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第545話 物語とは関係ありません27 『 なんちゃらプラネット2 第12話 』編

4コマ劇場 アイオライト_902・・・・・2015/07/07

 シリーズ4

  タイトル「物語とは関係ありません27 『 なんちゃらプラネット2 第12話 』編」


第12話 別世界  2015/07/06~2015/07/07


 例えるのなら――大きな洗濯機に投げ入れられ、洗浄されてから一気に脱水された衣服の気分。転移ゲートに吸い込まれた瑞希に襲った衝撃は、まさにそんな感じであった。

 その未体験の現象に耐えきれず、瑞希は意識を失ってしまう。

 それからどれほどの時間が経ったのだろう。

 光の渦に翻弄された瑞希が目覚めると、そこは先程までいた迷いの森とは比べ物にならないほど深い……人の手が全く入っていない、まさに密林の奥地であった。

「う~ん、まいったな」

 通常なら、突然このような現象に巻き込まれ、パニックになったとしても不思議ではない。しかし、前日からのドタバタで感覚がマヒしているのか、瑞希は意外に冷静だった。

 瑞希は、直前に起きた出来事を振り返る。

 まず、ショーロマイトに連れられてこだまの樹の根元までやってくると、そこには稼働中のプラネットメーカーがあり、中には消滅したはずの『プラネット・マナ』が存在していた。

 ショーロマイトのバカがプラネットメーカーに付いていた見慣れない装置のスイッチを入れたため、周囲に漂っていた発光体オーブが集まって『転移ゲート』とやらが現れる。そして、瑞希とショーロマイトの二人が転移ゲートへ吸い込まれて現在に至る……と。

 そういった事実を踏まえて考えると、瑞希が陥った状況が浮かび上がってくる。

「ここはプラネットメーカーの、プラネット・マナ先輩の中ってこと?」

 シミュレーション上の惑星の中に入れるかどうかは別として、瑞希にはそうとしか考えられなかった。いや、プラネットメーカーを開発した如月優子の手にかかれば、なんでもアリな気がしてきた。

 ここがプラネット・マナの……つまりシミュレーションゲームの中だとして、当面の問題は秘境の密林に瑞希一人しかいなこと。

 一緒に吸い込まれたはずのショーロマイトの姿も見当たらない。助けを待つにしたって、瑞希のサバイバル能力は皆無であり、食料や水もない以上、数日と経たないうちに命を落してしまうだろう。

 まずはショーロマイトと合流すること――それが瑞希の出した結論であった。


 ガサゴソッガサッ!

 ところで、みなさんは『ハエトリグモ』というクモをご存じだろうか。

 英名ジャンピングスパイダー。捕獲用の網を張らない徘徊性の小さなクモで、獲物を捕る時や人から逃げる時もピョンピョンとジャンプするなかなか可愛いヤツである。

 特徴的なのは前列に並んだ四つの目だろう。

 獲物を捉えるために発達したその目は、見ようによってはなかなか愛嬌があるのではないだろうか。そう……、直径一メートルほどの巨大な目でないかぎり。

「うわぁあああああ!」

 そこには巨大なハエトリグモがいた。

 どれだけ巨大かというと、頭と腹を合わせると軽自動車ほど。そんな塊りから太っとい八本の足が伸びている。

 本能的に後ずさる瑞希の動きに反応して、巨大ハエトリグモは素早い動きで頭を上下させた。

(に、逃げなきゃ!)

 身を翻した瑞希は、そのまま全速力で走りだす。

 足場は相当悪いのだがそんなことを気にしている場合ではない。瑞希はひたすら前へと身体を進める。その甲斐あってか、巨大ハエトリグモとの距離も稼げた。

(た……助かった?)

 安堵した瑞希だったが現実はそう甘くは無かった。

 それまで一歩も動かなかった巨大ハエトリグモの身体が深く沈みこむ。次の瞬間、巨大ハエトリグモは素早くジャンプして、瑞希の頭上を軽々と飛び越える。瑞希が必死になって稼いだ数十メートルは、巨大ハエトリグモのひとっ跳びによって簡単にマイナスとなった。

 ワサワサ、ガサワサ!

 足を素早く上下させ、巨大ハエトリグモは方向転換をする。唖然としている瑞希を前に、ハエトリグモは威嚇するように前足を大きく広げ上げた。

「い、嫌っ……助け」

 ガバッ!

 まさに刹那の間である。気づけば瑞希の身体は巨大ハエトリグモに伸し掛かれ、地面に押し付けられていた。

「ああぁあああっ! いや……がぁあああああ!」

 恐怖に泣きじゃくる瑞希は手足を激しくバタつかせようとする。だが、ハエトリグモの巨体に阻まれ、身体を動かすことすら叶わない。

 『死』という絶望が瑞希の脳裏を横切る。

 訳のわからない世界に連れ込まれ、気づいた途端、巨大グモに喰われるなんて最悪である。

 そもそも、こうなってしまった原因は、全てショーロマイトにあった。

 ショーロマイトが不用意に新装置のスイッチを入れなければ、瑞希をこだまの樹の根元へと連れて来なければ、真菜の命なんて狙わなければ、白鳳学園に転入してこなければ――

 そう考え出すと、瑞希はだんだん腹が立ってきた。

「ショーロマイトの……ぶぁかーーーーーーーぁ!」

 人生最後の言葉として適切ではないかもしれないが、瑞希は唯一自由になる口で無意識のうちにそう叫んでいた。

「おい、あんた……。いったい何をしているんだ?」

「……え?」

 突然、瑞希ではない声が聞こえてくる。

 まさか、巨大ハエトリグモが喋っているのだろうか。いや、頭を無理矢理動かすと、クモの足の向こうに人の足が見えた。

 一瞬、ショーロマイトが助けに来てくれたと瑞希は考えた。しかし、その声はショーロマイトとまったく違っていた。

 なんにしても、これはチャンスである。瑞希は必死にもがきながら謎の人物に助けを求めようとした。

「あ~……、特殊な性癖の持ち主なら、見なかったことにして立ち去るが……」

 とんでもないことを言う人物に、瑞希はぶち切れた。

「すき好んで、生きたまま喰われようとするヤツがいるかぁあああーーーーー!」

 ともあれ、瑞希は助かった。


 瑞希を助けたのは、年の頃十七・八の少年――

 長髪を首元で無造作に結び、漆黒のフードを纏って怪しそうな風貌である。鋭い瞳で目つきは最悪、襟を立てて口元を隠している。だが、見ようによっては、少しカッコイイかもしれない。

「もしかして……山賊?」

 助けてもらってなんだが、瑞希はそう問わずにはいられなかった。

「ったく失礼なヤツだな~」

 少年はやれやれとため息を吐く。

 ちなみに巨大ハエトリグモを追い払った少年の手際は見事なものであった。

 がっちりと瑞希の身体を押さえ込んでいたハエトリグモは少年が近づいても動こうとしない。

 そこで、少年は懐から筒状の何かを取り出し、先端にある紐を引き抜く。すると、紐の抜かれた穴から火花が上がり、モクモクと大量の煙が噴き出した。

 辺りは煙に包まれる。煙を吸い込んだ瑞希は、その臭いにおもわず顔をしかめてしまった。

 殺虫剤を数倍濃くしたような臭いで、とにかく身体に悪そうな煙である。その煙に包まれた巨大ハエトリグモは、一目散に逃げ出したというわけだ。

 手慣れているとでもいうべきか、あんな怪物を相手に誰も怪我はしなかったのは奇跡と言ってしまっても良いだろう。

「助けてくれてありがとう。わたしは鷲崎瑞……」

「おいチビっ子、こんな深部に一人でいるなんて死にたいのか!」

「ちび……」

 曲がりなりにも命の恩人で、瑞希を心配してくれていることは理解できる。……が、頭ごなしに怒鳴られるのには納得できない。瑞希も好きでこんなところにいるわけではないのだ。

「素人がエリアGに入るのは禁止されている。下手をすると護衛も罰せられることに……」

 何やら色々と説明してくれてはいるが瑞希の頭には一切入ってこない。というか、はっきり言ってどうでもいいことである。

 ここがプラネット・マナの中であるとするなら、元の世界に戻るための方法を探さなければならない。そして、その手掛かりとなるのがこの少年だと、瑞希は直感的に理解した。

「さっきのヤツなんて、このエリアGじゃ魔物のうちにも入らない。あんなヤツに戸惑って……」

「ねぇ、わたしの名前は鷲崎瑞希」

「え?」

「あなたは?」

「オレか? オレの名は、パロットクリソベリルだ」

 これが鷲崎瑞希と元勇者でヒーラーの『パロットクリソベリル』との出会いだった。


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