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7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【19話】 本音・・・?


 5月18日。金曜日。
 今日は俺の25回目の誕生日。と言っても親父たちは出かけてるし、誰も祝ってくれる奴なんていない。
 涼太でも誘って、無理矢理祝ってもらおうかなぁ・・・。
 何かそれって、寂しすぎる気もするけど。

 夕方。
 いつもの如く駐車場でリムジンを拭いていると、ケータイが鳴った。
「はい。」
―「拓海ぃ〜。はっぴ〜ば〜すで〜!!ひゅ〜ひゅ〜。これで俺より一つ親父になったな。けっけっけ。」―
 電話の向こうで笑うのは涼太。
「はいはい。おかげでひとつ親父になりました。それはそうと、何か用じゃないのか?」
―「そうそう。今夜さぁ、お前の為に合コン開いてやろうかと思ってさ。だってお前、片想いの子に未だに告ってないじゃん。今夜は、その子のこと忘れてパァ〜っと騒ごうぜ。な?」―
 いい加減そうに聞こえる涼太の言葉。でも、これがこいつなりの優しさなのは、俺が一番分かってる。
「あぁ、それもいい・・・」
 途中まで言いかけたところで、駆けて来るお嬢様の姿を捉えた。
「あ、悪い涼太。後でかけ直す。」
 慌てて電話を切った直後、お嬢様が俺の前に来て『はぁ、はぁ。』と息を切らした。
「お嬢様。いかがされました?」
 そっとケータイをポケットに入れながら尋ね返すと、お嬢様が両手を合わせた。
「早瀬、お願いがあるの!!今夜大学でね、同じ学部の子たちだけで交流会みたいなのがあるの。それで、大学まで送ってもらえないかな??」
 えっ・・・。それって、残業・・・?
 今日は、俺の誕生日・・・。
「はい。分かりました。ではお送り致します。」
 仕方ないか。
「あっ、もし無理ならいいよ?早瀬にだって予定とかあるだろうし。」
 そう言いながらも『何とか、お願い!』と言いたそうなお嬢様の瞳。
 そんな縋るような瞳で見られたら、断れるわけないじゃないか。
「いえ、大丈夫です。特に予定はございませんから。」
 にこっと笑顔で答えると、お嬢様はほっとした顔に変わった。
 せっかくの涼太の誘いは、断らざるを得ないな。
 誕生日に残業か・・・ますます寂しい。
「ほんと?じゃあ、6時に出かけるからお願いね。」
 笑顔でそれだけ告げた彼女は、屋敷へいそいそと戻って行ってしまった。
 彼女の姿が遠くなってから、さっそく涼太に電話を入れた。
「もしもし、涼太。」
―「ほい。で?どう?俺の企画。」―
「それさ、行けそうにない。仕事、残業しないといけなくなったんだ。すまん。せっかく企画してくれたのに。」
―「そっか、それじゃあ仕方ないなぁ。合コンはまた次回ってことにするよ。」―
「あぁ、ごめん。じゃ、仕事の途中だから切るぞ。」
 電話を切ってまず出たのは、ため息。
 さて、6時までに綺麗に拭き終えないと。

 6時。
 屋敷の玄関前にリムジンを止め傍らで待っていると、お嬢様が玄関から姿を現した。
「ごめんね、早瀬。無理なお願いして。」
「いえ。どうぞ。」
 申し訳無さそうな顔で謝るお嬢様に笑顔で答え、後部座席のドアを開けた。
「ありがとう。」
 そう言ってスッと車に乗り込んだ彼女。
 ドアを閉めて運転席に乗り込んだ俺は、お嬢様に言われたとおり大学へと向けて走らせ始めた。

 大学まで向かう途中、お嬢様が俺に声をかけた。
「早瀬、交流会終わるの9時頃みたいだから、一旦屋敷に戻って待っててくれていいよ。終わったら、早瀬のケータイに電話入れるね。」
 にこっと笑いかける彼女に、同じように笑顔で『はい。』と返した俺。
 交流会でお嬢様と『お近づきになろう』って企んでる奴、いっぱいいるんだろうな。
 しかも、『彼氏候補』と言えば聞こえのいい、可愛いお嬢様を狙う『ただのハイエナ野郎』がアホほどいるに違いない。
 ムカつくぞ。
 俺だってお嬢様の『彼氏候補』の一人に入りたいのに・・・。
 屋敷で待ってろなんて、お嬢様ひどい・・・。
 ふぅっとため息を吐いた俺を見ていたお嬢様が、再び声をかけてきた。
「どうかしたの?早瀬。もしかして、やっぱり予定あった??」
「いえ、ありません。楽しんで来てください、お嬢様。」
 ミラー越しににこっと笑って答えると、『楽しいかどうか分からないけどね。』とお嬢様は苦笑した。
 
 しばらくして大学に到着すると、ぞろぞろと学生たちが門をくぐって行く。
「みなさんお集まりのようですね。」
 車を降りようとドアに手をかけつつ声をかけると、お嬢様が外を見ながら頷いた。
「うん。ほんと。ちょうどいい時間だったみたい。じゃあ、ちょっと行って来るね。」
 自分でガチャっとドアを開けたお嬢様は、車から降り立ち・・・バンッとドアを閉めた。
「お嬢様、ドアは私が・・・」
 慌てて車を降りた俺に、お嬢様はにっと笑った。
「前にも言ったでしょ?ドアくらい自分で開けられるって。じゃあ行って来るね。」
 そう言ったお嬢様は、俺に手を振って行ってしまった。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」
 走って行く彼女の後姿に頭を下げて見送った俺は、そそくさと車に乗り込み・・・屋敷へ戻る途中、ファーストフード店で夕食のハンバーガーを買い込み帰った。

 屋敷の待機室でひとりテレビを観ながらハンバーガーを頬張り、深い深いため息をついた。
「はぁ〜・・・、誕生日に残業で・・・挙句、夕食がハンバーガーって・・・めちゃめちゃ寂しすぎだな。」
 ちらりと時計を見ると、9時までにはまだかなり時間がある。
「今頃始まって楽しくやってるのかな、交流会・・・。案外、そういうので彼氏って出来たりするんだよな。」
 お嬢様も、そうなるのかな。
 出来れば、そうなって欲しくない。
 食いかけのハンバーガーを置いてアイスティーをすすっていると、部屋のドアが軽く叩かれた。
「はい。」
 返事をして振り返ると、いたのは悠斗。
 うぎゃっ、また出た。
「よぉ。月華に聞いたぞ。残業させられてるらしいじゃないか。」
「何ですか?嫌味でも言いに来たんですか??それとも、いじめに来たんですか?」
 ハンバーガーをかじりながら聞き返すと、悠斗は俺の横のソファに腰を下ろした。
「いや。差し入れに来たんだ。ほれ。」
 そう言って悠斗がテーブルに置いたのは箱。
 んん??
「何ですか?これ」
「開けてみ。」
 問いかけた俺に対して、ソファにもたれ煙草を吸いながらにやっと笑う悠斗。
「はぁ。」
 言われるままに開けてみると、箱の中身はケーキだった。
 え・・・。
 驚いて悠斗を見返すと、にっと笑みを返された。
「25周年・・・だろ?今日。履歴書に生年月日書いてあったからな。」
「それで、私に・・・?何か企んでるでしょう??」
 だって信じられん。こいつがこんなことするなんて。絶対何か裏があるに違いない!
 例えば、わさびやからしが入ってるとか。
 有り得るぞ。
「疑り深い奴だな。わざわざうちのパティシエに作らせた極上にうまいケーキだぞ。素直に食え。」
 苦笑まじりに答える悠斗に、俺はどうしても信じられなくて疑いの眼差しを向けた。
「そんなこと言って、変な物が入ってたりするんじゃないですか??」
「入って無い。じゃあ、俺が一口食ってやる。」
 呆れたような顔で悠斗がフォークを握り、ケーキを少し切ってパクッと食べた。
「う〜〜ん、やっぱうちのパティシエが作ったのはうまい!」
 ご機嫌な顔で言った彼は、『どれ、もう一口』とケーキにフォークを伸ばした。
「ダメだ!俺が食うんだ!」
 すかさず奪い取った俺は、パクッとケーキにかぶりついて言葉を失った。
 うまい。うますぎる。こんなうまいケーキ食ったことない。
「うまいだろ??」
 にっと笑いかけて言う悠斗に、俺はケーキを頬張りながらこくこくと頷いた。
「取らないからゆっくり食え。」
 くすくす笑いながら言う悠斗を見て、俺は食べる手を止めた。
「あの、悠斗様・・・どうしてこのようなことをしてくださるのでしょうか?」
 ケーキを置いて尋ねると、悠斗がリモコンを掴んでテレビを消してから口を開いた。
「月華が、お前のことを平気で残業させたり休日出勤させたりしてるだろ。その侘びだ。」
 え・・・。
「いえ、それは私が私の意思でお引き受けしてるだけでして、お嬢様は悪くないと思います。」
 そうだ、お嬢様は悪くない。
 当たり前のように言った俺の言葉に対して、悠斗は『ふぅ・・・』っとため息をついた。
「それがダメなんだ。お前が優しすぎるから、月華がつけあがるんだ。無理な時は無理だとはっきり断れ。でないと、『言えば何でも自分の思うとおりになる』って思い込むだろ。それは、あいつの為に良くない。」
「ですが、私は使用人で、お嬢様は財閥のご令嬢なのですから・・・」
 ぼそっと突っ込んだ俺を横目に、悠斗が深いため息を吐いた。
「はぁ〜・・・。あのな、うちは確かに財閥だ。でも、だからって『使用人を人間扱せずこき使う』なんてことは、絶対しないようにしてるんだ。なのに最近のあいつと来たら・・・」
 腕を組み、やれやれとばかりに言った悠斗に俺は首を振った。
「いえ、お嬢様は、私をこき使うなんてことされてませんよ。」
 この前だって、『残業や休日出勤させてしまってるから。』ってお土産いっぱいくれたし。
「でも、今夜だって本当は予定があったんじゃないのか?お前。例えば、女とデートとか。誕生日だし、祝ってくれる女は山ほどいるだろ?」
 言った最後に悠斗は俺を見て視線を細めた。
「いえ。何も予定はありませんでしたから。それに、彼女いないの分かってて言ってるでしょう???」
 むっとして言い返した俺を見て、悠斗がにっと笑みを浮かべた。
「いや。さて、喉乾いたから、コーヒーでも飲むかな。へぇ〜、いないのかぁ、彼女。男前なのになぁ〜、もったいない・・・。」
 わざとらしく言ってにんまり笑った悠斗は、ソファから立ち上がりコーヒーの準備を始めた。
 むっ。
「あ、コーヒーでしたら私がご用意いたします。」
 慌てて立ち上がった俺に、悠斗は『そうか、じゃあ頼む。』と言って素直にソファに腰を下ろしてから言葉を続けた。
「まぁ、とにかくだ、あいつのことをあんまり甘やかすな。いいな??」
「はい、心がけます。」
 甘やかしてるつもりは無いんだけど、やっぱ俺ってお嬢様に甘ヶなのかなぁ??
 悠斗の言葉に返事をしつつ、俺はひとり考え込んでいた。 

「そう言えば、話しは戻るんですけど、悠斗様は彼女とデートはなさらないのですか?」
 コーヒーを入れながらさり気なく問うと、『するよ。どうでもいい女とな。』とあっさり返された。
 どうでもいい女って・・・。こいつ、以前の俺と同じか。
 女を本気で好きになるつもりないのか?
「本命はいらっしゃらないのですか?」
「本命??いるよ。ちゃんと。」
 何だ、いるんじゃん。
「でしたら、本命の方とデートなさればよろしいじゃないですか。」
 コーヒーを手渡しながら言うと、悠斗はコーヒーをすすってから軽く息を吐いた。
「本命とデートねぇ・・・。そんなもん出来りゃ、俺は今頃バラ色の人生歩んでるぞ。」
 自分で言ってくすくす笑った悠斗は、ソファにもたれて足を組み・・・俺の食いかけのケーキを一口パクッと頬張ってから、コーヒーをうまそうに飲んでいた。
 本命とデート・・・出来ないのか?
 こいつの本命って、そんなすげえ女なのか??けど、こいつって財閥のお坊ちゃんだろ?
 金持ちの女だろうが、女優だろうが、モデルだろうが、簡単に手に入るはずだ。
 ってことは、デート出来ない相手って・・・。
 俺と同じで、身分の違う女・・・??
 気になって悠斗をちらりと見やると、『ケーキ食わないなら俺が食うぞ。』とフォークをちらつかせて笑いかけられた。
 何でそんな平気そうな顔してられるんだ?好きなのにデート出来ないって辛くないのか?
 あれこれ考えてる俺を横目で見ながら、悠斗がケーキにそーっとフォークを伸ばした。
「うわっ、待った!!せっかく楽しみに残してるのに、ケーキ取らないで下さいよ!」
 ソファに戻ってケーキを取り上げた俺は、もぐもぐ食いながら『悠斗の本命の女』ってどんな女なんだろう・・・と、頭の中で想像を巡らせていた。

 悠斗とあれこれいろんな話をしていると、いつの間にやら時間はあっという間に過ぎていた。
 もう9時か。9時には終わるだろうから電話かけるって言ってたのに、まだ終わらないのかな。
 腕時計を見てひとりで考えていると、悠斗が『さて、屋敷に戻って風呂にでも入るかな〜。』と伸びをしていた。
 その時・・・。
 突然鳴り響いた俺のケータイで、悠斗が驚いて声をあげた。
「ぎゃっ!びっくりするだろ!!マナーモードにしとけよな!」
「はい、すみません。」
 謝ってからケータイの着信を確認すると、お嬢様からだった。
「はい、早瀬です。」
―「あっ、はやせ〜?わたしぃ〜。あのね、今終わったの〜。だからぁ〜、はやくきてね〜。」―
 電話の向こうのお嬢様は、間違いなく酔っぱらい。
 お嬢様、またお酒飲んでるのか!?しかも、かなりの量飲んでるぞこれは・・・。
 飲んじゃダメだって言ったのに。
「はい、すぐにお迎えにあがります。」
 電話を切った俺は、立ち上がってリムジンの鍵を手にした。
「月華、終わったって?」
 同じように立ち上がった悠斗が俺に尋ねた。
「はい。そのようです。なので、お迎えに行って来ます。」
「おぅ。じゃあ、俺は屋敷に帰ろう〜っと。」
 俺に軽く手を振った悠斗は、そのまま屋敷へと帰って行った。

 リムジンに乗り込み急いで大学まで飛ばし、ようやく到着した門前では・・・お嬢様が、自分と桜さんを入れて女の子4人と男の子4人とで何やら楽しげに話をしていた。
 女の子たちが全員相当飲んでいるのは、見ただけで分かる。
「お嬢様、お迎えにあがりました。」
 車を降りて頭を下げつつ声をかけると、かなり酔っぱらったお嬢様が俺を指差し女の子二人に言った。
「これが〜、うちの運転手の早瀬〜。は〜や〜せ〜、た〜く〜み〜!にへへ。」
「ね〜??私が言ったとおり、す〜っごくかっこいいでしょ〜。えへへへ。」
 お嬢様の後を続けるように、桜さんがにへらにへら笑いながら言った。
 さ、桜さん・・・お嬢様同様人格が変わってます・・・。
 怖い。
「きゃ〜〜!!ほんとだぁ〜〜〜〜、かっこいい〜〜。」
 お嬢様に言われて、同じく酔っぱらいな女の子二人が俺の傍に駆け寄って来てくっついた。
 ひっ!な、何だいったい。
「あ、あの、お嬢様。お帰りになるのでは?」
 きゃーきゃーとくっつかれたままお嬢様に問いかけると、へへっと笑って首を振られてしまった。
 えっ!?帰るんじゃないのか???
「あのね、これからみんなでカラオケ行くの〜。で、男の子たちは『リムジンで行きたい』って言うし、香奈ちゃんと那美ちゃんは『早瀬が見たい』って言うから呼んだの。えへへへ。だから、カラオケまで乗っけてってよ、早瀬〜。」
 にへにへ笑顔で話すお嬢様に俺は返す言葉が無かった。
 俺を見たいって女の子たちが言ったから・・・?カラオケまでリムジンで行きたいって男の子たちが言ったから・・・??そんなことで俺は呼ばれたのか??
 しかも、『リムジンで行きたい』ってことは、タクシー代浮かせる為にお嬢様をいいように使ってるだけじゃないか、こいつら。
「月華ちゃん〜、早く行こうよぉ〜。カラオケは月華ちゃんのおごりだろ〜??」
「そうそう、沢村さんのおごりだから今夜はオールに決定だぁ〜。」
「おっしゃ!タダだし〜、カラオケ行ったらじゃんじゃん飲んで食うぞ!」
「出来れば、一番奥の部屋がいいなぁ〜。パーティー用のでかい部屋希望〜〜!」
 にまにま顔で言いたいことを言い合う男たち。
 ちょっと待てよ!リムジンで送らせて、挙句お嬢様におごらせてオールで、タダだから食って飲むだと!?
 ふざけるな!お嬢様を財布代わりにしてんじゃねえよ!!
 それに、どう見ても男たちは酔ってるフリして素面で、女の子たちはヘロヘロ・・・。
 カラオケ行って、一番奥のパーティー用のでかい部屋を希望だと!?んなもん、何が目的かバレバレじゃないか!!
 くっついてる女の子二人を振り払って、俺はお嬢様を掴み大勢のギャラリーから少し離れた場所へ連れて行った。

「何なのよ〜早瀬〜〜。引っ張ったら痛いじゃない〜〜〜」
 ふらふらしながら酒の臭いをプンプンさせて怒るお嬢様。
「お嬢様、今夜はもう帰りましょう。桜さんも残りの女の子もかなり酔っていらっしゃいます。カラオケは、また後日になさった方が。」
 声を落として言うと、お嬢様が俺の手を振り払った。
「何言ってんの〜〜。酔ってないってばぁ〜〜。それに〜、カラオケは今日行きたいの〜」
「いいえ、ダメです。帰りましょう。早瀬には、あの男の子たちが『自分たちが楽しみたい為』に、ご令嬢であるお嬢様を一緒に連れて行って、お金を出させようとしているようにしか見えません。お嬢様をお財布代わりにしてるようにしか思えないんです!リムジンのこともそうです。これは無料のタクシーではございません。それに、このように酔った状態で男の子たちとカラオケなどに行かれては、危のうございます。」
 一緒に行けば、桜さんだってあとの二人の女の子だって、あいつらの好きにされてしまうんだ。
 お嬢様の肩をぐっと掴んで説得すると、キッと睨まれ・・・パシッと手を叩き払われた。
 お嬢様・・・。
「も〜〜〜〜〜うるさいなぁ!!あんた何様のつもりよ!!運転手の分際で、主である私に説教する気!?やめてよね!!もういいわよ!!あんたには頼まない。タクシー拾って行くからいい。はぁ〜、何だか気分害しちゃった。ねぇ、みんな〜!やっぱり、リムジンやめてタクシー拾って行こ〜。」
 冷たい視線で俺に言い放ったお嬢様は、みんなに笑顔で声をかけた。
 『運転手の分際で主である私に説教・・・』彼女の言ったその言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。
 違う、俺はそんなつもりで言ったんじゃ・・・。
 俺は・・・
「お待ち下さいお嬢様、違います。私は、決してお嬢様にお説教をするつもりなどございません。ただ・・・。」
 俺はただ、君があの男たちにいいように使われてるのが嫌なだけだよ。
 君が彼らの手にかかって、辛い過去を思い出して震えて泣くのを見たくないんだ。
 その前に、君に気付いて欲しいだけだよ。
 腕を掴んで必死に言う俺を、彼女が強く振り払った。
「いい加減にして!!それを説教って言うのよ!!何も聞きたくない!!あと、ずっと言おうと思ってたんだけど!いつもいつもにこにこ笑顔振りまいてさ、私の機嫌取ろうとしてるのかどうか知らないけど、それもうんざりよ!!あんたの顔なんて二度と見たくない。たった今、この場であんたは解雇よ。もううちには来なくていいから。じゃ。」
 吐き捨てるように言ったお嬢様は、みんなのもとへと駆けて行ってしまった。
「お嬢・・・様・・・」 
 『笑顔振りまいてご機嫌取り』・・・。
 違う。違うよ。俺は君にそんなことしたことない。
「お嬢様!待ってください!!」
 叫んだ俺をちらりと振り返り見たお嬢様は、何も返さず顔を背けてみんなと一緒にタクシーへ乗り込み、カラオケへと行ってしまった。
「お嬢様・・・」 
 
 知らなかった・・・。君が、最初からずっと俺をそんな風に見てたなんて。
 笑顔振りまいて、ご機嫌取りをしてるように・・・。
 そんな風に思われてたなんて・・・。そんな風に見られてたなんて・・・。
 俺はただ、純粋に君のことを思ってただけなのに・・・。それだけなのに・・・。
 
 誰もいなくなった門前で、しばらく唇を噛み締めて立ち尽くしていた俺は、そろそろとリムジンに乗り込んで屋敷へと戻った。

 屋敷へ戻ると、窓から見ていたのか悠斗が玄関から姿を現した。
 そんな彼を見て玄関前で車を止めた俺は、ゆっくりと降り立った。
「おかえり〜。月華は?」
 にこにこ顔で尋ねる悠斗に俺は静かに首を振った。
「お嬢様は、みなさんとご一緒にカラオケに行かれました。」
「へ?迎えに来いって言われたから行ったんじゃなかったのか??」
「はい。そう思って行ったのですが、カラオケに行くことになったそうで。今夜は遅くなるとの事です。」
 細かい事情を話さずに簡単に言った俺を見て、悠斗がため息をついた。
「そうか。じゃあ、お前は帰っていいぞ。あとは俺が迎えに行く。」
 少々呆れたような口調で言った悠斗を見つめ、俺は口を開いた。
「はい、よろしくお願い致します。お世話になりました。」
 深く頭を下げてそれだけ告げた俺は、運転席に乗り込んで駐車場へと向かった。
 
 駐車場にリムジンを止め、待機室で帰り支度をしつつ時計を見ると、もう10時をだいぶ回っていた。
「もうすぐ、俺の誕生日も終わりか。何か、すげえ最悪の誕生日だったな。そのうえ解雇って・・・。誕生日に解雇されるなんて、俺くらいだろうなぁ、きっと。」
 小さく苦笑いをした後、荷物を持って電気を消し・・・部屋のドアを閉めた俺はツカツカと建物を出た。

「短い間でしたが、お世話になりました。」
 
 建物やリムジンに向かって深く深く一礼し・・・しばらく別れを惜しんでから、使用人駐車場に止めてあるベンツで、俺はようやく帰路についた・・・。 
  


読んでくださり、どうもありがとうございます。
まだ最終話までは、かなり(?)遠そうですが頑張ります。











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