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人はどんなに頑張ってもいずれは死ぬ。明日かもしれないし明後日かもしれない。いつ死ぬかはわからない。だから全力で1日1日を生きるんだ
(ここは…どこだ?)

ハヤテが目を覚ますとなにやら厳かな雰囲気に包まれた部屋にいた。そこにいる面子を見てハヤテは驚く。

(ナギお嬢さまに…マリアさん…。それからヒナギクさんに生徒会のみなさん…?伊澄さんに咲夜さんまで…)

まわりにはハヤテの知る人物ばかりがいたのだ。しかも全員喪服を着ていた。

「ううっ…!!なんで…なんでお前だけ先に逝ってしまったのだ…!!」
「ナギ…。泣いても死んだ人は帰ってきませんよ…」
「うるさい!!マリアのバカァ!!」

ナギは止まることのない涙を流していた。ハヤテはそれを見ると不憫になり慰めるために近づいた。

(お嬢さま…。泣かないでください。マリアさんだって悪気があったわけじゃ…あれ?)

ハヤテは気付いた。頭では考えていても声に出ないことに。

(お、おかしいな…?僕、声が出なくなっ…)

そして自分の姿を見てさらに驚いた。なんと半透明になっていたのだ。

(ちょっ…!どういうことだ!?なんで体が…!!お嬢さま!!マリアさん!!)

ハヤテは二人の前に立つもまったく気付かれていない。存在そのものが無きに等しくなっていたのだ。

(ど、どうなってるんだ…これは…!?)

「うっ…!つぅ…!うわぁぁぁぁん…!!」

今度はヒナギクが涙を堪えきれずに泣き始める。隣にいた美希と理沙が必死になだめた。

「ヒナギク…泣くな。笑って見送ってやろう」
「無理よ…そんなの…!!」

ヒナギクの悲痛に満ちた顔を見てハヤテの胸はさらに痛くなる。

(それにしても…一体誰が亡くなって…)

ハヤテがふと顔をあげる。そしてハヤテは我が目を疑った。写真に写っていたのは紛れもなく自分自身だったからだ。

(ええ!?どうなってるんだ!?どうして僕が…!!)

「ハヤテさま…。溺死してしまうなんて…なんてかわいそう…!」

(伊澄さん!?…僕が溺死!?)

その言葉でハヤテはハッとした。観覧車が倒れ海に落下したことを思い出したのだ。

(あの後のことはよく覚えていないけど…僕、死んだのか…。みんなが悲しんでいるあたり今度は本当なのかな…。でも良かった…。お嬢さまが無事で…)

役目を終えたように清々しい表情になるハヤテ。すると会場にいた全員が急にハヤテのほうを見た。

「…あーあ。ハヤテが死んだせいで1億5000万円どぶに捨てたようなものだな」
「本当ですわね〜。やはりあの男は信用ならなかったというわけですね〜」

急に冷たくなったナギとマリア。ハヤテは一気に汗が流れた。

(そ、そんな…僕は…!)

「死んでよかったんちゃうの?どうせ三千院家の遺産が目当てやったんやろ?」
「化けて出てこないか不安だわ…。みなさん、お気をつけて」

(さ、咲夜さん!?伊澄さん!?)

「最後の最後まで迷惑ばかり…。本当に人騒がせね」

(ヒ、ヒナギクさん!?)

「マリア。こいつの亡骸はどっか適当に埋めておけ」
「はい。わかりました」
「それから後任の執事だがあいつより有能そうなやつをクラウスが見つけてきてくれた。明日から働いてくれるらしい」
「それは良かったですね〜♪」

(お、お嬢さま!!待ってください!!お嬢さまーっ!!)

ハヤテが追いかけるもナギたちはどんどんと離れていく。そしてそれと同時にハヤテの意識もだんだん掠れていった…。











「お、お嬢さまぁ!!!!……あれ?」

気付くとそこはベッドの上だった。見慣れた風景。どうやら三千院家の屋敷のようだ。

「たしか…ここはマリアさんの寝室じゃ…痛っ!!」

頭をさわると包帯が巻かれていることに気付いた。窓の外は薄暗く雨がしとしとと降っていたのだ。

「……死んでなかったのか。あれは…夢?」

ぼんやり部屋を眺めていると扉が開いた。入ってきたのはマリアだ。手に持っていた盆にはおしぼりがあった。

「あ、ようやく起きましたか。どうですか?体調は」
「マリアさん…。僕…生きてるんですよね?」
「…変なことを聞きますね。ハヤテ君は。生きてるに決まってるじゃないですか」

マリアはクスッと笑いハヤテの隣にやって来た。

「でも…心配しましたよ。ごめんなさい…ナギのせいで…」
「そんな…。そ、そう言えばお嬢さまは無事なんですか!?痛…!!」
「あんまり興奮してはダメですよ。…ナギは大丈夫ですよ。ハヤテ君が守ってくれたお陰で…」
「…良かった…」

ハヤテはようやく安堵の表情を見せた。それを見てマリアもようやく一安心。

「でも…頭を打っただけで他に目立った外傷はなくて良かったですね。本当に奇跡です」
「…あはは」
「…ハヤテ君、1回意識を取り戻したこと覚えてます?」
「…いえ。全然…」

ハヤテは観覧車が落下してから今まで殆どなにも覚えていないのだ。するとマリアが目を覚ますまでのことを話し始めた…。











マリアが事故を聞きつけ東京湾へとやって来た。降りるとすぐにSPから報告を受ける。

「…今、全力で観覧車の回収と綾崎ハヤテの探索を行っているところです!」
「そうですか…。それでナギはどこに…?」
「お嬢さまでしたら…」

SPが指差すとそこにはSPたちと揉めるナギがいた。大声で叫んでいた。

「えぇい!!なぜ聞かん!!私もハヤテを探しに行くのだ!!」
「危険ですからお止めください!!この暗い海にお嬢さまを行かせるなど…」
「うるさい黙れ!!クビにするぞ!!」
「ここは我々に任せて…」
「任せてられるか!!」

SPたちも手に負えない。ようやくマリアがナギの元に駆けつけた。

「ナギ。あなたは泳げないのですから…おとなしく待っていなさい」
「マ、マリア!!ハヤテが!!ハヤテが!!」
「わかってます…。ハヤテ君なら大丈夫。お嬢さまの執事なんですから…」
「……うん」

力のない声でナギは答えた。待つこと数分。1人のSPが報告にやって来た。

「綾崎ハヤテが見つかりました!!」

その知らせを聞くやナギは飛び上がる。そしてハヤテがいる現場に急行。

「ハヤテ!!ハヤテ!!」

ハヤテは幸いなことに浜に打ち上げられていたのだ。外傷はないが意識がもうろうとしていた。

「お嬢…さま…」
「ハヤテ!!私はここだ!!しっかりしろ!!」
「と、とりあえず早く医療班のヘリに乗せましょう!!」

マリアの指示でハヤテはヘリへと乗せられた。ナギとマリアも同乗。別室で治療を受ける前にハヤテとナギは会話を交わした。

「…嬢…さま…」
「な、なんだハヤテ!?」
「……ぱり不備が…」
「…すまない。お前の警告を聞いていればこんなことには…」
「…僕は…これで良…ったで…。お嬢…まが無事な…ら死ん…でも後…悔…ないで…」
「し、死ぬとか言うな!!お前は死なん!!死なんのだ!!」

最後にナギが叫ぶとハヤテは治療室に運ばれた。ナギもマリアも治療が終わるのを固唾を飲んで見守る。

「ハヤテは…大丈夫だよな…?」
「…ええ。だけど…ナギが信じてあげないと…」
「…そうだよな。弱気になったらダメだよな…」

そしてわずか5分。治療が終わり医師がでてきた。

「ハ、ハヤテは!?」
「彼なら大丈夫です。ちょっと頭を強打しただけなので2〜3日すればまた目を覚まします。体は至って平気ですよ」
「よ、良かった…」
「2〜3日は安静にさせていてください。まぁ恐らく眠ったままでしょうが…」

医師の報告を聞き二人は胸を撫で下ろした。そして医師の言ったとおりハヤテは2日間目を覚まさなかったのだった。











「…というわけなんです。良かったですね♪」
「…はい」
「でも…『お嬢さまが無事なら僕は死んでも後悔はない』だなんて…。遺言にしてはかっこよすぎません?」
「遺言だなんて…」
「冗談ですよ♪そう簡単に死なれては困ります。それから…これ。みなさんから…」

ベッドの隣にはたくさんの見舞品があったのだ。あまりの多さにハヤテは驚いた。

「これは…」
「白皇の方々がもってきてくれたんですよ。ハヤテ君が良くなるように…って」
「…本当に…すみません」
「私に謝られても困りますよ。明日からちゃんと学校に行って元気な姿を見せる。それがハヤテ君の復帰後最初の仕事です」
「…はい!マリアさん!」

話が一段落するとまたまた扉が開いた。やって来たのは学校が終わってすぐ帰ってきたナギだ。ハヤテが起きている姿を見るとあまりの嬉しさに飛ぶように駆けてきた。

「うぉ!!ハヤテ!!やっと起きたか!!心配したではないか!!」
「お嬢さま!…すみません。ご心配おかけして…」
「…私こそすまん。やっぱりあの観覧車は無茶があったな。やはり支柱は深くまで埋めないといかんな」
「はは…。それより…学校に行かれていたんですか?」
「…本当は学校なんぞに行かずにお前の看病をしていたかったのだがマリアが許してくれなくて…」
「お医者さんが大丈夫と言ったんですから看病しなくても大丈夫ですよ。ハヤテ君もナギには学校に行ってほしいでしょう?」
「ええ…まぁ」
「なんだよハヤテまで!!せっかく心配してやったというのに!!ハヤテのバカ!!」
「…良かった。お嬢さま、いつもと変わらない様子で…」
「ど、どういう意味だそれはーっ!!」

いつもと変わらぬ風景が三千院家に戻ってきた。ハヤテが2日間寝たままだったので温泉旅行が2日後にまで迫るのであった。












夜になり雨も止んだ。外は湿った冷たい風が吹き続ける。その音に起こされたのかハヤテも目を覚ました。

(2日も寝ていたんだもんな…。全然眠れない…。どうしたものか…)

ベッドから起き上がり部屋を出た。屋敷の中は真っ暗だ。自分の部屋に戻り期末試験の勉強でもしようかと思い歩いていると1部屋だけ明かりが灯る部屋があった。扉の隙間から漏れる光が気になり中を覗くとそこにいたのはマリアだ。

「…あら、ハヤテ君。起きちゃったんですか?」
「え?」

どうやら扉越しにハヤテの存在を見抜いたようだ。ハヤテは扉を開き中に入った。

「…やはり2日も寝ていては眠れませんか?」
「まぁ…そうですね。マリアさんはここで何を…」
「…見てのとおり、読書を…」

イスに腰掛けマリアは本を読んでいた。

「やはり読書はいいですね。お屋敷にいてでもいろんなことを知れますから…」
「…でも、こんな遅くまで…」
「…まぁこんなことをハヤテ君の前でするのも恥ずかしいですけど…」

マリアはイスから立ち、窓の外を眺めながら話し始めた。

「実は…ここ数日はハヤテ君の看病のためにずっと夜中まで起きていたので体がまだ起きてしまうんですよ」
「僕の…ために…」
「おかしいですよね。ナギには大丈夫だと言いながら本当は私が一番心配していたのかもしれませんね…」
「…ありがとうございます。心配していただいて…」
「…そういえばこうしてゆっくりハヤテ君と話すのも久しぶりですね」
「そうですね…。意外と話す機会がなかったですからね」
「ええ。屋敷の中では毎日会うのに…意外ですね」

二人は顔を合わせて笑った。

「…ハヤテ君はなにかやりたいことはないんですか?」
「え?やりたいこと?」
「なにか打ち込めることとか…興味があることとか」
「…言うなら掃除とか料理とか…」
「それは得意なことじゃないですか…。そうではなくてなにか…」
「…ないですよ。そんな時間も余裕も僕にはありませんから…」
「ハヤテ君は運動神経もいいんですから…なにかやってみてはどうです?執事の仕事ばかりじゃ…」
「…心配はいりません。今の僕にとってはここでの仕事が生き甲斐ですから」
「ふ〜ん…。まぁそれもいいですけども。自分がやりたいことができているなら」
「…あの、マリアさん?なんだか心なしか言葉に棘があるような…」
「…気のせいじゃないですか?なにも…ハヤテ君の看病が疲れて怒っているわけじゃありませんよ?」
「う……」

表情をうかがうことはできないがハヤテはちょっと腰が引けた。

「でも…本当に良かった…。ハヤテ君が目を覚ましてくれて…ぐすっ…」
「…マリアさん?」
「わ、私、もう寝ますね!なんだか急に眠くなってきたので…おやすみなさい!」

マリアは逃げるように部屋を出ていった。ちらっと見えた横顔に一粒の涙がつたっていたのをハヤテは見た。

「マリアさん…」

ハヤテはしばらくその場に立ち尽くした。そしてうつむいていた顔を上げると拳を握りしめた。

(もう誰も泣かせやしない…!!大切な人をいつまでも笑顔でいてほしい!!それが僕の生きる道なんだ…!!)
「…それはそうとしっかり勉強しないとな…!落第しちゃそれこそ迷惑をかけるし…」

ハヤテはこそこそと部屋を出て自室へ向かった。










翌朝。体も治り元気になったハヤテはナギと一緒に白皇学院に行く途中だ。

「別に学校なんか行かなくても良かったのに…。屋敷で寝ていれば私が看病してやったのだ」
「そうはいきません。しっかり学校に行かないと…」「おーい!ハヤ太くーん!」

そして校門の前に差し掛かると三人娘が待ちわびた表情をしてやって来た。

「おはようございます。みなさん」
「おはよ〜♪それにしても良かったねハヤ太君♪」
「ありがとうございます。瀬川さん」
「泉のやつ、心配で心配でまともに食事も喉を通らなかったらしくてな」
「ちょっ…美希ちゃん!!」

泉は赤面。

「…すみません瀬川さん。ご心配おかけして…」
「いやいや…。委員長さんとしてクラスメートのハヤ太君を心配するのは当然だよ〜♪」
「しかしハヤ太君。我々にこんなに迷惑をかけてタダで済むと思うなよ!」
「この埋め合わせはいずれしてもらわなくてはな…」
「りょ、了解しました…」

話を一通り終えると5人はすぐに教室へ向かった。案の定ハヤテはクラスメートたちにちやほやされ、対応に追われた。ようやく人だかりから解放され席についた。

「ふぅ…」
「何ため息なんかついてるのよハヤテ君」
「あ…ヒナギクさん」

少し遅れてヒナギクもハヤテの元へとやって来た。生徒会の仕事があったため時間ギリギリだ。

「なんだか大変だったみたいね」
「すみません…」
「なにを急に謝ることがあるのよ…。まぁでも良くなったからには…もう言い逃れはできないわよ」
「い、言い逃れ…?」
「テストの点が悪かったとか成績が落ちようが…今回の件とは一切関わりないことよ。それで成績が悪かったら…承知しないから覚悟しなさい!!」
「き、肝に命じておきます…」
「よし!」

ヒナギクは一度大きく頷くと席へ戻っていった。ようやく騒ぎも収まりハヤテを取り巻く環境も静かなものになるのだった。いつものように学業も平凡な内容で終わり放課後に。ハヤテは相変わらずナギが早退しないよう説得するので大変だったようだ。

「んーっ!!やっと終わったか…」
「頑張りましたね。お嬢さま」
「ああ。自分の中でなにかが成長した感じだ」
「それは良かったです」
「それに…今日からは温泉旅行だし、ちょっとくらいは学校も頑張っておこうかと思ってな」
「きょ、今日?」

ナギの言葉にハヤテは目を丸くした。

「明日から…ではないんですか?今日は金曜日ですよ?」
「だから今から温泉に向かうのだ」
「今からって…もう夕方ですよ?今からでは着いたら真夜中に…うっ!?」

校門に差し掛かったところで突然突風がハヤテを襲う。

「な、なんですかこれは!?」
「心配するな。上を見ろ」
「上…!?」

上を見ると『三千院』と書かれたヘリコプターが下に降りてきたのだ。着陸しドアが開くと中から出てきたのはマリアだ。

「二人とも。学校は終わりましたか?」
「ああ。じゃあ時間もないし早速行くか。おいハヤテ。なにをボーッとしているのだ?まさかまだ頭が…」
「い、いえ!その心配は無用です!まさかヘリコプターで行くとは思わなかったので…」
「いちいち新幹線ではつまらないからな。たまにはヘリで旅行というのも新しいだろ?」
「そ、そうですね…」

ハヤテにとってはなにもかも新しすぎて気が休まらない。ヘリに乗り込みすぐ目的地である四万温泉へと向かうのだった。