7代目はお嬢様に恋をする。(23/77)PDFで表示縦書き表示RDF


7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【23話】 幼馴染 (前)


 6月に入って最初の日曜日。


「ねえ、拓海くん。次、何のアトラクション入ろうか?」
「ん〜、月華の好きなところでいいよ。」
「え〜〜、せっかく一緒に来たんだから、拓海くんも好きなところ言ってよ〜〜〜」
「だって俺は、月華と一緒にいられればそれでいい…」
「私も、拓海くんと…」

 
 やかましいほどの音に目を開けると、枕元でケータイが鳴り響いていた。
「夢…」
 そうだよな、現実でそんなことが起こる訳が無い。
「…にしても、誰だよ!俺の幸せな夢の邪魔をする奴は!!お嬢様の言葉を最後まで聞けなかったじゃないかぁ――っっ!」
 あぁ〜〜、お嬢様はあのあと何て言ったんだろう。気になる。
 不機嫌いっぱいで枕元のケータイを掴むと、かけてきた犯人は涼太。
「涼太ぁぁ〜〜〜」
 何だよ、こんな朝っぱらから。それも今日は日曜だぞ!ゆっくり寝かせろよ。って言うか、お前がかけてこなかったら、お嬢様の言葉を聞けたんだぁ――っっ!
 う〜〜〜。
「何の用だ。俺はお前に用は無いぞ。」
 出るなりむすっとした口調で言葉を吐くと、電話の向こうの涼太が縋るような口調で言った。
―「拓海ぃ〜〜、今すぐ自動ドアを開けてくれぇ〜〜〜」―
「はぁ??自動ドアを開けろ…って。まさかお前、マンションの一階にいるのか!?」
 嘘だろ。今何時だよ。
 驚いて時計を確認すると、午前9時。
 …あっ、9時か。
―「お願いだから開けてくれぇぇ〜〜」―
「はいはい、分かった。開けてやるから待ってろ。」
 渋々ベッドから抜け出してリビングに向かい、モニター付きインターホンと一緒についてる自動ドアのロックを解除した。
 やれやれ。
 う〜んと伸びをしてベランダへ出るガラスドア越しに外を眺めれば、文句なしの快晴。
「そっか、今日はお嬢様のデートの日だっけ。TDLって言ってたな。だから、あんな夢を見たのか。はははっ。」
 バカだな、俺。

 『宮野くんと付き合ったら、私にもそんなドキドキあるかなぁ。』
 『大丈夫。きっとありますよ。』

「あって欲しくないな…、そんなドキドキ。」
 深いため息をついてからキッチンでコーヒーの準備をしているところに、玄関のチャイムが連打された。
 むっ。
「あいつはガキか。ったく。」 
 ブツブツ言いつつ玄関の鍵を開けてやると、ドアが開いたと同時に涼太が俺に抱きついた。
 えっ!?
「おお〜〜っ、マイスイートハニ〜〜!会いたかったよぉ〜〜〜」
「誰がスイートハ二ーじゃ!!!離れろ涼太っっ!!気持ち悪いだろうがぁー!!」
 必死に涼太を突き放そうとするのに、抵抗されて思うようにいかない。
 うぐぐぐ…。バカ力涼太め。
「照れるなよぉ拓海ぃ〜。一緒にお風呂に入った仲じゃないかぁ〜。」
「お前はいつの頃の話をしとるんじゃーっっ!!んなもん、保育園行ってた頃か、小学校の低学年の話しだろうがぁ〜〜!!」
「でも、一緒に入ったのは事実じゃん〜。」
「ええい、離れろぉぉ〜〜!!はぁ…はぁ…はぁ…んんっ??…何だその荷物は。」
 思いきり涼太を突き放して荒い呼吸をしながら視線を落として見たものは、何やら大きなキャリーバッグ。
 むむっ。何故か、無性に嫌な予感がするぞ。
「これ??これは、『涼太くん用数週間お泊りセット』だ。にへへへ。不束者ですが、今日からお世話になります。」
 ペコッと頭を下げて挨拶をした涼太は、俺の返事も聞かずキャリーを持ち上げいそいそと部屋に上がりこんだ。
 えっ!?
 ちょ、ちょっと待て!!お世話になりますって…。

「おい、こらぁ――っっ!!勝手に上がりこむな!!俺はまだ許可しとらんぞ!!」
 慌てて涼太を追っかけリビングにズカズカ戻ると、彼はにこにこご機嫌な様子で『俺の部屋は何処でもいいから〜』と言いつつ既に荷物を広げていた。
 はぁ〜…、遅かったか。
「分かった分かった。許可してやる。その代わり、ちゃんと理由を聞かせろ。」
 ソファに深く腰を下ろしてため息まじりに言うと、涼太が俺をちらりと見てから口を開いた。
「親父と喧嘩したんだ。」
「おじさんと喧嘩…って。またかよ。で、今度はどんな喧嘩だ?どうせ、しょうもないことなんだろ。」
 深刻な理由でないと分かった瞬間、俺はコーヒーを入れるために立ち上がってキッチンへ向かった。
「いや、今度のはいつもとは違うんだ。これから先の話しだよ。うちの会社のこと。」
 え?
「会社の?」
 コーヒーを二人分用意しながら聞き返すと、涼太がこくんと頷いた。
「そう。ほら、うちの親父って沢村グループ傘下の会社ひとつ任されてるだろ?そのことなんだ。」
「そのこと?…あ、ほれ、コーヒー。」
 大きなため息を吐いた涼太に聞き返しながら、入れたてのコーヒーを手渡し俺はソファに腰を下ろした。
「あぁ、さんきゅ。そう。今は、俺も他の社員と同じように、親父の会社で普通に働いてるじゃん?でも、それを辞めろって言うんだ。『お前は次期社長になる人間なんだから、そろそろ自分の秘書としてついて仕事を覚えろ』ってさ。『社長になるつもりは無いから今のままでいい。』って言ったら、大喧嘩。で、ここに避難してきたってわけ。」
 そう言って苦笑いをした涼太は、コーヒーをうまそうに一口飲んだ。
 次期社長になる為…。
「そっか、お前一人っ子だもんな。けど、何で社長になりたくないんだよ??俺みたいに、『ヤクザの7代目』になるわけじゃないんだから、なればいいじゃん。」
 そうだよ、お前は俺なんかとは全然違うんだぞ。最初から恵まれてるんだ。
 じっと見据えて言うと、涼太がふっとため息を吐いた。
「嫌なんだよ俺、そういうの。」
 え…?
「嫌って、何がどう嫌なんだよ??」
「俺は、別に『社長』になりたい訳じゃないんだ。そんなの興味無いし。しかも、会ったことも見たことも無い、どこぞのいいお屋敷のお嬢さんとそのうち結婚させられるなんて、最悪すぎだぜ。俺はただ、今のままサラリーマンやって、好きになった女と一緒になって、ごく普通に幸せな家庭を築きたいだけなんだ。」
 ぶすっとふくれた涼太は、まだ熱いコーヒーをゴクゴクと飲み干してしまった。 
「…羨ましい…悩みだな。」
 小さく小さく呟いた俺に、涼太が『へ?何か言った?』と聞き返した。
「あ、いや、何でもない。お前にはお前の悩みがあるんだなぁ〜と思っただけだ。」
「そうそう、俺にもいろいろあるんだよ、拓海くん。」
 慌てて言い変えた俺の言葉で、涼太は腕組みをしてうんうんと深く頷いていた。

 会ったことも見たことも無い、いいお屋敷のお嬢さんとそのうち結婚させられる。
 そんなの最悪…か。

 それは、お前が社長の息子だから言える科白だよ。
 俺はお前がすごく羨ましいよ、涼太。だって敷かれたレールを進めば、お嬢様に近い身分まで簡単に行けるんだから。
 でも俺は違う。
 俺の辿りつく先は『ヤクザの7代目』。
 何処まで行っても、お嬢様には近づけない。離れていくか、ずっと使用人か…。
 そのどちらかしか無いんだ。
 どちらかしか…。
 コーヒーカップを見つめて無言でいる俺に、涼太が明るく声をかけた。
「なぁ〜拓海〜、今日天気いいしどっか行かないか??」
 へ?
「あ、あぁ。いいけど。何処行くんだよ、野郎二人連れで。」
 ナンパなら断るぞ。
「へへへ。TDL〜。」
 にへにへ顔で答えた涼太の科白に、俺は一瞬耳を疑った。
 TDL??TDL!?
「はぁ??ふざけてんじゃねえぞ!!何でそんなとこに、お前と行かなきゃなんねえんだよ!!」
 TDLって言えば、お嬢様が今日デートしてる場所じゃないか。そんなところに行きたくないぞ。
 仲良さそうにあいつと歩いてるお嬢様なんて見たくない。
「いいじゃん。会社の連れに貰ったんだよ、TDLのパスポート。女の子と行く予定してたのが断られたんだってさ。で、俺のところに回ってきたんだ。ほれ。」
 ペラペラと二枚のパスポートを俺に見せて笑う涼太。
「だったら、俺じゃなくて女の子誘って行けばいいだろ。」
 誘う女はアホほどいるだろうが。
 何で俺を誘うんだ。その意味が分からん。
 俺は絶対行かないぞ!
「彼女いないんだから仕方ないじゃん。行きたい女もいないし。なぁ〜〜行こうよ〜〜。なぁなぁ〜。拓海ぃぃ〜〜。」
「嫌だ。」
「なぁ〜〜。行こぉ〜〜」
「絶対行かねえ!!」
「何でだよぉ。行けば、超可愛いキャラクターがい〜っぱいいるんだぞ。な?行きたくなってきただろ??」
「男とは行きたくない。」
「たくみぃ〜〜、行こぉぉ〜〜」
「行かねえって言ったら行かねえんだ!!」
 パスポートを握り締めて瞳を潤ませ必死に頼み込む涼太に、俺は断固拒否をした。
「何でだよ。行きたくない理由でもあるのか??」
「ある。好きな子が、今日行ってるんだ。」
 コーヒーを一口飲んで平然と答えると、涼太がそれを聞いて一気に目を輝かせた。
「おおっ!例の本命か!?だったら、余計行こうぜ。お前の好きな子見てみたい〜。行って声かけりゃいいじゃん。な??」
 そう言って俺の隣に来てにへにへする涼太に、俺はふっと笑った。
「ば〜か。声なんかかけられる訳無いだろ。彼女、今日デートなんだ。他の男と。」
 さらっと言いのける俺を横で見ていた涼太は、一瞬言葉に詰まったものの、真剣な顔で口を開いた。
「…何でそんな顔するんだよ、お前。本命なんだろ??本気で好きな女なんだろ??その子が、他の男とデートしてるんだろ??なのに、何でそんな平気そうな顔するんだよ??」
 腕をぐっと掴んで詰問する涼太から、俺は腕を振り払った。
「仕方ないだろ。だって、別に俺の彼女って訳じゃないし。誰とデートしようが、俺には何も言えないよ。まぁ、とにかくそういうことだから、TDLは中止な。」
 笑顔で言い置きソファを立った俺の腕を、涼太が再度掴んだ。
「中止は別に構わないけど。それより何でお前、その子にちゃんと『好きだ。』って言わないんだよ??言わなきゃ何も始まらないんだぞ??そんなのお前だって分かってるだろ??」
 どうも納得いかない様子の涼太が、じっと俺を見上げて強い口調で言った。
 涼太…。
「分かってるさ。でも、これから先も言うつもりは無いよ。ずっと片想いのままだと思う。」
 そりゃ俺だって、言えるものなら『好きだ』って言いたいし、『お嬢様の彼氏』にだってなりたいさ。
 でも俺は、お嬢様にとってただの使用人なんだ。
 この間だって、倒れそうになった彼女を支えるために抱きしめただけで、逃げるように走って行かれてしまった。
 だから俺の場合は、言ったって何も始まらないんだよ、涼太。
「ずっと片想いってお前…ぐぅぅぅぅ〜〜…あっ。」
 途中まで言いかけた涼太のお腹が、突如空腹を訴えた。
 その音を聞いた瞬間、つい笑いが込み上げてしまった。
「あはははっ。何だ、お前も朝飯食って無いのか?じゃあ、トーストと他に何か作ってやるよ。」
 涼太の手を放してキッチンへ向かうと、『おぅ。』と素直に頷いた涼太は、ソファにちまっと座ってTVを観ていた。   
 
「そうだ、涼太。TDLの代わりにDVDでもレンタルしてきてうちで観るか?」
 トーストとスクランブルエッグとサラダを準備しながら声をかけると、涼太が俺へと視線を移した。
「おお!観る!最近映画なんか観に行って無いし、観たいのがいっぱいあるんだよ。それ賛成〜。いいこと言うじゃん、マイハニ〜。」
「誰がお前のハニーじゃ!気色悪い。…ま、今日TDLに行けなくなったのは俺のせいだし、レンタル代は俺が出してやろう。好きなだけ借りろ。」
 苦笑とため息まじりに言い返した俺の傍へ、涼太がご機嫌にやって来た。
「おお〜♪、好きなだけ借りていいのかぁ??ハニー、君は何て太っ腹〜。」
 そう言って背後から抱きついてきた涼太は、俺のお腹をポンポンと叩いた。
「ぎゃっ、離れろ!!メシの準備が出来ないだろうが!!」
 ジタバタともがいていると、涼太がひょいっとサラダに乗せたハムを奪ってパクッと口に頬張った。
「うまい。」
「あっ!!何で食うんだよ!!このハム無しのサラダはお前のだからな。」
 ポテトサラダとトマトとレタスしか入っていないサラダを指差して言うと、涼太が『え〜〜、ハム乗っけてくれよ。ハム〜〜ハム〜〜』と何度も言ってすねた。
 はぁ…。
「はいはい、分かったから耳の傍でブチブチ文句をたれるな。」
 涼太を背中にくっつけたまま冷蔵庫からハムを取り出し、一枚切ってサラダに乗せると『おお!』と涼太が声をあげた。
「これでいいんだろ?ほら、出来たからお前もさっさとテーブルへ運べ。」
「ありがと〜ハニ〜。お礼に…」
「礼なんぞいらんから、自分の…っっ!!んん――っっ!!」
 “自分の分くらい運べ”と命令しようと左へ顔を向けた瞬間、目の前には涼太の顔があった。
 しかも…、しかも…
「うぎゃあぁ――っっ!!」
「うわあぁ――っ!!何でこっち向くんだよ拓海ぃ―っっ!!お礼に、シャレでほっぺにちゅうしてやろうかと思っただけなのにぃ〜〜」
 思わず涼太と二人して、数メートル離れてしまった。
 ほ、ほっぺにちゅうだとぉ〜〜!?
「何処が『ほっぺにちゅう』だ!!まともに口だったじゃねえか!!」
 きゃんきゃん吼える俺に向かって、負けじと涼太も吼えた。
「だから、それは拓海がこっちに向いたのが悪いんじゃないか!!俺だって、男となんかキスしたくないってんだよ!!」
「俺のせいにするのか!?お前は!!」
「だってそうだろ!!お前がこっち向かなかったらこんなことにならなかったんだ!!お前のせいだ!!」
「何を〜〜っ!」
「悪いのは拓海だぁ――っっ」
 
 しばらく互いに『がうぅ〜〜』と睨み合ってからペタンと床にへたり込んでしまった。
「腹減った…」
 怒鳴ったら余計に腹が減ったぞ。
 ぼそっと呟いた俺を見て、涼太が苦笑した。
「俺も腹減りすぎて死にそう。…ぐぅぅぅ〜〜きゅるるる〜〜」
 鳴いてるお腹を両手で押さえて更に苦笑いの涼太。
 時計を見れば、すっかり朝飯と言うより昼飯に近い時間。
「あと3枚ずつくらいハム切って食うか?」
 にへっと笑みを浮かべて涼太に尋ねると、『賛成!』と即答された。
 そうして、ハムを増量したサラダとともにテーブルへ運び、ようやくブランチにありついた。


 午後。
 メシの後の休憩をしながら、ふとお嬢様のことを思い出した。
 今頃、時間をずらして昼食してる頃かな?それとも、もう食べ終わって遊んでるのかな?
 お嬢様は、お昼ご飯何を食べたんだろう。普段いいもの食べてるから、やっぱりそういった物を食べてるんだろうなぁ。
 はぁ〜…、何か頭の中はお嬢様のことでいっぱいだ。
 宮野と、どんなデートしてるのかもすごく気になる。ダブルデートって言ってたけど、きっと別行動だろうし…。
 そういやその宮野って、確か高校からずっと友達だって言ってたよな??何で今頃、友達から彼氏になりたいなんて言い出したんだろう?
 好きだったなら、高校の頃に言えば良かったじゃないか。
 それとも、単に高校の頃には『好きだ』って言い出せなかっただけ?
 いや、何だか、そうじゃないような気がするのは俺だけなのか…?
「…拓海のボケ〜〜…」
 むっ。
 突然の科白にキッと目じりを吊り上げ視線を移すと、ソファに寝転んで気持ち良さそうにむにゃむにゃ寝言を呟いてる涼太。
「何だ、寝言か。」
 寝室に行ってタオルケットを二枚持ってくると、一枚を涼太にかけてから向かいのソファに寝転んで、もう一枚を自分にかけた。
「俺も少しだけ寝るか。何だか…眠い…」
 今朝の続きが見れればいいのにな…。
 そんな願望を抱きつつ、ウトウトと眠りに落ちた。



 どのくらい寝ていたのか、目を覚ますとベランダから差し込むのが夕日に変わっていた。
「ん?あ、起きたか??お前、よく寝てたなぁ。そんなに寝たら夜寝れないんじゃないか??」
 音を小さくしてゲームをしていた涼太が俺を顧みて言った。
「あぁ、そうかも。ちょっと寝すぎた。」
 もぞもぞと起き上がってみると、涼太にかけていたタオルケットが俺の身体にかけてあった。
 かけてくれたのか、こいつ。
「なぁ、拓海。『お嬢様』って誰?」
 え!?
 突然の涼太の質問に焦ってしまった。
 まずい、俺なにか寝言を言ったのか??
「何でだよ?」
「ん?あぁ、ちょっと前に寝言で言ってたから。『お嬢様、ダメです。お気をつけ下さい。』って。」
 うげっ。
 あっさりと返してくれた涼太に、一瞬頭は真っ白になった。
 まずい、そんなこと言ってたのか!?何とかうまく誤魔化さねば。何とか…。
 う〜〜ん、う〜〜ん…。
 はっ!そうだ。
「あぁ、えっと、それはきっと夕べ本を読んでたから、その夢を見たんだ。うんうん。」
 苦笑まじりに苦しい説明をする俺に、『何だ、そっか。』と涼太は素直に頷いていたようだった。
 ふぅ…、助かった。
「それより拓海、そろそろDVDのレンタルに行こうぜ。」
 ゲームをやめた涼太が、俺に笑顔で誘った。
「あぁ、そうだな。」
 とりあえず顔を洗ってしっかりと目を覚まし、涼太と二人で部屋を出て近所にあるレンタルショップへと徒歩で向かった。

 
 レンタルショップの帰り道―…。
 結局、レンタルしてきたDVDは全部で7本。
「お前、いつまでうちに居つく気だよ?」
 にこにことご機嫌にDVDを抱える涼太に素朴な質問を投げかけると、彼はにへっと笑みを浮かべた。
「帰りたくなるまで。」
 はぁ??
「…で、それは、いつ頃になる予定なんだよ?明日か?明後日か?」
 腕組をして呆れ尋ねる俺を見ながら、『今のところ予定なし〜』とにこやかに返す涼太。
 予定なしって。
 お前は、うちから会社に通う気なのか。
 肩を落として大きく落胆する俺を、涼太がポンポンと叩いた。
「そんなに落ち込むなよ、ハニー。今晩から、僕が夜のお相手になってあげるからさ〜。どうせハニーのことだから、右手とお友達にはなってないんだろ??だから、この僕の身体を思いきり抱かせてあげよう〜。」
 にまーっと笑う涼太の頭を思いきりバシッと叩くと、涼太は頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「いてぇ〜〜。何で叩くんだよ。冗談なのに〜〜。」
「お前の冗談はムカつくんだ。」
「ひどいよ、ハニー。」
「ハニーって言うな!!もう一発ぶん殴ってやろうか??」
 拳を握って見せる俺に、涼太がぶんぶんと首を振った。
「いえ、結構です。」
 丁重にお断りをした涼太は、すっと立ち上がりてくてくとマンションに向かって歩き出した。
 まったく、疲れる奴だ。  












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