7代目はお嬢様に恋をする。(14/77)PDFで表示縦書き表示RDF


7代目はお嬢様に恋をする。
作:九条 要



【14話】 お嬢様の事情


 週明け、火曜日。

 俺は、お嬢様のことが心配で心配でマンションでじっとしていられなくて、めちゃめちゃ早く出勤してしまった。
 あ〜〜〜何でこういう時に限って、昨日が休みなんだよ。
 誰だ、4月29日を祝日に決めた野郎は!!それも、祝日が日曜だったせいで振り替え休日で月曜が休みだなんて!
 ふざけてる!
 
「あれ?拓、もう来てたんだ??早すぎなんじゃ?」
 出勤してきた翔太兄が、俺の姿を見て驚いていた。
「聞いてくれよ、翔太兄〜〜〜〜〜」
「えっ、ど、どうしたんだい???何かあったの??拓。目の下に隈が出来てるよ。」
 いきなりがしっと俺に両腕を掴まれた翔太兄は、訳が分からず目をしばたかせていた。
 さめざめと事の経緯を話すと、聞いていた翔太兄は『あはは』と笑った。
「笑い事じゃないんだ!俺には重大な問題なんだ。もしかしたらお嬢様は、あのクソガキに身体を奪われたんじゃないだろうか…とか、もういろんなことが不安で不安で…。」
 そう、土曜の晩は眠れなかったし、日曜と月曜なんて一日中気が気でなくて…夜も当然不眠だった。
「大丈夫だよ、拓。お嬢様は、身体は奪われちゃいないよ。ほら、コーヒー飲んでちょっと落ち着きなよ。」
 自信あり気に言い切った翔太兄は、準備したコーヒーを俺にひとつ手渡した。
「あ、ありがとう。何でそんな分かるみたいに言えるんだよ?翔太兄…」
「『分かるみたいに』じゃなく、分かるんだよ。だから、大丈夫。心配いらないよ、拓。」
 にこっと笑った翔太兄は、ポンと俺の肩を軽く叩いた。
 だから、何で分かるんだよ。それを教えてくれ。
 ぶすっと脹れてコーヒーを飲む俺の横で、翔太兄が遠い眼差しで外を見ていた。
 そんな彼に俺は小さく尋ねかけた。
「何で、翔太兄にはそんなこと分かるんだよ?」
「ん?あぁ、言ったろ?お嬢様のトラウマのこと。だからかな。」
 俺の方へ振り返り、翔太兄は穏やかな顔で静かに言った。
 トラウマ…。
 そういや、花見の時に言ってたっけ。
「その、“トラウマ”…って何?」
「ごめん、それは拓にも言えない。あ、坊ちゃんの出勤時間だ。そろそろ車まわさないと。」
 一言謝った翔太兄は、コーヒーカップをテーブルに置いて、センチュリーの鍵とともに駐車場へと行ってしまった。
 俺にも、言えない…か。
 やっぱり何かがあったのかな?気になる…。
 だって、俺の大好きなお嬢様のことだから…。

 お嬢様の登校時間になってリムジンを玄関前につけた俺は、車の傍らで立ちながらため息をついた。
 お嬢様を送って戻ったら、もう一度翔太兄に聞いてみようかな。
「おはよう、早瀬。」
 ぼーっとしている俺に声をかけたのはお嬢様。
「あっ、おはようございますお嬢様。お車にどうぞ。」
 ドアを開けて中へと促すと、『ありがとう』と微笑んだ彼女はいつものように後部座席へ乗り込んだ。
 笑顔ってことは、日曜のデートは何事も無かったのかな。
 彼女の笑顔を見てほっと胸を撫で下ろした俺は、運転席に乗り込み…ゆっくり車を発進させた。
  
 リムジンを走らせてしばらくした頃、ちらっとミラー越しに後ろを見ると、そこには浮かない顔のお嬢様がいた。
 お嬢様…。
 さっきは笑顔だったのに…。
「どうかなさいましたか?お嬢様。何だかお元気が無さそうですね。」
 やっぱり何かあったのかな?
「え?あ…うん。今日、桜にちゃんと話してからあの男に『もう付き合えない』って断ろうと思って。」
「そうですか。」
 突っ込んで聞くことはせずただ一言頷くと、お嬢様もこくんと頷いた。
「うん。だから、これ…もうちょっとだけ貸しててね。早瀬。」
 そう言って彼女が見せたのは、左手首。
 そこには、土曜の晩に彼女が俺から奪った白檀の数珠が付いていた。
「はい。ですが、どうして数珠を?」
 ずっと不思議だった。何であの晩、彼女が俺から数珠を奪ったのか。
「これ付けてると、気持ちも落ち着くんだけど…何ていうか、勇気が出るの。だから。」
 えへへっと苦笑いをする彼女は、『後でちゃんと返すね。』と言い加えて数珠を触っていた。
 深い意味も無く、俺に好意がある訳でもない彼女の言葉。
 それがちょっぴり切なくて胸が痛い。
 いくら俺が想いを寄せても、彼女はきっと一生気付かない。
 だって、彼女は俺にまったく興味が無いんだ。
 優しいけど、ただの運転手としてしか見ていない…。 
「そうですか。お嬢様にそう言っていただけると、その数珠も喜んでることでしょう。」
 笑顔で返した俺に、お嬢様は『数珠が喜ぶの?早瀬っておもしろいこと言うね。』と、おかしそうに笑っていた。

 大学に到着し、お嬢様を降ろして間も無く…誰かがお嬢様の名を呼んだ。
「月華〜。」
 視線の先にいたのは、あのクソガキ。
 あいつ、ここの学生だったのか。
 お嬢様を見返してみると、一応返す笑みが引きつっていた。
「おはよう、月華。こいつ何?」
 傍に来るなりお嬢様の肩を抱き、冷めた視線で俺を指差し問うクソガキ。
 むっ。
 この野郎〜〜〜〜!!俺はだなぁ!!!俺は!
「私の専属運転手。」
 そう!運転手!…って。
 お嬢様の一言に、俺はがくっと肩を落としてしまった。
 うぅっ、言い返せません…。
「ふ〜ん。な〜んだ、ただの運転手か。可哀想〜、他に就職先無かったんだぁ??」
 俺に向かって馬鹿にしたように嘲笑するクソガキを、ぶっ飛ばしてやろうかと思わず拳を握った。
 何だとこらぁ〜〜〜〜!!この“自称彼氏”男め!!!!
 貴様なんぞ一発で俺があの世に送ってやるぅ〜〜〜〜〜!!
 はっ!大人げないぞ拓海。落ち着け、相手はただのクソガキじゃないか。
 そうだ、こんなクソガキに切れるな。
「早瀬にそんな言い方しないで!」
 え…。
 クソガキの手を振り払って怒鳴ったお嬢様に、俺は一瞬驚いた。
 お嬢…様…。
「何でそんな怒るんだよ、月華。ほんとのこと言っただけじゃん。運転手なんかやってる奴は、他に何処も就職先が無い奴なんだぜ。こいつもそうだよ。」
 俺を指差し笑いながら言うクソガキ。
 次の瞬間、お嬢様が彼の頬を引っ叩いた。
「うちの運転手のことをそんな風に言う権利は、貴方には無いはずよ!!さっさと講義に行ったら?講義室遠いんでしょ!?」
 睨みつけて言い放ったお嬢様に『ちっ』と軽く舌打ちしたクソガキは、頬を押さえたまま『じゃあ月華、また後で。』と言い残して去って行った。
 あのクソガキ…。
「ごめんね、早瀬。あの男の代わりに私が謝るから許して。」
 男が去ってから、俺に頭を下げて謝ったお嬢様。
 そんな彼女を思わず抱きしめてしまいたくなったのを、俺は必死に堪えて口を開いた。
「いえ、気にしておりませんから。それに、お嬢様が悪くないのに謝るのはやめてください。」
 そうだよ、悪いのは君じゃない。あのクソガキだ。
「でも…」
「さぁ、お嬢様も早く講義に行かないと遅れてしまいますよ。」
 何か言いかけた彼女を遮るように腕時計を見せて告げると、彼女は『ぎゃっ!』と声をあげた。
「ほんとだ、遅刻する!もう〜〜、何でもっと早く言ってくれないのよ!じゃあ、行って来る!」
 それだけ言い残し、ものすごい形相で慌てて駆け出したお嬢様。
「はい。行ってらっしゃいませ、お嬢様。」
 猛ダッシュで走って行く彼女の後姿に挨拶をした俺は、何だか可笑しくて笑ってしまった。
 お嬢様、可愛い上に面白すぎ。
 でも、嬉しかったよ。君がかばってくれた時。
 本当は、ものすごく抱きしめたかったよ。
 『ありがとう。』って…。

 沢村の屋敷に戻り、裏庭のベンチでぼんやりしていると、誰かが俺の肩を叩いた。
 振り返ってみると、立っていたのは翔太兄。
「翔太兄。」
「どうかした?まだ心配なのかい?お嬢様のこと。」
 俺の隣に腰を下ろしながら穏やかな顔で問う翔太兄に、俺は首を振った。
「ううん、そうじゃなくて。」
「じゃあ、何?」
「お嬢様のトラウマのこと…。」
 お嬢様が好きだから、どうしても気になる。
「そっか。気になるんだ、拓…。でも、知らない方がいいと思うよ。」
 澄んだ青い空を見上げて、翔太兄が小さく呟いた。
「でも、知りたいんだ。お嬢様のこと、好きだから…。好きな子のことはどんなことでも知りたいよ…。」
 膝に乗せた手をぐっと握って吐き出すように言う俺の隣で、翔太兄は『はぁ…』と深いため息をついた。
 翔太兄…。
「拓には、いっぱい迷惑かけてお世話になってるしなぁ…。」
「え…」
「拓の胸の内にだけ、秘めといてもらえるかな?」
 辺りを窺ってから小声で囁いた翔太兄に、俺は無言で頷いた。
 それを見届けて、翔太兄は静かに口を開いた。
「3年ほど前になるかな…、お嬢様…強姦されてるんだ。学校の帰りに。」
 翔太兄の口から出た言葉を聞いた俺は、声を失った。
 強…姦…。
 言葉を失っている俺を横目で見た翔太兄は、そのまま話を続けた。
「『帰りが遅いから』って坊ちゃんが探しに行かれてさ。見つけた時には、…お嬢様はボロボロのお姿で放心状態のまま泣いていらしたそうだよ。それからなんだ、お嬢様が男に対して一線引くようになったのは。だから、誰かとお付き合いされても、一線を越えることは絶対なさらない…と言うより出来ないんだ。きっと、怖かったことがフラッシュバックするんだろうね。」
 怖くて…一線越えられない…?
 そんなの…
「そんなの、当たり前だろ!怖い目に合ってるんだ、思い出さない訳無いじゃないか!」
 堪らず言い返した俺を見て、翔太兄が頷いた。
「うん。だからさ、今回の専属運転手の件も『心配だから雇う!』って言った坊ちゃんに、お嬢様はものすごく拒否なさったんだよ。密室の車内…しかもリムジンの後部座席は広いだろ?それだけで怖かったんだと思う。」
 話し終えた翔太兄は、深い息を吐いて遠くを見つめていた。
「じゃあ…」
 優しくしてくれるけど、本当はお嬢様は…。
「うん、お嬢様はそういう素振りは見せないけど…、本当は拓のこと怖いと思ってるはずだよ。心の奥でね。」
 俺が言う前に言葉にした翔太兄。
「そっか…。」
「だから前にも言ったろ?拓がお嬢様のこと本気で好きなら、絶対“男”になっちゃいけないよ。優しく笑顔でいてあげること。」
 優しく言った翔太兄は、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「うん…。」
 頷きながら、俺はぎゅっと強く拳を握り締めた。
 月華ちゃん…。
 大丈夫だよ。俺は君に手は出さない。毎日笑顔で優しくいる。約束するよ。
 君が大切だから、君が好きだから…。
 絶対に――…。
 心の中で呟いた瞬間、あのクソガキのことを思い出した。
「あ〜〜〜〜〜!!!」 
 あのクソガキ〜〜〜〜〜!!早速お嬢様の身体が危ないじゃないか!!
 いきなり立ち上がった俺に翔太兄が驚いていた。
「ど、どうしたんだよ??拓。突然…。びっくりするじゃないか。」
「翔太兄ごめん、俺お嬢様のお迎えに行って来る!」
 こうしちゃいられない。
 お嬢様の御身が危ないんだ。
 だってお嬢様は、今日あの男に…。
「えっ!『迎えに』って、でもまだ講義終わるには早いんじゃ…」
「門の前で車止めて待ってるからいい!」
 翔太兄の言葉にそれだけ言い返し、俺は駐車場へ走った。
 お嬢様、ご無事でいてください。
 早瀬が絶対に、お嬢様をお守りしますから。

 リムジンを飛ばして大学の門の傍に止めた俺は、ハンドルを強く握った。
 お嬢様…。
 30分程車で待った頃、講義を終えた学生たちがぞろぞろと出て来始めた。
 しかし、お嬢様の姿が一向に見えない。
 心配で車の外で立っていたところに、しばらく後――…桜さんが現れた。
「あの、桜さんでいらっしゃいますよね?」
 思わず駆け寄って声をかけた俺に、桜さんはびっくりしていた。
「あ、はい。…あ、月華の運転手さん。」
「はい。早瀬と申します。あの、お嬢様は…。ご一緒では無いのでしょうか?」
「ええ。月華、『ちょっと用があるから』って言ってましたから。でもすぐに来ると思いますよ。」
 にっこりと笑顔で答える彼女に、『そうですか。ありがとうございます。』とだけ返した俺は軽く会釈をして桜さんを見送った。
 あの様子だと、お嬢様は桜さんを傷つけないような話し方しかしていないんだろう。
 でなければ、あんな風に笑顔でいられる訳が無い。
 お嬢様…。
 
 門の前で更に待つこと30分…。
 心配でたまらなくなって探しに行こうかと一歩踏み出したその時、遠くから走ってくるお嬢様の姿を捉えた。
「お嬢様…」
 こっちに向かって駆けて来るお嬢様は、何度も後ろを振り返り気にしていた。
 もしかして、あいつに追いかけられてるのか??
 そう思っていた矢先、凄い勢いで追いかけて来たのは…やはりあのクソガキ。
 やばい、捕まる。
「お嬢様!」
 咄嗟に叫んだ俺を見つけたお嬢様が叫び返した。
「早瀬!」
 クソガキに捕まるまいと必死に逃げて来た彼女は、俺のもとへ来るなり思いきり抱きついた。
 お嬢様。
 乱れた服に、震える身体…。
 何をされたかなんて、聞くまでもない。
「お嬢様、おかえりなさいませ。もうご安心ください。早瀬がお嬢様をお守りいたしますから…」
 優しく声をかけたすぐ後、クソガキが俺の前に現れた。
「月華〜、何で逃げるんだよ。付き合いをOKしたってことは、やらせてくれるってことだろ?」
 クソガキににやにやしながら言われたお嬢様は、無言で俺にぎゅっと強く抱きついていた。
 その身体の震えが、俺の全身に伝わる。
「なぁ、月華〜。」 
 そう言ってお嬢様の肩を掴みかけたクソガキの腕を、俺はぐっと強く掴んで捻りあげた。
「痛っ!!!な、何すんだよ!運転手のくせに!!暴力振るおうってのかよ!?訴えるぞ。」
 腕の痛さに顔を歪めながら文句を言うクソガキを、俺は一瞬キッと睨みつけた。
「お好きになさってくださって結構です。ですが、貴方のおやりになったことは恐らく犯罪。これから警察にでもお連れいたしましょうか?私は、それでも結構ですが…」
 にっこり笑顔で更に捻りあげてやると、クソガキはうめき声をあげつつ文句をたれた。
「痛いだろーが!!離せよ!!!何が警察だ…、俺は月華の彼氏なんだ。彼氏が彼女に何しようが勝手だろ…。」
「彼氏…?お嬢様、このお方はお嬢様の彼氏でいらっしゃいますか?」
 俺に抱きついて震えているお嬢様に尋ねると、彼女は『これ以上付き合えないって、さっきちゃんと話したもん!だから、もう彼氏なんかじゃない!』と強く言った。
 それを聞いたクソガキが、お嬢様に向かって目じりを吊り上げ口を開いた。
「何言ってんだよ!!俺は別れるつもりは無いって言ってんだろ!!」
 女々しい奴。
「お見苦しいですよ。お嬢様は、貴方のことをもう彼氏では無いとおっしゃっておいでです。これ以上、自称で彼氏を名乗るのはおやめください。お嬢様に失礼ですよ。」
「何だと〜〜〜!!!」
「文句がおありならば、このまま警察へ参りますか?ですが、行けば貴方が不利ですよ。」
 腕を離して再度投げかけた俺の質問に、クソガキは一瞬口を閉ざしてから睨み返してきた。
「くそっ、何なんだよあんた!?」
「私ですか?お嬢様の運転手であり、ボディーガードです。以後お忘れ無きよう。」
 にこにこ笑って答えた俺に向かって、『ちっ』と舌打ちしたクソガキは不服そうに服を正して帰って行った。
 今度やったら貴様を殺してやるぜ。

「さぁ、お嬢様、もう大丈夫ですよ。お車へ参りましょう。」
 抱きしめたいのを堪えて彼女の身体を離し、スーツの上着を脱いでそっとかけた。
「早瀬…、ありがとう。」
「いいえ。さっきも申しましたとおり、早瀬はお嬢様のボディーガードも兼ねておりますから。」
 ふふふっと笑いかける俺をお嬢様が見上げて口を開いた。
「早瀬って、強いんだね。」
「え?そうですか?日ごろの訓練の賜物ですかね。」
 須藤と派手にやり合ってるからな。凶器ありで…。
 後は、離れの道場で諸々…。
「訓練って、何か武術やってるの?」
「まぁ、いろいろと…。さ、お車にお乗り下さい。」
 含み笑いで曖昧に返しておくと、お嬢様は首を傾げていた。
 そんな彼女を後部座席に乗せた俺は、リムジンを屋敷まで向かわせた。

 屋敷に戻る車中…。
「何があったか、聞かないの?」
 ふいに尋ねたお嬢様に、俺はひとつ息を吐いた。
「お嬢様が仰りたくないことを、早瀬は聞きたいとは思いません。」
 だって、聞かなくても分かるから…。
 聞いてしまえば、君が辛い思いをするだろうから…。
「そっか。」
 小さく頷いた彼女に『はい。』と一言答えて、俺は口を閉ざした。
「でも、さっきほんとにありがとう。」
 え…。
 お嬢様…。
「いいえ。ボディーガードですからお守りするのは当然です。」
 ミラー越しに笑顔で返した俺を、お嬢様が優しく見つめていた。
 そんな瞳で見られたら、ドキドキするよ。
 ふっと視線を逸らした俺に、お嬢様が声をかけた。
「早瀬って、あったかいね。」
 え?
 彼女の言葉で、心拍は一気に速さを増した。
「そう…ですか?」
 ドキドキする。
「うん。お兄ちゃんみたいにあったかかった。」
 照れくさそうにへへっと笑うお嬢様に、思わずガクッと来た。
 お、お兄ちゃん…。
 うぅっ、やっぱ俺のことは“男”として映ってないんだ。
 俺は、悠斗と同レベルか。まぁ、悠斗と一つしか年違わないもんな。
 けど、それって悲しい。
「そうですか。悠斗様みたいだと言われると、光栄です。」
 くそっ、ちっとも光栄じゃないぞ。
 恐らく引きつってるだろうと思われる俺の笑顔に、彼女もくすくす笑っていた。
「そうそう、明後日からゴールデンウィークだね。早瀬は何処か行くの?」
 突然話題を変えたお嬢様は、にこにこ笑顔で俺に尋ねた。
 ゴールデンウィーク…?
 そうか、明後日からだっけ…。すっかり忘れてた。
「いえ、何処にも行きません。お嬢様は何処かへお出かけですか?」
 今回のGWって確か4連休だったような。…ってことは、4日間もお嬢様に会えないってことか!?
 あぁ〜〜〜〜〜4日間もお嬢様と離れて過ごすなんて、俺には耐えられない。
 ぐすん。
「うん。私はね、3日から桜と二人で温泉行くの。今から楽しみなんだぁ〜。」
 嬉しそうに予定を話すお嬢様は、とってもにこにこ顔。
 え…温泉…。
 温泉っっ!!!!!
 …と言うことは!露天風呂なんかにも入ったりするんだよな!?
 あぁ、あの白い柔肌が温泉に浸かって火照ったりするのか??
 湯上りの浴衣姿では、合わせた胸元からあの谷間が見えたりするのか!?
 寝起きは、浴衣がはだけてたりするのか???
 ダメだ、妄想が止まらない。鼻血が出る…。
「早瀬?どうかしたの?」
 妄想まっしぐらな俺に、不思議そうにお嬢様が声をかけた。
 ビクッ。
「い、いえ、何でもございません。楽しいGWになるといいですね。」
「うん。いっぱい温泉に浸かって来る。早瀬にも、何かお土産買って来てあげるよ。」
 にこにこ笑うお嬢様の言葉も上の空で、俺はハンドルをぎゅっと握り締めて心の中で吼えていた。
 
 ああぁ〜〜〜〜俺も、俺もお嬢様と一緒に温泉行きてぇ〜〜〜!!!!
 温泉〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
 お〜〜ん〜〜せ〜〜ん〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!    












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