。』と、お嬢様がケータイを開きながら答えた。
「まぁ、もうしばらくすれば戻られるでしょう。お嬢様、先にお休み下さい。」
 ソファに用意された付き添い用の布団を広げてお嬢様に促すと、彼女は『うん。』と素直に頷き、ソファに腰を下ろしてから更に言葉を続けた。
「あのね、早瀬、5分だけ病室出て行って。」
 へ?
「出て行くんですか?」
 言ってる意味が分からず聞き返す俺に、お嬢様がこくんと首を立てに動かした。
「はぁ・・・。分かりました。では、5分ほど出て参ります。」
 さっぱり理解できないまま病室を出た俺は、真っ直ぐロビーへ向かった。

「何で俺、追い出されたんだろ?ちっとも分からん。」
 ソファに座り、取り出した煙草を吸いながらぼーっと考えているところに、見回りの看護師が現れた。
「早瀬さん、まだ寝ないんですか?そろそろ寝てくださいね。」
 立ち止まって声をかけて来た看護師に『はい。煙草一本吸ったら寝ます。』と笑顔で答えた途端、彼女がコソコソと俺の隣りに腰を下ろして口を開いた。
「早瀬さん早瀬さん、今日お泊りになってる女の子って、早瀬さんとどういう関係なんですか??もしかして彼女なんですか?」
 はぁ???
 声を潜めて何を言うのかと思いきや、真剣な瞳でお嬢様と俺の関係を尋ねてきた看護師。
 それが妙におかしくて、噴出して笑いそうになったのを必死に堪えた。
 バカじゃねえの、この女。
 それ以前に、俺はお前なんか相手にしねえよ。
「いえ、ただの知り合いですよ。」
 ソファにもたれて足を組み・・・あっさり答えると、看護師は『何だ、そうなんですか。良かったぁ〜。あ、じゃあ、早く寝てくださいね。おやすみなさい。』と、にっこり顔で言い・・・そのまま軽やかな足取りで見回りへと行ってしまった。
 単純な女。
 それからしばらく煙草を吸い終えるまで座っていると、いつの間にか5分をとうに過ぎていた。
 おっと、そろそろ戻らないと。
 煙草を消して立ち上がり、トボトボと病室に戻ってドアを開けてみると、中は異様に静かだった。
 ん?
 足音を忍ばせ・・・ソファに近づいて見たものは、布団に潜ってスヤスヤ眠るお嬢様の寝顔。
 何だ、寝ちゃったのか。 
 気持ち良さそうに眠るお嬢様がとてつもなく可愛くて、思わず床に片膝をついて彼女の髪を撫でてしまった。
「おやすみなさいませ。お嬢様。」
 小声でお嬢様に囁いたのが聞こえたのか、それともただの偶然なのか・・・、『・・・やすみ・・・、・・・は・・・せ・・・』と寝言を呟いた彼女。
 か、可愛い。
 すげえ可愛い。
 他にも何か寝言言うかな?
「お嬢様、お嬢様・・・」
 何だか楽しくて更に小声で声をかけてみると、しばらくの沈黙の後、また何やらむにゃむにゃ寝言を呟いたお嬢様。
「・・・やせ・・・。おかい・・・も・・・」
 ほえ?『おかいも』??
 はにゃ?・・・あぁ!
 お買い物のことか。
「はい。一日でも早く退院して、お嬢様をいーっぱいお買い物にお連れしますからね。」
 ふふふっ。可愛い。
 優しく髪を撫でると、ふわっと香るシャンプーの香り。
 どこのシャンプー使ってるんだろ。すごくいいにおいだ。 
 髪を撫でる俺にも全く起きる様子の無いお嬢様は、まるで眠り姫のよう。
「童話にも出てこないんじゃないか?こんな綺麗で可愛いお姫様。」
 ほんと、すごくすごく可愛い眠り姫。
 童話だと、眠った姫は王子のキスで目が覚めるんだよな。
 そっと指を伸ばして軽く触れたお嬢様の唇。
 それは、とても柔らかだった。
 キスが・・・したい。
 眠る彼女の頬に軽く手を当て心の奥で思った次の瞬間、自分の顔はお嬢様とのキスまであと一センチのところに迫っていた。
 はっ!
 寸前で我に返り、慌ててがばっと彼女から離れ視線を逸らした俺は、自分の口に手を当てた。
 俺・・・今・・・。
 自分のとった行動を詳細に思い出した途端、手はカタカタと震えだした。
「やばい・・・俺、もう少しで・・・一番大切な人を、汚してしまうとこだった・・・。」
 眠ってるお嬢様にキスしようなんて、これじゃ宮野のやってたことと、ちっとも変わらねえ。
 何やってんだよ、俺。
 自己嫌悪に陥っていたその時、バサッと何かが落ちる音がした。
 え?
 反射的にお嬢様へと視線を戻した俺は、次の瞬間・・・一気に顔がカーッと熱くなった。
 だって、そこには・・・下半身は下着一枚で上半身はノーブラにキャミソール姿のお嬢様。
 しかも、キャミソールが捲れてマシュマロのような胸がもろ露出状態。
「んぎゃっ!」
 む、胸が・・・。俺の女神様の神聖なお胸が・・・。
 すっかり興奮状態の脳みそとセミヌード状態のお嬢様のおかげで、身体はとんでもないほど反応しまくり。
 ダメだ、身体が火照る。
 お嬢様・・・君は、十分すぎるほど『大人の女』だよ。
 だって、俺・・・もう我慢できない。(特に下半身が・・・)
 ダメだ、堪えろ拓海。そこをぐぐっと堪えるのが『大人の男』だ・・・。
 自分自身と葛藤してる最中、お嬢様がころんと寝返りを打った拍子にソファから落ちかけた。
「危ない!」
 思わず声に出してお嬢様の身体を止めた瞬間、手にむにゅっと当たった柔らかいもの。
 こ、これは・・・。
 確認するようにもう一度手を動かすと、やっぱりむにゅむにゅと柔らかい感触。
 ひっ!も、もしやこのお方は・・・。
 そ、それに左手に感じるこのあったかい場所様は・・・。
 恐る恐る自分の右手と左手へ交互に視線を落として見たものは・・・。
「うはっ!!」
 驚き慌てて立ち上がったと同時に、背後にあったテーブルで『ガンッ』と思いきり腰をぶつけてしまった。
「うがっ!くおぉ〜〜〜〜っっ!!!!」
 い、いだい。痛すぎる。死ぬ。 
 あまりの痛みに声をあげてしまったのを、慌てて片手で押さえ息を潜めた。
 うぐっ!まずい、お嬢様が起きてしまう。
 でも、腰が・・・いだい。
 腰を擦りつつしばし沈黙でお嬢様を見下ろすが、お嬢様が目覚める様子はない。
「ふぅ・・・良かった。」
 それにしても、びっくりした。
 女神様の神聖なお胸を・・・じ、直揉みしてしまった。
 その上、女神様の聖地を・・・し、下着の上から触ってしまった。
 うぅぅ〜〜〜〜、早瀬 拓海、25年間生きてきた中で今一番幸せかも。
 いや、間違いなく、今一番幸せですぅ〜〜〜〜〜!!!!
 はっ!感動してる場合じゃない。
 お嬢様に布団をかけねば、風邪ひくじゃないか。
 急いで落ちた布団を拾い上げ、お嬢様にかけようと改めて彼女を見やると、とんでもなく無防備なお姿で寝ているお嬢様。
「お嬢様・・・、ここにいるのが私じゃなかったら、襲われてますよ。って言うか、出来うるなら私も襲いたい。なんて、嘘ですよ。おやすみなさいませ、俺の愛しい愛しいお嬢様。」
 ほんと、出来るなら君の身体をこの手で抱きたいよ・・・。
 そんなの一生無理だけどさ。
 お嬢様に布団を被せた俺は、そっと立ち上がり・・・自分の身体の熱を下げるべく病室を出た。

 再びロビーのソファに腰を下ろした俺は、ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
「ふぅ〜・・・。悠斗も帰って来ないし、これじゃ、部屋に戻れねえじゃん。今晩は、ここで過ごすか。」
 自分の両手へ視線を落とし・・・思い出して真っ赤になっていると、ふいに声が聞こえた。
「へぇ、やっぱお前も煙草吸うんだ。」
 え?
 誰もいないと思っていただけにびっくりして振り向くと、そこにいたのは悠斗。
「ゆ、悠斗様。」
 いつの間に傍にいたんだ。おばけか、こいつは。
「俺も吸っていい?あ、火貸してくれよ。」
 俺の隣りに腰を下ろした悠斗は、煙草を咥えて火の催促をした。
「あ、はい。どうぞ。」
 ライターを出して火を貸すと、悠斗は『ふぅ〜。』とうまそうに煙草を吸っていた。
「遅かったですね、悠斗様。」
 煙草を吸いながら声をかけると、悠斗はちらっと俺を見返し口を開いた。
「ん?あぁ、貸してた本を返してもらったのと、後は合コンの話しで盛り上がってたら遅くなった。」
「ご、合コンですか。そんなの行かなくても、いっぱい寄ってくるくせに。」
 にへにへ顔の悠斗に突っ込むと、『今度やるんだけど、お前も行く?』と誘われた。
「行きませんよ!」
 何で俺が、お前と合コン行かなきゃなんねえんだよ。
 つい即答してしまった俺に、悠斗がおかしそうに笑い出した。
「そんな即答せんでも。」
「悠斗様が変なこと言うからでしょうが。」
 俺は、お嬢様オンリーなんだ。お嬢様以外は、女じゃねえ。
 つんと顔を背けて煙草を吸っていると、悠斗が再び口を開いた。
「そういやお前、何でここにいるんだ?もうとうに0時過ぎてるぞ?寝ないのか?」
 ぎくっ。
「ね、寝ますよ。煙草吸ったら。」
 言えない。
 『お嬢様と二人っきりだと、欲情マックスすぎて襲いたくなるから出て来た』なんて、こいつには口が裂けても言えない。
「ふ〜ん。とか何とか言って、月華と二人っきりだと『男』になりそうなんじゃねえの?」
 にまにまと視線を細めて図星を言い当てた悠斗に、俺は煙をむせ込んだ。
「げほっ、げほっ・・・」
 こいつ、すげえ鋭い。
「は〜ん、図星か?ま、あいつの寝顔可愛いからなぁ〜。そりゃ、欲情するよなぁ〜?早瀬くん。」
 嫌味たっぷり意地悪満開の悠斗。
 うぐぐぐ〜〜〜・・・。
「そ、そんなんじゃありません!失礼な。もう寝ます。」
 くすくす笑う悠斗に捨て台詞を吐いてソファを立った俺は、吸いかけの煙草を揉み消し・・・悠斗を置いて部屋へと戻った。
 くそっ、悠斗の奴。
 
 不機嫌満開で病室のドアを開けて中に入ると、真っ直ぐベッドに向かい潜り込んだ。
 う〜〜〜、悠斗のボケ。
 俺がどんなに『男を抑制』されて苦しんでると思ってるんだ。
 俺だって男なんだぞ。愛しい女がこんな傍で、しかもあんな格好で寝てたら欲情マックスになるに決まってんだろーが!
 襲いたくなるに決まってんだろーが!
 がう〜〜〜。
 それを・・・それを・・・あんなにまにま顔で嫌味たっぷりに言いやがって〜〜。
 許せん。いつかきっと仕返ししてやる。
 ひとり布団の中でメラメラと怒りに燃えていると、静かにドアが開いた。 
 むっ、帰って来やがったか。
 寝たフリをしてちろっと布団から目だけ出し様子を伺っていると、悠斗は真っ直ぐお嬢様の元へと歩いて行った。
 どうやら俺のことは、寝たと思ってるらしい。
 お嬢様の傍で足を止めた悠斗は、眠っている彼女の傍らに膝をつき・・・、そっとその唇にキスをした。
 え・・・。
「おやすみ、月華。」
 小さく囁いた悠斗は、向かいのソファに寝転ぶと、何事も無かったかのように布団を被って眠りに落ちてしまった。
 な、何だ?今の。
 おやすみの挨拶か??って言うか、兄妹でそんな挨拶普通するか??
 いや、財閥のお嬢様、お坊ちゃんだし・・・有り得るのか??
 むぅ〜〜。
 ポフッと布団を頭から被った俺は、悠斗の行動の意味を必死に考えた。
 何だったんだ、あれは。
 気になる。
 無性に気になるぞ。
 
 結局その晩、違った意味で一睡も出来なかった。


こんばんわ、九条です。
次回もなるべく早く更新出来るよう頑張ります。











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